日本のお客さまの声を基にビジネスを拡大
持続可能性にも重点を置いて日本に貢献

2024年11月、アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWSジャパン)の代表執行役員社長に白幡晶彦氏が就任した。白幡氏は大学を卒業して日商岩井に入社し、南アフリカ支店などでの勤務を経てゼネラルエレクトリック(以下、GE)に入社、グループ日本法人の代表取締役社長を務めた。その後、シュナイダーエレクトリックでアジア・グローバル組織のバイスプレジデントや日本のカントリープレジデントを歴任し、AWSジャパンの代表に就任した。白幡氏は「日本のために 社会のために」をテーマに、企業や社会のデジタル化促進に貢献するとともに、持続可能性にも重点を置いて日本での取り組みを進めていくという。グローバル企業で活躍してきた白幡氏が日本への貢献を意識するのはなぜなのか、話を伺った。

学生の頃に20カ国を漫遊
変化で得られる喜びを知る

アマゾン ウェブ サービス ジャパン
代表執行役員社長
白幡晶彦

編集部■経歴を拝見しますと、若い頃から世界中を飛び回っていたような印象を受けます。実際に若い頃から海外に行かれていたのですか。

白幡氏(以下、敬称略)■はい、大学生の頃からバックパッカーとして海外のいろいろな国を訪れました。大学生の頃に日本では見ることのできない世界を自分の目で見て何かを感じてみたいという欲求が抑えられなくなり、ガイドブック1冊とバックパック一つで20カ国くらいを旅しました。

 行く先々の国や地域で現地の文化に触れ、感性の赴くままに景色や被写体を一眼レフのフィルムカメラで撮り、その時に見て感じたことを文章に書き留めました。

 当時は携帯電話やPC、インターネットもありませんから、現地で工夫をしながら旅に必要な情報を集めました。

 例えば中国に行った時、当時は現地で英語はまず通じなかったので、紙に漢字を書いて筆談で意思を伝えたり、現地の一流大学の校門の前に立って英語が喋れる学生を探して、その学生から現地の情報をいろいろと聞いたりしました。その時に出会った学生と仲良くなり、学生寮に1カ月ほど泊まらせてもらいました。

編集部■当時はインターネットもなく、学生が日本で入手できる海外の情報は限られていました。好奇心だけでは未知の世界に飛び込むのは難しいと思います。なぜ日本を飛び出したいと思うようになったのでしょうか。

白幡■もしかすると影響があるのかなと思っているのは、小中学校の頃に何回か転校したことです。当時、転校して新しい学校に行くことに抵抗がなくはなかったのですが、最終的には世界が広がってむしろ楽しかった記憶があります。その経験からなのか、その後もよく引っ越しをしています。ちなみに現在住んでいる家は生涯で20軒目です。

 もちろん環境が変わることに対する不安がないわけではなく、人間関係や信頼などを一から全て作り上げないといけない面倒くささもあります。ただこうした苦労を乗り越えると、これまで知らなかった新しい環境の面白さに出会えます。

 私は大変さを乗り越えて得られる新しい喜びを実際に何度も経験しているので、現在の環境を飛び出して新しい環境に挑戦することが日常的になってしまっています。

日本の常識に頼らず
グローバルでビジネスに臨む

編集部■学生の頃の海外でのさまざまな経験から、どのような仕事をしようと考えましたか。

白幡■会社のお金で海外に行ける仕事という単純な理由で総合商社を選びました。海外に行くにしてもニューヨークやロンドンといった先進的な都市よりも、これから新しい価値を生み出す可能性のある途上国に行きたいという気持ちがありました。そんなことを言っていたら入社して自動車事業の中近東アフリカ担当に配属され、入社3年目に南アフリカに駐在することになりました。

 中東やアフリカのような日本人にはなじみのない地域でしばらく仕事を続けると、まもなく自分がグローバルビジネスパーソンとして一人前になったと勘違いし始めます。しかし一方でもっといろいろな国の人々と会うにつれて、自分は日本人の間でちょっと国際化しているだけであって、本当のグローバルビジネスパーソンにはなっていないとも感じ始めました。

 つまり海外での経験が増えるにつれて、日本の企業で日本のパートナーと海外で仕事をしているだけでは本当のグローバルビジネスではないと考え、一度日本から飛び出すようなことをしなければ成長できないのではないかと考えるようになりました。その矢先に大学のラグビーのチームメイトからGEのリーダーシッププログラムを知りました。

 それは未来のビジネスリーダーを育てるために2年間で四つのビジネスを経験させてくれて、給料ももらえるという内容で、友人はその1期生でした。2期生を募集するという話を聞いて応募し、採用してもらえました。

 GEでは今で言うIoTにつながるような仕事も経験しました。発電タービンの振動監視センサーからの情報を基に、状態監視や予知保全を行いました。

編集部■GEからシュナイダーエレクトリックを経てAWSジャパンへと移籍した経緯を教えてください。

白幡■シュナイダーエレクトリックでは主にIoTに関わる仕事をしていました。データセンターをはじめビルやインフラのスマート化など、ハードウェアとデジタルを組み合わせたイノベーションのビジネスに携わりました。

 データセンターを造る側の仕事をしていたため、AWSのデータセンターが設計などさまざまな観点で際立って優れていることや、そのデータセンターを通じてAWSがグローバルで果たしている役割など、AWSの価値の高さを理解していました。

 そしてAWSジャパンのお話をいただいて、長年にわたって海外に目を向けて仕事をしてきたので、そろそろその経験を日本の産業や社会の発展に役立てたいと考えて引き受けさせていただきました。

 グローバルカンパニーで日本の企業を見ていた時、日本の企業にデジタルの実装がもっと進んでいけば、もっと世界で活躍できる、世界で勝てると思っていました。その支援をAWSでできると確信しました。

 先ほどお話ししたハードウェアにデジタルを実装してデータを収集し、それを解析して改善に生かすという取り組みは、私が携わってきたビジネスではだいぶ昔からやっており、これはDXの原点です。このDXのインフラとなるデータの収集・集積から分析や活用の仕組みまでをプラットフォームとして提供できるAWSの役割は、日本の企業や社会のこれからの発展に貢献します。

日本での投資計画を継続
クラウドシフトの加速に手ごたえ

編集部■AWSおよびAWSジャパンは日本の企業や社会への貢献として、今後どのようなことをする計画ですか。

白幡■2027年までに東京と大阪のクラウドインフラに対して2兆2,600億円を投資する計画を昨年1月に発表しましたが、これを2027年まで継続します。現在、2026年の稼働を目指して国内に新たなデータセンターも建設しています。これらの投資計画は日本の国内総生産(GDP)に5兆5,700億円貢献し、国内で年間平均3万500人以上の雇用を支える効果があります。

編集部■日本でのビジネスの見通しを教えてください。

白幡■銀行の勘定系システムのような、これまでクラウド移行にためらいを感じていた企業や、社会インフラを支えるシステムのクラウド移行が非常に増えてきています。

 総務省が昨年公表した通信情報白書でも、日本のクラウドサービスの需要が前年比25%を超える勢いで伸びていると指摘しています。

 こうした動きはクラウドに対する理解が進んだことと、AWSのクラウドの実績が増えてきたことにより、お客さまから信頼を得られている結果だと思っています。今後も引き続き、お客さまの大事な基幹システムを預かる責任を感じて、信頼できる会社にならなければならないと考えています。

日本の社会とビジネスに貢献
信頼を得てさらなる成長を目指す

編集部■AWSでは持続可能性への取り組みも重視しています。日本ではどのような取り組みを進めていますか。

白幡■信頼される会社になるために、持続可能性への取り組みを通じて社会に貢献することも求められます。例えばエネルギー効率を高める配電設備や冷却設備、再生可能エネルギーへの投資、新設するデータセンターでは低炭素型のコンクリートを使用するという建設材料への投資など、データセンターの建築においてエンボディドカーボン(建物の生涯を通じて排出される全ての温室効果ガスの総和)の削減に取り組んでいます。

 AWSがアクセンチュアに依頼して行った調査によると、AWSのクラウドサービスはオンプレミスと比較して最大4.1倍のエネルギー効率が見込めます。またAWSで計算負荷の高いワークロードを実行した場合、お客さまは関連する温室効果ガスの排出量を最大99%削減することが可能だという調査結果が出ています。AWSの取り組みはお客さまのサステナビリティ目標の達成という観点においても、その実現に大きく貢献できます。

 このほか事業で利用する量よりも多くの水を社会に還元する「ウォーターポジティブ」という取り組みを推進しています。AWSでは2030年までにウォーターポジティブを達成する取り組みをグローバルで進めており、東京リージョンのデータセンターに供給される水の水源地の一部である山梨県丹波山村と協定を結び、今後10年にわたり水源涵養(かんよう)プロジェクトを実施することを発表しています。
 教育分野にも投資を続けており、2023年9月に千葉県印西市の小学校にSTEAM教育の施設「Think Big Space」を開設したほか、2024年11月には神奈川県相模原市の女子中学生を対象にした「Girls’ Tech Day」を開催しました。さらに2025年前半に相模原市の中学校においてThink Big Spaceを新たに開設する予定です。

編集部■日本のパートナーとの協業について、取り組みを教えてください。

白幡■AWSにとってパートナーは全国のお客さまのイノベーションを推進する強力な存在であり、日本がデジタル経済のリーダーとなるための重要な推進役です。この考えの下、AWSは昨年よりパートナーさまとの連携をグローバルレベルでさらに強力に推進しています。

 ダイワボウ情報システム(DIS)さまとは戦略的な長期の提携パートナーとして各種プログラム支援、トレーニング支援などを強化しており、今後継続的に支援をさらに増やしていくつもりです。

 具体的な取り組みとして、例えば日本の地方自治体や地域の中堅・中小企業のお客さまに対して、AWSは信頼いただけるクラウドサービスを提供できますが、一方で日本の津々浦々のお客さまに対して、それぞれ地域ごとに異なる要求へのローカライズやサポートをスピーディーに行う必要があります。この部分をDISさまとDISさまのパートナーさまにご支援いただくことでお客さまの信頼をより深めることができ、それがビジネスの成長につながると考えています。AWSとDISさま、DISの先のパートナーさまと、このような仕組みや体制を構築していきたいと考えています。

 DISさまは全国を網羅するカバレッジと、お客さまと長年にわたって対面のコミュニケーションで築いてきた深い信頼関係があります。DISさまとの協業で日本での信頼を広げ、深めていくことで、DISさまを通じたビジネスを数年間で10倍に拡大したいと松本社長とお話ししていたところです。