「リスキリング」という言葉が国内で注目され始めたのは2020年ごろ。同年の世界経済フォーラム(通称:ダボス会議)で「リスキリング革命(Reskilling Revolution)」が発表されたことや、コロナ禍に対応するため企業のデジタル化が急速に進んだことから、職業能力を再開発したり、再教育したりする「リスキリング」という概念が急速に広まった。2023年にはChat GPTをはじめとする生成AIが登場し、日常に急速に普及したことでAIによって仕事が奪われる「AI失業」を懸念する声もあり、リスキリングへの取り組みはますます重要視されている。その一方で、日々の業務に追われるビジネスパーソンにとって、リスキリングに着手するのは決して簡単なことではないだろう。今回の本企画では社会人にとっての学びに対する意識を探り、低いハードルからスタートできるリスキリングツールや研修コンテンツを紹介していく。

社会人の学びに関する意識調査2024から見る
リスキリングの実態と学びに向かうコツ

リスキリングへの注目度は高まる一方で、ビジネスパーソンの学ぶ意欲は変化しているのだろうか。ベネッセコーポレーションは、2022年から「社会人の学びに関する意識調査」を実施している。その最新調査結果「社会人の学びに関する意識調査2024」が2024年4月24日に公開された。本調査から見えてきた社会人のリスキリングへの意識の変化を見ていこう。

社会人の4割が
学習意欲なしと回答

 社会人の学びに関する意識調査2024は、2024年2月6〜13日の期間、インターネットを用いたアンケート調査で実施された。それによると、リスキリングの必要性を感じている社会人は全体の58%と、2023年調査における55.6%からやや増加した。また「(リスキリングの)必要性を感じていて取り組んでいる」と回答したのは14.2%となり、2023年の11.2%と比べ、こちらも増加傾向が見られた。

 一方で、学習経験も学習意欲もないと回答した割合も約4割存在する。ベネッセコーポレーションではこの学習経験有無別と学習意欲有無別に、以下の四つのセグメントに分類している。

【A】学習意欲あり×学習経験あり……「学んでいます」層
【B】学習意欲あり×学習経験なし……「学ぶつもり」層
【C】学習意欲なし×学習経験あり……「学ぶの疲れた」層
【D】学習意欲なし×学習経験なし……「なんで学ぶの」層

 このようなセグメント分類を行っている背景を、ベネッセコーポレーション 執行役員 社会人教育事業領域担当(Udemy日本事業責任者) 飯田智紀氏は次のように語る。

「当社では米国Udemyが運営するオンライン動画学習プラットフォーム『Udemy』を提供しています。こうした自律型の学習ソリューションを使いこなし学ぶ方が非常に多いのがAの『学んでいます』層です。一方で、学習に対するアクションがなかなか取れない、今後も見通しが立っていないという方が多いのがDの『なんで学ぶの』層です。しかし、学習に対する姿勢はこの2種類に大別できるわけではなく、中間に属する人たちが存在します。それがBの『学ぶつもり』層とCの『学ぶの疲れた』層です。Bの人たちは今まで学習できていなかったけれど、これから学んでいこうという意欲のある層。Cの人たちは逆に、これまで学習に取り組んできたけれど、これからは難しいと回答した人たちです。こうした4セグメントの割合を本調査では定点的に観測しており、2024年の調査ではA層が33.8%、B層が13.3%、C層が11.4%、D層が41.5%という結果でした。前年と比較するとA層とC層が微減、D層が微増という傾向にあります。セグメントの構成は調査開始の2022年から大きな変化はなく、3年連続で社会人の約4割は学習意欲がないという結果になりました」

時間の使い方を可視化し
学びのモチベーションを挙げる

ベネッセコーポレーション
飯田智紀

 社会人のリスキリングを推進していくためには、本調査で定義されたD層の行動を変えていく必要がある。飯田氏は「本調査では分かりやすく『学習意欲なし』としていますが、このD層の人々は完全に学習意欲がないわけではないと考えています。『やらなきゃいけない』とは思っているものの、さまざまな理由からそれに取り組めなかったり、資格試験対策のような自分を成長させるものでないと学びと呼べないと考えていたりと、学びへのハードルを非常に高く設定してしまっている人たちもいます。また、自身の仕事において学ぶことへの緊急性が高まっておらず、リスキリングに着手できていないケースもあるでしょう」と語る。調査の中では「日常に余白がない。時間もお金もないためリスキリングに取り組めない」という声や、「何かしないといけないけれど、何をしたらいいのか分からない」という声もあった。

 飯田氏はこれらの声に対して「まず本当に時間がないという状態の方は、1回学ぶことを横に置いて休んでください。仕事やプライベートに追われて精一杯になっているところに『学ばないといけない』という不安感が重なると精神的にも良くありません」と呼びかけ、「その状況を打開し、睡眠時間をしっかり確保して思考力や体力、意欲が回復した後にリスキリングに意識を向けましょう」と続けた。

 一方で、学びへのモチベーションの低さから「時間がない」と弁明する人も少なからずいる。こうした人に飯田氏が推奨するのが「時間の使い方の可視化」だ。1日の過ごし方などを可視化することにより「通勤時間や移動時間といった隙間時間が意外とある」と気が付くのだという。飯田氏はこの可視化の方法を「Udemyの受講生や講師も方々もよくやっていて、なるほどなと感心しました。例えば通勤時間にこれまで動画サービスを見ていたのであれば、その隣にあるUdemyなどの動画学習アプリを押すことを意識すると良いでしょう」と語る。

 もう一つ飯田氏が推奨するのが「習慣化」だ。歯を磨くように学習を習慣化することが、学びへのハードルを下げることにつながる。飯田氏が紹介したような『まず学習アプリを押す』といった行動を習慣化すると良い。「まずは5分からでもいいから見ることを“癖”にすることが大切です。インプットを続けていくとさらに『こういったことも学びたい』と学びたい事柄が見つかっていきます。そこからさらに書籍に向かったり、Udemyのような動画学習サービスに向かったりすることで、体系立てて学ぶ姿勢につながります」と飯田氏。

対象:全国18〜64歳の男女4万名
※学生、能登半島地震に影響のあった石川県、新潟県、富山県を除く。
※推計人数は総務省労働局「労働力調査(基本集計) 2024年2月分」より算出。
期間:2024年2月6〜13日
方法:インターネット調査
出所:ベネッセコーポレーション「社会人の学びに関する意識調査2024」

短期的な目標設定で
学びを実務に生かす

「目標を持つ」ことも学びのモチベーションにつながる。学校の学びを思い返すと分かりやすいが、学生は定期試験や入試といった目標に向けて、逆算しながら勉強を行う。大人の学びも同様に、資格取得や1〜2年後の仕事で成果を出すといったような目標を設定すると良いだろう。一方で、こうした目標達成に向けた学習計画は中長期的であり、即時に効果が実感できるものではない。目標までの距離が遠すぎると、継続していくことが難しいと感じる人も中には存在するだろう。

「私も中長期的にコツコツと投資をしていくことが苦手なタイプなんです」と飯田氏は笑い、「こういったタイプは、学びの効果の実感を得る場やアウトプットをするシーンを、なるべく短い期間で設計することが大切です。例えば、日々の業務で10時間かかっている業務を8時間に短縮できたら、それに関わる人たちもハッピーになりますよね。そこで例えば業務プロセスを可視化する方法を学んだり、VBAを学んだりすれば、業務時間の短縮につながるでしょう。自分がやっていて不便だなと感じたことを、短期的に改善するという目標を立てると、学んだことの成果を体感しやすくなります」とアドバイスした。

 短いタイムスパンでアウトプットを繰り返すことで、周囲からのフィードバックの回数も増えていく。例えば前述の業務時間短縮であれば「もっとここをこうしてほしい」という要望を受けて、データの取り扱いをさらに深く学ぶといった行動にもつながる。それらを繰り返すことで「実はデータを取り扱って仕事をすることが好きなんだ」と気付き、中長期的なキャリアや学びにもつながっていく。

「1人では、学びへのモチベーションを保ち続けること難しい人もいます。そういう人は、コミュニティに所属するのも良いと思います。個人の学習コミュニティも増えていますし、当社でも法人向け動画学習プラットフォーム『Udemy Business』を提供しています。1人でやりきるのが難しい場合でも、近くに同じ学びに取り組む友人や同僚がいると励まし合いながら継続できるでしょう。1人の力でやろうとしない、というのもリスキリングを継続していく一つのポイントです」と飯田氏。

 リスキリングに対するモチベーションや向き合い方は、今回飯田氏が紹介したように多様だ。試行錯誤の上で自分に合ったやり方を見つけるのも良いが、ベネッセコーポレーションでは「リスキリングに関する生活者理解のためのインサイト調査」から見えた多様な価値観や感情を基に個人が持つ「学びのモチベーション」を8タイプに分類し、その人の学びへの価値観や、目指す方向性を示してくれる「学びエンジン診断」(https://udemy.benesse.co.jp/type-shindan/)を提供している。飯田氏は「本診断を活用すると、学びに対する原動力を可視化できます。これは個人でのリスキリングにも役立ちますし、組織で活用すれば『これだけさまざまなタイプが所属しているのだな』ということを人事担当者などが再認識できるでしょう」と語る。組織運営にも役立つ学びエンジン診断を活用して、企業のリスキリングの機運を高めていきたい。

 次ページでは同社が提供するUdemy Businessを紹介し、リスキリングへの有用性を解説していく。

約1万3,000講座から好きな講座を学べる
サブスクリプション型動画学習サービス

業務の合間にリスキリングを行う社会人にとって、豊富な動画教材で手軽に学べる「Udemy Business」は学習コンテンツとして適している。前ページから引き続き、ベネッセコーポレーション 執行役員 社会人教育事業領域担当(Udemy日本事業責任者) 飯田智紀氏にUdemy Businessの有用性を語ってもらった。

豊富な動画教材に加え
自社独自の教材でも学べる

 ベネッセコーポレーションでは、米国法人Udemyと独占適業提携を2015年から行っており、国内に向けてオンライン動画学習プラットフォーム「Udemy」を提供するのに加え、2019年からは法人向けサブスクリプション学習サービス「Udemy Business」も提供している。

 個人向けUdemyは、「教えたい人(講師)」と「学びたい人(受講生)」をつなぐプラットフォームだ。誰でも講師になれ、誰でもが生徒になれるツールで、講師は自身がどのようにスキルを習得したのか、自身の知見を体系立てて講義する。最新の生成AIからビジネススキルまで幅広いテーマで学ぶことが可能で、こちらは学びたいコースを購入して受講する買い切り型だ。

 法人向けUdemy Businessは、Udemyでグローバルに公開されている21万以上の講座の中から、日本の利用者向けに厳選した日本語および英語の約1万3,000講座をサブスクリプションで利用できる。企業が契約をすれば従業員はUdemy Business内の講座を自由に受けられるため、興味のあるコンテンツだけを選んで学べる。個人向けUdemyと同様に、PCのほかスマートフォンやタブレットなどからでも視聴できるため、どこからでも受講可能だ。倍速やスロー再生機能が搭載されているため、自分のペースで学習できる。クイズ問題や演習で理解度を確かめられるため、学びの定着に役立つ。

 法人専用の機能として、受講状況が一目で分かる「学習進捗管理」機能も搭載されている。講座ごとに受講者の学習進捗率やアクティビティをグラフで把握可能だ。また、Udemy Business内の講座だけでなくコンテンツはもちろん、組織内の動画コンテンツやPDFを無制限にアップロードできる。汎用的なスキルのほか、特有のスキルやノウハウを従業員に身に付けさせたい企業に適した機能だ。もちろんアップロードしたコンテンツは社外には公開されない。

検索と受講のデータを掛け合わせ
個人と組織の学習傾向を分析

 ベネッセホールディングスの飯田智紀氏は「学習カリキュラムを作成できる『ラーニングパス』機能も搭載されており、Udemy Businessの汎用的なコンテンツと企業内の学習コンテンツを組み合わせたカリキュラムを配信することも可能です。例えば社内のDX人材認定制度の一歩目として、このカリキュラムを受講してくださいといった活用をしている企業もありますし、Udemy Businessの講座を自由に受講してくださいといった形で従業員に提供している企業もあります」と語る。

 ベネッセホールディングスでは個人向けUdemyと法人向けUdemy Businessにおける「検索」と「受講」のデータを取得し、リスキリング動向の分析も行っている。検索と受講を分けている背景には、学ぶコンテンツを「探している」(検索)行動と「実際に学ぶ」(受講)行動にはずれが生じるケースがあるためだという。

 例えば2024年1〜6月の学習トレンドの全体トップ10を見てみると、Udemyでは検索、受講ともに「AWS」がトップだが、Udemy Businessでは検索はAWSがトップ、受講では「DX」がトップと差が発生している。なおUdemy BusinessにおけるAWSの受講順位は4位だ。Udemy Businessの受講傾向として、「Excel」や「プロジェクトマネージメント」「コミュニケーションスキル」「プレゼンテーションスキル」といった講座を受講する人が個人向けUdemyと比較して多い。

 飯田氏は「個人と組織では学びをアウトプットする目的が変わることが背景にあります。特に企業ではビジネスシーンにおいてどれだけ早くアウトプットするかが目的になるケースが多いので、受講する講座もビジネススキルを高めるコンテンツが主となっているのでしょう」と指摘する。

 またトップ10の欄外にはなっているが、UdemyにおいてもUdemy Businessにおいても「生成AI」や「AI」というキーワードの検索数は増加しているようだ。

 これらの検索と受講のデータは、講座のカテゴリーや企業規模、業種業界ごとでも集計されており、例えばSIer・ソフトウェア開発では検索・受講ともにAWSがトップとなった。またコンサルティングでは「基本情報技術者」が検索・受講ともに大きく上昇するなど、ITの基礎知識のニーズは高いという。ベネッセホールディングスではこれらのデータを活用し、企業が取り組む学び(リスキリング)のコンサルテーションも行っている。

UdemyとUdemy Businessは多様な動画講座から、受講者が学びたいコンテンツを選択して受講できる。

従業員の自律学習に
辞書のように使えるコンテンツ

 Udemy Businessの導入は大企業が中心だ。急速に社会の在り方が変化していく中で、企業もDXにとどまらず、経営戦略や組織体制を大きく変革する「コーポレートトランスフォーメーション」(CX)が求められている。経営方針の刷新や見直しを行う中で、従来は自社の中になかったスキルや人材が必要とされるケースも少なくない一方で、そうした人材中途採用だけで補うのは困難だ。そこでUdemy Businessを活用して学びたい意欲のある従業員の育成に取り組むケースもあるという。

 例えば清水建設では、2023年度新入社員を対象としたDX研修を目的に、Udemy Businessを導入し、2030年を見据えた長期ビジョン「SHIMZ VISION 2030」実現に向けた人材育成を進めている。「階層別研修に活用されている例もあります。三菱商事さまではDX研修のほか、階層別研修にもUdemy Businessを活用しています。集合研修とUdemy Businessのオンライン講座を組み合わせたハイブリッド型で研修を実施しており、事前課題としてUdemy Businessで必要な知識をインプットし、集合研修では受講者同士がディスカッションをするといったインタラクティブな研修を実践しています」と飯田氏。

 また、従業員の「自律学習」を目的にUdemy Businessを導入している企業も多い。

 飯田氏は「やはり今後の日本社会では、終身雇用を維持し続けることが難しくなる可能性があり、個人と組織がそれぞれ選び選ばれる関係になるでしょう。そうしたときに、従業員1人ひとりのキャリアを全て組織が決めるのではなく、自ら意思決定し自律的にキャリアデザインをしていくことが重要になるでしょう。一方で、『自律的に考えろ』と言われてもどこから始めたら良いのか分からない人も少なくありません。そうしたときにとりあえずUdemy Businessで気になるキーワードを検索し、自身の業務やスキル、ノウハウを組み合わせどのような可能性が広がるのかといったような、辞書のように使える存在としてUdemy Businessを活用する事例も増えてきているようです」と指摘する。

 ベネッセホールディングスではUdemyやUdemy Businessを通じてさまざまな人々の学びを支援していく。一方で、これらのオンライン学習プラットフォームだけでは解決できない多岐にわたる組織開発の悩みなども存在する。そこで現在同社では「Beyond Udemy」というコンセプトを掲げている。これは、Udemy、Udemy Businessで解決できない多岐にわたる悩みに対して、同社の新しいのサービスやコンサルテーションなどを提供していくものだ。今後は、、組織、個人に寄り添った学びの相互支援を進めていく方針だ。

スマートフォンからでも視聴できるため、場所を選ばずリスキリング可能だ。スマートフォンで講座を受講しながらPCで実際に演習を行うような学びも実践できる。

“知”がパッケージ化された本の要約で
1日10分からリスキリングを始めよう

リスキリングの重要性は理解していても、実際に取り組むのは難しい。業務に追われており、学ぶ時間を捻出することが困難だと感じているビジネスパーソンも少なくないだろう。そうしたビジネスパーソンでも10分からリスキリングに取り組めるのが、フライヤーが企業に提供するビジネス書の要約サービス「flier business」だ。

ビジネスパーソンが
今読むべき本を要約

「flier business」は2019年1月から提供をスタートした。提供当時は「flier法人版」というサービス名であり、この法人版という名称から分かる通り、もともとは2013年にコンシューマー向けのサービス「flier」としてリリースされている。

「本サービスを立ち上げた当社の代表取締役CEO 大賀康史は、もともと大手コンサルティング会社に勤めていました。その当時、多忙な業務をこなしながらも膨大なビジネス書に目を通す必要があり、flierのような本の要約サービスに需要を感じたことが起業の背景にあります」と語るのは、フライヤー 執行役員 SaaS事業本部 法人事業責任者 島津知将氏。

 flierおよびflier businessは、ビジネス書1冊当たり10分で読める要約サービスだ。フライヤーでは1カ月に2回ほど、経営者や大学教授を交えた選書委員会を開催し「ビジネスパーソンがいま読むべき本」をフラットな目線で選書し、それらを要約している。要約テキストは各分野に精通したライターが執筆を行っており、出版社や著者の許可を得たコンテンツだけを配信しているという。ビジネス書のみならず実用書や教養書など、幅広い分野の書籍の要約を行っており、これらの要約が毎日1冊ずつ配信されている。

 こうした本の要約サービスのflier businessが今、リスキリングに有効だと注目を集めている。急速に社会が変化していく中では、自ら課題を見つけ出して主体的に動ける“自律型人材”が求められている。この自律型人材の育成にflier businessは適しており、現在リスキリングへの活用を目的に、累計1,000社以上の企業に導入されているという。

「例えば、深く本質的に物事を考えていくことが求められる問題解決能力などは、1回学んだだけでは身に付かず、体系立った知を通じて学び続ける必要があります。flier businessで提供する要約コンテンツは1コンテンツが1冊10分と短く、続けやすいのが大きな特長です。またflier businessでは組織の自律的な学びの風土を促進できる機能も搭載しています」と島津氏。

ビジネス書の要約を1冊10分で読めるflier business。要約を読んで得た学びを「学びメモ」として共有できる機能も搭載しており、企業組織内に発信できる。
※サービス画面はイメージのため、実際の画面とは異なる場合がある。

組織の自律的学びを支援する
法人向けならではの機能が搭載

 個人向けflierでは、要約を読んだ後に学びをアウトプットできる「学びメモ」機能を提供している。flier businessではこの学びメモを企業組織内のみに共有できるようにすることで、学びのモチベーション向上や、興味関心の分野を拡大させることに貢献している。さらに事業部やチームなど、自分が所属している範囲を選んで共有することも可能だ。

 また、個人向けのflierではフライヤー編集部がテーマに合わせて要約を選書する「プレイリスト」機能が提供されているが、flier businessではこのプレイリスト機能に加えて、企業の担当者が独自作成できる「読書プログラム」も提供している。島津氏は「読書プログラムは2023年12月にリリースされたばかりの新機能です。例えば新年度から働き始めた新入社員に読んでほしい書籍をプレイリストでピックアップすることで、課題図書のようなイメージで自律的な学びを促します。管理画面から、読書プログラムで紹介した要約を読んでいるか確認することも可能です」と語る。

 flier businessを導入した企業では、実際に従業員の行動変容が起こったという。要約を紹介された書籍を購入して実際に読むだけでなく、興味関心分野が広がり、研修やeラーニングツールに自発的にアクセスするようになったのだ。「公開された学びメモには、スタンプでフィードバックできます。こうした反応があるとアウトプットに対するモチベーションも上がります。本というのは著者の視野や視座が構造化された状態でパッケージ化されている点が、ほかの教育コンテンツとは異なる点であり、自分自身のキャリアや本質を見つめ直す上で非常に親和性が高いといえるでしょう」と島津氏は語った。

flier成長組織ナビはグラフィカルに組織の成長スコアを確認でき、現在の組織の状況や打ち手の効果を可視化可能だ。
※サービス画面はイメージのため、実際の画面とは異なる場合がある。

成長組織スコアを可視化し
研修などの効果を計測

 flier businessを企業に提供する中で、1人ひとりが学び、成長する環境を整えることが、企業が成長する上でも重要であると体感したフライヤー。そこで同社が2024年5月1日から新たにリリースしたのが、企業の成長組織スコアを可視化する「flier成長組織ナビ」だ。

 flier成長組織ナビでは、従業員一人ひとりの成長環境を確保するための要素を調査・分析することによって組織の「成長組織スコア」を可視化する。開発には経済学や組織研究の第一人者である東京大学の柳川範之教授が協力している。

「成長組織は、『制度』『関係性』『循環』の三つの要素を基盤として、従業員の『学びの姿勢』や『成長実感』が創出されます。flier成長組織ナビでは企業の『成長組織スコア』がこれら五つの区分で構成されていると定義し、調査・分析・醸成することによって、成長組織への変革を促します」とフライヤー 執行役員CCO カスタマーエンゲージメントDiv ゼネラルマネジャー 久保 彩氏は語る。

 flier成長組織ナビでは成長組織スコアを部署や職種、役職といった単位で確認できるほか、2回目以降は前回からの変化も表示可能だ。全社平均と比較することで部署や役職ごとの成長環境も確認できる。「将来的には他社平均との比較機能も搭載し、自社の優位性や課題を相対的に確認できるようにしていく予定です。時系列でスコアの変化を可視化することにより、研修などの打ち手の効果を定量的に計測することが可能になります。こうしたスコアの可視化や変化を数値のみで表すと分かりにくいため、flier成長組織ナビでは直感的に分かりやすいグラフや色による表示といったUI/UXを工夫しており、スコア情報をきっかけにして組織的な環境整備や改善サイクルの自走といった、成長組織の変革につなげられます」とflier成長組織ナビの開発に携わったフライヤー プロダクト&デザインDiv プロダクト企画グループ マネージャー 中俣尚美氏は導入のメリットを話す。

 flier成長組織ナビとflier businessは、組み合わせて活用することでより企業の成長を促進できる。例えばflier businessを導入したことによる従業員の行動の変化をflier成長組織ナビで可視化するような活用や、flier成長組織ナビで組織の現在地を可視化した上で、flier businessで従業員自らが学ぶ組織の環境整備を行うことにより、成長組織への変革を促すといった活用が可能だ。フライヤーでは現在、flier businessとflier成長組織ナビを両方導入している企業の利用傾向の分析も進めているという。

 従業員が自律的に学べるflier businessと、組織変革を促せるflier成長組織ナビの組み合わせによって、フライヤーは今後も企業の成長を支援していく。

(左)フライヤー 中俣尚美
(中)フライヤー 久保 彩
(右)フライヤー 島津知将

企業のDX推進に不可欠なDX人材を
NECが培った教育ノウハウで育成する

デジタル技術の進展に伴い、企業のDX推進はますます重要視されている。一方で、それらを推進するためのスキルを持つDX人材は不足している。従業員のリスキリングを進める上では、このDX人材を育てていくことも重要だ。NECは、こうしたDX人材の育成に役立つ教育プログラム「NECアカデミー for DX」を提供している。

1万人のDX人材を育成した
NEC独自の教育プログラム

 NECは、2013年から自社におけるデジタルDX人材育成を本格化している。グループ全体でデジタル人材育成の推進に取り組んでおり、2021年には5,000人を突破している。

 当初計画では2025年までにデジタル人材を1万人に増加させる予定だったが、2024年でその目標はすでに達成されており、新たな目標として2025年までに1万2,000人突破を掲げ、デジタル人材の育成を進めている。

 上記のようなデジタル人材育成のノウハウを基に、NECでは2019年からAI人材を育成する「NEC アカデミー for AI」、2021年にはAIに加えてセキュリティやデザイン思考を学べる「NECアカデミー for DX」を開校している。NECアカデミー for DXは約420社で採用され、合計約3万2,500人のDX人材が育成されている。

 NECアカデミー for DXではデジタル実装や運用のための専門スキルを持つ「DX専門人材」と、企業や組織でデジタル変革を推進する「DX推進人材」、そしてその二つの要素を兼ね備えた「DXリーダー」の育成プログラムを提供している。これら三つのプログラムのほか、幹部や組織長などの「DXマネジメント」、全従業員がDXやデータ活用の基礎を学ぶ「DXリテラシー」の教育プログラムも用意されており、全社的なDX推進に向けたリスキリングを行うことが可能だ。

 これらのうち、DX人材となるために目指すべきは、DX専門人材とDX推進人材の二つだ。NECではもともとDX専門人材を中心とした育成プログラムを提供していたが、経済産業省と情報処理推進機構(IPA)が2022年12月に公開した「デジタルスキル標準」に合わせ、それに対応したDX推進人材育成プログラムを2023年2月1日から提供を開始した。

 NECは前述したデジタルスキル標準検討会に参加しており、産学官で連携し大学や高専、ビジネスパーソンのスキル標準策定にも自社の人材育成ノウハウを役立てている。

座学・演習・研修のフローで
五つの人材類型に合わせた育成

NEC
祐成光樹

 DX専門人材とDX推進人材の違いとは何か。NEC アナリティクスコンサルティング統括部 シニアデータサイエンティスト データサイエンス人材育成グループ長 祐成光樹氏は「DX専門人材は、データやデジタル技術に関する専門スキルを持った人材です。一方で、企業のデジタル変革を進めていくためにはこのDX専門人材だけでは不十分です。例えば高度な技術開発ができる専門人材でも、それを実際のビジネスの現場で、自分たちの業務に活用できるスキルがあるとは限りません。そうしたDX専門人材やITベンダーとデジタル活用についてやりとりし、実際の業務に落とし込むことで企業のデジタル変革を推進していく人材が、DX推進人材といえるでしょう」と語る。

 このDX推進人材という言葉は、経済産業省が示す「デジタル社会における人材像」でも触れられており、全てのビジネスパーソンがデジタルリテラシーを習得することが重要であるとともに、DXを推進する立場の人材は、組織変革に関するマインドセットの理解や体得をした上で、さらに専門的なデジタル知識や能力が必要であるとされている。

 全てのビジネスパーソン(全従業員)のデジタルリテラシーについては、NECアカデミー for DXのDXリテラシープログラムで学ぶことが可能だ。そして後者の組織変革のためのマインドセットの理解や体得は、NECアカデミー for DXのDX推進人材プログラムで学べる。

 どちらも前述したデジタルスキル標準に適応していることに加え、経済産業省およびIPAが定義した「DXリテラシー標準(DSS-L)」および「DX推進スキル標準(DSS-P)」で定義された、「ビジネスアーキテクト」「デザイナー」「データサイエンティスト」「ソフトウェアエンジニア」「サイバーセキュリティ」という五つの人材類型に対応している。

 NECアカデミー for DXでは、これら五つの人材類型に対して、ケーススタディ型の模擬演習や伴走型支援といった実践的な育成プログラムによってDX推進人材の育成を進めていく。例えばビジネスアーキテクト育成プログラムでは、まず研修やeラーニングで知識習得をした後、デザイン思考を学ぶ「フューチャークリエイションデザイン」という方法論をワークショップや模擬演習で学ぶ。最後の実践編では、クライアントの業務課題を棚卸ししながら、学んだデザイン思考を使って事業戦略を作るといった実践研修(OJT)を提供している。

コミュニティやコンテストで
学ぶモチベーションを高める

 祐成氏は「実践形式で受講者なりの強み、いわゆる“勝ちパターン”を見つけてもらうことを意識しています。例えばビジネス系のデータサイエンスを目指したいのであれば、現場の業務課題を構造的に捉えて、課題解決に向けたアプローチの仮説立案を行い、仮説実証に有効であればデータサイエンス・AIを活用していく勝ちパターンを見つけられる研修を、NECアカデミー for DXでは提供しています」と語る。

 一方で、リスキリングを進めていく上の大きな課題として学習に対するモチベーションがある。NECではそうした学習意欲を継続させる取り組みとして、コミュニティづくりにも注力している。「例えばNECアカデミー for AIでは、受講者同士が連携するための『AI人材コミュニティ』が用意されています。情報共有やワークショップ、人材交流などが行われるほか、コンテストなども開催しており、学習意欲の向上につなげられます」と祐成氏。

 加えて、培ったスキルを仕事に生かしていけるように、受講者がNEC社内に出向して第一線で活躍するメンター指導の下、実際のAIプロジェクトを題材として実務経験を積むことで、AIをビジネスに活用するための実践的な能力を培うことができる入学コースがあります。入学コースでは、入学生が卒業して自社に戻った後も、身につけたスキルを生かせる業務を割り振られるように、企業側への働きかけも行っているという。

「リスキリングは企業成長にとって重要な取り組みですが、従業員にとっても新しいスキルを身に付けることで活躍の場が増えるといったメリットがあります。それにより企業で必要される機会が増えると、働くことが楽しくなるという相乗効果も生まれるでしょう」と祐成氏は、ビジネスパーソンがリスキリングに取り組むメリットを語ってくれた。

 今後需要がさらに高まるDX専門人材、DX推進人材のスキルを身に付けることで、より幅広い現場で活躍できる可能性を獲得していきたい。