いますぐ読みたい「働き方ブック」レビュー - 第6回
これは女性が活躍できる会社を作るための“バイブル”だ!
『女性活躍の推進 資生堂が実践するダイバーシティ経営と働き方改革』山極清子著
働き方改革が叫ばれるはるか昔から“女性が活躍しやすい会社作り”を続けてきた資生堂。本書は、同社で女性活躍を推進してきた筆者がその改革内容から問題点・解決策までを具体的に解説した一冊だ。改革を試行する担当者や経営層にとっては“バイブル”になるだろう。
文/成田全
女性が仕事で活躍すると社会に何が起こるのか?
「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(女性活躍推進法)が2015年8月に成立してから約2年。女性管理職や生き生きと働く人が増える一方で、「女性が活躍する=働く女性が増えればOK」と短絡的に考える人もまだいる。もちろんそれは“大きな間違い”だ。女性が活躍すると社会にどんな変化が起きるのか? 今回ご紹介するのは、その理解を深めるための一冊だ。
女性が活躍する会社の代名詞・資生堂で女性活躍を推進
『女性活躍の推進 資生堂が実践するダイバーシティ経営と働き方改革』は、資生堂で女性活躍を推進した山極清子氏による著作である。
1872年(明治5年)に東京・銀座で創業した資生堂は、他の企業に先駆けて女性の登用を進めてきた会社であったが、初めて女性が取締役となったのは1985年のことだったそうだ。その2年後、第10代社長に就任した福原義春氏が、風通しが悪い「官僚主義」と、終身雇用・正社員・男性中心の就労モデルという「大企業病」に陥り、活力が低下していた資生堂の経営改革を断行。その後もたゆまぬ努力を続け、現在では『日経WOMAN』の「女性が活躍する会社BEST100」で2014〜16年度に3年連続1位を記録する(2017年度は各社が女性活躍を推進したことで、トップとわずか1.6ポイント差で8位となった)など、日本でも指折りの“女性が活躍する会社”となった。
しかし女性登用先駆の資生堂とはいえ、改革に取り組んですぐに効果があらわれたわけではない。現在のようになるまでには数え切れないほどのトライ・アンド・エラーが繰り返されてきた。本書はその「プロセス・イノベーションの歴史」が克明に記録されている。
この本は大きく2つのパートに分かれており、女性活躍については「I『女性活躍』を加速させる道筋」で明快に説明されている。「I」はわずか27ページしかないのだが(本書は全体で200ページ超ある)、「働く女性が増えればOK」という浅はかな考えは、このパートを読むと見事なまでに粉砕されることとなる。
「働く女性が増えればOK」ではない理由
本書の「はじめに」で山極氏は資生堂での20年にわたる女性活躍推進を経験し、「2つの確信」を得たと書いている。
第一の確信は「女性管理職登用は、女性の能力を引き出すことを通じて企業の経営パフォーマンスを高め、かつ女性はもちろんのこと男性にとっても有益な、新たなライフスタイルを創出し、成熟した社会をもたらすこと」だ。そして第二は「女性の活躍と登用を実現する鍵を握るのが、『デュアル・アプローチ』だということである。ジェンダー・ダイバーシティ施策を単独で進めるのではなく、ワーク・ライフ・バランス施策と組み合わせて(デュアルに)進めていくことが肝心なのだ。これが、女性管理職登用に必要な、もっとも効果的な進め方である」と述べている。
この2つの確信についての理論的根拠が「I『女性活躍』を加速させる道筋」でひとつひとつ丁寧に説明されていく。女性人材の効果的な登用が進んでいない原因は、男女の固定的役割分担(家事や育児は女性の仕事と決めつけることなど)があることや、先進国ではほぼ消滅している年齢階級別労働力率の「M字カーブ」(30歳前後で出産や育児を行う女性が増えて就業率が下がること)がいまだに日本では存在すること、男性中心社会を形成している日本的雇用の慣行(年功序列と終身雇用、そして男は外で働き女は家庭を守るという高度経済成長期のモデル)が根底にあることだと指摘。そう遠くない将来に労働力が不足して少子高齢化が進み、さらなるグローバル化が求められる日本は、これらの古い考えをなげうって多様な属性を活かすことが必須となる。
そのために必要なのが「ジェンダー・ダイバーシティ・マネジメント」である。日本の高度経済成長期を支えたが、とっくに期限切れしている「大量生産・価格競争」からの脱却のためには多様な人材を受け入れ、旧態依然とした男性中心の意思決定システムを変えること、これこそが女性活躍の推進の肝だ(ジェンダー・ダイバーシティ・マネジメントには女性だけではなく少数民族や移民、マイノリティといった多様な人材も含まれる)。そして男性と家事や育児などを分担するなどジェンダー平等を進めることで、仕事と生活を両立させる「ワーク・ライフ・バランス」の環境が整う。この両輪で進んでいくのが「デュアル・アプローチ」なのだ。
本書の第2章は改革担当者の“バイブル”に
そして続く「II 資生堂における女性管理職登用の取り組み」では、著者の山極氏が約40年間勤めた資生堂での女性活躍に関する歴史と、どんなPDCAサイクルによって推進したのかが説明されている。
このパートでは資生堂がどんな改革を行い、どのような摩擦が生まれ、それを解消するための施策として何を提示したのかという、各フェーズで行き当たる問題(どの会社も同じようなところで壁にぶち当たることだろう)を取り上げている。具体的な内容が時系列、そしてケースごとに詳細にまとめられているので、女性活躍推進で各所からいろいろな意見が出てまとめ切れず、頭を痛めている担当者は“バイブル”として活用することを強くお勧めしたい。
山極氏は「あとがき」で、日本のジェンダー平等度(2015年度)は145ヵ国中101位でG7の中で最低であること、また、時間当たり労働生産性(2014年)はOECD加盟34ヵ国の中で21位とどちらも低いことから、「こんなことで、日本の経済や社会が今後まともに維持発展できるとはとても思えない」と厳しく指摘している。ディストピアな未来にならないよう、本書を参考にして女性を積極的に登用し、硬直化した会社と社会に風穴を開けるような働き方改革をさらに推進してもらいたい。
筆者プロフィール:成田全(ナリタタモツ)
1971年生まれ。大学卒業後、イベント制作、雑誌編集、漫画編集を経てフリー。インタビューや書評を中心に執筆。文学、漫画、映画、ドラマ、テレビ、芸能、お笑い、事件、自然科学、音楽、美術、地理、歴史、食、酒、社会、雑学など幅広いジャンルを横断した情報と知識を活かし、これまでに作家や芸能人、会社トップから一般人まで延べ1500人以上を取材。