「ウェルビーイング」という言葉を目にする機会が増えてきた。ウェルビーイングとは、「健康的・精神的・社会的に良好な状態」(満たされた状態とも)を示す概念として、現在注目されている。このウェルビーイングを重視し、従業員の意欲やエンゲージメントを高めることで生産性の向上や企業価値の向上などの実現を図る手法として取り組む企業が増えているのが「ウェルビーイング経営」だ。

ウェルビーイング経営の概要とその実践事例を一挙紹介
Introduction

“近江商人の三方よし”に通ずる
ウェルビーイング経営

注目が集まるウェルビーイング経営だが、ウェルビーイングの概念や、ウェルビーイング経営に取り組むメリットは何だろうか。そしてウェルビーイング経営に取り組むための企業風土を、どう作っていけばいいのだろうか。ウェルビーイングの研究に取り組む慶應義塾大学 教授 前野隆司氏にインタビューした。



慶應義塾大学
前野隆司

—昨今、ウェルビーイングという考え方に注目が集まっていますが、そもそもウェルビーイングとはどんな概念でしょうか。

前野氏_世界保健機関(WHO)憲章の前文によると、健康とは「肉体的・精神的・社会的に良好な状態であることを指す」と定義されています。この「良好な状態」を表す単語が「ウェルビーイング」(well-being)であり、そもそもは健康の定義の中に出てきた言葉でした。つまりウェルビーイングとは体と心と社会が良好な状態を指します。

—ウェルビーイングな状態を保つことは、仕事にどのように寄与するのでしょうか。

前野氏_ウェルビーイングな状態が仕事に与える良い影響は数多くあります。例えば、幸せな人は不幸せな人よりも、創造性が3倍高いといったデータや、生産性や売り上げが高いといったデータもあります。また離職率や欠勤率、ミスの発生率も低いそうです。オックスフォード大学とハーバード大学の研究で、社員が幸せを感じている会社は、株価や利益が高く、企業価値自体が高いという研究結果もありますので、社員がウェルビーイングな状態であれば、会社の業績も向上すると言えるでしょう。

—社員がウェルビーイングな状態を保つために、企業側はどのような取り組みを行う必要があるのでしょうか。

前野氏_人の幸せをシンプルに言うと“やりがい”と“つながり”がある状態なんですね。社員がやりがいを感じるように、権限を委譲するとか、企業理念やパーパスを浸透させるとよいでしょう。また、創造性を発揮するようなやりがいを高める活動はいくつも考えられます。例えば業務の改善提案のような活動です。つながりを高めるためには、コミュニケーションを取ることはもちろんですが、「そもそも仕事の上で何をしたいか」といった自己開示をしたくなるような会話をすることが重要です。組織の中で自分が役に立てているか、みんなのために働きたいと思うかといった精神面を含めて、組織とのエンゲージメントの高い状態を保つことが、ウェルビーイングな状態を保つことにつながります。

—“やりがい”と“つながり”がある働き方を実現するためには、まず企業風土を見直す必要がありそうです。企業風土を変えていくためには、何を意識すればよいのでしょうか。

前野氏_企業風土を変えていくためには、やはりトップ自らが、企業理念やパーパスを徹底的に浸透させて、管理職層が社員に一人ひとりの特徴に合わせて、きちんとコミュニケーションを取っていく必要があるでしょう。まずは管理職や経営者層が企業風土を改善する所からスタートし、企業側、従業員側双方が努力することが「ウェルビーイング経営」の実現につながるでしょう。

—従業員の身体的、精神的、社会的な健康を重視し、働きやすい環境を整備するウェルビーイング経営は、従業員だけでなく取引先との関係性の改善にもつながりそうですね。

前野氏_その通りです。幸せな人というのは視野が広く、利他的で思いやりがあって誠実で、チャレンジ精神もあるため「この人と一緒に働きたい」「この会社から製品を買いたい」と思わせる力があります。ウェルビーイングを追求することは、企業の関係者全員を幸せにしながら、生産性や競争力を高めることにもつながるのです。もともと日本には、「近江商人の三方よし」という経営の考え方がありました。自分よし、お客さまよし、社会よしという考え方です。おもてなしとか、製品を丁寧に作るとか、お客さまのウェルビーイングを誠心誠意考えることは、本来日本人の得意なことなんです。しかし経済成長を急いだ結果、利益が第一優先といった海外の考え方に寄りすぎてしまいました。その反省を踏まえて、ウェルビーイング経営にシフトすることで、創造性を発揮した日本らしい製品やサービス作りが実現できるようになるのではないでしょうか。

Case

ウェルビーイング経営が支える
企業の成長と従業員の幸福

経営理念に「『働く』を変える。『生きかた』が変わる。」を掲げるPHONE APPLIは、2018年ごろからウェルビーイング経営を目指した働き方を推進している。その背景とウェルビーイング経営に関する実際の取り組みを、PHONE APPLIのウェルビーイング経営コンサルティング部 部長 兼 CWOアドバイザーの藤田友佳子氏に聞いた。



PHONE APPLI
藤田友佳子

「以前の当社は、IP電話設置構築工事やオンプレミス型の電話帳サービスといったフロービジネスが95%を占める会社でした。労働集約型で繁忙期の波が激しく、従業員の健康にとっても良くない環境でした。そこで、持続的な成長を目指し、社員のウェルビーイングを推進していくために、ビジネスモデルをこれまでのフロービジネスからストックビジネスへと転換しました」と藤田氏は振り返る。

 そのストックビジネスの要となっているのが、名刺管理から企業内のコラボレーション活性化までをサポートするコミュニケーションポータルのクラウドサービス「PHONE APPLI PEOPLE」(P.72にて詳報)だ。ストック比率が5%だった2019年当時の売り上げ17.3億円から継続的に成長を続け、ストック比率70%となった2022年には売り上げ33.1億円を達成している。同様に、従業員数も大幅に増加している。2019年当時は156名だった従業員数は、2022年に303名まで増加した。

 そんなPHONE APPLIを支えるウェルビーイング経営の考え方のベースには、慶應義塾大学の前野隆司教授が提唱する「幸せの4因子」がある。幸せの4因子では「やってみよう」という自己実現や成長、「ありがとう」というつながりや感謝、「なんとかなる」という前向きさや楽観性、「ありのままに」という独立や自分らしさといった因子が満たされることで、人は幸せになれるという考え方だ。これら四つの因子を満たす状態を作るため、PHONE APPLIでは柔軟な人事制度をはじめとした「ルール」、どこでも働けるIT環境をはじめとした「ツール」、最もパフォーマンスを出せる場所で働く「プレイス」といった順に全社のカルチャーと照らし合わせながら、改革を進めてきた。

 また同社では、ウェルビーイング経営を進める上で、リーダー(代表取締役)による「ウェルビーイング経営宣言」によって、ビジョンを明確化する決意表明を行っている。その後、同社が開発・提供している「Well-being Company Survey」(WCS)を用いて組織の働く幸福度を定期的に測定し、ウェルビーイング状態の可視化を行っている。それらの結果を基に、ウェルビーイングを高めるための行動を取ることで、従業員が幸せに働く環境づくりに取り組んでいる。

 取り組みの一つに、「THANKSカード」がある。これはPHONE APPLI PEOPLE内の「PHONE APPLI THANKS」というサービスを活用した取り組みで、日々の業務の中で感じた感謝や称賛をカードにして送り合うことで、社員それぞれの様子を可視化し、認め合う組織風土を育める。また同時に、従来から定期的に行ってきた1on1ミーティングにプラスして「フルメッシュ1on1」を今年の2月からスタート。「これまで上司部下のコミュニケーションだけだった1on1に、斜めの関係を作っていくフルメッシュ1on1という考え方を取り入れました。見かけているけど時間が取れないとか、この人と話してみたいとか、自発的にコミュニケーションを取りたい人を選んでつながりを作るような仕組みです。フルメッシュ1on1をスタートしてから、THANKSカードの流通量も増えるなど、新しいつながりが生まれています」と藤田氏は語った。

PHONE APPLIでは2018年のオフィス移転を契機に、新しい働き方を意識したオフィスを整備した。「CaMP(キャンプ)」(Communication and Motivation make Perfomance)という愛称が付けられたオフィスはスノーピークビジネスソリューションズのショールームも兼ねており、キャンプ仕様の椅子や机、テントなどが設置されている。これらの環境や、部下の本音を引き出す1on1ブースなどで、新しい創造を生み出す。

Product

隠れた強みやスキルを可視化する機能で
人とつながる

「すべての企業をウェルビーイング企業にアップグレードする」ことをビジョンに掲げるPHONE APPLIは、自社のウェルビーイング経営の実践経験を基にコミュニケーションポータル「PHONE APPLI PEOPLE」の機能強化を続けている。PHONE APPLI PEOPLEが実現するウェルビーイング経営を見ていこう。



PHONE APPLI
荻島大介

 PHONE APPLI PEOPLEは、もともとクラウド電話帳サービス「連絡とれるくん」としてスタートしたサービスだ。2020年10月にリブランディングを行い、製品名称をPHONE APPLI PEOPLEに刷新した。

 PHONE APPLI PEOPLEは三つのポイントを見える化する機能を有している。一つ目は「人のデータ」だ。名刺管理機能による社外の連絡先はもちろん、社内の従業員の連絡先もPHONE APPLI PEOPLE内で確認できる。従業員のプロフィール画面では、タレントマネジメントシステムとAPI連携しており、正規化された資格や経歴を可視化できることに加え、趣味や特技などをスキルタグとして設定できる。

「このプロフィール画面は『マイクロフィール機能』といい、自己開示が苦手な人でも隠れた強みやスキルを可視化できる機能を備えています。具体的には、PHONE APPLI THANKSのTHANKSカード機能によって贈られたメッセージから、第三者から見た強みやスキルを抽出し、スキルタグとして自動設定します。また、THANKSカードのメッセージを基に、プロフィールの文面をAIによって自動生成する『AIプロフィールサマリー』機能のプレビュー版を6月30日にリリースしており、従業員の潜在スキルを可視化し、リアルタイムに人的資本の把握を可能にしています」と語るのは、同社 パートナーアライアンス本部 副本部長 荻島大介氏。これらの情報を基に、必要となるスキルを有している従業員を探すことはもちろん、同じ趣味を持っている人を探してコンタクトを取る、といったコミュニケーションにも活用できるという。ウェルビーイングにおける「つながり」を保ち、「やりがい」のある働き方をサポートする機能といえる。

 また働き方が多様化している昨今、コミュニケーションを取りたくてもその相手の状態が分からないことも多い。PHONE APPLI PEOPLEでは二つ目のポイントとして「人の状態」を可視化する。Teamsと連携したステータス状態の表示はもちろん、今後Outlookと連携したスケジュールの確認機能もリリースする予定だ。また、フリーアドレスのオフィスではコミュニケーションを取りたい従業員がどこにいるか把握することが難しいが、PHONE APPLI PEOPLEではオフィスに設置されたWi-Fiのアクセスポイントやビーコンの情報から、該当の従業員がどこにいるかを把握できる。

 三つ目のポイントとして「コミュニケーションツールの使い分け」がある。PHONE APPLI PEOPLEではTeamsやWebexといったWeb会議ツールはもちろん、クラウド電話やPBXとの連携も可能だ。人にひも付くツールを見える化し、連絡を取りやすくする。「PHONE APPLI PEOPLEのスマートフォンアプリを活用すれば、スマホの電話帳に登録がなくてもPHONE APPLI PEOPLEに登録されている番号の着信表示が可能になります。発信方法も直接発信からTeams発信まで幅広く選択でき、コミュニケーションツールの使い分けはもちろん、スマートフォンのセキュリティに配慮した運用が可能になるのです」と荻島氏は語る。

 PHONE APPLI PEOPLEを活用することで、点在する人やツールのデータをまとめて見える化し、コミュニケーションを変革して風通しの良い組織を作ることにつなげられるだろう。

PHONE APPLI PEOPLEでは社内、社外の人の連絡先を一元的に管理する。スマートフォンアプリでも情報を確認でき、所属のほか現在いる場所や連絡先、ステータスなどを把握しやすい。
プロフィールを表示するマイクロフィール機能では、取得している資格のほか、自身が持つスキルや他者から認識されている特技などもタグ付けされる。AIプロフィールサマリーは、THANKSカードの情報などを基に自動的に更新され、第三者からのその人の強みなどを可視化する。

人事労務とタレントマネジメントを
トータルサポート

人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値を向上させる経営の考え方として「人的資本経営」がある。この人的資本経営を実践するためには従業員のウェルビーイングを高めていくことが重要であり、それを支援していくために、従業員の情報をトータルで可視化するサービスが必要だ。



SmartHR
重松裕三

 SmartHRは、“well-working”をキャッチフレーズに、「労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる。」をコーポレートミッションに掲げている。そんな同社が2015年11月から提供しているのが、クラウド型人事労務ソフト「SmartHR」だ。雇用契約や年末調整などの人事労務の業務を支援するだけではなく、従業員サーベイや分析レポートなどの情報を活用するタレントマネジメントなど、HR(Human Resources)にかかわる業務をトータルでサポートする。

 同社のProduct Marketing Managerを務める重松裕三氏は「現在こそさまざまな人事総務を効率化するサービスありますが、SmartHRがサービスを開始した2015年当初はあまりそういったサービスはありませんでした。SmartHRでは入社手続きや雇用契約などをペーパーレスで効率化できます。そうした人に関するデータが蓄積される中で、そのデータを活用して何かできないかと、2019年ごろにタレントマネジメントの領域に参入しました。人事労務とタレントマネジメントを一つのサービスの中でサポートできるのが、競合他社と比較した際の大きな強みです」と語る。

 人事労務の領域では、従業員が入社してから退社するまでのあらゆる手続きの効率化をサポートする。例えば、入社に伴い発生する雇用契約や個人情報の収集、社会保険の手続きをペーパーレス化し、従業員と人事労務担当社双方の負担を軽減できる。「入社後に結婚して名字が変わった場合、従来であれば人事労務の担当者が役所に直接足を運び、届け出を行っていました。しかしSmartHRであればこれらの届け出を電子化して、Web上で完結できるため、人事労務担当者の業務負担を低減できます。また従業員にとって、年末調整の作業負担は大きなものですが、SmartHRではPCやスマートフォンから質問形式に回答していくだけで終了するため、最短3分で書類提出が完了します」と重松氏。

 こうした人事労務のデータを活用するタレントマネジメントの機能は、人事評価や組織課題の発見に役立てられる。「特に従業員サーベイは、従業員のウェルビーイング向上に有効な機能です。SmartHR上にある部署や役職、勤続年数など複数の従業員項目と掛け合わせることで、課題発見につながる分析を簡単に行えます。例えば、エンゲージメントサーベイの場合、45問程度のアンケートを従業員に配信して会社全体や部署全体でどういった傾向があるかといった分析や、個々人の評価と照らし合わせて、『前期に評価が高かった人はこういった回答傾向がある』『逆に評価が低かった人はこういった回答傾向がある』といった分析に役立てられます。ウェルビーイングを高めるためには、健康だけではなくエンゲージメント高く仕事に取り組んでいるか、といった働きがいも重要になります。特に働き方の多様化に伴い、従業員が何をモチベーションに働くかといったことも細分化されている中で、それらを可視化していくことが重要になります」(重松氏)

 また、SmartHRでは今年新たに、人員配置業務を効率化する「配置シミュレーション」機能(2月14日リリース)と、従業員の育成や適正配置を支援する「スキル管理」機能(8月22日リリース)を搭載。人事労務とタレントマネジメントの双方から、企業の人的資本経営の実現を支援していく。

SmartHRでは登録された従業員の応報から、平均年齢や平均勤続年数、従業員数の推移などを分析レポートとしてグラフィカルに表示する。
従業員サーベイ機能を活用すると、アンケートの回答に基づき、会社全体や部署全体が抱える課題を可視化する。

Product

労働時間とメンタルヘルスを可視化して
健康に働く職場をつくる

働き方が多様化したことで、柔軟に働けることが評価されている一方、働きすぎる従業員が存在することが課題となっている。またうつ病など患者数は年々増加傾向にあり、従業員の働き方と、メンタルヘルスチェックを行えるサービスが求められている。



NECソリューションイノベータ
橋本 誠
NECソリューションイノベータ
渡邉政弘
NEC 働き方見える化サービスPlusのダッシュボードでは、チームメンバーのタスクや時間外労働時間、休暇取得情報などを可視化してチームの助け合いを促す。

 従業員が生き生きと働くウェルビーイング経営を実現する上では、従業員一人ひとりの働き方を改善していく必要があるだろう。NECソリューションイノベータが提供する「NEC 働き方見える化サービスPlus」は、労働時間の適正化やチームの生産性向上を実現できるサービスだ。PCの利用状況を自動で収集することで、従業員の働く時間を見える化し、業務効率と生産性を高めるワークスタイルへの転換を可能にする。

「NEC 働き方見える化サービスPlusは、もともと当社の現場改善活動の一環で作られたサービスです。働き方改革は経営層からのトップダウンだけでなく、従業員からのボトムアップがなければ進みません。NECグループ内でも広く使われており、従業員の働く時間の適正化や、勤務に対する注意喚起によって、メリハリのある勤務を実現しています」と語るのは、NECソリューションイノベータ 営業統括本部 ウェルビーイング営業部 プロフェッショナル 橋本 誠氏。

メンタルヘルスケアサービスは回答した情報を基に、ストレス因子を分析したレポートが作成される。ストレスチェック後のアクションにつなげられる。

 ウェルビーイング向上に適したポイントとして、橋本氏は勤務時間を可視化する点を挙げる。「PCの操作ログを取得しているので、勤怠管理システムでは把握しきれない残業時間も可視化できます。時間外勤務申請がされていない残業を行っている場合は、PC操作にロックをかけることもでき、従業員自身がワークライフバランスを意識したタイムマネジメントができるよう意識付けが行えます。また、マネジメント職向けには、部門ごとの時間外労働時間の集計結果をグラフで表示する機能も提供しており、数値に基づいたマネジメントを行えます」と語る。自分以外のメンバーの時間外勤務実績や残業上限を一目で把握できるダッシュボードや、タスク管理機能も提供しており、チーム内で助け合いながら業務に取り組める。

 またNECソリューションイノベータでは企業のメンタルヘルス対策と、働き方改革や健康経営を支援するサービスとして「メンタルヘルスケアサービス」も提供している。2015年12月から、50人以上の従業員を雇用する企業では年に1回以上のストレスチェックが義務化されており、本サービスはそのストレスチェック義務化に対応した「職業性ストレス簡易調査票(BJSQ)」を用いたストレスチェックツールと、職場でのラインケア、医療職による面接支援、従業員によるセルフケアの四つのツールをセットで提供する。「メンタルヘルスケアサービスでは、独自開発の分析ツールによって、職場の環境改善施策立案を支援することに加え、高ストレス判定がされた従業員に対しては医療職による面接をうながすなど、ストレスチェック後のサポートも行えます」と語るのは、営業統括本部 ウェルビーイング営業部 プロフェッショナル 渡邉政弘氏。

 加えて、プレミアムプランでは認知行動療法(CBT)をベースにした三つのセルフケアツールを提供しており、問いかけに答えていくことで、従業員自らがストレスに対処する力を伸ばせる。渡邉氏は「導入企業さまの9割はスタンダードプランを選択していますが、このセルフケアツールを利用できるプレミアムプランを選択していただくことで、従業員のウェルビーイングを高める効果が期待できます」と指摘した。

組織の“掛け違い”をなくす
1on1支援ツール

従業員のウェルビーイングを向上させる一つの手段として、1on1ミーティングに注目が集まっている。上司が部下に対して“傾聴”の姿勢を示し、部下から本音を引き出す対話を行うことで、働きがいの向上につなげていく取り組みだ。一方で、この1on1ミーティングを実施する上では課題もある。それらを解決するツールが、1on1支援クラウド「Kakeai」だ。



KAKEAI
本田英貴

 KAKEAIは、1on1ミーティングを支援するツール「Kakeai」を提供している。1on1ミーティング(以下、1on1)は、上司と部下が1対1で対話することで、部下の仕事へのモチベーションを向上させたり、成長を促したりする効果が期待できる人材育成の手法の一つで、多くの企業で導入が進んでいる。その一方で、上司と部下が互いに本音で話せていなかったり、上司側からの一方的な指導や業務連絡に終始していたりと、1on1の価値を十分に引き出せていないケースも存在する。

「よくある声として、『やっている意味があるのか分からない』や『負担だけが大きい』といったものがあります。そうした上司と部下に存在するコミュニケーションの負担やズレといった組織の“掛け違い”をなくし、質を高めるサービスとしてKakeaiを提供しています」と語るのは、KAKEAI 代表取締役社長 兼 CEO 本田英貴氏。

 Kakeaiでは、三つのポイントで日常的な1on1を支援する。一つ目は、事前準備だ。部下が上司に対して話したいテーマと、そのテーマに対して上司に期待する対応を選んで1on1の希望時間などを設定する。上司側は事前にその情報を確認することで、その対応に合わせて1on1に臨める。Kakeai上では、これまでの1on1に対する部下からの匿名のフィードバック情報を基に、上司に対して「『苦手』かもしれないトピック・対応です。相手が求めている対応をしっかり意識してみましょう!」といったアドバイスと同時に、Kakeaiを利用している世界中のマネージャーやメンターなどからのアドバイスが「Tips」として表示される。例えば、「話を聞いてほしい」という希望する対応に対して、それが苦手だと表示されていれば、アドバイスなどを参考に1on1で部下に向き合えるのだ。

 二つ目に、1on1の実施だ。Kakeaiでは上司と部下の間でリアルタイムに共有されるメモや、アイスブレイク機能としてサイコロで話題を設定し、導入の雑談をするような機能で円滑なコミュニケーションを支援する。これらの機能はKakeai上のほか、Teams、Zoomなどの他社Web会議ツール、対面でも活用可能だ。

 三つ目に、上司へのフィードバックだ。1on1が終了すると、部下側にアンケートが表示される。上司側に公開される1on1の感想と、上司側には非公開となる1on1の満足度の二つが表示され、満足度のデータは匿名で処理され、上司へのフィードバックに活用される。上司は蓄積されたデータを基に、自身の対応の得意や不得意を把握して、今後の1on1を実施する際の参考にできるのだ。
 導入による効果も大きい。本田氏は「これまで話せなかったことが話せるようになったといった声や、お互いの理解につながったといった声をよくいただきます。またKakeaiを利用して、500名程度の営業組織を対象に比較実証実験を行ったところ、非利用の組織と比較して、利用組織の売り上げが大きく伸びました。また利用組織では離職率も下がっており、大きな効果が生まれることが分かりました」と効果を語る。

 今後は企業の枠を超え、上司同士、部下同士がつながって情報交換ができるような機能の実装も予定している。Kakeaiでウェルビーイングな社会を実現することを目指し、同社は今後も機能強化を進めていく。

1on1をKakeai上で実施している様子。メモを共有したり、リアルタイムで文字起こしを行ったりすることも可能だ。求める対応に対するヒントなども表示される。
上司(マネジメント職)側で確認できる1on1データ。得意なトピックと対応の組み合わせがグラフィカルに表示されており、今後の改善にも役立てられる。