働き方改革のキーワード - 第27回
3密回避だけではもったいない!「ニューノーマル」で新たな商機を
日本でもSDGsがより強く求められるように
コロナ禍で一変した社会では、SDGs(持続可能な開発目標)が目指す5つの特徴(普遍・包摂・参画・統合・透明)が、より強く求められるだろう。その新しい社会の在り方こそが新常態・ニューノーマルと呼ばれるものだ。
文/まつもとあつし
With/Postコロナ時代に不可避の「新常態」
新型コロナウイルス(COVID-19)によって、私たちの生活そして働き方は大きく変わりました。「3密を避けよう」という掛け声を毎日目にしながら、感染防止と日常生活そして経済活動をどのように両立していくのか、誰もが難しい判断を迫られています。
空間に漂う無症状の感染者からのマイクロ飛沫を吸い込むことで感染するリスクがあることは報道等でよく知られるようになりましたが、忘れてはいけないのは、このウイルスはプラスチックや金属などの固形物の表面で数日間生存できるという研究結果もあることです。
実際、防護服を身に着けて作業している病院でも、複数の人が使用するタブレットやパソコンを介して感染した例も報告されています。いくら密を避けても、人が集まり同じ場所やモノを共有すれば感染のリスクがある――これは、つまり3密を避けるだけでは、感染リスクをゼロにすることはできないということを意味しています。厚生労働省が発表した「新しい生活様式」を見ても、3密回避だけではなくテレワークやオンライン会議、ローテーション勤務など働き方の新しいスタイルを例として挙げています。
そこでもう1つのキーワード「ニューノーマル」が重要となってきます。日本では「新しい生活様式」という言葉がよく用いられますが、本来は「新常態」つまり、新しいノーマル=「当たり前の」状態という風に理解した方が良い言葉なのです。
「ニューノーマル」は経済用語
ニューノーマルという言葉に注目が集まったのは、実は新型コロナ問題より前のことです。2008年のリーマン・ショックの際、それまでのグローバリゼーションや資本投下による野放図な成長を前提とした急速な経済発展の限界が訪れたタイミングでエコノミストのモハメド・エラリアン氏が提唱した言葉なのです。
Re NEW NORMAL 2.0:
— Mohamed A. El-Erian (@elerianm) May 23, 2020
Thoughts on why, on current trends,the global economy risks coming out of the COVID-19 shock facing a paradigm of even more sluggish/unequal growth (a multiple of the original New Normal, and less stable) and what can be done to avoid ithttps://t.co/pzqmrz9LD2
リーマン・ショック後の世界は、グローバル主義からローカルで持続可能な経済発展へと考え方の転換(パラダイムシフト)が進んでいます。2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)も、そういったパラダイムシフトの1つの表れと言えるでしょう。
では、コロナ禍におけるニューノーマル(モハメド・エラリアン氏はこれをニューノーマル2.0と呼んでいます)とはどのようなものなのでしょうか? 経済の観点ではすでにリーマン・ショックを超える影響が、投資市場だけでなく、ローカルからグローバルに拡がる需要と共有のあらゆる面に及ぶと多くの経済学者や実業家が予想しています。経済へのインパクトは政治や社会にも影響を及ぼすため、リーマン・ショック前後である意味「世界観」が変わったのと同様、あるいはそれ以上の変化が訪れることは不可避です。全ての企業は生き残りを図りつつ、コロナ後の新しい社会に対応する行動を始めなければなりません。
いま日本でもいくつかの企業が進めている、脱東京、脱オフィスといった動きは表面的に見て取りやすいニューノーマルへの対応のごく一部だと言えるでしょう。実際には、世界的にサプライチェーンの再構築も進み始めています。世界経済のなかでの日本の位置づけも変わっていくなか、私たちの働き方も変わらざるを得ません。習慣に身を委ねてこれまで通りのやり方を維持しようとすれば、それは変化する市場から取り残されることを意味します。
コロナ後のそれまでとは異なる世界の新しい姿=ニューノーマルが具体的にどのようなものになるかは、まだ予測不可能です。しかし、SDGsが目指す5つの特徴(普遍・包摂・参画・統合・透明)が、より強く求められる社会になることは間違いないでしょう。いま私たちが採る選択が、この先10年のスパンでの個人・社会のあり方を決定することになるのです。
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筆者プロフィール:まつもとあつし
スマートワーク総研所長。ジャーナリスト・コンテンツプロデューサー・研究者(敬和学園大学人文学部国際文化学科准教授・法政大学/専修大学講師)。ITベンチャー・出版社・広告代理店・映像会社などを経て、フリーランスに。ASCII.JP・ITmedia・ダ・ヴィンチなどに寄稿。著書に「コンテンツビジネス・デジタルシフト」(NTT出版)「ソーシャルゲームのすごい仕組み」(アスキー新書)など。