GIGA第2期の共同調達に
潜む懸念とこれからの商機

文部科学省が発表したGIGAスクール構想により、児童生徒1人につき1台の学習者用端末の整備が進んだ。2020年に急速に普及したこれらの学習者用端末が、近々更新時期を迎える。そのNEXT GIGAとも呼ばれるGIGAスクール構想第2期(以下、GIGA第2期)に向けたICT環境整備の市区町村の方針について、MM総研が調査結果を発表している。その内容をリポートしていく。

調達の大型化・広域化が進む

 ICT市場調査コンサルティングのMM総研は、「GIGAスクール構想実現に向けたICT環境整備調査」(2024年8月時点)を9月5日に発表している。本調査は全国の市区町村、1,741の教育委員会を対象に、2024年7〜8月にかけて実施し、そのうち1,279の市区町村から回答を得た(一部回答を含む)。MM総研ではこうした教育現場のICT環境整備調査を半年に1回のペースで実施している。

 今回の調査で特にフォーカスされたのが、共同調達だ。GIGAスクール構想第1期(以下、GIGA第1期)では、端末整備の予算は自治体(都道府県、市区町村)に対して、1台当たり上限4.5万円の補助が行われたが、GIGA第2期では都道府県に基金(5年間分)を設置し、補助金を交付する。補助基準額は1台当たり上限5.5万円だ。

 基金の設置により、GIGA第2期では原則として、都道府県ごとの共通仕様書を基に端末の共同調達が行われる。前回は市区町村単位での端末調達であったことを踏まえると、調達が大型化する見込みだ。この共同調達に対して、MM総研の調査では91%の市区町村が参加する意向であることが分かった。一方で、政令市や特別区など、人口の多い市区町村や、調達時期が合わなかったり、独自要件があったりする市区町村は、この共同調達に参加しない意向を示しており、4%がオプトアウト(不参加)と回答した。「文部科学省は共同調達に参加する必要がない条件を定めており、それに当てはまる市区町村は共同調達をオプトアウトしても良いことになっています。オプトアウトした場合でも、GIGA第2期で導入する端末は補助金の対象となります」と語るのは、MM総研 研究主任 高橋樹生氏。

 市区町村に共同調達に対する課題や懸念事項を尋ねた調査結果もある。それによると「端末の価格が高騰している」が48%と最多だ。背景には円安の影響などによって、学習者用端末の単価が上昇していること挙げられる。

 調達予定の端末単価は、補助金の範囲内である「端末1台あたり5.5万以内」が71%、「1台あたり5.6万円以上」が15%、「その他(未定・不明など)」が14%となった。

広域化でサポート体制に懸念

 端末の更新時期については、68%の市区町村が2025年度となる見込みだ。2024年度は4%、2026年度は21%にとどまる。高橋氏は「2025年度に更新が集中することで、円滑な端末供給と更新作業もGIGA第2期の課題となりそうです。背景に二つの理由があります。一つは、Windows 10のEOSも同じく2025年10月に迫っており、法人市場でもPCの更新需要が増加する点。もう一つは、共同調達の案件が大型化・広域化することで、GIGA第1期の調達を支えていた地域の販売店が入札に参加しにくい点です。実際に、GIGA第1期で端末を納品した事業者43社へ電話で聞き取りを行いましたが、2024年8月時点では今回の共同調達に応札すると明言したのは4社にとどまりました」と指摘する。

 地域の販売店が調達に関われないことで発生する課題として、学校現場での運用サポートがある。前回のGIGA第1期では市区町村ごとでの調達であったため、地域の学校へのきめ細かなサポートが行いやすかった。しかし、前述したような調達の大型化・広域化によって、広域ベンダーしか調達に参加できなくなる可能性が高い。調達仕様にサポートが含まれていれば良いが、そうでない場合は全ての市区町村に対してサポートが行き届かない場合がある。「広域化への対応の一つとして、複数の地域の販売店が連携したり、広域ベンダーが自分たちがサポートできない範囲を、地域の販売店と連携したりしてカバーするようなコンソーシアムを作ることが挙げられます。ただ競争入札があるので、そのコンソーシアムが必ず入札できるかといった懸念は残りますし、誰が旗振り役をやるのか、といった課題もありますね」と高橋氏。

 GIGA第2期での端末更新に当たって、改めてChrome OS、Windows、iPadOSの3OSを都道府県主導で比較検討した市区町村も多く、約7割に上った。その検討の結果、GIGA第2期では「OSを切り替える」が12%、「検討中もしくは未定」は24%となった。検討中まで含めれば、2〜3割の市区町村がOSを切り替える可能性があるといえるだろう。

 一方、調達方針を決めている市区町村でのOSごとの調達予定台数を見てみると、ChromeOSが最も多く211万台で57%、iPadOSが101万台で28%、Windowsが55万台で15%という結果になった。回答した自治体は796市区町村と全市区町村の46%であり、調達予定の合計台数は約367万台だ。GIGA第2期では予備機を含めて全体で1,000万台強の端末が調達される想定であるため、実際の導入割合は変化する可能性もあるが、MM総研が実施した調査時点で調達方針を決めている市区町村ではChromeOSの比率が高い傾向にある。冒頭で紹介したように端末の価格上昇が懸念される中、クラウドと処理を分散させることで端末価格が比較的抑えられるChromebookが選択されやすい

新たなビジネスチャンスも

 高橋氏は「WindowsからChromeOS、WindowsからiPadOSにスイッチ(切替)している傾向が見られます。これは、前回のGIGA第1期で導入したWindows端末の起動に時間がかかったり、OS更新に時間と手間がかかったりしたことから、端末更新を契機にOSを切り替える動きが出ているようです」と語る。Windowsの提案を行う場合、こうした課題に対する丁寧な説明が必要となるだろう。実際、日本マイクロソフト側もこうした懸念に対する説明や機能の紹介を強化している。また高橋氏はWindowsを選択する優位性として、AIを挙げた。

「3OSベンダーの中では、日本マイクロソフトが先行してAIのアナウンスメントを進めています。特に先生方の働き方改革を実現する文脈として、AIを紹介するケースが多いですね。短期的にはシェアを塗り替えることは難しいかもしれませんが、WindowsベースでAIを活用していこうという機運を先生や生徒側に起こせるのであれば、GIGA第3期や4期に向けて、再び端末をWindowsに乗り換える動きも出てくるでしょう」と高橋氏。文部科学省の2023年度補正予算では「生成AIの校務での活用に関する実証研究」が行われており、こうした校務での生成AI活用が広がることで、AIの日常的な活用ニーズも高まる可能性があるだろう。

 共同調達によって調達の大型化・広域化が進む中で、地域の販売店はどのようにビジネスチャンスを獲得していくことが望ましいのだろうか。高橋氏に問うと「GIGA第2期では広域ベンダーがビジネスをしやすい仕組みになっていますが、地域のベースを支えていくのはやはり地場の販売店の皆さまだと思います。なので、端末更新ばかりではなく、そこから新しく生まれるビジネスの方に目を向けていただきたいですね。例えば、2025年度からデジタル教科書やデジタル教材の活用が本格化していきます。校務DX環境の整備も求められるでしょう。そうすると、当然ネットワークの回線強化など、新たなニーズが出てきます。将来的には、生成AIを含めたAIを活用した学びのニーズも生まれるでしょう。そうした中で、地域でどういった教育を育てていきたいのかという視点は、地場の販売店の方が持っています。先生方や教育委員会からの要望に応えながら、GIGA第2期で生まれる新しいビジネスチャンスをつかんでほしいですね」と答えた。