ジョブ型雇用
企業が職務内容、勤務地、勤務時間などの条件を明確化して、特定の職務に特化したスペシャリストを採用する雇用形態を指す。役割や成果に応じて賃金が決まり、異動や転勤はなく、基本的に昇進や降格もない。欧米企業に多く見られる雇用形態だが、日本でもジョブ型を取り入れる大手企業が増えている。新卒採用に導入する企業もあり、個人の能力がより反映される新たな人事制度として関心が高まっている。
従来、日本企業では新卒者を一括採用する「メンバーシップ型雇用」が主流だった。メンバーシップ型雇用は職種を限定せずに一括採用し、業務命令の下で配置転換しながら経験を積ませる仕組みだ。定年まで雇用し続ける「終身雇用制度」を背景に普及した。しかし、求める人材が多様化するなか、企業の雇用形態も変化しつつある。日本政府の推進する「働き方改革」を皮切りに、勤続年数によって昇進や昇給が判断される「年功序列制度」を見直す企業も多くなった。
2019年、経団連(日本経済団体連合会)はメンバーシップ型のメリットを生かしながら、ジョブ型を取り入れる意向を発表。急速にグローバル化する世界経済に対応する雇用形態として、ジョブ型に注目が集まるきっかけとなった。
企業にとってジョブ型は必要な人材を効率良く確保でき、スペシャリストを育成しやすい利点がある。人材を育成することで、生産性の向上、業務効率化、競合優位性の獲得などが期待できる。従業員も自分が得意な仕事に専念でき、スキルや能力を最大限に発揮しやすい。また、年齢や勤続年数にかかわらず、高いスキルや能力があれば高収入につながる。さらに、子育てや介護との両立を考える人にとって、時間や場所に縛られず、仕事内容や能力に応じて働けることもメリットだ。最近では、職務内容をさらに細分化した「タスク型雇用」も注目されている。
多様な人材を積極的に活用する「ダイバーシティ(多様性)」に取り組む企業は多いが、活躍できる場が整備されていなければ、せっかくの能力を発揮できない。ジョブ型は日本の法制度ではマッチしにくいという欠点があり、安易に導入すると、さまざまな問題を引き起こす可能性がある。今後は法整備も含めて、ジョブ型、メンバーシップ型、タスク型など、企業にとって有効な雇用形態を模索する必要がある。
(青木逸美)