先進自治体による教育DX事例から見る
これからの未来の学校の在り方とは
2025年2月27日と28日に、日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)が主催する「2024年度教育DX推進フォーラム」が国立オリンピック記念青少年総合センターで開催された。昨年度までは「教育の情報化推進フォーラム」として開催されていた本イベントだが、環境整備が進んだ教育現場のさらなる進化、デジタルトランスフォーメーション(DX)を目指して「教育DX推進フォーラム」と名称が変更された形だ。本フォーラムでは教育データの活用や生成AI、校務DX、情報モラル、そしてNEXT GIGAなどをテーマにした特別講演やセミナーが実施されるとともに、最新の教育ICT製品やサービスなどの展示も行われた。本記事ではこれらの講演の最後に実施された総括パネルディスカッション「教育DXで実現する未来の教育」にフォーカスし、最先端の教育事例とともにこれからの教育の未来を展望していく。

課題となる地域格差とネットワーク
総括パネルディスカッションではコーディネーターとして日本教育情報化振興会 会長の山西潤一氏が登壇し、始めにスティーブ・ジョブズがコンピューターを「Bicycle for the Mind」(知の自転車)と表現したことを引用し「GIGAスクール構想によって個別最適な学びの環境が整い、子供たちは自分の興味関心のあることを深く探求しながら学ぶ楽しさや学ぶ意味を感じ取りながら学べるようになりました。ようやくジョブズの言う『知の自転車』を乗りこなす子供の姿が思い描かれる時代になったと言えるでしょう」と語る。
続いて、パネリストとして文部科学省 初等中等教育局 学校情報基盤・教材課 課長 寺島史朗氏からGIGAスクール構想の現在地について解説された。「GIGAスクール構想は『多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、子供たち一人ひとりに公正に個別最適化され、資質・能力を一層確実に育成できる教育ICT環境の実現』を目指し、1人1台の学習者用端末と、高速大容量なネットワークの一体的な整備を進めてきました」と振り返る。
これらの環境整備は1〜2年で完了し、学力調査にも学びの変革の効果が表れるなど、成果を上げている。その一方で課題もある。例えば地域や学校間における活用格差だ。
「活用の頻度や活用の方法、学びの変革に格差が出始めているのではないかと感じています」と寺島氏。また、ネットワーク環境と校務DXについても課題として挙げられた。特にネットワーク環境については、文部科学省が2024年4月に発表した調査の中で「当面の推奨帯域を満たす学校は2割程度」という結果が示されている。ここでの「当面の推奨帯域」とは「同時に全ての授業において、多数の児童生徒が高頻度で端末を活用する場合にも、ネットワークを原因とする支障がほぼ生じない水準」だ。この結果を見ると約8割の学校がこの水準に達しておらず、ネットワークインフラ環境の見直しが求められている。
地域や学校全体で取り組む教育DX事例
課題の一つとして挙げられた地域ごとの活用格差解消を目指し、パネルディスカッションでは教育DXの先進自治体である加賀市教育委員会事務局 局次長兼学校指導課 課長 北市康徳氏とつくば市立みどりの学園義務教育学校 教頭 中村めぐみ氏もパネリストとして登壇。まず中村氏が、みどりの学園の取り組みを紹介した。
みどりの学園義務教育学校はつくば市の公立学校だ。9年間の学び連続性を生かした情報活用教育や、プログラミングを中心としたSTEAM教育、生成AIの活用に取り組むと同時に、これらの学びの基盤となる自律探求学習を実践している。
「これらの教育課程を通して本校では、2040年代で活躍できる次世代型の資質や能力の育成を目指しています。2018年の開校当時から日本最先端の先進的ICT教育の実現を目指しており、つくばGIGAで整備された学習基盤をはじめとして、ARやVR、ロボット、生成AIの活用など、ICT環境での学びに取り組んでいます」と中村氏。
講演ではこれらの先端ICT環境を活用した学びが紹介されるとともに「環境だけでは次世代を担う資質や能力を持ったチェンジメーカーは育ちません。この環境を効果的に活用できる学びの基盤作りが必要です」と続け、同校が取り組む自律探求学習の在り方について解説した。
例えば、体験や教材などから問題を見い出し、その気付きをクラウドで共有する他者参照を行うことにより、個別最適と協働的な学びの往還を行っているという。
加賀市教育委員会の北市氏は「加賀市では2年前に『学校教育ビジョン』を策定しました。テーマは『BE THE PLAYER』。受け身の勉強から自分で考えて動き、生み出す。そして社会を変える。そんな子供たちを育成することを目指しており、市内の教員はもちろん子供たちにも浸透しています。本ビジョンでは四つのプロジェクトに取り組んでいますが、中でも注力しているのが『学びを変える』であり、教師主導の旧来型の一斉授業の脱却を目指しています」と語る。
自由進度の学びをサポートするため、加賀市では学習者用端末からアクセスできる「学びの地図」を作成し、単元の流れやゴールを共有することでそれぞれの進度に合わせた学習を実現する環境を整えており「必要なのは支援ではなく環境の整備」であると北市氏は強く訴えた。

日本教育情報化振興会 会長
山西潤一 氏

文部科学省 初等中等教育局
学校情報基盤・教材課 課長
寺島史朗 氏

つくば市立みどりの学園義務教育学校
教頭
中村めぐみ 氏

加賀市教育委員会事務局
局次長兼学校指導課 課長
北市康徳 氏
先生主体の取り組みへと変える
事例紹介の講演の後は、4名によるディスカッションが行われた。山西氏から「このような先進的な取り組みを行う上で苦労もあったのではないでしょうか」と問われると、中村氏は「トップダウンによる取り組みももちろん重要ですが、それをいかに先生主体の取り組みに変えていくか、というのも必要です。本校で意識したのは先生方に実際に体験してもらったり、外に発信する機会を作ったりすることです」と取り組みの中の工夫を語った。
日本教育情報化振興会の山西氏はディスカッションの最後に「実践事例を通して、やはり大きなビジョンを掲げてそれを共有しながら、学校だけでなく教育委員会や保護者も含めた取り組みが必要と感じました。GIGAスクール構想のNEXTステップでもさまざまな支援施策が打たれますが、それを大いに役立てて、みんなで次の未来をつくる子供たちのために頑張っていきたいと思います」と締めくくった。