PCメーカー9社の法人向けCopilot+ PC の実機に触れてWindows 11 Proが提供するローカルAIエージェントのメリットを体験するイベント「Copilot+ PC Day」が東京国際フォーラム(東京・有楽町)で2月3日に開催された。そのオープニングとなる基調講演には日本マイクロソフトの津坂美樹社長をはじめ、米マイクロソフトからPCエコシステムの製品技術戦略を統括するゲイブ・グラヴニング氏も駆け付け、マイクロソフトのハイブリッドAI戦略とCopilot+ PCビジネスについて講演した。今回は来日した米マイクロソフトのゲイブ・グラヴニング氏にCopilot+ PC について話を伺った。

2年以上かけて生まれたCopilot+ PC
半導体メーカーとの協力から始まる

Microsoft Corporation
General Manager
Portfolio&Tech Sales
Device Partner Sales
Gabe Gravning 氏
ゲイブ・グラヴニング

編集部■近年、PCがコモディティ化したことで、各PCメーカーがそれぞれ独自の工夫や付加価値を加えた製品が発売されても、市場に刺激を与えることが難しい状況がありました。しかし2月3日に行われた「Copilot+ PC Day」にはたくさんの来場者が集まり、規模の大きな会場であったにもかかわらず基調講演は満席となり、Windows 11 Pro 搭載のCopilot+ PC の実機でローカルAIエージェントのメリットを体験できるタッチ&トライコーナーは身動きできないほど混雑していました。Copilot+ PC によってPCが再び脚光を浴びましたね。

ゲイブ・グラヴニング氏(以下、敬称略)●ありがとうございます。Copilot+ PC Dayは私にとってこれまでのローンチイベントの中で最高のものの一つでした。お客さまやパートナーさまがたくさん参加してくださり、OEMパートナーさまからのサポートもありCopilot+ PC の新しいデバイスの発表もありました。

 そして来場者の多さに非常に感銘を受けました。ここ数年、日本だけでなく世界中のさまざまなイベントでPCの復活を強く感じています。以前は携帯電話やスマートフォンが主流になると見られていましたが、今ではAIとともにPCが大きな話題となっています。

 お客さまはAIがどのように組織を改善し、従業員の生産性を向上させるかに非常に興味を持っており、活用するために設計された次世代のWindows PCを代表するCopilot+ PC への関心が高まっているのだと理解しています。

編集部■Copilot+ PC のプロジェクトにいつから携わっているのですか。

グラヴニング●2年以上前、次世代のPCとデバイスを考え始めたときからCopilot+ PC の企画、開発に携わっています。私たちは新しいプロセッサーを必要とする新しいアーキテクチャのPCを開発するために、デバイスパートナーと非常に長い時間をかけて計画しました。この開発サイクルには最低でも2年はかかります。まず半導体メーカーとの協力から始まり、デバイスパートナーとの協力へと続きます。ですから長い時間を経て、Copilot+ PC という新しいデバイスが完成しました。そして現在、AIの活用を身近に、そして効果的にするCopilot+ PC を企業が導入できるようになっています。

なぜ40TOPS※以上のNPUが必要なのか
マイクロソフトの計画から生まれた

編集部■Copilot+ PC というデバイスよりも先に、クラウドで提供される生成AIサービスのCopilotがリリースされました。これらのプロジェクトの関連性を教えてください。

グラヴニング●まずCopilotはマイクロソフトにとってAIのユーザーインターフェースという位置付けです。Copilotをリリースするとともに、Copilotの活用に適したデバイスはどのようなものなのかの検討を始めたとき、そのデバイスにはCopilotだけを活用するためのものではなく、Copilot以上の活用の可能性があることに気付きました。ですから「Copilotプラス」なのです。

 Copilot+ PC Dayでもたくさんのデモをご覧いただいた通り、Copilot+ PC ではWindows 11 Pro が提供するさまざまなローカルAIエージェントが利用できます。例えばWindows検索やリコールは情報の検索や収集の方法を革新することを体験いただけたと思います。まさにCopilot以上のことができるCopilotプラスなPC、すなわちCopilot+ PC なのです。

編集部■Copilot+ PC を名乗るためには40TOPS※以上のAI処理能力を備えるAI処理専用のプロセッサーであるNPUの搭載が要件の一つとなっています。Copilot+ PC の開発において最初に半導体メーカーと協力して計画したと伺いました。マイクロソフトはインテルやAMD、クアルコムに対して40TOPS※以上のNPUを開発、生産してほしいと依頼したのですか。

グラヴニング●その通りです。Copilot+ PC の開発は半導体メーカーとの非常に緊密な協力から始まっています。Copilot+ PC に搭載されている最新のプロセッサーのいくつかは、インテルやAMD、クアルコムとマイクロソフトの緊密な協力の下で開発されました。

 私たちは非常に早い段階で半導体メーカーにオンデバイスAI(ローカルAI)を実現するために必要なシナリオや要件を伝えました。そこに40TOPS※以上のNPUというリクワイアも含まれています。なぜなら40TOPS※以上のNPUによって、Windows OSとその上で動作するソフトウェアでAIが実行できるようになるからです。Copilot+ PC の開発プロジェクトにおいてマイクロソフトと半導体メーカーとの間で、これまで以上に緊密な開発パートナーシップが築かれました。

※TOPSとはTera Operations Per Secondの略。1秒間に実行できる演算の回数で、40TOPSでは40兆回、10TOPSでは10兆回の演算が実行できる。

インテル、AMD、クアルコムで
同じAI機能が利用できる

Copilot+ PCでのAI体験をどのようにしていくのかについて二つの次元で考えています。

編集部■Copilot+ PC 以前の第一世代のAI PCには10TOPSほどのNPUが搭載されています。Copilot+ PC で動作するさまざまなローカルAIエージェントは第一世代のAI PCでは利用できないのでしょうか。

グラヴニング●広く利用されているAI機能の一つであるWindows Studio Effects では、背景ぼかしやノイズ除去などの映像や音声のエフェクトを前世代の10TOPSのNPUにオフロードすることはできます。

 しかしAIに次々と新しい機能が取り込まれるにつれて、その処理が非常に計算集約的になりました。例えばPCのローカルでの言語モデルの利用をはじめOCRによる文字認識やリアルタイム翻訳などをNPUにオフロードするには、より高性能なNPUが必要となります。

 低いTOPSのNPUでは映像や音声のエフェクトは実行できますが、生成AIをローカルで実行することはできません。生成AIをローカルで実行するには40TOPS以上のNPUが必要なのです。

 NPUを使用する理由は非常に低消費電力でAI処理を行うためです。新機能がユーザーのPCのバッテリー消費に影響を与えないようにするためです。言語モデルがより高度になるにつれてより多くの計算能力が必要となり、より性能の高いNPUが必要になります。

編集部■今後のAIの進化に対して現在の40TOPSというNPUの性能は、どのくらいの期間使い続けられると見ていますか。

グラヴニング●40TOPSのNPUはこれからの数年間にわたって新しい体験をもたらすための十分な余地を持つベースラインです。将来的にはより高い性能が必要になるかもしれませんが、今のところCopilot+ PC には40TOPSで十分です。

編集部■Copilot+ PC にはインテル、AMD、クアルコムの3社のプロセッサーが採用されています。これらにはx86アーキテクチャとARMアーキテクチャの違いがありますが、どのプロセッサーを搭載するCopilot+ PC にも同じAI機能やAIエージェントが提供されるのですか。

グラヴニング●はい、それが私たちの計画です。Windows Copilot Runtimeとマイクロソフトが開発者に提供するAbstraction(抽象化)APIを使用することで、x86とARMの異なるアーキテクチャ下でも全てのプロセッサーで動作するソフトウェアを開発できます。

 開発者にとって一つのアーキテクチャのためだけに開発するのは時間がかかりすぎます。開発者は自身が開発したソフトウェアがどのアーキテクチャのWindowsでも動作することを望んでいます。これはゲーム用の「DirectX」のようなものです。DirectXはマイクロソフトのAPIであり、開発したゲームが異なるGPUで動作します。これと同様にAIの世界ではCopilot+ PC 上のWindows Copilot Runtime が、開発者が作ったソフトウェアをどのCopilot+ PC でも動作するようにします。

2月3日に東京国際フォーラム(東京・有楽町)で開催された「Copilot+ PC Day」では
PCメーカー9社のCopilot+ PCが出展され、来場者は実機でローカルAIを体験した。

これから提供されるAI機能は何か
より簡単に、より便利にを指向

編集部■マイクロソフトはCopilot+ PC に向けて、今後どのようなAI機能やAIエージェントを提供する予定ですか。

グラヴニング●今は具体的なお話はできません。例えばWindows のタスクバー内で毎日何十億もの検索が行われています。そこで私たちはAIを使った過去10年間で革新できなかった方法で、これをどのように改善できるかを考えました。その結果生まれたのがWindows検索です。Windows検索は決して目立つ機能ではありませんが、毎日たくさんの人々が行う何十億もの検索を効率化します。

 さらにユーザーがWindows検索のような非常にシームレスな操作で便利に使える機能に慣れると、より高度な機能、例えばリコールのような機能を求めるようになります。リコールは現在(2025年2月末時点)プレビューの提供ですが、Windows Insider を通じて誰でも使うことができます。

 リコールは非常に高度な検索機能で、OCRを使用してタイムラインを作成し、過去にさかのぼってCopilot+ PC 上で操作したあらゆる情報を、特定のキーワードだけではなくあいまいな言葉で探し出すことができます。

 Windows検索とリコールの二つの機能は関連していますが、ユーザーエクスペリエンスの異なるエントリーポイントかもしれません。これが私たちの考え方です。

 AI体験については二つの次元で考えています。まず既存の機能やワークフローをAIで強化するために既存のものをどのように活用できるかです。Windows検索はその一例です。次に以前は不可能だった新しい機能や体験をどのように提供できるかを考えます。言語モデルやチャット機能のような新しい機能です。AIは既存の機能を改善し、新しい機能も作り出します。

編集部■生成AIを利用するのはプロンプトを作成する必要があります。しかし適切なプロンプトを作成するのは簡単ではありません。プロンプトの作成を簡単にする機能を提供する計画はありますか。

グラヴニング●実は私たちはこのテーマに取り組み続けています。ユーザーがCopilotやAIエージェントを通じて、できるだけ簡単にAIを利用できるようにするためのプラットフォームとツールを作成したいと考えています。

 現在、マイクロソフトは生成AIをより簡単に、より個別のユーザーに最適化して使えるように、エージェントをカスタマイズするための二つの方法を提供しています。一つはプロフェッショナルな開発者向けの「Azure AI Foundry」で、エージェント全体を構築するためのツールです。もう一つはローコード・ノーコードで利用できる「Copilot Studio」です。こちらは生成AIを利用する業務の現場のユーザーが、自身でより使いやすく、より便利にエージェントをカスタマイズするためのツールです。

 今後もマイクロソフトはAIおよび生成AIがユーザーの真のコンパニオン(助手)になるよう、関連するさまざまな領域で投資を続けていきます。

編集部■ありがとうございました。

私の故郷はアメリカで雪が多い地域で、スキー場がたくさんあります。その中にスノーボード発祥の地もあります。子どもの頃からスキーとスノーボードを楽しんでおり、かれこれ40年くらいになります。現在も1シーズンに最低10回、多いときは20回ほど、ほぼ毎週末スキー場に通っています。夢は北海道でスキーをすることです。まだ北海道でスキーをしたことがないので、ぜひ行ってみたいですね。