これからのビジネスに
「AI PC」が必要な理由

2022年末に突如現れた「ChatGPT」によって生成AIが脚光を浴び、2023年は社員の生産性向上を目的に生成AIをビジネスに活用する企業が急増した。今後もAIの活用は進み、活用の範囲が広がっていくだろう。こうしたAIを起点とした変化の中で、ビジネスで使用するPCに大きな変革が訪れている。AIの処理に最適化された「AI PC」という新たなカテゴリーが生まれ、対応製品が市場に姿を現したのだ。そしてビジネスで使用されるPCは、いずれ全てAI PCに置き換わるという。なぜビジネスにAI PCが必要なのだろうか。

AIの処理はクラウドからエッジへ
従来のPCは処理性能と電力効率に課題

 AIの中でも生成AIはビジネスにおける業務の効率化や社員の生産性向上への活用が期待されているだけではなく、さまざまな業界に変革をもたらすテクノロジーとして注目されていることは周知の通りだ。生成AIが脚光を浴びてわずか1年ほどだが、生成AIはあらゆる分野・領域で活用が進み、適用範囲が拡大している。

 電子情報技術産業協会(JEITA)が昨年12月21日に発表した「生成AI市場の世界需要額見通し」によると、世界の生成AI市場の需要は2023年の106億ドルから2030年には約20倍となる2,110億ドルに急成長すると予測している。日本市場においても2030年には現在の15倍となる1兆7,774億円に成長するという。

 また生成AI市場の需要の急成長はハードウェア市場にも影響を与えると指摘している。JEITAによるとPCやスマートフォン、ヘッドマウントディスプレイ、サーバー、ストレージなど11品目のハードウェアを抽出し、需要の見通しをまとめた結果、生成AIにより世界で+7.8%、日本では+6.0%程度の押し上げ効果が生じるという。

 さらにAIの活用はビジネスで使用するPCに大きな変革をもたらしている。現在、AIから回答を得る際の推論や、推論に利用されるモデルの学習は全てクラウド上で行われている。しかし今後はAIの推論と学習の一部が、クラウドからエッジへと広がっていくと指摘されている。

 その理由についてインテルで執行役員 マーケティング本部 本部長を務める上野晶子氏は「AIの活用が進むとクラウドとやりとりする頻度やデータ量が増加するため、通信の遅延やそれに伴うAIを活用したアプリケーションのレスポンスの低下、通信コストの負担増といった問題が厳しくなるからです」と指摘する。

 ただしエッジ、すなわちPCでAIを活用する頻度が高まると、現在の一般的なPCでは実用に支障が生じる恐れがある。インテルの技術本部 部長 博士(工学) 安生健一朗氏は「例えばビデオ会議ツールでユーザーの背景をぼかしたり、音声のノイズを除去したりする機能を利用すると、ノートPCのバッテリー残量が急激に低下するという経験をしたことがあると思います。これらの機能にはAIが利用されており、その処理がバッテリー消費を激しくしているためです」と説明する。

 また従来のPCではAIの処理のほとんどをCPUで行っているため、パフォーマンスの不足も課題となっている。そこでAIの処理に最適化された「AI PC」が昨年末に登場し、すでに多くのPCメーカーからAI PCを名乗る新製品が発表、販売されている。

従来のPCの違いと
AI PCを導入するメリット

 AI PCとはAIの処理に最適化されたアーキテクチャを採用したPCで、AIの処理あるいはAIに対応したアプリケーションをPC本体で高速に実行できるメリットがある。中でも昨年12月にインテルが発表した「インテル® CoreTM Ultra プロセッサー」を搭載するAI PCならば、より高いパフォーマンスを少ない電力消費でAIを快適に活用できる。

 インテル® CoreTM Ultra プロセッサーにはCPUとGPUに加えて、AI処理専用のNPU(Neural network Processing Unit)である「インテル® AI ブースト」が搭載されており、これらの全てにAI処理を高速化するアクセラレーション機能を実装している。

 さらにCPUとGPU、NPUをAIの処理に応じて使い分けることで、高いパフォーマンスと低消費電力を両立している。例えば素早い処理が必要なタスクにはCPUが、メディアやグラフィックスなどの並列処理が求められるタスクにはGPUが、そして最も高い処理能力が求められるタスクにはNPUが低消費電力で処理する。

 「インテル史上最も優れたAIパフォーマンスと電力効率を実現している」とアピールするインテル® CoreTM Ultra プロセッサー(165H)は、前世代のインテル® CoreTM プロセッサー(i7-1370p)に対して生成AIの処理性能を1.7倍に向上、Zoomを利用したビデオ通話中の消費電力を38%削減、AIで多用される処理(INT8演算)時の電力効率を2.5倍に向上するなどの実力を誇る。

AI PCは使い始めが早いほど有利
導入をできるだけ早く決断すべき

 AI PCは市場に投入されたばかりであり、AI PCのメリットを生かしたアプリケーションや機能はこれから出そろう。今後AI PC市場はどのように動いていくのだろうか。

 インテルはインテル® CoreTM Ultra プロセッサーを2025年までに1億台以上のAI PCに提供すると表明している。さらにAI PC向けのビジネスやサービスを支援する目的で、Discordコミュニティ「インテル® AI PC Garden」を提供しているほか、100社以上のISV(独立系ソフトウェア・ベンダー)との協働により、インテル® CoreTM Ultra プロセッサーに最適化されたAIアプリケーションの拡充、AI PCでのローカルなAI処理を活用したアプリケーション開発を支援するOpenVINOTM ツールキットや無償トレーニングの提供など、AI PCのメリットの向上と市場拡大にも取り組んでいる。

 AI PCのメリットについて上野氏は「PCにはWebサイトの閲覧履歴や仕事で使用するさまざまな文書やデータなど、ユーザーのパーソナルな情報が保存されています。これらの情報をAIでPCに学習させれば、ユーザーに最適化された利便性と生産性の高い仕事環境が実現できます。ビジネスで使用するPCは、いずれ全てAI PCに置き換わっていくでしょう」と話す。

 そして安生氏は「AIの活用効果を最大化するには、ノウハウの蓄積とユーザーの習熟が必要です。いずれも一定の時間を要するため、早く使い始めたユーザーが有利になります。AI PCの動向を様子見している間に、いち早く導入したライバルとの差は広がっていきます。できるだけ早くAI PCの導入を決断すべきです」と強調する。

インテル
執行役員
マーケティング本部 本部長
上野晶子
インテル
技術本部 部長
博士(工学)
安生健一朗