データサイエンスで企業課題を解決
SHIBAURA 探究で取り組むPBLとは

芝浦工業大学は、中高大一貫教育を通じてグローバルな視点を持ち、理工系分野で活躍する次世代の人材育成に取り組んでいる。その附属校である芝浦工業大学附属中学高等学校では、中学校1~3年生において探究型授業「SHIBAURA探究」に取り組んでいる。二つの探究を軸としたその学びを見ていこう。

GCとITの二つの探究

 芝浦工業大学附属中学高等学校は、2021年度から独自の探究活動として「SHIBAURA探究」をスタートさせた。工学系総合大学の附属校である同校が本来強みとするSTEAM教育のみならず、多様性や国際性を重視し、PBL(課題解決型学習)を取り入れたカリキュラムによる人材育成に取り組んでいる。そのSHIBAURA探究の学びは、「GC」(Global Communication)と「IT」(Information Technology)の二つで構成される。

 GCは、現代社会において不可欠となる国際性や多様性への理解を深める授業だ。学年が上がるごとにフィールドを広げていくことで、生徒一人ひとりが身の回りから世界規模の社会問題に対する当事者意識を深める学びを行う。例えば中学1年生では同校のある豊洲に焦点を当てて街散策や企業訪問などを実施する。2年生では長野農村合宿という宿泊行事を実施し、それと連動したPBLを行う。民泊体験をしながら、長野の現状や課題に向き合い、日本にフィールドを広げた探究活動に取り組むのだ。3年生ではさらにフィールドを広げ、米国やオーストラリアへの海外教育旅行と絡めたグローバル探究を実施することで、段階的にグローバル社会で活躍するエンジニアの育成を目指している。

 ITは、ITリテラシーを最大限に活用し、アイデアを実体化するエンジニア養成を目的とした授業だ。中学校1年生では「遊びの中で創造する」をテーマに、スクラッチプログラミングによるドローン飛行など、創造性や楽しさをベースにしたプログラムで学んでいく。2年生ではデータの分析や解析など、数値を根拠としたデータサイエンスを通じてPBLに取り組む。3年生ではニーズに応えるモノやコトをデザインし、プロトタイプを作ることを目的に、3D CADによる設計やスチレンボード、スタイロフォームを活用した試作品の製作を行い、夏のIT展での展示を目指す。中学校3年生の2学期と3学期はITとGCの学びを合流し、総合探究の学びに取り組んでいく。

企業の“困りごと”を解決しよう

 ITの学びの中では、理工系への研究や仕事の興味、関心を引き出す仕組みとして産学連携でのPBLにも取り組んでいる。例えば2年生では東京地下鉄(以下、東京メトロ)と共に、企業が抱えている課題にどうアプローチするかを探究活動を通して提案していく。芝浦工業大学附属中学高等学校 英語科主任 袖山 駿氏は「今年は東京メトロの電気部、車両部、工務部に協力いただき、各部署から企業課題を提示してもらっています。例えば電気部からは『10年後の豊洲駅にこういう技術があったらいいな、というアイデアを提案してほしい』という課題が提示されており、生徒たちはその課題に対して、具体的なアイデアを授業の最終回で提案できるよう、探究活動に取り組んでいます」と語る。

 実際に中間発表の授業では、東京メトロの社員3名が生徒らのアイデアや提案を聞きながら、フィードバックを行っていた。東京メトロからは芝浦工業大学附属中学高等学校の学びに対して、車両の温度や乗車人数などのデータが提供されており、生徒たちはそうしたデータを基にデータサイエンスの学びに取り組みながら、課題解決に当たっている。

 「東京メトロさまには、『子供だからこそしっかり向き合って、不足があれば批判をしてほしい』と伝えています。産学連携でのPBLは実際に企業が困っている課題をテーマに設定しているため、生徒たちがその解決策を提案するのはなかなか難しいと思います。しかし、外部の人と関わり、実際の課題解決に向けて取り組むことは生徒たちの学びに対するモチベーションアップにつながります。実際、昨年は非常に良い提案があり、東京メトロの方が社内にそれを持ち帰って検討いただいた例もあります。残念ながら実現には至りませんでしたので、今年こそは実際に生徒たちのアイデアが採用されるとうれしいですね」と袖山氏は語る。中間発表でも東京メトロ社員からは「社内に持ち帰って検討したい、良い提案がありました」とのコメントがあるなど、大人にはない柔軟な発想力と提案力が評価されているようだ。

 中間発表の中では「Googleスライド」を活用した資料のクオリティも評価された。芝浦工業大学附属中学高等学校では1人1台の学習者用端末として「Surface Go」を、教育プラットフォームとして「Google Workspace for Education」を採用している。袖山氏は「探究活動に特に便利に活用しているのがGoogleスライドです。Googleスライドは教員側から生徒の学習状況を見ることが可能であることに加え、URLを共有しておくことで企業側も閲覧可能です。今回の中間発表も東京メトロさま側に事前にGoogleスライドを共有しておくことで、進捗を把握した上で発表を聞いてくれていました」と語る。

 今後も芝浦工業大学附属中学高等学校では、情報ツールを活用して課題解決を図るITと、他者協働の概念などソフトウェア的な視点から社会課題に向き合うGCという二つの学びを組み合わせることで、生徒たちの探究能力を総合的に身に付けていく。

1.東京メトロの担当者に解決すべき課題を提案している生徒たち。2.東京メトロの担当者からは中間発表の内容を基に、その提案内容をさらに良くするためのフィードバックが伝えられた。3.中間発表後、生徒たちはアドバイスを基にGoogleスライドの内容をさらにブラッシュアップしていく。4.グループで意見を交わしつつ、提案のためのデータも集めていく。5.授業の最後には、東京メトロの担当者から「非常に良い提案があったので、是非社内に持ち帰りたい」という意見や「必要なデータが見つからない場合は、直接現地に行って写真を撮影して掲載すると説得力が増しますよ」というアドバイスが送られた。