いますぐ読みたい「働き方ブック」レビュー - 第8回
あのグーグルでさえ女性の働き方改革が必要だった。いわんや、我が社をや
『ワーク・スマート チームとテクノロジーが「できる」を増やす』岩村水樹著
最先端IT企業にして、働きやすさには定評あるグーグル。そんな同社でさえ、かつては育児と仕事の両立が困難だった……! 本書は子育て中のグーグル専務執行役員が行った働き方改革の記録、そして貴重なアイデア集だ。キーワードは「志は大きく、でもスタートは小さく」。
文/成田全
実はあの“グーグル”も働きづらかった!?
グーグルといえば多くの「働きやすい企業ランキング」で1位、もしくは必ず上位に入っている企業だ。しかしグーグルの専務執行役員CMOである岩村水樹氏による著書『ワーク・スマート チームとテクノロジーが「できる」を増やす』の冒頭にある一文は衝撃的なものだ。
「子どもを産んだあと、仕事と家庭を両立できるとは思えないんです」
この発言は、岩村氏が2010年にグーグルをよりよくするため、女性社員で何ができるかを検討するグループ「Women@Google」を立ち上げた際の聞き取りの現場で出てきた、グーグル東京オフィスで働いていた女性のものだという。自身が第一子を出産後にグーグルへ入社したワーキングマザーで、様々な社会的な問題についても把握していると思っていた岩村氏だったが、想像と違う現実があることに初めて気付かされたという。
そこから「働く女性にとって、グーグルをよりやりがいがあり、働きやすい環境にするにはどうしたらいいだろう」という最初の目標が決まり、問題を見つけて改善していく中で、女性だけではなく働くすべての人がやりがいを持って働き、幸せを感じられる生活を送ってほしい、ということへシフトしていくことになる。本書にはその活動の軌跡と、スローガンとして掲げた「Work Smart, Live Happily.(スマートに働き、幸せに生きよう。)」をどう実現すべきかが収められている。
「グーグルだからできた」で終わらせてはいけない
働き方改革というとつい「時短」や「効率化」にばかり目が行ってしまいがちだが、主眼を置くべきはその先に生み出される「イノベーション」にある。この本の主題は、副題にある「できる」を増やしてイノベーションを創出することにあるが、そのために必要なのが「テクノロジー」と「チーム」だという。
「テクノロジー」は言わずもがなだ。リモートワークやビデオカンファレンス、クラウド、スマートフォンを活用し、いつでもどこでも働けるようにして「できる」ことを増やしていく。そしてそのテクノロジーをツールとして有効に活用、無駄を排して情報を共有し、「チームを“家族”にする」ことが重要だと指摘している。日本人はプライベートを開陳するのを往々にして嫌がるが、人生を分かち合い、お互いに支え合える信頼感とカルチャーを作ることが、安心して働き続ける環境につながっていくと岩村氏は記している
定期的に1対1のミーティングを行い、感謝や謝罪の気持ちはしっかり口に出す。職場の仲間も自分の家族も「チーム」の一員として捉える。どんな仕事をしているのかを同僚やパートナー、子どもたちに話し、悩みがあれば相談をしてアドバイスをもらう。そしてもっと自分を認め、褒めることをしましょうというポジティブなメッセージもある。日々ギリギリ、自分のことで精一杯の方には、目からウロコな発見が多い一冊だ。
ただこうした取り組みを見て「グーグルだからできたのであって、自分の会社では無理」と思う人もいるかもしれない。しかし岩村氏は「グーグルだからできた」で終わらせてはいけないと強調している。まずは問題への向き合い方や解決する方法にはどんなものがあるのか知識を得て、それをどう取り入れ、職場や自分に合ったやり方に変えていくかが大事だ。本書にはそのためのヒントやアイデアがたくさん詰まっている。
現在、Googleのアジア太平洋地域全体の取り組みとして「Womenwill」プロジェクトが稼働中。
志は大きく、でもスタートは小さく
本書を読んで感じたのは、日本人特有の「できないことばかりをあげつらって、今できることを探そうとしない」事なかれ主義、そして「最初から完全・完璧なものにしようと周到に準備し、少しでもミスがあったら取り組み自体をやめてしまう」ことが働き方改革を阻んでいるということだ。
それには本書にある「Think Big, Start Small(志は大きく、スタートは小さく)」という考え方を取り入れることが肝要だ。グーグルに限らず、大きなイノベーションを生み出している企業は、アイデアが出たらまず小さなチャレンジを行ってそれを成功させ、ダメなところには改良を加えてさらに大きく発展させることで、日々の暮らしを大転換するものを創り出している。働き方改革も同じだ。完璧な状態で動き出すことを考えていたら、いつまでたっても始まらないのだ。
ちなみに本書で言及されている、余暇や日々の生活の中からアイデアを得ることであったり、終了時間がわからない「野球型」から試合時間の決まっている「サッカー型」へ仕事のやり方を変えようという内容は、アイリスオーヤマ社長である大山健太郎氏の『アイリスオーヤマの経営理念 大山健太郎 私の履歴書』(日本経済新聞出版社)にも同じ趣旨の内容が載っており、個人的に驚いてしまった。やはり物事を突き詰めていくと、道程は違えども同じ頂上に到達するのだろう。
「働き方を変えること」がなぜ重要なのかという「Why」が定着し、何をすべきかの「What」も揃った。そこからどう無駄を省いて時間を作り出し、やりがいを持って働いて幸せに生きられるかの具体的な方法である「How」こそが、それぞれのクリエイティビティ、ひいては日本のイノベーションにつながると思う、という岩村氏。“ワーク・スマート”を合言葉に、まずは小さなことから取り組みを始めることの大切さにぜひとも気づいてもらいたい。
筆者プロフィール:成田全(ナリタタモツ)
1971年生まれ。大学卒業後、イベント制作、雑誌編集、漫画編集を経てフリー。インタビューや書評を中心に執筆。文学、漫画、映画、ドラマ、テレビ、芸能、お笑い、事件、自然科学、音楽、美術、地理、歴史、食、酒、社会、雑学など幅広いジャンルを横断した情報と知識を活かし、これまでに作家や芸能人、会社トップから一般人まで延べ1500人以上を取材。