2023年2月7日にMicrosoft Copilotがリリースされてから2年が経過し、ビジネスでは生成AIの活用が世界中で広がっている。
それとともに活用領域も拡大しており、中でも将来の優秀な人材の育成への活用が期待されている。
今回は学校での生成AIの活用について、その展望と進め方を考察する。

下駄を履く人によって
下駄の高さが変わる

Microsoft Corporation
Worldwide Public Sector
Education
Industry Advisor
DX/AX戦略室長
阪口福太郎 氏

 学校での生成AIの活用についてマイクロソフト本社の公共部門で、世界中の学校に対してデジタル技術を活用した教育の発展を支援している阪口福太郎氏は次のように説明する。

 「日本に限らず各国で児童生徒に生成AIをどのように使わせるべきかを模索している最中です。しかし近い将来、児童生徒が生成AIを正しく使えるように、先生が指導するようになります。それに備えて先生が生成AIを使いこなすノウハウを身に付けておく必要があります」

 生成AIはより高度に、より簡単に使えるようにテクノロジーが進化を続けているが、現時点においては「下駄を履く人によって下駄の高さが変わる」という状況だという。阪口氏は「現在の生成AIは話しかける人の力量によって得られる回答が異なります。さらに返ってきた回答に対して疑問を投げかけることで回答が洗練されますが、それをするには生成AI以上の知識が必要です」と説明する。つまり知識のある人が利用して学習したAIはますます優秀になり、知識のない人が利用して学習したAIはスキルが伸び悩むということになる。

 MIT(マサチューセッツ工科大学)の論文によると、MITの教授で生成AIを使いこなしているのは上位10%で、その10%の教授が全体の80%の生産性を提供しているという。一方で30%の教授が生成AIを全く活用していない、あるいはできていないという。

 上記の話を交えて阪口氏は「もし仮に子どもたちが生成AIを利用しても良いとなった場合、子どもたちは今持っている知識の範囲でしか質問できず、それをベースに回答したAIの回答を受け入れるしかありません。つまり生成AIがあるからといって、人は知識を得ることをやめる理由にはならないということです。MITの事例と今の話から、使う側の心得と使う側の知識が必要であり、先生を含む知識を持つ大人から活用を始め、ノウハウを習得することが正しい進め方だと思います」と説明する。

助けてほしい、教えてほしい
こう思うことから活用が進む

 では先生はどのように生成AIを活用して使いこなすノウハウを蓄積していけばいいのだろうか。そのポイントについて阪口氏は「この仕事を助けてほしい、教えてほしいと思うことが大切です。そう思わなければ、生成AIを活用しないでしょう」と指摘する。

 助けてほしい、教えてほしいと思う対象は何でもよく、疑問が生じたらすぐに生成AIを使う癖をつけることが活用を進展させる。その際のコツについて阪口氏は「現在の生成AIはどんな専門家にもなってくれます。例えば『あなたはデータサイエンティストとして振る舞ってください』や『法律の専門家のように振る舞ってください』と話しかけると、各分野の専門家になって回答を返してくれます。プロ中のプロではないかもしれませんが、それでも相当詳しいプロになってくれて、助けを必要とする分野の専門家として回答を返してくれます」と説明する。

 例えば英語のテストの採点を生成AIにさせるならば、「英語の先生」になってもらえばいい。つまり先生の仕事である授業や校務の各シーンにおいて何を手伝ってほしいのかを明確にし、それに役立つプロは誰なのかを考えて生成AIを使うことがコツと言えよう。ただしこれは容易なことではないという。

 阪口氏は「今困っていないことを、生成AIに『改善できるかもしれない』という“かもしれない”ことに新しい労力をかけなければならない、その最初の行動をしなければ使えないからです。人は効果があるかないか懐疑的なことに時間をかけたがりませんし、ましてや生成AIを活用するには一定の知識とコツが必要となるからです」と説明する。

 さらに効果的かつ効率よく生成AIを活用するために「マルチエージェント」な環境を構築することも大切だ。現実の世界でも何か困ったことがあると、特定の一人に何でも相談するわけではなく、その相談相手としてふさわしいと思う人を都度選んで相談するだろう。この行動と同様のことが生成AIの活用においても求められる。

 一つのAIに複数の専門的な事柄を相談したり作業をさせたりすると、できないことはないが期待通りの回答が得られにくい。そのためあらかじめ複数の専門家を作っておいて、用途に応じて使い分けると効果が向上する。学校での活用では授業や校務におけるさまざまなタスクを洗い出し、それぞれに対応した専門家、すなわちAIエージェントを作成しておくことになる。

 阪口氏は「AIエージェントを作成するのは一足飛びではできないので、まずは先生一人ひとりがAIに助けを求めて活用を進め、これを頼めると便利、助かるというタスクをどんどん出していくことから始めると良いでしょう」とアドバイスする。

自分の立場や状況を理解させて
適切な回答を推測させる活用環境

 生成AIを使いこなすコツにはもう一つ大切な要素がある。それは使う人が誰なのか、どういった状況なのかを生成AIに知ってもらうことだ。相手の立場や状況が分からなければ、質問や要望に対して適切な回答がしにくいことは日常生活でも同様だ。

 しかしユーザーの立場や状況をプロンプトで生成AIに教える方法では、生成AIに伝わる情報に個人差が生じてしまい、回答にも差が生じる。そこで自分を知ってもらう簡単かつ便利な方法として「Microsoft 365 Copilot」の活用がある。

 組織で利用するMicrosoft 365 Copilotには組織ごとのプライバシーポリシーやデータアクセスポリシーなどのルールに従って、アクセスしたデータや閲覧したWebページ、ExcelやWord、PowerPointなどのアプリケーションの利用内容、メールやスケジュールの利用状況などをユーザーごとに記憶する仕組みがある。その情報からユーザーの立場や状況を理解し、ユーザーが求めていることを推測して回答を最適化する機能が提供されている。なおこの情報をマイクロソフトが利用することはない。

 阪口氏は「ユーザーの行動が最も蓄積されているのはPCです。ゆくゆくはクラウド上のユーザー情報が全てのクラウドサービス上の情報を統合し、端末側の情報も統合されると考えています。これが実現されればユーザーの立場や状況を正確に把握できるようになり、よりパーソナライズされた生成AIを利用可能になります。その実現に向けてマイクロソフトはSLMが稼働して端末で生成AIが利用できるCopilot+ PCを推進しています」と展望を語った。

日本マイクロソフトは、2025年4月23日(水)から25日(金)にかけて東京ビッグサイトで開催される「EDIX (教育総合展) 東京」にブース出展します。
ブースでは、「AI in Education みんなで創る GIGA の未来」をテーマに、最新の Microsoft AI ソリューションを紹介します。

事前登録制で、参加は無料です。
詳細と参加登録は、日本マイクロソフト イベント特設サイト でご確認ください。