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第8回 電子商取引

巣ごもり消費やテレワーク普及で拡大するEコマース
ネットワークを通じた商取引、「電子商取引」は年々取扱高が増え、コロナ禍による巣ごもり消費の増加やリモートワークの普及などにより、その利用はさらに拡大しています。近年はフリマアプリやサブスクモデルなどにより、取引のかたちも多様化。一方で、目まぐるしく変化するその環境に、システムや法整備が追いつかないという課題も出ています。
文/ムコハタワカコ
ネットやデバイスの普及とともに成長するEC
「電子商取引」とは、ネットワークを介した電子的な情報通信により、商品やサービスの売買などの商取引を行うことを指します。近年では「Eコマース(E-Commerce)」、またはその略語の「EC」と呼ばれることの方が多いかもしれません。
電子商取引の歴史は、コンピュータネットワークの歴史と足並みをそろえて発展してきました。初期のコンピュータネットワークは、大型コンピュータとこれを共有するリモート端末との接続が主でしたが、その後、異なる企業間で受発注データを交換する電子データ交換(EDI=Electronic Data Interchange)にも利用されるようになりました。
1990年代に入ると、インターネットが商用利用できるようになり、これをきっかけに電子商取引も飛躍的に進化しています。インターネットの登場は、企業間のBtoB(Business to Business)取引のコスト低下や、オープンな取引構造への転換、ひいてはビジネスモデルの変革をもたらしました。
また90年代後半から2000年代にかけてインターネットが家庭にも広く浸透したことで、消費者向けのBtoC(Business to Consumer)取引、オークションなどの個人間(CtoC、Consumer to Consumer)取引もより一般化しました。2010年代以降は、通信の高速化やスマートフォンなどのデバイス普及もあって、消費者向けEC市場の規模はますます拡大しています。
経済産業省が実施する調査によれば、2019年の日本国内の電子商取引市場規模はBtoC市場が19.4兆円(前年比7.65%増)、BtoB市場が353兆円(前年比2.5%増)に拡大しました。

日本のBtoC-EC市場規模の推移(単位:億円)
出典:電子商取引に関する市場調査(令和元年度・経済産業省)
さらに近年では、スマートフォンの所有率が高まったことや個人間取引アプリ(メルカリなどのフリマアプリ)の台頭もあり、CtoC EC市場が急拡大しています。経産省の同調査では、2019年のCtoC EC市場は1兆7,407億円、前年比9.5%増と推計されており、金額こそ小さいものの、BtoB、BtoC市場以上の伸び率を示しています。
フリマやサブスクなど取引形態が多様化
電子商取引というと、消費者がインターネット経由で注文する「ネットショッピング」をイメージする人が多いかもしれません。しかし先に挙げた経産省の調査からも分かるように、実際には企業間取引がかなりの割合を占めています。ネットワーク経由で発注書、納品書、請求書などのビジネス文書を電子的に交換するEDIも、BtoBの電子商取引の一種です。
また、取引で扱うものも物販に限りません。銀行などの金融機関における「オンライン取引」、オンラインゲームや音楽・動画配信など「電子データの購入」や「配信サービスの利用」、ネット上のプラットフォームを含む「サービスの定額購入(サブスクリプション)」も電子商取引に含まれます。
また、インターネットに限らず、取引先との専用線を利用する取引も電子商取引にあたります。
電子商取引を支えるテクノロジーとしては、決済やサプライチェーンマネジメント(供給業者から消費者までの資材供給や製造、在庫管理、物流などを複数企業間で統合的に管理する仕組み)、オンラインマーケティングや販売データ収集・分析、商品情報管理といった機能を持つシステムやソフトウェアなどがあります。これらの機能やシステムを単体、または組み合わせたものが、オンライン販売のソフトウェアやプラットフォームとして各社から提供されています。
このほか、「Amazon」「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」など、オンラインショッピングモールとして電子商取引の場を個店に提供するサービス、個人間取引の場としてのオークションサイトや「メルカリ」「ラクマ」「PayPayフリマ」といったフリマアプリ、サービスもあります。
最近の傾向としては、ECモールへ出店するのではなく、各店が個別にネットショップを開設する方向へシフトする動きが出てきました。これはTwitterやInstagramなどのSNS普及により、モールに出店しなくても効率的な集客が可能になったことや、ネットショップ開設用の比較的安価なECプラットフォームとして「Shopify」「BASE」「STORES」といったサービスが登場し、ショップ開設のハードルが下がったことが理由として考えられます。こうした環境の変化は「D2C」(Direct to Consumer)、すなわちメーカーが自社商材をECサイトで消費者向けに直販するモデルの浸透にも一役買っています。
また、いわゆる買い切りモデルではなく、商品やサービスを定額課金で提供するサブスクリプションモデルの利用が広がっていることから、サブスク販売に対応したサービスやツールも増えています。
もうひとつ、コロナ禍で注目されているのが、飲食店の宅配・デリバリー注文やテイクアウト予約に対応したECサービスです。「Uber Eats(ウーバーイーツ)」や「出前館」のようなデリバリー代行サービスを利用しなくても自店独自のサイトなどから受注できるような定額制のシステムが各社から提供され、利用が広がっています。
より安全に、安心して取引できる環境整備を
電子商取引の市場規模は年々右肩上がりで推移しています。ただ、日本のEC化率、つまり全商取引のうち電子商取引が占める割合は決して高い水準にはなく、BtoB取引のEC化率は2019年で31.7%と全体の3分の1以下、BtoCの物販系EC化率は6.76%に過ぎません。一方、世界のBtoC EC市場を見ると、EC化率は2019年時点で14.1%と推計されており、引き続き拡大傾向にあります。

世界のBtoC EC市場規模(単位:兆USドル)
出典:電子商取引に関する市場調査(令和元年度・経済産業省がeMarketer, May 2019をもとに作成したもの)
日本でEC化が進まない理由のひとつは、消費者のインターネットにおける情報セキュリティへの不安が根強いことです。
総務省の調査結果によれば、特に決済面での信頼性について前年よりも不安視する割合が増加しており、ネット上での金銭取引に関する懸念は高い傾向にあります。ショップやクレジットカード会社などの決済事業者には、ユーザーがより安全に、安心してECを利用できるような対策が求められています。
インターネットなどのネットワークやデバイス、システムなど、テクノロジーの発展やビジネスモデルの転換などに伴って、電子商取引の形態は目まぐるしく変化し、多様化しています。こうした変化する環境にシステムや法律が追いついていなければ、消費者トラブルなどの発生のもとになります。

インターネット利用における不安の内容(複数回答)
出典:電子商取引に関する市場調査(令和元年度・経済産業省)
例えば、フリマアプリなどを使った個人間取引が一般化したことで、住所などの個人情報をめぐるトラブルが増加しました。この問題に対しては、取引において第三者を仲介することで安全性を高め、未然にトラブルを低減する仕組みとして、エスクローサービス(売り手と買い手との間の代金支払いや商品受け渡しを仲介するサービス)が提供され、広く使われるようになっています。
ほかにも、法整備や行政の施策によるトラブルの防止や、被害者への支援も必要です。このため、法改正や新法施行が随時進められています。CtoC取引においては、チケットやブランド品の高額転売問題なども生じていますが、このうちチケット転売に関しては、チケット不正転売禁止法が2019年6月から施行されました。経済産業省では電子商取引などをめぐるさまざまな法的問題点について、現行法をどのように適用するか、法解釈を「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」として公開し、都度改訂が行われています。
電子商取引は、時間や場所の制限なく取引が可能ですが、その特性から、国境を越えた「越境EC」にも期待が集まっています。世界の越境EC市場規模は、2020年時点で9,123億ドル(約100兆円)と推計され、2027年には4兆8,561億ドル(約533兆円)にまで拡大すると予測されています。

世界の越境EC市場規模の拡大予測
出典:電子商取引に関する市場調査(令和元年度・経済産業省)
事業者にとっては、多額の投資を行わずに海外市場に進出が可能な越境ECですが、言語や文化、法制度などの違いもあって、実現には課題も数多くあります。こうした課題解決のために、サイトの翻訳や通貨換算などを自動で行うサービスにも関心が高まっています。

筆者プロフィール:ムコハタワカコ
書店員からIT系出版社営業、Webディレクターを経て、編集・ライティング業へ。ITスタートアップのプロダクト紹介や経営者インタビューを中心に執筆活動を行う。派手さはなくても鈍く光る、画期的なBtoBクラウドサービスが大好き。うつ病サバイバーとして、同じような経験を持つ起業家の話に注目している。