安曇野FINISHの真実、そして積極的に開発者が営業に出る理由

VAIO Phone Biz開発者インタビュー

文/飯島範久


「快」でなければVAIOにあらず

VAIO Phone Biz

―― VAIOというブランドを背負ったスマートフォンを作る際に、大切にしたことは?

岩井 VAIO株式会社になってからのVAIOは、製品開発のキーワードとして「快」を標榜しています。機械は人間の生産性を高めるための補助ツールであり、人間の生産性を妨げてはならないと考えていまして、VAIO製品は常にその視点で開発されています。スマートフォンに関しても「快」をとことん追求して、お客様がこの製品を使う上でストレスになることを徹底的に排除した“快適な使い心地”にすべてのベクトルを集中させています。

―― VAIO Phone Biz用ではありませんが、PCのVAIOシリーズ向けに「VAIOオリジナル LTEデータ通信SIM」が発売されました。そのあたりも「快」を目指したものでしょうか?

岩井 SIMは、VAIO Phone Bizとは別のプロジェクトとして始まったものですが、PCメーカーが提供する快適なSIMとはどういうものかを考えたとき、“月々払いでひと月のデータ量の上限が決まっている”一般的なSIMに対して、VAIOのSIMは月々の縛りではなく、1年から3年というスパンでまとまった容量が使える製品にしました。

 PCは人にもよりますが、出張や外出が多い月とそうではない月で使用パケット量に大きな違いがあります。そんな人は月々の上限が決まっていると使いづらい。しかし、使えるパケット量が年単位になっていれば、1年間の波を吸収できるので快適になります。これがVAIOオリジナル LTEデータ通信SIMの狙いです。

 今後は、VAIO Phone Bizで使いやすいSIMとはどんなものか、などを考えながらメニューを拡大していきたいと思っています。

VAIOオリジナル LTEデータ通信SIM。現在はデータ通信のみ。

安曇野FINISHへのこだわり

―― VAIOならではのこだわりと言えば、VAIO Phone Bizを購入して箱を開けると「安曇野FINISH」と書かれたカードが封入されていることも印象的です。

 メーカーとしては、カードの封入はコストが掛かってしまうのですが(笑)BtoB事業への参入にあたって、お客さまにはまず安心を実感していただきたい。その一環です。相互接続性試験(IOT)を通したのも、お客さまが快適に安心して商品を使っていただくのが目的ですので、安曇野FINISH――国内での最終チェック――もやりましょうということになりました。

岩井 安曇野FINISHは、VAIOの長野にある本社から出荷されているということで、特にコンシューマのお客さまからうれしいと感じていただけているようです。

VAIO Phone Bizに同梱されている「安曇野FINISH」を示すカード。

VAIO株式会社 商品企画部 商品企画担当 岩井剛氏

VAIO株式会社 ビジネスユニット2 ダイレクター 林文祥氏

―― 具体的に安曇野FINISHというのは、どんなことをしているのですか?

 VAIO Phone Bizは、ODMパートナーさんに製造を委託しております。海外工場で生産後、出荷前に100%検査を実施して、通過したものだけを出荷しています。

 理論上はそれだけでも品質は担保されているのですが、VAIOの場合はそれプラス、お客さまから注文いただいたカスタマイズなどの要望や、大口のお客さまに対応するために一括でOSを入れたり、主要機能を検査したり、外観も輸送途中で不具合が発生していないかチェックしたりなどを安曇野工場が担当しています。二重チェックを掛けることで、より品質の向上を図っているというわけです。

―― 今回のVAIO Phone Bizでスマートフォンメーカーとして本格的に動き出したわけですが、今後も引き続き開発は続けていくのでしょうか?

岩井 現在、市場の反響を見ながら検討しているのですが、基本的にはVAIO Phone Bizというラインを軸に定番化していきたいと思っております。その上で、さらにサイズのバリエーションや、よりハイエンドが欲しいなどといった、いろいろな声への対応を判断していきたいです。

 ただ、まずはVAIO Phone Bizが独り立ちしないと。たとえ派生モデルでも開発コストはかかりますので、当面は後継モデルを見据えつつ、VAIO Phone Bizをパートナー企業さんの協力を仰ぎながら、しっかりしたビジネスとして継続させていくことが先決だと思っています。

―― 最後に、VAIO Phone Bizをチョイスするにあたって最大のメリットは何ですか?

岩井 やはり、通信周りの信頼性としてIOTを通っていること、そしてCA(Carrier Aggregation/通信速度向上・安定化の技術)にも対応している製品は、Windows 10 Mobile機としては現時点でVAIO Phone Bizしかないことですね(編註:取材当時)。そしてその前提として、「日本のメーカーが日本の市場のために通信設計を作り込んだ」というところが一番のポイントだと思います。

 海外モデルのローカライズですと、NTTドコモさんのバンド19に対応していなかったり、スペック上は対応していても十分な性能が出なかったりということが起きます。ですがVAIO Phone Bizは日本の市場に最適化させて作り込んでいますので、通信周りに関してはNTTドコモさんが自社のブランドで販売している製品に匹敵するぐらいの安心感があると思います。

―― そして同時に法人営業の体制も強化していくと。

岩井 これまでPCメインだったところを、VAIO Phone Bizを法人向けとして販売するために、営業体制の見直しや強化を行っている状況です。たとえば、場合によってはVAIOの社員が同行して商品説明やご要望をお聞きすることもあります。もしかすると、私が直接伺うかもしれません。

―― 開発メンバーも営業活動をしているのですか?

岩井 製品が発売されたことで、ようやく具体的なユースケースをヒアリングできるようになりました。次の商品に対してフィードバックするという意味でも、どんなニーズがあるのか開発メンバーとして直接お聞きしたいのです。導入検討されている企業様には、ぜひお声がけいただきたいと思っております。

国内の法人ニーズに特化&安曇野FINISHで抜群の快適さと安心感

 VAIOが法人向け、しかもWindows 10 Mobileのスマートフォンを開発すると聞いて意外に思った人は少なくないだろう。しかし蓋を開けてみれば名機505やtype Zなどにみられた妥協なき開発姿勢はVAIO Phone Bizでも健在だ。非常に厳しいことで知られるNTTドコモの相互接続性試験(IOT)への適合、通信速度の高速化/安定化に欠かせないキャリアアグリゲーション(CA)対応、そして全品チェックと大口顧客向けのアレンジを自社工場で直接行う安曇野FINISHと、VAIOならではのコダワリが満ちた一台となっている。積極的に開発者たちが営業に赴く姿勢も頼もしい。

 VAIOブランドに「質実剛健」という魅力を付け加えることに成功したVAIO Phone Biz。新手のWindows 10 Mobile機として法人市場にいかなる新風を巻き起こすのか、今後の展開が楽しみだ。

筆者プロフィール:飯島範久

1992年にアスキー(現KADOKAWA)へ入社し『DOS/V ISSUE』や『インターネットアスキー』『週刊アスキー』などの編集に携わる。2015年に23年務めた会社を辞めフリーとして活動開始。PCやスマホはもちろん、ガジェット好きで各種媒体に執筆している。Microsoft Officeは95から使っている。