AI Solution
業務の効率化を推し進める
マイクロソフトのAIツールの機能進化

日本マイクロソフトは6月27〜28日にかけて、国内開発者向けのオンラインイベント「Microsoft Build Japan」を実施した。同イベントは米国のMicrosoftが開催した「Microsoft Build 2024」の日本版となる。本記事では、6月27日に行われた「Microsoft Cloudで切り拓く開発者のための次世代AI」と題された基調講演にて発表された、AIアシスタント機能「Microsoft Copilot」のアップデート、AI処理に適した新しいPCカテゴリー「Copilot+PC」、Copilotを開発する技術基盤「Copilot stack」の新機能について、詳しく紹介していこう。

Microsoft Copilotに
チーム向けのAIアシスタント機能

日本マイクロソフト
岡嵜 禎

 Microsoft Copilotはサービスの提供開始以降、ユーザーの「副操縦士」としてさまざまな業務のサポートを行ってきた。今回のイベントでは、Microsoft Copilotが個人のAIアシスタント機能だけでなく、チームのAIアシスタントとしても活用できる機能が発表された。それが「Team Copilot」だ。

 Team Copilotは、Microsoft Teams、Microsoft Loop、Microsoft Plannerなど、共同作業を行う場所で利用できるAIアシスタント機能だ。Team Copilotの利用例は三つある。一つ目が会議の進行役だ。Team CopilotをMicrosoft Teamsで行うWeb会議のメンバーとして招待すると、会議のアジェンダを管理することに加え、Web会議に参加しているメンバーが共同編集可能なノートを作成する。Teams Roomsと統合していることから、Microsoft Teams Roomsが設置されている会議室から参加した場合でも、同様の機能を利用可能だ。二つ目がグループ コラボレーターだ。Team Copilotはグループチャットにメンバーの一員として招待できる。グループチャット内でほかのメンバーと会話や資料の共有をしながら、Team Copilotにこれまでの会話の内容や資料についての質問が可能だ。不明点の質問や議題の整理をTeam Copilotに任せることで、グループチャットをより効果的なものにできる。三つ目がプロジェクトマネージャーだ。Team Copilotは、タスクや目標を含むプロジェクトの計画作成や、タスクの期限の管理、タスク完了の更新などを行い、プロジェクトが円滑に進むように支援してくれる。Team Copilotは2024年後半にプレビューを開始する予定だ。

 またMicrosoft Copilotを業務に合った形に拡張したいという意見を受け、ゼロからMicrosoft Copilotを作成できる「Build your copilot」や、Salesforceといったサードパーティー製のツールを拡張して使うMicrosoft Copilotを簡単に作れる機能「Copilot extensions」を提供している。さらに、用途や目的に合わせてスピーディーに利用者自身のMicrosoft Copilotを開発できる「カスタムコパイロット」を提供する。

高パフォーマンスのNPUの搭載で
AI機能を強化した新たなPC

 続いて紹介されたのがCopilot+PCだ。Copilot+PCの特長として強調されたのが、40兆回以上/秒でAI処理を行えるパフォーマンスを備えたNPUの搭載と、ネットワークにつながっていないデバイス上でもさまざまなAI機能が実行可能な点だ。同イベントでは、Copilot+PCに搭載するAI機能を三つのデモを交えて紹介した。

 一つ目のデモでは、Webカメラの映像にリアルタイムで補正や加工を加えるAI機能「Windows Studio Effect」の紹介が行われた。人物をカメラのフレームに収め続ける「自動フレーミング」や背景にエフェクトを加える「背景ぼかし」といった機能のほかに、Copilot+PCではさらに高度なAI機能として、「アイコンタクト」機能の強化と「クリエイティブ フィルター」機能が提供される。アイコンタクト機能はAI PCでも提供している機能となるが、高い処理性能を持つNPUを搭載したCopilot+PCでは、Webカメラで撮影した画像をタイムラグなく処理できていた。またクリエイティブ フィルターは、Webカメラで撮影した画像にエフェクトを加える機能だ。デモでは話者の肌の質感をアニメーション風に変えており、肌を奇麗に見せるような補正ができるようだった。

 二つ目のデモでは、ペイントに搭載される画像生成AI機能「Cocreator」の紹介が行われた。Cocreatorは手書きのラフスケッチとテキストのプロンプトを基に画像が生成される。ラフスケッチをテキストと併用することで、AIに対して欲しい絵を簡単に指示できる。ラフスケッチは細部まで描かなくとも、イメージ通りの画像が生成されていた。

 三つ目のデモでは、「Recall」機能の紹介が行われた。Recall機能とは、ユーザーの操作状況を基に、アプリケーション、ドキュメント、Webサイトなどの過去のアクティビティを検索可能にしてクライアントに保存する。検索やタイムラインを用いることで保存した過去のアクティビティに、容易にアクセスが可能な機能だ。デモでは特定の内容が掲載されているメールの検索が行われ、テキストでの一致と視覚的な一致の結果が即座に表示された。過去のアクティビティは全て暗号化して保存されるのに加え、アクティビティを保存したくないアプリケーションやWebサイトなどを設定したり、組織全体でRecall機能をオフにしたりもできる。セキュリティやプライバシーにも考慮されている機能だ。

多様な選択肢を提供するAzure AIで
GPT-4oやPhi-3シリーズを提供

NTTデータ
冨安 寛

 Copilot stackの開発基盤モデルとして活用されているのが、マイクロソフトのクラウドベースのAIプラットフォーム「Azure AI」だ。

 Azure AIの刷新点として、OpenAIの最新のGPT-4のモデル「GPT-4o」の利用が可能になったことが挙げられる。GPT-4oの特長は三つある。一つ目がマルチモーダル性だ。テキスト・音声・画像など複数のデータを処理できる。二つ目がレスポンスの高速化だ。従来モデルのGPT-4と比べ、レスポンス速度が2倍となったことで、リアルタイムコミュニケーションを実現する。三つ目がパフォーマンス・コストの最適化だ。従来モデルのGPT-4と比べ、コストは12分の1となっており、導入のネックとなりがちなコストの課題を解消できる。

 Azure AI上で利用可能なモデルとしてGPT-4oをはじめとするOpenAIの最新モデルだけでなく、「お客さまには多様な選択肢を提供することも重要です」と日本マイクロソフト執行役員 常務 クラウド&AIソリューション事業本部長 岡嵜 禎氏は語る。マイクロソフトではモデルエコシステムを構築し、さまざまなパートナー企業と連携することで、ユーザーは1,600以上のLLMモデルが利用可能となっているのだ。

 さらにMicrosoftでは小規模言語モデル(SLM)にも注力しており、マイクロソフトの研究機関であるMicrosoft Researchが開発したSLM/マルチモーダルモデルシリーズ「Phi-3シリーズ」を提供している。Phi-3シリーズは小規模なパラメータでありながら、高品質な性能を備えたSLMとなっており、クラウドに加えCopilot+PC・モバイル・エッジでも動作する。さらに、「Phi-3-mini」「Phi-3-small」「Phi-3-medium」といったラインアップをそろえることで小〜中規模まで対応でき、「Phi-3-vision」によって画像認識にも対応可能だ。

 またマイクロソフトでは、利用可能なLLMモデルを、Microsoft Azure上でマネージドサービスとして使用できる「Models-as-a-Service」(MaaS)を提供する。MaaSの中で日本企業として初めてNTTデータのLLM「tsuzumi」が採用された。

MaaSに採択されたtsuzumiの特長と
NTTデータのマイクロソフトへの期待

 MaaSに採用されたtsuzumiは2024年秋頃の提供開始を予定しており、その特長は四つある。一つ目が軽量なことだ。パラメータサイズは7Bと、GPT-3の25分の1のパラメータサイズとなっている。二つ目が高い言語性能だ。NTTが40年以上にわたって日本語の自然言語処理の研究開発を行っており、その研究開発の情報を学習させている。そのため、日本語の精度においては世界トップクラスの精度を誇るのだ。三つ目が高カスタマイズ性だ。効率的に知識を学習させることのできる「アダプタ」により、少ない追加学習量で特定業界に対応させるチューニングが可能だ。四つ目がマルチモーダル性だ。言語に加え、図表読解などさまざまな形式の入出力に対応している。

 NTTデータ 取締役常務執行役員 冨安 寛氏は、「これら四つの特長を持つtsuzumiがMaaSに採択されたことによって、tsuzumiの性能を体験したいお客さまが安心・安全かつより簡単、迅速にtsuzumiを体験できるようになります。さらに、さまざまな人の目にtsuzumiが触れるようになり、ビジネスや販売チャネルの拡大につながると考えています」とMaaSに対する期待を語った。

AIの利活用を推進する
セブン銀行と経済産業省の事例

 同イベントではマイクロソフトのサービスを活用してAIの利活用を推進する国内事例として、セブン銀行や経済産業省の事例も紹介された。

 セブン銀行では、AIやデータの利活用を推進するコーポレート・トランスフォーメーション部(CX部)を設けており、CX部にはデータサイエンティストや生成AIを専門的に扱うチーム、データプラットフォームを開発するチーム、従業員の意識改革や新事業を創出するチームの、大きく三つに分かれてAIやデータの利活用を推進している。セブン銀行 常務執行役員 コーポレート・トランスフォーメーション部 セブン・ラボ担当 中山知章氏は、「各チームと実務を連携させながらデータ活用を推進しています」と語る。

 セブン銀行のAIを活用したユースケースとして、人流データを用いたATMの設置場所の探索や、ATMの現金需要予測が挙げられる。さらにマイクロソフトの言語AI学習サービス「Azure OpenAI Service」上で開発を進めているのが、生成AIとアバターを組み合わせたATM上での接客システムだ。同システムは、テキストでのやりとりだけでなく、音声会話でのやりとりが可能となっている。また独自のアバター開発にも着手しており、消費者対応に向けて精度を高めているという。

 続いて登壇した経済産業省 情報処理基盤産業室長 渡辺琢也氏は、「2024年2月から経済産業省が推進する生成AIの開発力強化と社会実装を促進するプロジェクト『GENIAC』の開発基盤として、Microsoft Azureを採用しています」と語る。

 GENIACとは「Generative AI Accelerator Challenge」の頭文字を取ったものであり、大きく三つのプログラムに分かれている。一つ目が計算資源の調達支援だ。生成AIに欠かせない基盤モデルを開発するためには多大な計算資源がかかってしまい、スタートアップは手が届きにくい領域となっている。スタートアップの開発をサポートするために、経済産業省が計算資源の調達を支援する。二つ目がデータの連携だ。イベントのほか、データ利活用に向けた支援を通じ、ユーザーなどデータ保有者との連携を促進する。三つ目がナレッジの共有だ。イベントやコミュニケーションツールにより、国内外の開発者同士や制度担当者との交流を促進する。そうすることで、ナレッジの共有を促すのだ。

 こうしたGENIACにおける開発基盤としてMicrosoft Azureを採択した理由について渡辺氏はこう語る。「学習基盤としての性能が高いのに加え、GENIACはスタートアップ企業も対象としているため、価格面でも良い提案をマイクロソフトさまからいただけたことがあります。さらに開発メンバーからはマイクロソフトさまによる24時間のサポート体制を評価する声も上がっています」

製品やサービスの開発において
セキュリティを最優先事項に位置付け

 マイクロソフトではセキュリティを最優先事項として位置付けており、製品やサービスの開発においてセキュリティを第一に考える取り組み「Secure Future Initiative」を立ち上げている。Secure Future Initiativeでは三つの方針を掲げている。

 一つ目の方針は、セキュリティ前提の設計だ。製品やサービスを設計する際、セキュリティを最優先に考慮する。二つ目の方針は、デフォルトでのセキュリティだ。マイクロソフトの製品やサービスでは、セキュリティ保護が既定で有効となっており、追加の作業は不要となっている。三つ目の方針は、運用のセキュリティだ。悪意ある攻撃や不正アクセスを監視・検出できる「プロンプトシールド」や、生成されたコンテンツのハルシネーション対策の根拠性検出機能を提供している。

 さらにマイクロソフトでは、誰もが安全にAIを使える環境を実現するための取り組みとして、AIを用いてコンテンツを監視するシステム「Azure AI Content Safety」を提供している。

 今回のイベントではAzure AI Content Safetyの機能強化として、生成AIを安全に保護・利用できるセーフガード機能も発表された。独自のフィルタリングを設定できる「カスタムカテゴリー」、悪意ある攻撃や不正アクセスを監視検出できる「プロンプトシールド」、生成されたコンテンツのハルシネーション対策として回答の根拠を検出可能な「根拠性検出」機能が追加された。岡嵜氏は、「お客さまがAIを活用するために必要な機能を当社ではいち早く実装しています。そのため、お客さまは当社のAIサービスを安心かつ安全に利用できます」と力強く語る。

 最後に岡嵜氏は、「当社は生成AIを活用したAIトランスフォーメーションを実現するためのプラットフォームを準備しております。しかし、重要なのはプラットフォームではなく、プラットフォームを活用してお客さまが実現したいことやビジネス課題の解決をサポートすることです。今後も当社はお客さまのやりたいことに対して寄り添い、実現をサポートしていきます」と語った。

セブン銀行
中山知章
経済産業省
渡辺琢也

AI PC
Copilot+PCを支えるクアルコムのSoCと
法人市場で急増していくAI PCのこれから

7月1日、同日にMM総研が主催する「DX推進フォーラム2024」の開催に先立ち、クアルコムジャパンがメディア向けブリーフィングを実施した。本ブリーフィングでは、AI PC向けにクアルコムが提供する最新チップの概要や各PCベンダーの製品ラインアップについて語られたほか、MM総研によるAI PCの国内市場予測についても発表された。本記事ではその内容をレポートしていく。

スマートフォンと同等の性能を
PCで実現するSnapdragon Xシリーズ

 マイクロソフトが2024年5月21〜23日(現地時間)に米国シアトルとオンラインで開催した開発者向け年次イベント「Microsoft Build 2024」にて、新PCブランド「Copilot+PC」が発表された。Copilot+PCではCPU/SoCへのNPU統合が必須要件となっており、さらには搭載したNPUが40TOPS以上の性能を実現することが最小システム構成の要件となっている。この要件を満たすSoCとして現在各社のCopilot+PCに採用されているのが、クアルコムの「Snapdragon X Elite」および「Snapdragon X Plus」プロセッサーだ。クアルコムジャパン 副社長 中山泰方氏は「Snapdragon X Elite/PlusといったSnapdragon Xシリーズは、Copilot+PCのような新しい取り組みを支援し、ユーザーの皆さまにさらなる業務の成功や創造性をはじめとした新しい経験を提供します」とSnapdragon Xシリーズをアピールする。

 クアルコムが提供するSoCブランド「Snapdragon」シリーズは従来、スマートフォンがメインのビジネス領域だった。しかし近年では利用される業界が広がっていき、現在は自動車やゲーム、XRなどさまざまな業界でSnapdragonのテクノロジーが使われている。こうした中で、PC業界でもSnapdragonが活用されるようになった。

 中山氏は現状のPCの課題を、一般的なスマートフォンの特長を挙げながら以下のように話す。「一般的なスマートフォンは、LTE/5Gによる安定した接続性、NPU搭載でAI処理が可能な性能、丸一日駆動可能なバッテリーといった特長を持っています。一方、現在多くの方が使っているPCでは、スマートフォンの特長と同等の性能を実現するのはまだ難しいです」

 こうした現状を踏まえ、Snapdragonのコンピューティング向けプラットフォームでは、LTE/5Gによる快適な接続、NPU内蔵によるAI活用、2日以上の駆動が可能なバッテリー性能といった特長をPCでも実現できるようにしている。

クアルコムは2種類のSoCを提供することで、顧客が求める価格や性能などの要望をサポートしていく。
MM総研の調査によると、AI PC市場は2023〜2028年度にかけて急増していくことが予想されている。

顧客の要望に幅広く応える
2種類のSoCをラインアップ

メディアブリーフィングに登壇したMM総研の中村成希氏(左)とクアルコムジャパンの中山泰方氏(右)。

 中山氏は、Snapdragon Xシリーズについて「Windows用に設計された最も強力でインテリジェントが高い、効率的なプロセッサーです」と語る。続けて「他社の同等クラスの製品と比較して、GPUベースで2倍高速な機能を有しています」とその性能を強調する。

 最新のAIコンピューティング向けに設計されたSnapdragon Xシリーズには、クアルコムが自社開発したArm CPUの「Oryon CPU」を採用している。加えてGPUには「Adreno GPU」、NPUには「Hexagon NPU」を採用しており、これらを一つのチップの上で統合することで、高い操作性と長いバッテリー駆動時間を実現しているのだ。

 Snapdragon Xシリーズは、12コアCPUを搭載し、GPUの演算性能が最大4.6TFLOPSのSnapdragon X Eliteと、10コアCPUを搭載し、GPUの演算性能が最大3.8TFLOPSのSnapdragon X Plusをラインアップする。NPUはSnapdragon X Elite/Plus共に45TOPSの性能を持ち、Copilot+PCの要件である搭載するNPUが40TOPS以上の性能であることをクリアしている。中山氏は、Snapdragon X Elite/Plusの二つのSoCを提供する意図について「2種類のSoCを提供することで、顧客が求める価格や性能などの要望をよりサポートできると考えています」と話す。

 Snapdragon X Elite/Plusが採用された法人向けCopilot+PCは、Dellから「Latitude 7455」がリリースされている。今後も「Latitude 5455」が新たにリリースされるほか、Lenovoからは「ThinkPad T14s Gen 6」、HPIからは「HP EliteBook Ultra G1q AI PC」、マイクロソフトからは「Surface Pro(第11世代)」と「Surface Laptop(第7世代)」のWi-Fiモデルと5Gモデルが発売される予定だ。これらの法人向けCopilot+PCは、ダイワボウ情報システム(DIS)をはじめとしたディストリビューターを通じて、順次全国の法人企業へ販売されていく。

ブリーフィングではSnapdragon X Elite/Plusが採用された法人向けCopilot+PCも展示された。写真はDellの「Latitude 7455」。

2023〜2028年度にかけて法人市場で
急増が予測されるAI PC

 中山氏の説明に続いて、MM総研 取締役研究部長 中村成希氏から日本におけるAI PCの法人市場予測が発表された。MM総研ではAI PCの定義を「AI推論・処理用のプロセッシングユニット(NPU)を内蔵するCPUを搭載していること」「内蔵のNPUおよびGPUなどを活用し、デスクトップ側でAI処理プログラムをOS、アプリ、ブラウザーレベルで利用できる」「現時点で想定するキーコンポーネントの性能としてNPU 40TOPS以上、メモリー16GB以上」としている。

 中村氏は、PC投資を増やす企業ほど生成AIを積極的に活用する傾向があると話す。MM総研が従業員規模別に生成AI活用の積極度を調査したところ、「生成AIの活用に積極的である」と回答した企業は、従業員数が25〜300人の企業では44%、301〜1,000人の企業では66%、1,001〜3,000人の企業では73%、3,001人以上の企業では80%となった。

 またMM総研では、生成AI活用の積極度とともに各企業のIT・AI人材の採用状況についても調査した。その結果「IT・AI人材を採用できている」と回答した企業は、従業員数が25〜300人の企業では47%、301〜1,000人の企業では70%、1,001〜3,000人の企業では77%、3,001人以上の企業では80%となった。中村氏はこの結果を参照して「IT・AI人材の採用状況と生成AI活用の積極度は関連しており、AI人材を採用できていない企業では、AI活用が行えていない現状が見えてきます」と分析する。続けて中村氏は「PCとAIが一体化したAI PCは、IT・AI人材の不足による生成AI活用の停滞を打破するツールになるでしょう」とAI PCへの期待を語る。

 それでは今後、法人市場へのAI PCの普及率はどのようになっていくのだろうか。MM総研の調査結果によると、日本の法人市場では2023〜2028年度にかけてAI PCが急増すると見込まれている。年平均成長率は120%となる予測で、2028年には法人向け年間出荷の3分の2に相当する525万台規模までAI PCの需要が拡大する見通しだ。

IT Infrastructure
ITインフラストラクチャに必要な要素を
包括的に提供するソリューション

デル・テクノロジーズは7月3日、ITインフラ向けの統合ストレージソリューション「Dell PowerStore Prime」(以下、PowerStore Prime)の提供を開始することを発表し、記者説明会を実施した。PowerStore Primeは、パフォーマンスやレジリエンス、マルチクラウドといった顧客がオールフラッシュストレージに求める項目を全て満たせるとしている。本記事ではその特長を詳しく紹介していこう。

新しいストレージOSが
パフォーマンスを向上させる

デル・テクノロジーズ
森山輝彦

 今回発表されたPowerStore Primeは、ストレージOS「PowerStore 4.0」と、ストレージ投資を保護しながら、パートナーの収益性向上を実現できるように設計されたプログラムを組み合わせたソリューションだ。

 まずはPowerStore 4.0について見ていこう。PowerStore 4.0は高いパフォーマンス、データ格納の効率性の向上、レジリエンスの強化、そしてマルチクラウドを提供する。ソフトウェアアルゴリズムの見直しや改善によって、ソフトウェアベースのパフォーマンスが30%向上し、レイテンシーを最大20%低減している。デル・テクノロジーズ ストレージプラットフォームソリューションシステム本部 ディレクター 森山輝彦氏は「従来のPowerStore 3.6からPowerStore 4.0にアップグレードするだけで、ストレージの使用量を約3割削減できます。さらにハードウェアを更新する必要がないため、お客さまは長期間にわたって同一のハードウェアを使えます」と強調する。またソフトウェアベースのパフォーマンスの向上によってハードウェア能力の余力が大きくなり、ボリュームと接続可能なホスト数は2倍、VLAN数は8倍増加した。

 さらに「データインプレース ハードウェア アップグレード」によって、ソフトウェアとハードウェアのアップデートを組み合わせられる。データインプレース ハードウェア アップグレードとは、第1世代を第2世代モデルにアップグレードするといったこれまでのアップグレードとは異なり、同一世代での上位モデルへのアップグレードを可能にするものだ。上位モデルにアップグレードすれば、ハードウェアベースのパフォーマンスは66%向上し、ブロックボリューム数は60%増加する。また上位モデルへのアップグレードは、既存のシャーシやドライブを維持しながら、サービスを中断することなく行える。

 PowerStore 4.0はソフトウェアを強化することで、削減可能なデータ量が増加し、データ削減率を20%向上させた。データ削減率が向上したことで、同一の物理容量に対してより多くのデータを格納できるのに加え、同一の容量のデータをより少ない物理容量で格納可能なため、容量当たりの消費電力の削減にもつながるのだ。

 またレジリエンスの強化だが、前述したソフトウェアベースのパフォーマンスの向上によるハードウェア能力の向上に伴い、スナップショットが3倍増加している。さらに、従来VMwareのみ対応していた、サイト間を跨ぐ高可用性の共有ストレージ環境を作成する「メトロ レプリケーション」にWindowsやLinuxが対応し、複製元と先で常に同一のデータを保持する「同期レプリケーション」にファイルやブロックが対応した。これらによって、あらゆるワークロードを保護できるようになったのだ。

 最後にマルチクラウドだ。同社のマルチクラウド ポートフォリオ「Dell APEX」を活用することで、オンプレミス/マルチクラウド環境でのバックアップやリストア、移行を柔軟に行えるようになるという。例えば、クラウドブロックストレージ「Dell APEX Block Storage for Public Cloud」と、同社のオールフラッシュ構成の多機能ミッドレンジストレージ「Dell PowerStore」(以下、PowerStore)間でのワークロードの移行が挙げられる。

デル・テクノロジーのオールフラッシュ構成の多機能ミッドレンジストレージであるDell PowerStore。
サーバー、ストレージ、ネットワーク製品、HCIといったデータセンターの中で稼働する製品を全てそろえた検証環境である「Customer Solution Center」。本環境でもDell PowerStoreが活用されている。

パートナーの収益性向上を実現する
PowerStore Primeの各種プログラム

 続いて、PowerStore Primeを構成するもう一つの要素であるパートナーの収益性向上を実現できるように設計されたプログラムを見ていこう。
 プログラムの一つが「Lifecycle Extension with ProSupport」だ。Lifecycle Extension with ProSupportでは、ハードウェアとソフトウェアの両方に対して24時間365日のテクニカルサポートや、上位モデルへのアップグレード、モダナイゼーションに関するコンサルティングといったサービスを受けられる。

 さらに、5対1のデータ削減保障や満足度保証プログラム、同社のサーバーやストレージなどのハードウェアのサブスクリプションサービス「Dell APEXサブスクリプション」も提供する。Dell APEXサブスクリプションでは、同記者会見で発表されたミッドレンジ統合ストレージ「Dell PowerStore 3200Q」(以下、PowerStore 3200Q)をはじめとしたPowerStoreシリーズも利用可能だ。PowerStore 3200Qは7月3日より提供を開始している。

 PowerStore 3200Qはストレージメディアに、一つのセルに4ビットのデータを格納可能な「QLC」(Quad-Level Cell)を採用している。QLCは、従来の一つのセルに3ビットのデータを格納可能な「TLC」(Triple-Level Cell)と比べ、低コストで大容量を可能にする。さらにPowerStore 3200Qは、最小で11本のQLCドライブ構成から5.9PBの実行容量までスケールアップ可能かつ、同一クラスタにTLCとQLCが混在するワークロードでも運用できるといった高度な柔軟性を備えている。

高品質な学習データにより
高い信頼度を備えるAIアシスタント

Dell APEX AIOps AIアシスタントは、自然言語を用いてIT管理者からの質問に答える。ホワイトペーパーやマニュアルを参照する手間を大きく削減してくれる。

 また同記者会見では、PowerStoreのGUI管理画面と「Dell APEX AIOps AIアシスタント」のデモが行われた。

 PowerStoreのGUI管理画面では、PowerStoreの正面や背面に加え、内部まで確認できる。デモでは天板を外した状態のPowerStoreの様子や、内蔵されたファンモジュールの動作状況を確認できていた。またPowerStoreのGUI管理画面は、Webブラウザーから開けるため、どこからでもPowerStoreの状態を確認できる。

 Dell APEX AIOps AIアシスタントとは、管理者がチャット画面に自然言語でデル・テクノロジーズ製品などに関する質問を行うと、搭載された生成AIが必要な情報を回答するというものだ。同サービスは今年9月に提供を開始する予定だ。搭載された生成AIの学習は、デル・テクノロジーズのホワイトペーパーや公式ドキュメントを用いて行われており、信頼度の高い回答を行えるとアピールしていた。

 Dell APEX AIOps AIアシスタントは現時点で日本語に対応していないため、デモでは英語が用いられたが、Webブラウザーの翻訳機能で翻訳した結果を見ると、自然なやりとりが行われていた。また、AIからは質問の回答に併せて、典拠にしているナレッジベース記事のURLが送られてくるため、今までホワイトペーパーやマニュアルを探していた手間が大幅に削減されるのだ。

 最後に森山氏は「PowerStore Primeはお客さまが成功するのに必要な全てを提供できます。PowerStore Primeによって、オールフラッシュストレージの『本流』をお客さまに届けられます」と意気込みを語った。