【特集】テレワーク反省会 第3回
Web会議は効果的に運営できているか?
~新機能への気配りと、会議自体の見直しを
Web会議疲れを訴える人が多い。従来の会議のやり方をできるだけ踏襲してWeb会議を実施しようとすることが原因になっているケースが目立つ。リアルの会議とWeb会議の相違点を知り、Web会議に適した運用方法を確立していくことが、ニューノーマルな会議運営の秘訣だ。
文/狐塚 淳
Web会議の機能は発展途上
コロナ禍の下でのテレワークによって、最も導入が進んだソリューションがWeb会議システムだが、不満を述べる人は多い。リアルの会議と同じくらい時間をかけているのに、なかなか話が進まず決定に至らないという愚痴を聞く。あるいは、Web会議はリアルの会議の倍以上疲れるという感想を述べる人も多い。まだ慣れていないからだと自分に言い聞かせている人も多いだろうが、原因はそれだけではない。リアルの会議とWeb会議の差異を見極め、テレワーク継続のためには必須になるWeb会議と上手く付き合っていく方法を考えていこう。
まず、最初に認識しておいてほしいのが、Web会議システムは、ワードプロセッサーやスプレッドシートなどとは異なり、まだ発展途上のソリューションだということだ。多人数の顔と音声、チャットの書き込みなどでコミュニケーションを成立させるという枠組みは決まっているが、細部については進化中だ。
話題になった参加者の画面上での矩形区切りをやめるTeamsのTogetherモードをはじめ、背景にプレゼンを映し出したり、音声を即時にテロップ化したり(日本語は未実装)など、この数か月でWeb会議システムに追加された新機能は多い。特にTeamsとZoomは毎月のように新機能を追加している。Teamsには時系列の新機能紹介ページ がある。 Zoomは10月14日 に、Teamsに対抗する機能などを発表している。
つまり、まだWeb会議のあるべき形、スタンダードは決定していない。これからもWeb会議を利用していこうというビジネスマンは、既存の機能だけで良しとせず、こうした機能進歩に目を配り採用することで、より円滑なコミュニケーションを心がけていく必要があるだろう。
実は、Web会議にはPCはパフォーマンス不足
Web会議の背景の設定や並びを変更するTogetherモードは、参加者を矩形で区切った従来の画面に比べ、人物の認識を楽にしWeb会議疲れを軽減する。囲碁や将棋などボードゲームで形勢判断をする難しさを考えるとわかりやすいかも知れない。これは、Web会議の負担軽減を図る心理的なアプローチだ。心理面であってソフトウェア的な機能改善による解決ではないのは、PCのパフォーマンスが不足しているためだ。
以前から使用されていた、遠隔地の会議室同士を結ぶCiscoに代表されるビデオ会議システム(ビデオ会議端末製品ガイド)を考えてほしい。会議に特化したアプライアンスを双方の会議室に設置するシステムは、複数のマイクを内蔵したり、話している人をカメラが検出して自動的に追尾するスピーカートラック機能を搭載するなど、会議の理解しやすさを実現するソリューションだ。
しかし、テレワーカーのノートPCにはそこまでの機能は期待できない。内蔵のマイクやカメラを高機能な外付けのものに変え、ドーナツ型のライトで映りをよくしようという記事をよく見かけるが、これはPCのパフォーマンス不足を補うための提案だ。
パフォーマンス的には、ゲーミングPCレベルを対象にするならいろいろな開発が可能だろうが、現在の標準的なPCでのWeb会議を考えた場合、他のアプローチが必要だ。
GPUベンダーのNVIDIAは、同社のクラウド側でAIを使用して動画や音声を処理、Web会議の品質を向上させるWeb会議プラットフォーム「NVIDIA Maxine」を10月に発表した。当初は開発者向けということだが、こうした技術が普及すれば、Web会議はより快適なものになっていくだろう。
しかし、現在のWeb会議を企業努力で改善する方法もある。
生産性向上のためには会議の見直しが不可避だったはず
昨年、夏季に週休三日制にチャレンジしたマイクロソフトは、そのタイミングでの会議の効率化を指標として計測し発表している。それによると、制限時間を30分までに短縮した会議の実施比率が前年同月に比べ46%上昇し、リモート会議の実施比率が21%上昇、総合的な労働生産性は39.9%上昇したという。
マイクロソフトの例を見てもわかるように、労働生産性向上を推進するうえで、部門やプロジェクト単位での、会議の再設計を避けて通ることはできない。会議時間や参加人数の総和は人件費そのものだ。
会議の参加人数を減らし、会議時間を削減するために必要なのは、会議自体の組み立ての見直しだ。その会議は習慣で行われているが、本当に必要なのか? 必要な人間以外がその会議に参加していないだろうか? 会議時間のなかに、無駄な手順や作業は含まれていないだろうか?
本来、働き方改革のために取り組むべき会議の見直しに取り組めていないところにコロナ禍が襲い、そのままWeb会議に移行せざるを得なかった企業は少なくないだろう。Web会議への移行は、見直し作業に取り組むための好機でもある。
Web会議の運用ルールをどのように構築するか
こうした会議の総量を見直したうえで、Web会議システム特有の性質に合わせて、運営方法を決めていく必要がある。会議前(スケジュール調整や資料準備など)、会議中(進行の見直しなど)、会議後(議事録作成、ToDoの連絡など)の作業を個別に考えて、各種ITソリューションを利用して会議の効率化を進めることで、参加者がWeb会議に感じている負担も減らせるだろう。
スケジュール調整については、まだメールベースで行っている場合はグループウェアなどでカレンダーを共有して実施することで調整期間もその労力も省ける。
会議の資料は当日紙ベースで配布するのではなく、事前にクラウドベースなどで共有することで、会議開始までに内容を把握し会議中に資料を読む時間を削減する。資料のファイルに話の中で意見を書き込み、個別の作業担当者の割り振りも記載する。これにより、会議後に議事録を作る時間を無くすとともに、会議結果を作業に生かす手順もスムーズにする。
Web会議では、同時に複数の人間が話すと聞き取るのが難しいため、議事進行の役割は増す。発言がかぶりそうになった時は、進行司会が適切な発言者を順番に指名するなどのルールを設ける。
基本的な項目の対策を挙げたが、各社の個別の会議ごとに、他にもさまざまな効率化を図れるポイントはあるだろう。
緊急事態宣言で急激に広まったWeb会議は、試行錯誤の中、ビジネスマンに多くの負担を強いてきた。しかし、これまで手をつけていなかった、会議自体を見直し運営の効率化を図ることを、社内で共通目的化できるチャンスと考えて取り組みたい。Web会議の運用改善を、働き方改革の重要な転換点にすることも可能なのではないか。
筆者プロフィール:狐塚淳
スマートワーク総研編集長。コンピュータ系出版社の雑誌・書籍編集長を経て、フリーランスに。インプレス等の雑誌記事を執筆しながら、キャリア系の週刊メールマガジン編集、外資ベンダーのプレスリリース作成、ホワイトペーパーやオウンドメディアなど幅広くICT系のコンテンツ作成に携わる。現在の中心テーマは、スマートワーク、AI、ロボティクス、IoT、クラウド、データセンターなど。