働き方改革によって、ビジネスシーンにおいては“いつでもどこでも”業務ができる環境の整備が求められている。そこで重要になるのが、どこにでも持ち出して業務に取り組めるモバイルノートPCと、いつでもつながる通信環境だ。そのためには5G/LTEによるモバイル通信ができると良い。しかし、物理的なSIMカードを用いた通信環境の提供は、管理者にとっての負担にもなる。そこで注目されているのがeSIMだ。物理的なSIMカードが必要ないeSIMは、ビジネスシーンで利用するノートPCで通信する場合にぴったりな選択肢なのだ。そのeSIM搭載のノートPCを、PCメーカーも販売パートナーも提案しやすくなる新しいビジネスモデルも登場し、注目が高まっている。その新たなビジネスモデルから、これからのノートPC市場の最前線、そしてさらに広がる通信の可能性を見ていこう。
製品やサービスと通信を一体化する
新しいビジネスモデル「ConnectIN」とは
2025年1月21日、通信キャリア大手のKDDIは製品やサービスと通信を一体化する「ConnectIN」(コネクティン)を発表した。これは従来の通信契約とは異なり、通信料をメーカーの製品やサービスの価格にパッケージして販売できるビジネスモデルだ。これにより、メーカーはeSIM搭載のPCを買い切りモデルとして販売できる。まずはこのConnectINの仕組みや提供背景を解説していく。
製品と通信を一体化

岩本克彦 氏
携帯通信キャリア大手のKDDIがスタートしたConnectIN。このConnectINを実現する一部の仕組みは、2023年6月に国内特許を取得している。
ConnectINは前述した通り、一定期間の通信料をメーカーの製品に組み込んで販売できるビジネスモデル。製品と通信を一体化することにより、ConnectIN採用の製品を購入したユーザー企業は、月々の通信量の支払いが不要になる。企業は管理業務が効率化されるほか、年度での通信予算を確保する必要がなくなるのだ。
KDDIは、メーカーが製品に通信機能を内蔵させる際に必要となる通信回線の手配や、管理、運用、データベース構築、システム開発を提供する。販売台数に応じたレベニューシェアを採用しており、メーカー企業側は初期投資不要で通信を含む機器販売が行える。製品に通信機能が内蔵されていることで、必要なコンテンツの自動アップデートがいつでもどこでも行えるメリットもある。
こうした新しいビジネスモデルを提供するに至った背景に、IoTの普及がある。車やスマートメーターなど、さまざまな場所に通信が組み込まれてきた。それによる付加価値も大きい。これらにeSIMが組み込まれれば、さらなる利便性向上が期待できる。
また、AIの普及も背景の一つだ。クラウドでAI処理を行うクラウドAIと、デバイス上でAI処理を行うオンデバイスAIの両側面での進化が加速しており、それらのAIをつなぐ役割として、通信の存在が重視されている。特に昨今はAI PCが注目を集めており、そうした端末に対して、物理的なSIMカード不要で、常時通信が可能なeSIMを搭載するメリットは大きい。
まずはノートPCからスタート
KDDIではもともと、2023年11月から日本HPと協業したMVNOサービス「HP eSIM Connect」を提供していた。これは法人向けにデータ通信5年間無制限の利用権が付帯したeSIM対応モバイルノートPCを日本HPから販売するものだ。
KDDI ビジネスデザイン本部 アライアンス営業副部長 岩本克彦氏は「当社では日本HPさまと協業する以前から、通信対応のPCの販売を行っていました。さまざまなモデルのPCを取り扱っていましたが、実際のところあまり売れ行きがよくありませんでした」と振り返る。その背景にはコストや運用の負担があるのではないか、と考えた同社は、日本HPに「通信が一体化したPCモデル」の販売を提案したのだという。
「当時はまだeSIM搭載のノートPCと5年間無制限のデータ通信をセットにしたモデルの需要が未知数でしたので、まずは2機種から提供をスタートしました。日本HPさまにお声がけをした理由として、法人向け通信対応PCのシェアが最も高かったことや、当社での取り扱いが多かったことなどがあります」と語る。
このHP eSIM Connectは非常に大きな反響があり、販売パートナーやユーザー企業からも好評だったという。日本HPもHP eSIM Connect対応のノートPCを拡充し、多様なラインアップからConnectIN対応のノートPCを選択できるようにしている。
このビジネスモデルをほかの企業にも広げていくべく、ブランド名称を付けて展開をスタートしたのがConnectINだ。1月21日の発表時点ではダイワボウ情報システム、Dynabook、レノボ・ジャパン、パナソニック コネクト、VAIOといった各社製品へのConnectIN採用が決定している。
メーカーがConnectINを自社製品に採用するメリットは三つある。一つ目は前述した通り、初期投資が不要になる点だ。データを蓄積・管理するためのデータベース構築や端末の制御や管理を行うシステム開発などはKDDIが担う。「従来、MVNO事業者として通信を販売するためには専用の体制を構築する必要がありましたが、ConnectINではその体制をKDDIが受託します。新たな回線を取り扱うためのリソース不要で、回線を組み込んだ製品を作れるのです」と岩本氏は語る。
また二つ目に、回線申込受付・不正利用防止法対策のための本人確認業務や申込種別の受付ルール作り、イレギュラー対応といった通信回線の契約管理や体制整備も、KDDIが行う。PCベンダー側が担う必要がないため、こちらも大きな利点だ。
三つ目に、ユーザーの利用状況に応じた付加価値向上を提案できる点だ。管理者用サーバーやKDDIが提供する月次レポートから、申込者情報や回線情報、トラフィック情報などの利用状況を把握できるため、新しい提案につなげやすくなる。

ビジネスを加速するConnectIN
もちろんエンドユーザー側のメリットも大きい。製品を購入するだけで月々の通信料金を支払わずに無制限で通信を利用できるため、従業員は通信容量を気にすることなく業務に取り組める。モバイルWi-Fiルーターを持ち運ぶことなく通信できるため、ハイブリッドワーク環境下の業務を円滑化可能だ。また、企業側のメリットとして、月々の通信量支払いが不要となるため管理業務が効率化されるほか、年度の通信予算の確保も不要になる。
「年度の通信予算が不要になることは、特に自治体や官公庁からの反響が非常に大きいポイントでした。またPCを利用する従業員目線で見ると、PC1台でどこでも通信できるため、逐一設定をしたり、Wi-Fiを探したり、テザリングをするような手間をかけずに業務を行える点も魅力でしょう。テザリングをする場合、スマートフォンのバッテリーの減りなども懸念点になりがちですが、そうした問題をクリアして働けます」(岩本氏)
ユーザー企業はConnectIN対応のノートPCを購入した後、オンラインでの回線申し込みを行う。登録が完了すればシステム管理者に登録完了のメールが届き、設定用のアプリでボタンを押下するとeSIMのプロファイルがダウンロードされ、通信が利用できるようになるという。
こうしたConnectIN対応のノートPCの存在が登場したことは、販売店にとっても大きなビジネスチャンスだ。岩本氏は「ノートPCに通信がセットになっていることで、従来のWi-Fiモデルと比較すると商品単価が高くなりますので、販売店にとっても売り上げが大きくなるでしょう。ノートPCの9割はWi-Fiモデルですので、ConnectIN対応のノートPCを取り扱うことはほかの販売店との差別化にもつながります」と指摘する。
ConnectIN対応の製品リリースを発表している企業は現在のところPCメーカーが中心となっているが、電子黒板メーカーとの協議も進んでいるという。岩本氏は「決済端末を開発しているメーカーや、防犯カメラメーカーなどからも問い合わせがありました。これまでもIoTというワードの下、通信と製品を一緒に提供しているメーカーさまもいらっしゃいましたが、従来のビジネスモデルは月額契約での回線契約が常識でした。これがネックとなり、回線を組み込めないというメーカーも少なくなかったのです」と語る。そうしたメーカーもConnectINであれば自社製品に通信をセットで販売できるため、製品開発の幅も広がるといえそうだ。
1月の発表では、ConnectIN対応のノートPCは法人モデルのみとなったが、将来的には個人向けPCにもConnectIN対応モデルを展開していきたいと岩本氏。「通信を使っていることを感じさせずにどこでも使えて、機能がどんどんアップグレードしていくような製品が、今後さらに展開していくと良いですね」と岩本氏は締めくくった。
eSIMの需要はビジネスから教育まで
日本HPが語る「HP eSIM Connect」の魅力
2023年11月16日、日本HPはKDDIと協業し、法人向けにデータ通信5年間無制限の利用権付きeSIM対応モバイルPCの販売をスタートさせた。ConnectINの前身ともいえる本協業の経緯と、その効果について、日本HPの岡 宣明氏に詳しく話を伺った。
通信はハイブリッドワークの課題
「コスト削減と生産性向上を両立」そんなキャッチフレーズの下展開されているのがHP eSIM Connectだ。
HP eSIM Connect対応モデルはPCの購入代金に通信費が含まれているため、LTE/5Gによる通信を5年間無制限かつ追加料金なしで利用できる。
このHP eSIM Connectは、日本HPとKDDIの協業によってスタートした。その背景について、日本HP パーソナルシステムズ クライアントビジネス本部 CMIT製品本部長 岡 宣明氏は次のように振り返る。「eSIM自体は以前からある技術で、2017年に発売された『Apple Watch Series 3』に搭載されたことで広く普及しました。一方で、スマートフォンやPCにはこのeSIMの搭載があまり進んできませんでした。そうした中で、KDDIさまがこのeSIMに対する取り組みをいち早くスタートされました。当社としても4〜5年前からPCへのeSIM対応の通信モジュール搭載を進めており、そうした通信への取り組みの方向性がマッチしたことも協業のきっかけでした」
それでは、ノートPCにeSIMを搭載するメリットはなんだろうか。最大のメリットは、オフィスの外で働く際に、PCを開くだけですぐに安定した通信環境で業務に取り組めることだろう。モバイルWi-Fiルーターやスマートフォンのテザリングで通信を行うケースもあるが、接続にワンステップ手順が必要となる。また物理的なSIMカードをノートPCに差し込んで、月額で通信料を支払う方法もあるが、SIMカードの管理の手間や、毎月キャリアに支払う通信費のコストの負担が大きいことから、導入に二の足を踏んでいる企業も少なくない。
実際、日本HPがオンラインで調査を行った「ハイブリッドワークの課題」では、「4G LTEや5Gの導入を妨げる理由としているのが通信コスト」と回答した※割合は66%と6割を超えている。こうしたハイブリッドワークに潜む通信の課題を解決するため生まれたのが、HP eSIM Connectなのだ。
※エンタープライズ企業のIT導入担当者、または決済権限者が回答した。

常時接続がノートPCの価値を向上

岡 宣明 氏
HP eSIM Connectは冒頭で述べた通り、2023年11月16日にリリースされている。当時は「HP Dragonfly G4 法人限定 HP eSIM Connectモデル」「HP ProBook 445 G10 法人限定 HP eSIM Connectモデル」の2機種のみがHP eSIM Connectに対応していた。現在はビジネス向けノートPC10機種、教育向け端末4機種がHP eSIM Connect対応端末としてラインアップされている(2025年3月時点)。「まずはハイエンドモデルとミドルレンジモデルをHP eSIM Connect対応モデルとしてリリースしました。これが非常に好評でして、ほかのモデルもHP eSIM Connectに対応させてほしいという要望が多くありました」と岡氏は語る。そういった要望に応えてHP eSIM Connect対応モデルを拡充していったのだ。
HP eSIM Connect対応のノートPCを選択するビジネスユーザーに傾向などはあるのだろうか。岡氏は「やはりPCを持ち運ぶ機会の多い職種からの需要が高いですね。HP eSIM Connect対応PCの中で最も売れ行きが良いのはハイエンドモデルの『HP Dragonfly G4』です。これは軽量で持ち運びがしやすいため、外に出ることの多い職種の方に適しています。また、せっかく良い端末を手に入れるのですから、従来のようにモバイルWi-Fiルーターやスマホのテザリングを使うのではなく、PCを開いたらすぐにネットワークにつながっている環境で仕事をしたい、というニーズもあるように思います。当社の端末は基本的にデュアルSIMを採用しており、eSIM+他社SIMカードという組み合わせで使っていただくケースもあります」と語る。
eSIMで常に通信できることで、実はノートPC自体の価値が向上するというメリットもある。例えばAI PCだ。NPUを搭載したAI PCはAI処理を高速化し、業務効率を向上できることで知られている。高度なAI処理をローカルで行えるため、セキュアである点などが魅力だが「現時点で、完全にローカルで完結するAIはまだほとんどありません」と岡氏は指摘し「だからこそ、AI PCでどこでも同じAI体験をできるようにするためには、やはり通信が必須ですし、それを実現するにはeSIM搭載のノートPCが適しているでしょう」と続けた。
日本HPではMDMソリューション「HP Protect and Trace with Wolf Connect」(以下、Wolf Connect)を提供しており、本ソリューションとHP eSIM Connect対応端末を組み合わせることで、ハイブリッドワーク環境下のセキュリティも強固にできる。「eSIMのLTEと5Gの通信モジュールはブロードバンドですが、実はユーザーが使っていないナローバンドが一緒に入っています。このナローバンドはIoT機器などに組み込まれているような、送受信できるデータ量が少ない通信ですが、これが常にWolf Connectサーバーと通信します。これにより、OSが落ちていたりブロードバンドがつながっていたりしなくても、管理者は端末がどこにあるか特定して、万が一紛失した場合は遠隔でロックをかけられます。また、盗難などされてしまい、取り戻すことが難しい場合は、復元が難しいパージによってデータ削除をリモートで行います」と岡氏。常に持ち運んで使う端末だからこそ、HP eSIM ConnectとWolf Connectを組み合わせることでセキュリティを強化するとよいだろう。

※中央のHP EliteBook X G1i 14 AI PCは今後対応予定
教育現場にもeSIM搭載端末を
同社のHP eSIM Connectは、ビジネスPCのみならず、教育現場に導入が進むGIGA端末にも対応している。「学校内のWi-Fi環境に問題があったり、持ち帰り学習でも円滑な通信を行いたいという要望があったりする場合、当社のHP eSIM Connect対応のGIGA端末を選択されるケースがあります。NEXT GIGAにおける国の予算の範囲内ではWi-Fiモデルになりますが、追加予算のある自治体などは、当社のHP eSIM Connect対応端末を選択するケースもありますね」と岡氏は語る。実際に、沖縄の伊平屋島では、HP eSIM Connect対応の「HP Fortis x360 G5 Chromebook」を試験導入し、家庭学習やリモート授業、校外学習などで積極的に活用したという。校務用端末としてHP eSIM Connect対応端末を選択する学校現場もあり、今後さらに教育現場でのeSIM搭載端末の導入が広がっていきそうだ。
岡氏は「HP eSIM Connectをリリースして1年以上がたち、サポートを含めたナレッジが蓄積されてきました。これまではある程度絞り込んでHP eSIM Connect対応端末を提案してきましたが、今後はほとんどのモデルでHP eSIM Connectを利用できるよう、ラインアップを拡充していきます。販売パートナーさまにとっても、お客さまの業務に合わせたソリューションを組み合わせて、セキュリティやネットワークを提案できることは、新たな付加価値になるのではないかと思います。PCを紹介する際は、ぜひネットワークも含めて紹介していただけたらうれしいですね」とメッセージを送った。
“ビジネスを止めない”を設計思想にした
「dynabook eSIM Startin’」とノートPCの組み合わせ
KDDIがConnectINを発表した2025年1月21日の記者発表会で、ConnectINのビジネスモデルを採用したMVNOサービス「dynabook eSIM Startin’」を発表したDynabook。dynabook eSIM Startin’のサービスと、対応するビジネスノートPC、そしてeSIM搭載であるが故のビジネスメリットについて取材した。
約50%のコスト削減が可能
Dynabookが提供をスタートしたMVNOサービス「dynabook eSIM Startin’」(以下、Startin’)は、ConnectINのビジネスモデルを採用し、eSIM対応のモバイルノートPCに、4年間のデータ通信無制限の利用権を付属する。モバイルWi-Fiルーターなどを持ち運ばなくても使いたい時にすぐにau回線(5G/LTE)を使用して、通信サービスを利用可能なのだ。
Startin’をスタートした背景について、Dynabook 国内マーケティング本部 本部長の杉野文則氏は「当社では何年も前からMVNO事業を展開しており、法人のお客さまに回線契約のサービスを提供していました。そうした中で今回のConnectINというビジネスモデルについて、KDDIさまに話を伺い、4年間のデータ通信をパッケージで商品化できることに魅力を感じました」と語る。
MVNO事業に加えて、同社は以前から5GモジュールやLTEモジュール搭載のノートPCを販売していた。それらの需要がここ数年、少しずつながら上がってきていたという。そうしたPC販売の動向もKDDIとの協業を後押しした。
今回スタートしたStartin’は、4年間無制限のデータ通信の利用権が付属する。この4年間という長さを設定した理由について杉野氏は「当社のお客さまのPCリプレースのサイクルとして、もっとも多いのが4年間のためです。Startin’対応モデルの場合と、通常のPC購入と4年間のデータ通信費を比較すると、Startin’対応モデルの方が圧倒的に安く、およそ半額ほどになると見込んでいます」と語る。なお、4年間の間に端末が故障した場合、本体の修理が可能であればその端末で継続して4年間の通信が可能だが、買い替えになるとシリアル番号が変更になるため、データ通信も契約し直しになるようだ。

ダウンタイムを極力減らす設計
ビジネスノートPCの通信にeSIMを採用するメリットについて杉野氏は「物理的なSIMカードによる通信の場合、まずそれを従業員に配布して、個々人にSIMカードを挿入してもらう必要がありました。しかしeSIM搭載のノートPCであれば、PCを配布してアクティベーションツールを起動し、EIDと呼ばれる識別番号をネットワーク環境下で登録すれば利用可能です。アクティベーションツールを配布することは手間かもしれませんが、事前に配っておいたり、Windows Storeから直接ダウンロードしてもらったりすることで、そういった手間も削減できます。また『Microsoft Intune』を経由した配布も行えますので、物理的なSIMカードよりも大きく管理負担が軽減できるでしょう」と指摘する。物理的なSIMカードの場合、挿入口に対して裏表に差してしまったり、紛失してしまったりといったトラブルもあるため、それらに対応する負担がゼロになる点もうれしいポイントだろう。


(右)Dynabook 杉野文則 氏
Dynabookは、Startin’対応端末として「dynabook X83/LY」をラインアップしている。本製品は、2023年夏に発表された13.3インチモバイルノートPCで、大きな特長として「セルフ交換バッテリー」機構を採用している点がある。これはバッテリーが劣化したり消耗したりした場合、PC利用者自身が新しいバッテリーに交換できる機構だ。バッテリーは強度や絶縁性に優れたフィルムで保護されており、PC内部の基板に触れることなく安全に交換できる。
「ノートPCを使っていると、バッテリーだけ劣化してしまい使えなくなるケースが少なからずあります。そうした際に、代わりのバッテリーと交換することで、ダウンタイムを極力短く抑えられます。これはStartin’の考え方に近い設計です。つまり、これまでは業務のためにWi-Fiスポットを探す手間や時間が必要でした。しかし、Startin’による通信使い放題によって、場所やデータ量を気にせずに業務が行えるようになります。バッテリーや通信によって業務ができない時間を作らない付加価値を生み出せる組み合わせであると自負しています」と杉野氏は語る。
常時接続でセキュリティも強化
DynabookはStartin’対応のノートPCと組み合わせることでよりビジネスを効率化するソリューションも展開している。それが「PCアセットモニタリングサービス」だ。Dynabook ソリューションビジネス統括部 国内ソリューション企画部 部長 早瀬 健氏は「PCアセットモニタリングサービスは、PC1台1台の利用者や位置情報、状態を管理できる資産管理台帳システムです。PC側にエージェントをインストールしてもらうことで、PCの情報を定期的にサーバーにアップし、状況をモニタリングします。例えば長くPCやスマホを使うと、バッテリーの持ちが悪くなりますが、このようなバッテリーをはじめとした機器の不調検知も本サービスで行えます。また、本サービスではPCの位置情報も取得しています。しかし、ネットワークに接続していない場合はその位置情報を正確に調べることができません。eSIMが搭載されていれば、PC単体で常時ネットワークに接続できますので、このような位置情報を精度高く特定可能です。万が一紛失した場合でも安心でしょう」と語る。
執筆時点のStartin’対応端末は、dynabook X83/LYのみだが、今後順次対応端末を増やしていく予定だ。「昨年11月に、dynabook X83/LYと同じくバッテリーを取り外せるタイプのノートPCから14インチサイズの『dynabook X74』を発表しましたが、こちらの製品も近々Startin’に対応予定です」と早瀬氏。将来的には、学校向けの端末なども対応していきたい考えだ。
最後に杉野氏は、次のように販売パートナーへメッセージを送った。「Windows 10のサポート終了(EOS)が迫っていることもあり、PC市場は活況を呈しています。またAIを今後4年間使うPCを選ぶに当たって、当社のStartin’に対応しておりバッテリーも取り外せるユニークさを持ったdynabook X83/LYは、訴求力の高い製品といえるでしょう。時代の先を見据えたハードウェアと通信インフラがセットになった本製品を、ぜひ提案してほしいと思います」

アンテナ設計にこだわる
eSIM搭載端末が使えるVAIOの「法人向けデータ通信プラン」
KDDIのConnectIN記者発表会において、Dynabookと共にConnectIN対応を発表したのがVAIOだ。後日発表とされていたサービス詳細が2025年3月13日に発表され「法人向けデータ通信プラン」の名称で、法人向けに5年間データ通信無制限の通信利用権が付属するモバイルPCの発売がスタートした。その詳細を見ていこう。

無線WAN搭載率30%のVAIO PC
VAIOは、2007年の3Gの時代から、無線WANをPCに搭載してきた。そうした時代に先駆けた接続性へのこだわりは現在も続いており、アンテナの設置部分や、アンテナ性能にこだわった物づくりを続けている。実際に無線WANを搭載した法人向けPCの需要は高く、同社の法人向けPCの無線WAN搭載率は30%を超えている。国内法人向けノートPCの出荷台数全体は横ばいながら、VAIOの法人向けノートPCは高い成長を維持している。その成長を支えているのが、この無線WAN搭載PCの存在だという。
VAIO 開発本部 プロダクトセンター シニアUXマネージャー 鈴木陽輔氏は「ハードウェアの設計に加えて、当社は2015年からPC向けに最適化されたVAIOオリジナルのSIMカードの販売にも取り組んでいました。一方でPCのeSIM対応を進める中で、eSIM搭載についても検討を進めていました。そのタイミングでKDDIさまから、今回のConnectINのお話をいただきました」と協業の経緯を語る。
ConnectINを採用した法人向けデータ通信プランは、ノートPCに5年間のデータ通信無制限の通信利用権が付属する。5年間という期間を設定した理由について鈴木氏は「当社の法人向けPCのライフサイクルのメインが4〜5年であるためです。正直、期間の設定は4年と5年で悩みましたが、最近5年の案件が増えていることもあり、この期間を設定しました」と語る。なお、契約期間中に端末が故障し、通信モジュールが変更になった場合でも、eSIMの再発行手続きをオンラインで行うことで移行手続きが取れるようだ。

従業員の増減にも対応しやすいeSIM
法人向けデータ通信プラン対応のPCでeSIMを使えるようにする手続きも全てオンラインで完結する。回線の本人確認や開通の続きなどはKDDIに委託しているという。
月額通信料のSIMカードと比較して、法人向けデータ通信プランによるeSIMの通信環境はどういったメリットがあるのだろうか。鈴木氏は「例えば5年間、月額で通信料金を支払うと相当な額になると思います。一方で法人向けデータ通信プランはPCと5年間の無制限データ通信が一体になっていますので、PC本体と通信料金を別に支払う場合と比較すると間違いなくコストを抑えて利用できるでしょう。また管理者にとってのメリットも大きいです。月額で通信料を支払っている場合、毎月の支払いはもちろん、従業員が退職したり採用したりして回線が減ったり増えたりした場合の管理も必要になります。それらの管理の手間が大きく低減できる点はメリットといえるでしょう」と語る。
一方で、VAIOでは自社オリジナルのプリペイド型SIMカードを販売している。これらとのeSIMの棲み分けはどのように進めていくのだろうか。「当社で販売しているSIMカードはプリペイドタイプのため、今回の5年間使い放題のeSIMとは別物と考えています。ある一定の期間、通信環境が必要な人に購入いただけるのが当社のSIMカードであり、用途としては異なるでしょう」と鈴木氏は説明した。

アンテナ設計にもこだわる
今回、法人向けデータ通信プランに対応した端末は「VAIO Pro PK-R」「VAIO Pro PK」「VAIO Pro PJ」「VAIO Pro PG」の4機種※だ。この内、13.3インチワイドモニターを搭載したモバイルPCであるVAIO Pro PGは、法人向けデータ通信プランと同日に発表された新製品となる。
VAIO Pro PGは、VAIOが提唱する“シン・モバイルワーク時代”におけるビジネスモバイルPCのベストバランスを追求したノートPCだ。同社のPCラインアップではアドバンスド(ミドルレンジ)の立ち位置のモデルで、価格と性能のバランスが良いモデルだという。
「13.3インチサイズの端末のため、かばんにも収納しやすく新幹線のテーブルでも使えます。本体重量約1,019kg(最軽量構成時)と軽く、持ち運びやすいモバイルノートです。本製品でこだわっているのが、アンテナです。新設計となる無線WANと無線LANのコンボアンテナを搭載し、ディスプレイ上部の狭額縁はそのままに、5Gにも対応しています。またアンテナの位置にもこだわっており、使用時に最も高い位置となるディスプレイ上部に搭載することで、周辺環境の影響を受けにくく、安定した高速ワイヤレス通信が可能です。この場所はカメラも組み込むためスペースが狭く、そこにアンテナを搭載するのは技術的に難しいのですが、安定した通信接続を実現するためこだわったポイントです」と鈴木氏。
またVAIOは、長野県安曇野市にある本社・工場に5Gまで測定が可能なアンテナ測定設備を完備しており、快適な通信が行えるか否かを確かな環境でチェックした上で製品化している。
「ConnectINを採用することを発表して以降、大変大きな反響をいただいています。法人向けデータ通信プラン対応の端末の反応も非常に良いですね。VAIOとしても、KDDIさまの力を借りて、当社のサービスとして展開できることを非常にうれしく思っています。VAIOだから、eSIMが付いているから選んでもらえるような訴求力のあるプランだと思いますので、ぜひお客さまに提案いただけたらうれしいです。また、法人向けデータ通信プランが実現する新しい働き方は、当社が提供する次世代リモートアクセスサービス『ソコワク』との相性も非常に良いため、組み合わせての提案もお薦めです」と鈴木氏。VAIOではリモートワークの生産性を向上するモバイルモニター「VAIO Vision+ 14P」をはじめとした周辺機器も提供しており、通信が付属したPC本体に加え、ソリューション、周辺機器を組み合わせることで、エンドユーザーの要望に合わせた提案が行えるだろう。
※これらのモデルのLTE/5G搭載時に対応

(左)5G/LTE無線WAN+無線LANのコンボアンテナを新規開発し、ディスプレイ上部に搭載した。
(右)スピーカー・オーディオジャック子基板とのサイズバランスを調整し、アンテナスペースを確保することで、十分な5Gパフォーマンスを発揮できるようにした。