働き方改革のキーワード - 第9回
裁量労働制を拡大すれば残業させ放題に!?
制度拡大で労働時間が短縮するわけではない
働き方改革で国会が揺れています。労働基準法改正案のうち「裁量労働制の拡大」にかかわる答弁の元データに誤りがあったためです。今回は、話題となった裁量労働制とは何か、「拡大」によってどう変わるのかを紹介しましょう。
文/まつもとあつし
改めて問われる「裁量労働制」
国会が揺れています。労働基準法改正案の「裁量労働制の拡大」に対して批判が起こり、法案から削除されるに至りました。「厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般労働者よりも短いというデータもある」という安倍首相の答弁のもとになったデータに誤りがあったためです。調査の段階で、一般労働者には「1ヵ月で最も長く働いた日」の残業時間を聞いたのに対して、裁量労働者には「1日の労働時間」を聞いており、そもそも比較できない数値を厚生労働省が集計していたのです。
他の調査では裁量労働者の方が働く時間が長い、というデータもあり、裁量労働制の拡大によって労働時間が短くなる、という根拠は現在のところ存在しません。
現状、裁量労働制は、研究開発・記者・プロデューサー・士業などの「専門業務型」と経営企画に携わる人を想定した「企画業務型」の2種に限定されています。労使の合意を前提として「みなし労働時間」が適用されますが、「使用者の具体的な指示管理」がある場合は労働時間の算定が可能とされその対象となりません。
この「みなし労働時間」は、事業場外労働に対しても利用可能な制度となっており、テレワークの推進にあたっても検討されることが増えると考えられています。
裁量労働制はどう変わるのか?
今回問題となった「裁量労働制の拡大」は、上記の「企画業務型」の対象業務が拡大されるというものです。具体的には、下記の2つの業務が加わることになります。
- 事業の運営に関する事項について繰り返し、企画、立案、調査、分析を行い、かつ、これらの成果を活用し、当該事項の実施を管理するとともにその実施状況の評価を行う業務
- 法人である顧客の事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析を行い、かつ、これらの成果を活用した商品の販売または役務の提供に係る当該顧客との契約の締結の勧誘または締結を行う業務
1は、これまで経営企画に限定されていたものが、全社レベルの品質管理業務などにも拡大されると考えられます。2については、「課題解決型提案営業」といった取引先のニーズに応える形で新商品を企画・販売する営業職なども該当することになるとされています。
これに伴い、有給休暇の付与・健康診断の実施などはより厳格に定められる一方、報告の手続きは簡素化されることも予定されています。
確かに柔軟な働き方の実現には有効な裁量労働制ですが、「実際には労働者に裁量がないにも関わらず、みなし労働時間が適用され、残業させ放題になっている」といった批判もあります。健康確保ももちろん大切なのですが、「使用者の具体的な指示管理がなく、労働者の裁量に完全に委ねられている」という大前提が満たされているのか、まずはあらためて確認される必要があると言えそうです。
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筆者プロフィール:まつもとあつし
スマートワーク総研所長。ITベンチャー・出版社・広告代理店・映像会社などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。ASCII.jp・ITmedia・ダ・ヴィンチニュースなどに寄稿。著書に『知的生産の技術とセンス』(マイナビ新書/堀正岳との共著)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)、『コンテンツビジネス・デジタルシフト』(NTT出版)など。