太田一希(おおたかずき)さん
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観光アプリ&「3D都市モデル」活用事例
──広島県三次市(みよしし)で、昨年10月から本年2月にかけて、観光アプリ「みよしもののけ探索AR」が公開され、イベントが行われました。このアプリの開発を太田さんが担当されたということですが、最初に株式会社ビーライズがどのような会社なのか、概要をお話いただけますか。
太田 ビーライズは、広島県広島市に本社を置くXR(VR、AR、MRなどの総称)ソリューションを開発するコンテンツ制作会社です。「デジタルで明日を変えよう」をビジョンにかかげ、XR領域でバーチャル空間活用サービスを提供しています。
ビーライズはもともと、3DCG(3次元コンピュータグラフィックス)を制作する会社として2012年に広島市で創業した会社です。最初は建築関係のモデリングなどの仕事が多かったのですが、2016年頃からVR(バーチャルリアリティ=仮想現実)、AR(Augmented Reality=拡張現実)、MR(Mixed Reality=複合現実)、メタバースなどのXRコンテンツの企画・開発も行うようになりました。ですから、企画からCG制作、XR、メタバースまで一気通貫で開発ができるのがビーライズの特長です。
現在は、広島本社のほか、東京・秋葉原にも東京支社があり、全社で約40人ほどが働いています。

──広島県三次市の観光アプリ「みよしもののけ探索AR」はどのようなアプリですか。
太田 広島県三次市三次町は、江戸時代中期に書かれた妖怪物語『稲生物怪録(いのうもののけろく)』の舞台になった町です。『稲生物怪録』は、稲生武太夫が16歳の時に体験した怪奇現象を物語にしたもので、その後、絵本や絵巻、漫画の題材にもなりました。三次市にはこれにちなんで、妖怪コレクター、湯本豪一(ゆもとこういち)氏の膨大なコレクションを集めた「三次もののけミュージアム」という施設もあります。
「みよしもののけ探索AR」(以下、「みよしAR」)は、この三次市の中心街・石畳通りに12体の“もののけ”をリアルに出現させて街歩きを楽しんでいただこうというスマートフォン用観光アプリです。“もののけ”出現スポットが12カ所あり、そのスポットで“もののけ”と会話をすると“仲魔”にすることができます。スタンプラリーのようにこの12カ所を回り、クリアすると抽選で景品が当たるという趣向で、2024年10月26日から2025年2月24日までイベントが開催されました。

太田 ARは、スマートフォンのカメラ機能を利用して、画面上にリアルな風景を映しながら、その上にCGを重ねる技術です。有名なものとしては「ポケモンGO」がありますが、「ポケモンGO」の場合は、風景の手前にポケモンが現れましたが、「みよしAR」の場合は、建物の上から建物を乗り越えるように“もののけ”が現れるのが一番違うところです。
このアプリでは、カメラで捉えた建物の特徴点から何の建物かを割り出して、自分の正確な位置と建物の3Dデータを照合して、建物にマスクをかけているため、建物と“もののけ”が違和感なく合成されるのです。

太田 この建物の特徴点を判断する時に使うのが、「3D都市モデル」という建築物の3Dデータです。3D都市モデルは、国土交通省が中心になって、全国の都市を3Dデータ化して活用しようという「Project PLATEAU(プロジェクトプラトー)」という計画の一環です。
Project PLATEAUでは、都市開発やビルの建築、防災、観光などのさまざまな都市活動のプラットフォームデータとして3D都市モデルを整備し、誰もが自由に都市の3Dデータを引き出せるようオープンデータとして提供されています。全国の自治体や企業が協力してデータを作っていて、現在日本の200くらいの都市がデータ化され、三次市もその1つです。三次市の3Dデータは、三次市が中心になって整備し、その活用事例として広島県土木建築局都市計画課(下記コラム参照)が今回「みよしAR」を企画しました。
「みよしAR」は、街に賑わいをもたらすという観光アプリであると同時に、「3D都市モデル」の活用事例という2つの性格を持ったアプリということです。
アプリの開発時には、実際にスタッフ数人で現地に行って、「この“もののけ”は、この建物のここからこんな感じで出てきたらおもしろいね」というように現地でイメージを膨らませて、一つひとつの設定を決めました。
広島県ではデジタル技術を最大限に活用し、官民が連携してインフラをより効果的・効率的にマネジメントしていくために「広島デジフラ構想」を策定しています。その取組の一つとして、行政の持つデータ(都市計画基礎調査情報)を最大限活用し、地域課題の解決に向けたスマートシティ化を目指し、国土交通省が推進するProject PLATEAUに参画し、3D都市モデルの整備・活用を行っています。
このデータをより多くの人に活用してもらうため、今年度は三次市等と連携し、3D都市モデルを観光分野で活用する試みとして、街にインセンティブ(三次市を舞台とした妖怪物語に登場する、石黒亜矢子先生が描かれた、愛らしく、ユーモア溢れる“もののけ”が街中にリアルに出現)を付与することで、街の周遊性を向上させる取り組みとして観光アプリ「みよしもののけ探索AR」を企画しました。
──「みよしAR」について、ユーザーからの反応はどうだったのでしょうか。
太田 イベントは2025年2月24日で終了したのですが、ユーザーからは結構いい反応がありました。アンケートには「あっという間にコンプリートしました。楽しかったです」とか、「三次市の街並みを自然に楽しめた」、「このアプリをプレイしながら歩いている途中で、美味しいパン屋さんを発見できた」とか……。こういう声は嬉しいですね。今回はご家族でいっしょにとか、子どもさんがお母さんのスマホで使っていただいているようなケースも多かったのですが、「子どもが夢中になって“もののけ”を探していました」とか、そういうお母さんからの声もありました。
それから三次市は中国山地の中央にあって、冬はかなり寒いんです。なので、冬になると人が街中を出歩かなくなるのですが、「みよしAR」の舞台になった石畳通りでは、スマホを持って歩く人がけっこういたという話も聞きました。寒い中でも「みよしAR」をプレイしながら街歩きを楽しんでいただいたのだと思います。大変ありがたいことでした。
「みよしAR」のサービスは、いったん終了したのですが、2025年春頃に再開予定ですので、楽しみにしていてください。

XR技術と地方自治体との親和性は
──ビーライズは、中国地方や四国、九州などの地方自治体の仕事をたくさんやられていますが、XRの技術は地方自治体と親和性があるのでしょうか。
太田 いま、地方自治体が抱えている最大の課題は「高齢化・人口減少」ということです。そうした中で「関係人口」「研修」「観光」の3分野でXRに親和性があると考えています。
「関係人口」というのは、移住や観光とは異なり、地域とさまざまな形で関わる人を指す言葉です。具体的には、外部の人が農家の収穫を手伝ったり、祭りに参加したりするなどですね。それから、ふるさと納税などもある意味で関係人口と言えるかもしれません。要するに外に住んでいてもその地域に興味を持ち、ときどきその地域を訪れて現地の人と関わる人たちです。地方自治体は今、関係人口を増やしたいと考えているので、そこにメタバースなどが有効な手段として活用されています。たとえば、外に住む人と現地の人の交流イベントをメタバース上でやったり、伝統ある祭りをメタバース上で公開するイベントなどもあります。
ビーライズが自治体とコラボしたメタバースの事例としては、鳥取県での各種交流やイベントを開催するメタバース空間の提供、山口県での小中学生をメインターゲットに県内企業を紹介するサービス提供などがあり、どちらも好評です。特に山口県の小中学生向け企業紹介サービスでは、県内50以上の企業が参加し、小中学生の社会科見学の範囲も広がって企業、学校双方から高い評価をいただいております。令和6年度の運用では、総来場回数17万回以上と多くの方にご利用いただいたメタバースとなりました。


人手不足解消に貢献するVR研修
太田 「研修」については、地方自治体が高齢化・人口減少する中で、人手不足や後継者がいないことが大きな問題になっています。そうした中、これまでのように「見て覚えろ」「一人前になるのに10年は我慢しろ」ではなく、わかりやすい研修によって新人をできるだけ早く熟練者に育てる必要があります。これに関して「VR研修」の需要が非常に増えていると感じます。
VR研修は、熟練者の作業プロセスをそのまま3次元で記録できるほか、自分の見たい角度から見ることができたり、実際に手を動かしてシミュレーションできたりするので、技術の習得がこれまでよりも容易になります。また、VRなら失敗しても大事故にならないため、「失敗できる」ことがVR研修の大きなメリットです。

太田 最後に「観光」ですが、「みよしAR」のように現実にはないものを表現できるので、今はないお城をスマートフォン上で復元したり、昔の人がやっていたことをリアルな遺跡の上で再現してみせることができます。我々が提供した例としては、石見銀山で操業当時の作業の様子をARで再現したものなどがあります。
XRやメタバースは、時間や空間、距離を飛び越える力を持っていて、リアル空間とバーチャル空間に新しい価値を加えることができるものだと思います。そうした力はエンターテイメントだけでなく、さまざまな社会課題を解決することにも活用できると思います。そういう社会課題解決のためにも、XRやメタバースを強力なツールとして活用していきたいと思っています。
