「主体的・対話的で深い学び」を実践する探究的な学びでは、児童や生徒が話し合い、協働的に学んでいくことが重要だ。一方で、授業の中で実施される話し合いの様子は、可視化がしにくく、子供たちのコミュニケーション能力や表現力、メタ認知力といったスキルが育めているのかが分かりにくかった。徳島県鳴門市内の小学校や中学校、鳴門市教育委員会では、その課題を解決できる「話し合い見える化サービス」を2024年6月から導入している。教育現場において、これまで数値化ができなかった“メタ認知力”を可視化できるメリットを、同サービスを開発したハイラブルに聞いた。

子供たちのコミュニケーション能力を育てる
ハイラブルの話し合い見える化サービス

昨年度話し合い見える化サービスを導入した鳴門市里浦小学校の授業の様子。机の中央にたまご型レコーダーを設置し、話し合いを行う。子供たちは話し合いを行いながらリアルタイムでグラフを確認し、行動変容につなげている。

自分の話し方を“メタ認知”する

 ハイラブルが提供する「話し合い見える化サービス」は、対面の話し合い見える化サービス「Hylable Discussion」、Web会議の見える化サービス「Hylable」、会議音声の見える化サービス「Hylable Adapter」、コミュニケーションスペース(場)の会話を見える化するサービス「Bamiel」をラインアップしている。今回、鳴門市で導入されたのはこの内のHylable DiscussionとHylableだ。

 導入のきっかけになったのは昨年度、鳴門市里浦小学校が「探究的な学び支援補助金2023」を活用し、ハイラブルのサービスを導入したことだ。

 「当社の代表取締役CEOである水本武志が登壇したオンラインイベントの動画を、里浦小学校の武知将人教頭先生が見て問い合わせていただいたのが最初のコンタクトでした。里浦小学校では児童のコミュニケーション能力の育成に注力していましたが、エビデンスに基づいた指摘やサポートが難しいという点にもどかしさを感じていたようです。当社の話し合い見える化サービスを活用することで、先生のイメージや先入観ではなく、データに基づいた支援ができるのではないかと考え、まず里浦小学校で導入いただきました」と語るのは、ハイラブル 取締役 COO 中村祐希氏。

 里浦小学校ではHylable DiscussionとHylableを導入した。Hylable Discussionは、対面の話し合いをたまご型レコーダーで録音し、話し合いの様子をリアルタイムに見える化する。授業では4名程度のグループで向き合わせになった机の中央にたまご型レコーダーを設置し、Hylable Discussionの設定画面上で話者が座っている座席の位置を角度で指定する。例えば−150度の位置にいるのはAさん、といったように設定することで、その方向から取得した声をAさんの声だと識別し、分析を行う。

 Hylableはクラウド型Web会議システムで、参加者の発言量や変化、やりとりの量などをリアルタイムで分析し、その場で見える化する。Web会議の画面上で見える化されるため、その場ですぐに行動変容につなげられる。里浦小学校では他県の小学校とのコミュニケーションにHylableを活用した。子供たちは回数を重ねるごとに、スムーズな話し合いが実現できたようだ。

 こうしたコミュニケーション能力の向上には、常に画面の横で発話量や変化などがグラフで可視化されていることが大きい。常に自分やチームの行動を“メタ認知”しながら話し合えるので、「自分を上から見ながら話し合いをしているよう」だと中村氏は表現する。

 リアルタイムの可視化は、対面での話し合いで活用されたHylable Discussionも同様だ。子供たちは話し合いをしながら、自身のGIGA端末で発話量などを確認し、行動変容につなげていけるのだ。

子供たちの新たな個性を知る

 実際に、探究的な学び支援補助金で話し合い見える化サービスを導入した導入校(里浦小学校を含む4校)にアンケート調査を実施したところ、児童生徒は「話し合いについて考える力が高まったと思いますか」という問いに対して「そう思う」以上の回答が90%の結果となった。また、「話し合いの中で自分の行動を変える力が高まったと思いますか」という問いに対しても「そう思う」以上の回答は87%と、エビデンスに基づいた振り返りによって、話し合いについての考える力や、自分の行動を変える力の向上を実感したようだった。

 また、教員側へのアンケートでは「児童・生徒について新たに知ったことはありましたか?」という問いに対し「これまで気付かなかった児童・生徒の特徴(発話量、行動の傾向など)を知った」と回答した割合は100%、「分析結果をどのように活用しましたか?」という問いに対しては86%が「分析結果に基づき児童・生徒への声かけやアドバイスを行った」と回答したという。里浦小学校の武知先生からは「ハイラブルによって、教師のイメージや先入観ではなくデータに基づいて話し合いを評価し、支援できる」と、導入当初の狙い通りの効果が得られたことが分かるコメントが寄せられた。

 こうした里浦小学校の導入効果から、今年度は鳴門市内の小中学校で広く活用されるハイラブルの話し合い見える化サービス。今回鳴門市では、Hylable DiscussionやHylableを一定数導入し、それらを市内の小中学校で共有する予定だ。「ほかの自治体さまが導入する場合でも、教育委員会などで10〜20台導入し、それを順番に使うことで予算を抑えつつ、たくさんの子供たちに使ってもらうことが可能です」と中村氏。鳴門市内の小中学校での活用は2学期から本格的にスタートする。

 中村氏は「先日、非常に先生方から要望が多かったマップ機能を追加しました。今後も子供たちや先生方の悩みに寄り添って支援できるサービスにしていけるよう、機能強化を続けていきます」と語った。

Hylable Discussionでは話し合いの様子をグラフィカルなグラフにまとめて、メンバーの発話量の時間変化や、行動の傾向などを表示し、自身の強みを見つけることにも役に立つ。