2025年が幕を開けようとしている。2025年はどのようなトレンドが生まれ、市場に変化をもたらすのだろうか。本特集では、PCサーバーベンダー5社による座談会に加え、ITインフラやPCサーバーに関する市場動向を取材した。2025年の国内サーバー市場について、今後の動向をしっかりと押さえておこう。
AI・仮想化・サーバー市場のこれからを
サーバーベンダー5社が徹底的に語り尽くす
デル・テクノロジーズ、日本ヒューレット・パッカード、レノボ・ジャパン、エフサステクノロジーズ、NEC
2024年の年の暮れに、デル・テクノロジーズ、日本ヒューレット・パッカード、レノボ・ジャパン、エフサステクノロジーズ、NECといった主要サーバーベンダー5社による座談会を開催した。目黒のホテル雅叙園東京で行われた本座談会では、2024年のサーバー市場を振り返りながら、台頭する生成AIや変化する仮想化基盤、そして正式リリースされたばかりのWindows Server 2025の可能性に至るまで、多様なテーマでの意見交換が実施された。2025年のサーバー市場を占う本座談会の内容を、これからのサーバービジネスに役立ててほしい。
AIの台頭でどう変化した?
2024年のサーバー市場を振り返る
——暮れのお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。まずは各社が提供されているサーバーのラインアップと2024年の市場についてのご意見を聞かせてください。
上原氏(以下、敬称略)■デル・テクノロジーズ(以下、デル)のサーバー製品を統括しております、インフラストラクチャー・ソリューションズ営業統括本部の上原です。当社が提供するサーバーブランドは「PowerEdge」サーバーと言い、ラックマウント型とタワー型の両方をラインアップしています。PowerEdgeサーバーはお客さまのニーズに応じて、従来型の汎用用途だけでなく、GPUを搭載するAI向けのサーバーやデータセンター外で使われるエッジ向けのサーバーなど、用途に適した専用設計のサーバーをそろえています。また、当社のお客さまは、ラックマウントサーバーを選択する比率が高い傾向にあります。具体的には80%がラックマウントサーバーを選択しており、残りの20%がタワー型サーバーを選択しています。他社さまですとタワー型サーバーのニーズのほうが大きいと思いますので、この比率は当社ならではの特徴かと思います。
2024年のサーバー市場を振り返ってみますと、やはりAIの台頭が大きいでしょう。例えばGPUが搭載されたAI処理に特化したサーバーを「AIサーバー」というカテゴリーに位置付けるとしたら、2年前では市場全体の1%弱、金額ベースだと3%弱でした。しかし2024年は販売出荷実績で7%弱、金額ベースで44%と大きく伸長しています。これをサーバー市場が変わったというのか、それともサーバー市場にAIサーバーという要素が新たに追加されたと表現すれば良いのかについては、各社さまの判断が分かれるところかと思います。
阿部氏(以下、敬称略)■日本ヒューレット・パッカード(以下、HPE)のパートナーさま営業部門に新設されたサーバー営業部の阿部です。HPEでは「HPE ProLiantサーバー」シリーズを提供しています。本シリーズではタワー型サーバーから、データセンターに導入するようなラックマウントサーバーまで、幅広い製品を取りそろえています。また、「HPE Crayスーパーコンピューター」というスパコンも販売しています。搭載するプロセッサーもインテルのみならず、AMD、Armと幅広いのが特長です。2024年のサーバー市場を振り返ると、HPEでも市場に突然、AIが上乗せされた印象です。従来型のタワーやラック、ブレードといったサーバーに加えて、やはりAI用途のサーバーのニーズが非常に高まっています。中でもエンタープライズ企業では、生成AIや大規模言語モデル(LLM)を活用するためのサーバーとして、エッジサーバーの需要が増えてきています。当社でも2024年9月に、こうしたエッジAI向けサーバーとしてコンパクトで耐環境性能に優れたサーバーの「HPE ProLiant DL145 Gen11」をリリースしており、非常に好評です。
AI活用に最適化された
サーバー製品もラインアップ
山下氏(以下、敬称略)■レノボ・ジャパン(以下、レノボ)の山下です。実は先日までグローバル事業部を統轄しており、7月から現在のパートナー事業部に異動しました。いろいろと勉強させていただくことも多いと思いますが、よろしくお願いいたします。さて、当社では「ThinkSystem」シリーズから、タワー型およびラック型サーバー、データセンター向けのスーパーコンピューティングサーバーなどをラインアップしています。またGPUをベースとしたAI向けの専用サーバーも用意しています。それに加え、二つの特長的なポイントがあります。一つ目はエッジ向けサーバーのラインアップが多岐にわたっており、非常に訴求力があることです。二つ目に、サステナブルへの取り組みです。AIに取り組む上ではサーバーの電力消費の問題からは避けられません。当社ではサーバー水冷技術「Lenovo Neptune」の開発をはじめとした水冷サーバーの取り組みを進めています。上原さま、阿部さまが指摘されたようにAIへのサーバー活用が不可欠となる中で、訴求力のある製品ポートフォリオとサステナブルに対する取り組みの2軸で取り組んでいます。
清水氏(以下、敬称略)■エフサステクノロジーズのサーバーラインアップを紹介する前に、まずは広報を担当する清水から会社の紹介をさせてください。当社は富士通グループの保守事業を一手に担ってきた富士通エフサスを母体に、富士通のサーバー・ストレージを中心としたハードウェア事業を統合して、2024年4月に設立されました。この統合で、ハードウェアの設計・開発、製造から、販売、導入展開、運用保守に至るまでを一気通貫で提供できるようになりました。24時間365日、全国規模で展開するサポートサービスを含めた、高品質で信頼性の高いハードウェアソリューションを提供できる点が強みです。富士通グループの一員であることに変わりありませんが、自社製にこだわらず、幅広いパートナーさまの製品やソリューションを皆さまに提供していきます。
尾藤氏(以下、敬称略)■清水の説明を引き継ぎ、サーバーの販売推進を担当する尾藤から、当社の製品のラインアップを紹介いたします。エフサステクノロジーズでは「PRIMERGY」というx86サーバーブランドを展開しており、これまでお話のあった通りタワー型、ラック型の双方を展開しています。先ほどデルの上原さまはラックが8割、タワーが2割と話されていましたが、当社の販売比率は少々異なり、タワー型サーバーの販売比率が高い傾向にあります。もちろんエンタープライズ企業の基幹システムやプライベートクラウドなどでラック型サーバーの導入も多くありますが、当社ではそれに加えてSMBのお客さま向けのタワー型サーバーの需要が高いのです。AIについては当社も非常に注目している分野ですが、一般的に展開していくのはこれからという印象です。当社では本格的なAI活用に取り組んでいるお客さまにはデータ処理の多様化に対応する次世代インフラストラクチャ「PRIMERGY CDI」を提供しています。それに加え、これから対話型生成AIに取り組みたいというお客さまには高性能GPUを搭載したPRIMERGYに、すぐに使える対話型生成AIサービスが構築されたオンプレミス環境向け対話型生成AI基盤「Private AI Platform on PRIMERGY」を提案するなど、お客さまのAI活用ニーズに応える製品ラインアップも用意しています。
浦田氏(以下、敬称略)■NECのコンピュート部門でExpressサーバーのマーケティングを担当しています。当社では「Express 5800」シリーズというPCサーバー製品を提供しており、皆さまと同様ラック型、タワー型の製品を主力としています。中でも特殊なのが24時間365日の連続稼働に適した無停止サーバー「Express5800/ftサーバー」や、スリムサーバーの中に顔認証のシステムを構築し、セキュアな入退出管理を実現する「NEC 顔認証アプライアンスサーバ」を提供するなど、サービスと組み合わせたオールインワンでのサーバー提供に注力しています。またAIについては先進的なお客さまをはじめとしたアーリーアダプター層の活用が進んでいる印象です。ハードウェアはもちろん実際の構築基盤も含めて提供できるよう、現在体制を整えています。
人手不足に対応するため
対話型生成AIの導入が加速
——皆さまのお話にもあった通り生成AIというキーワードが非常に盛り上がりを見せています。現在は多くのユーザーがクラウド上のAIを活用していますが、それらのAI処理をエッジ側で行う技術も注目されています。サーバービジネスをされている中でプライベートAIやローカルでのAI構築などの動きはどのように変化しているでしょうか。
上原■現段階ではクラウドサービスで生成AIを利用するユーザーが大半です。AI基盤モデル開発に関して政府からの補助金が出ていることもあり、特にクラウドサービスベンダーが非常に多くのサーバーを購入しています。そのため、これらのクラウドサービスを提供する企業をどう攻めるかが、今のフェーズになるでしょう。一般企業に生成AIが普及するためには、分野を絞った小規模言語モデル(SLM)が普及し、生成AIの使い方が広く認知されるようになることが重要です。一方で、前述した通り現段階のサーバー需要の高まりは、クラウドサービスプロバイダーの購買意欲が非常に旺盛であることに起因します。これがあたかもサーバーのマーケットが巨大化したように見えるかも知れませんが、実際にはそうではないということは、販売パートナーの皆さまにも留意いただきたいポイントです。
一方で、テクノロジーの進化に伴い、サーバー1台でできることは飛躍的に増えています。AIの普及やデジタルトランスフォーメーション(DX)が推進されると求められるコンピューティングリソースも増え、それに伴ってサーバーの需要も増えていくことが期待できます。HCIへの集約も進んでいますが、それに伴って1台当たりのサーバー平均単価は上がっています。これは裏を返せば、販売店さまが商機を逃したときに非常にダメージが大きいということも意味しています。
阿部■市場が盛り上がっているのは事実です。実際、GPUが数百枚だとか、何百億円もの案件がニュースを騒がせていますよね。当社も販売パートナーの皆さま向けのセミナーなども多数行っていますが、まだまだAIを使ったマネタイズに悩んでいる方も少なくないようです。
AIに関連したサーバーの動きとして、気が付いたことが二つあります。一つ目は生産性向上のため、特に対話型の生成AIが積極的に活用されていることです。人手不足や変化の激しい時代に対応していく動きが、背景にあるようです。二つ目は新しい使い方として、小売店や飲食店などでの導入が増えています。例えばエッジサーバーを飲食店や小売店の店舗に設置することで、画像認識をおもてなしサービスに生かしたり、飲食店でいたずら防止に使ったりする用途が出てきています。これらの用途は、大型の生成AIのように莫大な規模のGPUを使わなくともできるAIの用途です。このことは、SIerや販売パートナーの皆さまのアイデア次第で新たな商材や商機が生まれる可能性が広がってきていることを意味しています。
生成AIの普及に伴い
エッジサーバーの需要が増加
山下■レノボは去年(2023年)から、来るべきAI時代に向けて「Smarter AI for All」というビジョンを掲げています。全ての場所、全ての物にAIの恩恵を届けることを目標としており、ポケット(端末)からクラウドに至るまでAIを提供可能な日本で唯一のベンダーという自負があります。当社ではAIを「パーソナルAI」「エンタープライズAI」「パブリックAI」という三つの領域で考えており、皆さまが話している現在普及しているAIはパブリックAIの領域になると思います。
パブリックAIはいわゆるChatGPTをはじめとしたクラウドLLMサービスプロバイダーが提供するAIです。一方で、実は企業のCIOにインタビューをした際に、約6割となる57%の方が「企業でAIを積極的に活用し始めた」あるいは「部分的に活用を始めた」と回答しました。ここから分かるのは、クラウド経由でLLMを使うパブリックAIの普及はもちろんですが、今後は知的財産のような社外に出せないデータを企業内で回し、内部で使用していくエンタープライズAIの取り組みがこれから拡大していくだろうということです。これにより何が起こるかというと、エッジサーバーの需要が今後非常に増えていくでしょう。例えば一つの事例として、バルセロナのスマートシティに当社のサーバーが活用されています。帯域幅の混雑を緩和しつつIoTをはじめとしたスマートシティ環境を構築するため、当社のエッジサーバーが町中に導入されているのです。
一方で、このような活用を企業に広げていくためには、ユースケースの周知はもちろん、販売パートナーの皆さまがAIを提案しやすい仕組みも必要です。当社では「AIイノベーターズ・プログラム」を提供しており、世界中のAIソリューションを持っている企業に参画いただくことで、さまざまな業種や現場にAIソリューションを提案しやすくなるエコシステムを構築しています。またこのエコシステムで展開されたAI活用事例の知見を集積し、パートナーの皆さまの提案に生かしてもらう取り組みも進めております。
浦田■NECでは施設の入退室管理や見守り体制の強化に活用できる顔認証アプライアンスサーバを以前から提供していますが、実はこれにAI技術が活用されています。以前から提供してきたITソリューションにAI技術が実装されているケースは多くありますが、AIと名乗っていなかったんですよね。先駆けすぎたかもしれません(苦笑)。しかしこういった顔認証をはじめとしたAIソリューションを提供してきた蓄積から、AIの活用や売り方などを販売パートナーさまにお伝えしています。また、現在は自社開発のAI技術群も提供しており、エンドユーザーさまからの多様なAIニーズに応えています。
エッジへの取り組みで言うと、当社ではサーバーではなくファクトリーコンピューター(産業用PC/FC98-NXシリーズ)をエッジデバイスとして提案しています。特に製造IoTのエッジデバイスとしての需要が高く、そこにftサーバーとセットで導入いただくことで、産業IoTで取得したデータをエッジで管理したり解析したりしつつ、クラウドと組み合わせてハイブリッド運用を行えるような提案を進めています。
尾藤■レノボの山下さまが表現されていたAIの三つの領域という言葉で言うと、やはりパブリックAIから活用が始まっていますよね。エフサステクノロジーズのお客さまもAIについてさまざま試していますが、その多くは会社の経営者層からの指示で、セミナーの要約を生成AIにしてもらうような活用が主です。やはりAI活用を本格的にやりたいと思ったら、外に出せない機密データを活用したいと考えるケースが多くあり、そういったプライベートAIのご相談をいただくケースも増えてきました。これは山下さまの言葉でいうところのエンタープライズAIですね。要望として見られるのは蓄積された数値のデータを活用したいとか、CADなどの設計データを使いたいといったものですね。
プライベートAIの活用はヨーロッパの企業さまの取り組み事例が増えてきています。当社は、富士通の販売チャネルを通してグローバルでもサーバービジネスを展開していますので、そうしたグローバルの事例を、日本の企業さまにも提案していきたいですね。
仮想化環境の動向変化に
各社はユーザーに選択肢を提案
——HCIによるサーバーの集約や、サーバーの高性能化に伴う単価の上昇といったお話がありました。一方で、米国のVMwareがBroadcomに買収され、ライセンス体系や販売パートナー向けのプログラムが変更されるなど、仮想化環境の動向に注目が集まっています。ユーザー企業は、こうした動きにどのように対応しているのでしょうか。
廣川氏(以下、敬称略)■レノボのソリューション開発、廣川です。直近1年の動向をみると、やはりVMwareから仮想化環境を見直す動きが活発化しています。これはおそらく各社さま同じような状況だと思います。
上原■デル・テクノロジーズでは「HCI ダイバーシティ」という考え方を掲げています。これはお客さまの環境と要件に応じた最適なHCIソリューションを提案できるポートフォリオで、「Nutanix AHV」「Microsoft Hyper-V」「VMware ESXi」といった環境を、お客さまの用途に合わせて提案できるようにしています。お客さまの中にはVMwareを継続して使用したいという要望のあるケースももちろんありますので、そういった要望に応えられるようにしています。また、中には一部をVMware、一部をHyper-V基盤で運用したいという複合型仮想化を求めるお客さまもいますので、そういった多様性に応えるHCI製品の提供を進めていきます。個人的にはこういったライセンスの問題を“商機”というのは好きではないので、柔軟性を担保しながらエンドユーザーさま、パートナーさまからの要望に応えていきます。
阿部■仮想化はこの1年、本当に激動でしたね。ベンダーもパートナーの皆さまも非常に苦労されたと思います。そんな中、HPEでは2024年11月21日にハイブリッド環境全体にわたる仮想化ワークロードの管理を統合的に行え、優れた投資対効果を持つ「HPE VM Essentials」を新たに発表しました。販売パートナーの皆さまにもこの新たな選択肢を使っていただきたく、日本での提供の準備を進めているところですので、ぜひ楽しみに注目していただきたいと思います。
廣川■レノボでも今回のVMwareのライセンス体系の変更を受けて、Nutanix AHVやAzure Stack HCI、それからWindows Serverと仮想化基盤のHyper-Vを組み合わせたWindows Server(S2D)によるHCIなど、お客さまからのニーズに応えた提案を行っています。また最近のお客さまの動きとして、データの量が増大したことによってデータ管理に優れたソリューションを求めるケースが増えています。こういったケースの場合、必ずしもHCIが最適解ではありません。例えば当社ではネットアップのストレージOS「ONTAP」を採用したストレージを以前から提供しています。これらを共有ストレージ装置として活用し、3Tier構成の仮想化基盤として運用する方が適している場合もあり、お客さまの個別な課題に合わせた提案を販売パートナーさまと共に進めています。
尾藤■仮想化基盤に関してはエフサステクノロジーズでも、2023年末のBroadcomの発表の影響は大きかったです。Nutanixは見積もり依頼が3倍、売り上げが2倍という形で非常に引き合いが増えました。一方でVMwareの新しいOEMライセンスを販売開始したところ、こちらも大変多くの見積もり依頼をいただいておりまして、新しい仮想化基盤に移行するお客さまと、使い続けるお客さまに二分している印象です。移行となると販売パートナーさまをいかに支援できるかが重要なので、仮想化基盤をNutanixに切り替える場合、販売パートナーの皆さまに移行作業画面を見ていただけるメニューを用意するなど、支援体制も整備しています。
Windows Server 2025がリリース
各社が注目する新機能とは?
浦田■NECにもVMwareに関連したご相談は数多くいただいています。これを契機に他の仮想化基盤に切り替えるお客さまや、VMWareを引き続き使うお客さまなど、それぞれのニーズに合わせた提案を進めています。また仮想化の話に関連して最近引き合いが増えているのがシンクライアントです。シンクライアントは仮想GPU(vGPU)を活用することでより快適に活用できるようになり、中堅企業のお客さまも多く導入されています。ハイブリッドワークの普及はもちろん、今後は労働人口の減少に伴って労働力の確保が困難になっていきますので、柔軟な働き方をさらに加速していく必要があるでしょう。仮想化の新しい使い方として、今、VDI(仮想デスクトップ)の価値が見直されています。加えて、先日正式リリースされたWindows Server 2025にはGPUパーティショニングという新しいGPU機能(vGPU)が搭載されており、そのあたりにも期待しています。
尾藤■Windows Server 2025はエフサステクノロジーズも注目しています。マイクロソフトからは性能やセキュリティ強化などがアピールされていますが、先ほど仮想化の話の中でサーバー集約の動きが触れられていました。それに伴ってサーバーにもこれまで以上の安定性が求められていますので、その点も併せて提案していきたいですね。すでにお客さまからのお問い合わせも増えてきています。
廣川■レノボとしてWindows Server 2025の期待できると感じた機能は、セキュリティの強化ですね。コンピューターを再起動せずにパッチを適用できる「ホットパッチ」機能など、期待として大きいポイントです。特にHyper-Vで仮想化する際に、何かしらのトラブルが発生すると再起動が必要になりますが、そこを大きく改善できるでしょう。今後Windows Server 2016やWindows Server 2019からの移行が始まってくると思いますので、その移行先として、またHCIの基盤として、Windows Server 2025には大きく期待をしています。
岡野氏(以下、敬称略)■デル・テクノロジーズのインフラストラクチャー・ソリューションズ営業統括本部の岡野です。廣川さまがご指摘されたホットパッチ機能は間違いなく有益な機能ですね。デルとしてはあと二つWindows Server 2025の強みがあると思っておりまして、一つ目はワークグループクラスターを使用してライブマイグレーションが行える点、二つ目は先ほど浦田さまが指摘されていたvGPUのサポートです。マイクロソフトというブランドには圧倒的な信頼感がありますので、それにプラスしてホットパッチやライブマイグレーションで運用負荷が軽減されるというのはうれしいポイントでしょう。また10年間のサポートがあるのもお客さまにとっての安心感につながります。
地方の販売パートナーへ
情報発信を密に行う
——仮想化基盤の問題やWindows Server 2025のリリースなど、サーバーにまつわる新たな動きが出てきている中で、販売パートナーへの情報発信や支援など行われていることがあれば教えてください。
赤沼氏(以下、敬称略)■パートナー事業本部の赤沼から、デルのパートナー施策を紹介させてください。皆さまが苦労されているポイントとして、地方の販売パートナーさまに対するご案内や情報が、首都圏の販売パートナーさまと比較して届きにくいという点があるのではないでしょうか。当社では、そうした地方の販売パートナーの皆さまに対して、大きく3点の取り組みを実施しています。一つ目はランチセミナーの開催です。1時間半~2時間ほど、パートナーの皆さまとご飯を食べながら、肩肘を張らずに当社の最新ソリューションや新製品のご案内、展示などのご紹介を行っています。
二つ目は、2024年9月25日に当社大手町オフィスに開設した「AI Innovation Lab」です。AI Innovation Labで、販売パートナーさまのAIソリューションを産業別のユースケースに基づき紹介しています。ランチセミナーでソリューションに興味を持たれた販売パートナーには、このAI Innovation Labで実際の活用の様子などを体験してしてもらうことで、提案に生かしていただいています。
三つ目が、パートナーフォーラムの実施です。情報が届きづらい地方の販売パートナーさまに対して、それぞれの地方における事業戦略を含めたソリューション、新製品のご案内、提案いただく際のポイントの紹介を行っています。広島、福岡、名古屋、大阪で開催されており、例えばCopilot+ PCといった最新のデバイスを紹介しています。
明石氏(以下、敬称略)■HPEの第二営業部の明石です。当社では日本全国の大都市や地方都市で販売パートナーさま向けの大規模なセミナーを実施してきました。しかし、皆さまも同様に感じていると思いますが、昨今は、販売パートナーの皆さまが取り扱う商材が、オンプレミスのサーバーからクラウド、そしてAIに至るまで多岐にわたるようになりました。そのため、以前は自分たちでサーバー構成を組んでご提案いただいていた販売パートナーも、自社で構成を組むことが難しくなっています。そうした課題に対する施策として、当社は三つの取り組みを行っています。
一点目は、ブートキャンプです。ダイワボウ情報システム(DIS)さまやその先の販売パートナーの皆さまに対して、数日間缶詰状態になっていただきまして、システム構成を一から組めるようなブートキャンプを実施しています。コロナ禍以前に行っていたものを最近復活させました。
二点目は、「HPE Smart Choice」のリリースです。これは中堅・中小企業のお客さまに人気の構成を大変お求めやすい価格でパッケージ化したもので、10月に発表したばかりです。構成作成が不要なので、販売パートナーの皆さまが営業活動に集中できるでしょう。
三点目は、地方都市への担当営業の配置です。仙台や名古屋、大阪、福岡などの地方都市で販売パートナーさまをご支援する担当営業を配置することで、全国3,000社以上ある販売店への支援を進めています。
自社事例を発信し
パートナーとの共創を目指す
下井氏(以下、敬称略)■NECのパートナーセールス統括部の下井です。皆さまは「BluStellar」(ブルーステラ)という言葉を聞いたことがあるでしょうか? これは企業や社会のDXを加速させるために、販売パートナーの皆さまと共に未来を作っていくとか、価値創造のビジネスモデルを作っていきましょうといった取り組みです。BluStellarとはイタリア語で「青い星」を意味しており、お客さまを一緒に導いて、同じところを目指していく共創を示しています。お客さまの困りごとに対して、当社だけの技術ではなく、販売パートナーの皆さまと共にソリューションを作っていくような仕組みとして「BluStellar パートナープログラム」を今年の秋口に発表しました。例えば、顔認証のシステムを提案する場合はサーバーとカメラ、両方の知識が必要になりますが、サーバーを扱える販売店はカメラを扱えなかったり、カメラを扱える販売店はサーバーが扱えなかったりするなど、組み合わせての提案が難しいという課題がありました。BluStellar パートナープログラムによってそこをうまく共創することによって、一つの顔認証システムとして提案できるようにしています。
また、NECの社内ではいま「クライアントゼロ」という言葉が非常に注目されています。お客さまに提案する前にまず自分たちで使う。つまり最初のお客さんに自分たちがなることで、お客さまへの提案に役立てています。また一つの課題を解決できるソリューションができれば、それをどんどんメニュー化することで、パートナーの皆さまにも共有しています。
これらの活動を全国の販売パートナーさまに知っていただくための案内も進めています。またパートナーの皆さまが持っているアセットと組み合わせて提案する相談への対応や、新しいソリューションを作って売る、育てるところまでを一つのプログラムとしています。いままで当社が取り扱っていなかったところもメニュー化できれば、販売パートナーの皆さまにとっても大きなビジネスチャンスになるでしょう。例えば当社ではファイルサーバー専用ストレージ「iStorage NS」とWasabi Technologiesのクラウドストレージ「Wasabi Hot Cloud Storage」を組み合わせたファイルサーバーソリューション「ハイブリッドNAS for Wasabi Hot Cloud Storage」を提案していますが、このような形でハードウェアとクラウドストレージなどのサービスを組み合わせることによって、新しいビジネスを展開していくことが可能になります。
実機を見たことがないパートナーへ
サーバーを触ってもらう体験を
山下■レノボでは「Lenovo 360」というパートナー戦略にのっとって、引き続きパートナーの皆さまと共にビジネスに取り組んでいきます。Lenovo 360では「Lenovo Partner Hub」という販売パートナーさま向けのポータルサイトを用意しており、ここから製品の情報やキャンペーンの情報を全国の販売パートナーさまにお届けしています。一方で当社の悩みとして、日本でのサーバーベンダーとしての知名度が低いことがあります。ThinkPadをはじめとしたPCのイメージが強いことも要因としてあるでしょう。そこで当社は大都市でのセミナーに加え、地方にも積極的に足を運ぶことにしました。仙台や広島、熊本、鹿児島などに直接お邪魔して、当社の製品戦略を販売パートナーさまに直接伝える活動を進めています。これにより、レノボのサーバーの認知度を向上し、引き合いを増やしていきます。
さらに、当社は2022年からFormula 1のオフィシャルスポンサーになっており、2025年からはグローバルパートナーとしてグランプリの開催をサポートしていきます。また、2026年にワールドカップを主催するFIFAのテクノロジースポンサーにもなっており、これらのスポーツを通してグローバルにおける当社のブランドイメージをさらに向上させていきます。
レノボのサーバービジネスにおいて、日本のマーケットはまだまだ小さいですが、グローバルでは3位の評価をいただいています。日本市場はチャレンジングですが多くのオポチュニティがあると捉えており、パートナー施策を今後も積極的に進めていきます。
尾藤■当社は冒頭にもご説明しましたが、エフサステクノロジーズの設立により、販売パートナーの皆さまには既存の富士通との取引契約に加え、エフサステクノロジーズとの取引契約を新たに締結いただきました。現在では新たな販売パートナーさまを含め、やりとりがスムーズに進められています。また、販売パートナーさまご自身が構成を組むことが難しいという課題に対しても取り組みを進めており、販売パートナーさまが推したいものを簡単に手配できるようにしています。また、構成ツールの使い方についてもトレーニングを行っています。
実は、パートナーさまの営業の方が「実際に販売している製品を目にしたことがない」というケースもあります。クラウドやセキュリティソフトなど、営業担当者1人が取り扱う製品が増えてきたためです。当社ではこうしたパートナー営業担当者さまのために、サーバーの実機を見ていただくような取り組みも行っています。特に当社が強みを持つ、高温多湿な気候への対応や耐震性など、日本国内特有の事情に対応するためのサーバー設計について、実機を解体しながらサーバーの内部構造をご紹介することもあります。その光景はさながらマグロの解体ショーのようです(笑)。特に新人の方などは、そもそもPCしか見たことがなかったり、サーバーとPCの違いが分からなかったりするケースもありますので、そうしたトレーニングを行っています。
AIやサステナブルの領域を
確実に獲得していく各社の戦略
——AIからWindows Server 2025、パートナー制度に至るまで、盛りだくさんのお話をありがとうございます。最後に各社から一言ずつ、メッセージをお願いします。
尾藤■お客さまがシステムを導入する際は多くの選択肢がありますが、最新のテクノロジーは複雑で覚えることも多くあります。そのため、販売パートナーさまが安心して提案できることや、お客さまが安心して使えるような環境を用意することが重要です。特にパートナーの皆さまに対しては、手間をかけずに効率的にインストール作業を行えるようにするなど、システムを提案する上での負担を軽減する工夫を進めています。当社は「ハードウェアソリューションのトータルプロバイダー」を標榜し、サーバー、ストレージ、OS、ハイパーバイザー、ミドルウェアまでワンストップでサポートしますし、サポートデスクのサービスも手厚くしております。トラブルが長期化しないよう、問題の切り分けも強力に支援していきます。2025年のサーバービジネスは一般的な業務システムや基幹システムの更改に加えて、プライベートAIといったサーバーの新しいニーズもあります。そういった新領域についても、しっかり対応していきたいですね。
上原■短期的な目標として、今年のテーマは「刷新」です。IT効率と生産性を向上させるため、ITインフラ全体の見直しが重要になるでしょう。またAIの具体的な活用を進めるため小規模言語モデル(SLM)の市場を狙っていきたい。そのためには当社だけでは難しいため、それぞれ販売パートナーさまやコンサルティング会社と連携したエコシステムを確立し、そこから取り組みを進めていきます。また中期的目標として2025年を水冷データセンター元年に位置付けます。大手データセンター事業者も水冷サーバーを採用し始めていますし、今後は水冷でないとCPUやGPUのエネルギー効率を十分に発揮できない時代になっていきますので、2025年に向けて普及を進めていきます。
明石■全国の販売パートナーさまへの支援に注力していきます。HPE Smart ChoiceではWindows Server 2025のインストールモデルも用意していく予定です。またファームウェアのリモート管理を可能にするクラウドベースの運用管理サービス(COM)に注力して提供していますので、パートナーさまの運用負担を軽減できます。
ハイパーバイザーというホットな話題について、HPE VM Essentialsの提供によってユーザー企業さまの選択肢を増やしていきます。HPE VM Essentialsは当社のみならず他社さまのハードウェアでも使えるようにしていく予定ですので、DISさまと共に販売パートナーの皆さまにお届けしていきたいですね。
ROIを可視化して参入しやすく
ビジネスチャンスを確実に獲得
山下■AI元年を迎える中で、レノボでは三つの取り組みを進めていきます。一つ目はコンピューティングパワーを蓄えること、二つ目はサステナブルになるかどうか、三つ目はROI(投資対効果)がどうなっていくかということです。
一つ目のコンピューティングパワーについては、2025年に全世界のデータ総量が増大していく中で、それらを利活用していくためのデータマネジメントの仕組みが重要になります。そうした中で当社が提供するONTPのNASは中堅中小企業向けの販売台数がトップです。この製品を、データマネジメントの領域に最適なストレージとして販売パートナーの皆さまと共に展開をしていきます。
二つ目のサステナブルについては、上原さまもおっしゃっていた通り水冷データセンターの推進です。冒頭にも紹介しましたが、当社はLenovo Neptuneという液体冷却システムを採用しており、これは直接水冷を行っています。これによって熱量の約98%を下げることが可能になります。三つ目のROIはサステナブルの取り組みとも密接に関わっていますが、水冷サーバーを活用することでデータセンターの電力量を約40%削減できます。またAIをより簡単に導入できる「Lenovo AI Library」を世界中でスタートすることで、短期間でAIをリリースできる仕組みをパートナーの皆さまと共に整えていきます。これによって、今まで「ROIが見えないから投資ができない」と思われていた領域に積極的に取り組んでいただける環境を整備します。
浦田■2025年はまず販売パートナーさまに対してBluStellarのパートナープログラムで価値創出していきましょうと働きかけていきます。また、製品を提案するパートナーさまの強みは、お客さまのオフィスや業務を知っている点にあります。そういった知見を生かしながら、当社が提供するサーバーやソフトウェア、AIといった部品をうまく使っていただいて、お客さまへの価値を提供してほしいと思います。やはりAIを中心に、市場が大変盛り上がっている中で、さまざまなビジネスチャンスが生まれています。そこに対してNECは2025年、ビジネスに取り組んでいきます。
——2025年以降のサーバービジネスが楽しみになるお話でしたね。皆さま、ありがとうございました。