AI時代をリードする圧倒的なパフォーマンスと省電力効率性を訴求し日本市場でPCとサーバーのシェアを伸ばしていく

レノボ・エンタープライズ・ソリューションズの社長を務めていたジョン・ロボトム氏が昨年8月3日に半導体メーカーの米Advanced Micro Devices(AMD)日本法人、日本AMDの代表取締役社長に就任した。海外と日本のIT業界で豊富な経験と実績を持ち、AMDのテクノロジーを採用した製品に長年にわたって携わってきたロボトム氏に、日本市場への取り組みについて話を伺った。

日本のサン・マイクロシステムズで
AMDのテクノロジーに触れた

編集部■日本語が非常に上手ですね。日本でのビジネスを通じて日本語を習得されたのですか。

ジョン・ロボトム 氏(以下、敬称略)■母は日本人で、私は日本で生まれました。その後、父の故郷であるオーストラリアで過ごしましたが、家庭では日本語を使っていました。

 小さいころからコンピューターが好きで、ゲームや簡単なプログラミングをするのに使っていました。明確なキャリアは描いていませんでしたが、コンピューターに関わる専門の勉強をして、いずれはコンピューター関連の仕事をしたいと思っていました。

 大学を卒業後、オーストラリアで米国の自動車メーカーのフォード・モーター(以下、フォード)グループのクレジット会社に、プログラマーとして就職しました。そこではメインフレームやクライアント・サーバー、そしてWebサイトなどの開発に携わりました。

 マツダがフォードの傘下となった際に双方のクレジット会社が合併し、日本語を話せたため大阪に転勤することになりました。日本で2年間勤務してオーストラリアに帰国しましたが、もっと日本で働きたいという気持ちになりました。その気持ちを持ったままオーストラリアでサン・マイクロシステムズに転職したのですが、いったん退職して日本のサン・マイクロシステムズに再就職しました。それから20年以上、日本で仕事をしています。

編集部■日本のサン・マイクロシステムズではどのような仕事に携わったのですか。

ロボトム■エンタープライズの営業として、サーバーやワークステーションを販売していました。実はAMDに最初に関わることになったのがサン・マイクロシステムズでした。サン・マイクロシステムズの共同設立者であるアンディ・ベクトルシャイム氏が、AMD Opteron搭載サーバー専業メーカーを設立したのですが、その会社をサン・マイクロシステムズが買収しました。そしてベクトルシャイム氏も古巣へ復帰することになったのです。

 当時、サン・マイクロシステムズは大きく成長している時期であり、同社には自社開発・製造の「SPARC(Scalable Processor Architecture)」というRISCベースの優れたマイクロプロセッサーがありました。サン・マイクロシステムズのサーバーやワークステーションには当然SPARCが搭載され、エンタープライズ領域のみでビジネスを展開していました。

 AMD Opteron搭載サーバーによってビジネスの領域を広げることが目的であることは理解していました。ではx86アーキテクチャの中でなぜAMD Opteronなのか、それを知りたくて社内の技術資料を調べたり、エンジニアに聞いたりしました。その結果、x86アーキテクチャの中でAMD Opteronには非常に優れたテクノロジーが採用されており、AMDと同社のCPUに対して関心を持つようになりました。

日本AMD 代表取締役社長 コーポレート・バイス・プレジデント ジョン・ロボトム

最先端のテクノロジーが普及
するプロセスに立ち会いたい

編集部■デル・テクノロジーズや日本マイクロソフトでも活躍しました。両社でどのような経験をされましたか。

ロボトム■デル・テクノロジーズではエンタープライズの営業を担当し、長年にわたり顧客とのビジネスのマネジメントスタイルを学びました。日本マイクロソフトに在籍したのは2年間でしたが、同社がクラウドシフトを推進している最中で、DXの推進に欠かせないクラウドのテクノロジーと活用方法について知見を得ることができました。

 DXはクラウドとオンプレミスをハイブリッドで上手く組み合わせて進めるべきだと考えています。クラウドを積極的に活用しながら、それに合わせて既存のオンプレミスをリフレッシュする必要があります。

 そこでレノボ・グループのサーバー事業を展開するレノボ・エンタープライズ・ソリューションズ(以下、LES)に移籍して、ハイブリッド環境に向けてオンプレミスをリフレッシュしながら、クラウドの導入を進めていくというビジネスに力を入れました。

編集部■LESではHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)にも注力されていました。これまでのキャリアでもエンタープライズ領域で高性能サーバーや大規模システムのビジネスに携わってきましたが、こうしたハイエンド領域に個人的な思い入れがあるのですか。

ロボトム■例えば自動車レースの最高峰であるF1(フォーミュラ1)に使われているテクノロジーが市販車に採用されて広く普及するように、スーパーコンピューターや大規模システムの最先端のテクノロジーに触れ、それが普及していくプロセスを目の当たりにすることに大きな意義を感じます。これはAMDのCPUに通じるものがあります。

 スーパーコンピューター性能ランキングの「TOP500」(https://www.top500.org/)が現在の最新版となる2024年6月版(https://www.top500.org/lists/top500/2024/06/)を公開していますが、そのトップを獲得したのが米国オークリッジ国立研究所とヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)の「Frontier - HPE Cray EX235a」です。このスーパーコンピューターに搭載されているのがAMDの「Optimized 3rd Generation EPYCプロセッサー」で、AMD EPYCプロセッサーは5期連続でトップを獲得しています。

 スーパーコンピューターに搭載されているAMD EPYCプロセッサーのテクノロジーは、現在市場で販売されているサーバーやPCに搭載されているAMD製品にも採用されており、最先端のテクノロジーが一般に広く普及しています。

 LES在籍時もAMDを高く評価していました。実際にLESのポートフォリオの中でAMD搭載製品のラインアップの数が数倍になり、存在感が大きくなっていました。その理由について私も本社のメンバーもパフォーマンスの高さに加えて、コア数が多いことによる電力効率の高さを挙げています。

 エネルギーコストが高騰する中で、AMD製品の省電力性能はとても有利です。サーバーならば電力コストを削減でき、PCならばバッテリー駆動時間がより長くなるメリットがあります。LES在籍時はこうしたAMDのメリットを生かした製品を数多く提供しました。

スーパーコンピューター性能ランキングの「TOP500」(https://www.top500.org/)がインターネット上に公開している2024年6月版のランキング(https://www.top500.org/lists/top500/2024/06/)。AMD EPYCプロセッサーを搭載するスーパーコンピューターが1位を獲得している。

価格の優位性に加えて
パフォーマンスと効率性を訴求していく

編集部■AMD製品はグローバルで評価が高まっており、シェア拡大の勢いが加速しています。日本市場でのビジネスの状況はいかがですか。

ロボトム■データセンター領域のサーバー市場においてグローバルで33%のシェアを獲得しており、引き続きシェア拡大を目指しています。日本市場でも2桁成長を続けており、データセンター向けや組み込みシステムを中心に成長を続けています。

 私が社長就任のお話をいただいた際に、AMDの日本法人はアジア太平洋地域の一部から、独立したリージョンに格上げされました。これは本社が日本に対して今後注力すべき市場だと判断したことであり、実際に本社は「成長に必要なサポートを何でもする」という姿勢で日本市場を重視しています。日本市場にこれまで以上に注力していくことで、日本企業の課題解決により広く貢献できると考えています。

編集部■日本市場においてAMD製品を伸ばしていくために必要な取り組みは何ですか。

ロボトム■AMD製品には価格についての高い優位性があり、これは今後も変わらず訴求していきます。それに加えてパフォーマンスと効率性を認知してもらうことが、成長の加速に不可欠だと考えています。例えばサーバーならば絶対的なパフォーマンスなのか、コストパフォーマンスなのか、PCならば省電力性能によるバッテリー持続時間なのか、お客さまそれぞれの要望や環境に応じて、AMD製品が提供する価格以外の価値に絞って伝えることで、AMD製品の価値に対する認知が広がっていくと考えています。

 その際に、OEMメーカーさまにご協力いただいて、実機を用いてパフォーマンスや効率性をお客さまに納得してもらうことが重要です。

 こうしたエンドユーザーへのAMD製品の価値の認知拡大には、パートナーさまとの連携が不可欠です。パートナーさまにAMD製品に採用されているテクノロジーや、AMD製品が提供する価値を理解していただき、AMDのテクノロジーと他社のテクノロジーを対等に説明しながら、エンドユーザーの課題に対してAMD製品ならこのような解決ができるという価値を示して納得してもらうことが重要です。

 そのためにパートナーさまにテクノロジーレベルのトレーニングを提供しているほか、今後はパートナーさまが営業活動をしやすくなるための投資を検討している最中です。

AI処理性能はAMDの強み
その価値の認知を広げていく

編集部■AMD製品の価値の一つにAIが挙げられます。AI領域でのビジネスについてどのような展開を考えていますか。

ロボトム■企業でのAI活用は始まったばかりですが、日本では少子高齢化が進み人材獲得が非常に難しくなっているため、チャットボットなどAIを活用した業務の自動化を中心にビジネス領域での活用が広がっていくと見ています。

 AMDのサーバー向けCPUにもPC向けCPUにも、以前よりNPU(AI処理専用プロセッサー)を搭載しており、最新のPC用プロセッサーであるRyzen AI 300プロセッサーを搭載するPCでは最大55TOPSのAI処理性能を発揮します。

 AIアプリケーションが提供されるデータセンターにおいても、今後活用が広がるであろうPCでのローカルAIアプリにおいても、AI処理性能と効率化においてAMD製品は非常に有利なポジションを獲得し続けています。

 しかしながら、その価値をもっと広く認知してもらうことが今後の成長に向けて取り組むべき課題であると認識しています。

 また長年PCのビジネスをやってきたパートナーさまでも、AI PCの売り方は従来のPCの売り方と違うのではないでしょうか。AI領域におけるPCやサーバーの新しいビジネスに向けて、AMDの取り組みとダイワボウ情報システム(DIS)さまの取り組みを組み合わせて、一緒にビジネスを伸ばしていきたいと考えています。