いますぐ読みたい「働き方ブック」レビュー - 第2回
働き方は「制度」だけ作っても改革できないことがよくわかる一冊
『絶対失敗しないワークスタイル変革』日経ストラテジー編
「世間は働き方改革と騒がしいが、一体何をすればいいのやら……」と様子見する大多数を尻目に、まず「やってみた」先進企業30社の事例をまとめたのが本書。多くの事例に共通するのは制度やモノを揃えてからの地道でこまめな取り組みだ。
文/成田全
前回は残業ばかりで休めない職場はそもそも何が問題なのか、原因はどこにあるのか、どう解消したらいいのかを指南する『職場の問題地図』をご紹介した。そこから今回は一歩踏み込み、実際に企業が取り組んだ事例を紹介するムック『絶対失敗しないワークスタイル変革』を取り上げたい。各企業の担当者は、働きやすい環境の実現を阻む問題をどう見つけ、どんな方法で解決したのか。また実現までの苦労や停滞、さらには失敗までを取材した30社の事例が1冊にまとめられている。
どのように「ワークスタイル」を変えるのか
本書で最初に取り上げられているのは、研究開発部門でのワークスタイル変革だ。冒頭で紹介されているコニカミノルタでは、拠点敷地内に分散していた研究所を集約し、研究者同士がコミュニケーションを取りやすい仕掛けを作った。それを実現したのは、生産性を向上させるために集まった若手や中堅社員中心のプロジェクトチームだ。100人で1000以上のアイデア・問題点を挙げ、重要度と難易度で分類して実施。人の流れなどを見直したことで、異なる部署の研究者が連携しやすくなったという。しかし当初の目的を達成していないものについては改めて社員へ向けて「こうしましょう」とアナウンスしているそうだ。
他にはサントリーやダイキン工業などの事例が紹介されているが、部署などの垣根を越えた横のつながりを重視して、多くの意見を取り入れてブラッシュアップし、浸透していなかったりわかりづらいことは勉強会を行って周知徹底を図るなど、前回『職場の問題地図』で紹介した、現場の声を上司や経営陣へ上げること、誰が何をやっているのかわからない「職場のタコツボ化」の抑制、そして「定義→測定→報告→改善」のサイクルを回すことなどをきちんと行っている。単に制度やシステムを作っただけではダメなことがよくわかるだろう。
テレワーク、時短勤務、ペーパーレス化を成功させるには?
現場でボトルネックになっていること、御社では何が思い浮かぶだろう? 「残業や休日出勤をやめたい」「女性や高齢の社員にもっと活躍してほしい」「ダメ会議をなくしたい」「社員の知恵を集めたい」「仕事のスピードを上げたい」「ペーパーレス化したい」「テレワークで生産性が落ちないか不安」「支給したスマホやタブレットが使われていない」「営業先から会社に戻る時間がもったいない」……こんな問題に心当たりのある方は、今すぐ本書を読んでもらいたい。
iPadを導入した小岩井乳業では、取引先で売り場を撮影して現場を状況報告、隙間時間でのメールチェック、販促資料や販売実績データの取り寄せ、直帰時の営業日報の作成や部下の日報確認など、タブレット端末が様々な用途で使われている。しかし「iPadのキーボードでは、マウスの右クリックやファンクションキーが使えない」というような、ある意味「小さな意見」までも吸い上げて改善したり、独自のアプリを開発して「使ってみてください」とこまめに社内へ発信するなど、社員がiPadを思わず使いたくなるような取り組みがなされている。その努力が浸透し、最近では「こんな使い方をしてみたい」という相談も増えているそうだ。
テレワークや時短勤務といった新しい働き方を現場に定着させるには、「なぜこれをやらないといけないのか」という説明を丁寧に繰り返し、社員のやる気を引き出すことがキモとなる。「今月から残業しないでって上から言われたから、ヨロシク」「でも残業しないと……」「もう決まっちゃったからさ、なんとかしてよ」というようなやり取りがある職場には明るい未来はないのだ。
「ワークスタイル変革」へのニーズを感じている企業は81%もあるが……
本書コラムによると、「ワークスタイル変革へのニーズを感じている」と回答した企業はなんと81%もあるという(国内企業200社へ調査。デロイト トーマツ コンサルティング調べ)。しかし実際に変革を実施、もしくは実施中と答えた企業は34%にとどまっている。その理由について、デロイト トーマツ コンサルティングの田中公康マネジャーは「時間に基づく業務管理、評価といった人事・労務制度がネックになっている」と語っている。IT関係の急速な進化などに戸惑い、多くの企業がこれまでのやり方を変えず、様子見している状態なのだ。
しかし本書を読めば、ワークスタイル変革によって労働環境が劇的に改善し、生産性が向上していることがわかる。さらにはA.I.(人工知能)やロボット、ドローンなどを使った取り組みも紹介されており、こうした最新のワークスタイル変革が想像以上のスピードで進んでいることを知れば、のんびり様子見している場合でないことは明白だ。ここ最近旧態依然とした企業が次々と苦境に陥っているが、それは組織や縄張りを守ろうとして変化を拒絶したり、問題を先送りしてきた企業の当然の帰結なのである。そうならないためにも、本書をヒントにワークスタイル変革を早急に推進していただきたい。
月末の金曜日は仕事を早目に終え、豊かな週末を楽しもうという「プレミアムフライデー」が2017年2月24日から始まった。もちろんこうした傾向は歓迎したいが、「まず制度ありき」だけでは事態は動かない。またプログラムやデバイスなどを導入するだけでもダメだ。働き方を変えるには、まず働く人の意識が変わらねばならない。そこから様々な問題点を洗い出し、取捨選択して新しいやり方を取り入れることで会社が変わり、それはやがて社会を変えていくことにつながるのだ。
筆者プロフィール:成田全(ナリタタモツ)
1971年生まれ。大学卒業後、イベント制作、雑誌編集、漫画編集を経てフリー。インタビューや書評を中心に執筆。文学、漫画、映画、ドラマ、テレビ、芸能、お笑い、事件、自然科学、音楽、美術、地理、歴史、食、酒、社会、雑学など幅広いジャンルを横断した情報と知識を活かし、これまでに作家や芸能人、会社トップから一般人まで延べ1500人以上を取材。