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第14回 UC(Unified Communication)


コミュニケーション手段の統合が生産性向上をもたらす

企業では電話やメール、チャット、ビデオ会議など、さまざまな手段でコミュニケーションが行われてきました。これらの手段を統合し、ビジネスにおける情報伝達の効率化を図るソリューションがUC(Unified Communication)です。UCにはどのようなメリットがあるのか、今後どのように活用される可能性があるのかについて解説します。

文/ムコハタワカコ


通信や伝達ツールなどを統合してシームレスにつなぐ

UC(Unified Communication、ユニファイドコミュニケーション)とは、音声や映像、文字などによるコミュニケーションのためのツールや通信の手段を統合(Unified)し、シームレスかつ統一されたUI/UXで利用できるようにする技術やサービスを表します。

通信・伝達のためのテクノロジーには、古くは電話やファクシミリ(FAX)から、電子メールやチャットといったインターネットを活用したもの、さらにはビデオ会議、ウェブ会議システムなど、さまざまなものが挙げられます。従来、こうしたツールやサービスは別々の機器や通信インフラ、ソフトウェアなどを通じて利用するものでした。しかし、多様なコミュニケーション手段があることで、かえってコミュニケーションが複雑になったり、メッセージや会議スケジュールを見落としたりする可能性もありました。

UCは、さまざまなコミュニケーション手段を統合することで、状況に応じて最も適切な手段を自動的・半自動的に選択して相手と連絡を取れるようにし、業務の効率化を図るものです。

UCでは、ある手段で送信したメッセージを別の手段で受信することが可能です。例えば固定電話への着信を外出先の携帯電話へ転送して受信したり、チャットなどのテキストメッセージを電子メールで受信して、そのまま返信したりできます。また、離席中・電話中など相手の状態を確認して、在席中で応答可能ならチャットやビデオ通話を使ってリアルタイムでメッセージを送信、応答不可や不在の場合はメールなどの非リアルタイム型メッセージを残すといったことも可能です。

UCの活用は、メッセージ伝達の遅延削減や、特定のデバイスやツールへの依存の排除といった効果をもたらします。そして職場のコミュニケーションをより強化し、ビジネスプロセスの最適化とより良いコラボレーション環境の実現、生産性の向上を図ることが可能となります。

UCでは、電話や電子メール、チャット、ビデオ会議などさまざまな通信手段を統合し、業務の効率化を図ることができる。

通信手段の統合からコラボレーションツールの融合まで

UCという言葉が生まれたのは1990年代半ばのこと。ボイスメールやFAX、ページャー(ポケベル)といったツールで送受信するメッセージを、1つの電話番号で処理できるシステムが1993年に開発され、90年代後半には在席状況を同僚に知らせる市販のプレゼンス製品も登場しました。

2000年代にはフル機能のUC製品も現れましたが、当初はシステムを電話会社やベンダーが管理・運用しており、企業には継続的にコストがかかっていました。その後、コストダウンのために社内スタッフによる運用が進むと、UCにはシステムの使いやすさや管理のしやすさが、より求められるようになります。

企業の通信環境にIP(インターネットプロトコル)によるネットワークが導入されるようになると、従来の電話網ではなく、IPネットワークを通じて音声伝送が行われるようになり、固定費の削減がさらに図れるようになりました。

ビジネス電話システムがIPベースに完全に置き換えられると、通話・メッセージングのためのデバイスは「ネットワークにつながったコンピューターデバイス」としての位置づけを獲得します。オフィス電話のハンドセット(携帯電話)は、アプリケーションを通じて他のサーバーコンピューターと通信することにより、高度な機能を提供することができるようになりました。また、アプリケーション自体をアップグレードしたり、新たにインストールしたりすることも可能になります。

当初は電話の多機能化、電話網を使う別々のデバイスが持つ機能の集約から開発が始まったUCですが、現在では電話に限らず、日常的なコミュニケーションすべてに適用される概念となっています。

UCに関連する概念として、コミュニケーションの手段に加えて、バーチャルホワイトボードなどのコラボレーションツールを統合し、離れている相手との共同作業を可能にする「ユニファイドコミュニケーション&コラボレーション」(Unified Communication and Collaboration:UCC)というものもあります。UCCでは、遠隔地のビデオ会議参加者がファイルの操作画面を共有して、同時に作業するといったことも可能になっています。

近年では、コラボレーションサービスを提供する事業者がコミュニケーション手段としてのウェブ会議ツールも提供する、あるいはビデオ会議システムを提供してきた事業者がコラボレーションツールも提供するというような例が増え、両者の境界はますます融合が進む傾向にあります。

UCaaS(UC as a Service)、UCCaaS(UCC as a Service)は、クラウド型のUC/UCCプラットフォームです。SaaSサブスクリプション型でサービスが提供されるため、従来のオンプレミス型UCに比べて柔軟性と拡張性の高さを特徴とします。COVID-19によって出社制限を強いられる中、大企業だけでなく中小規模の企業でも取り入れられるコミュニケーション/コラボレーションの手段として、需要が高まっています。

シームレスなコミュニケーションが紡ぐ新しい働き方

アプリケーションやネットワークを超えて、相互にコミュニケーションを可能にするUC。コロナ禍によるテレワークの浸透も、その普及に一役買っています。新型コロナウイルスの影響が落ち着いたとしても、今後、時間や場所、デバイスを選ばずに誰とでもコミュニケーションをスムーズに行える環境は、多様化する働き方に対応するためにも必須となっていくはずです。

特にこれからは、オンラインのみ、オフラインのみのいずれかの働き方を選択するというよりは、オンラインもオフラインも入り混じったハイブリッド型のワークプレース構築がいっそう広がると考えられています。また労働人口減少が予測される中で、海外なども含めて時差や空間を超えた人材の活用も求められるようになるでしょう。そこでは、UCで実現するシームレスなコミュニケーションのあり方が、ますます重要となるでしょう。

もう少し先の将来を見れば、UCプラットフォームとVR/AR環境との融合によって、今話題の「メタバース」においても統合されたコミュニケーションが実現する可能性があります。

メタバースは「抽象度の高い、超越した」という意味を持つ接頭語「メタ」と「ユニバース(宇宙、世界)」を組み合わせた造語です。現実世界を超えた仮想的な空間で、他者とコラボレーションの場を共有できるサービスとして注目を集めています。メタバースにおけるUC活用では、従来のウェブ会議ツールなどと比べてもさらにスムーズでリアルに近いコミュニケーション、コラボレーションが実現するかもしれません。

もうひとつ、別の視点でUCの利点を考えてみましょう。UCでは、コミュニケーション手段を統合する前提として、音声やテキストなどのデータのデジタル化が行われています。このことは、単に「便利でシームレスなコミュニケーション」の実現だけでなく、蓄積されたデータの活用による「ビジネスプロセスの効率化や自動化」にもつながっていきます。

実際に、AIや機械学習を利用した音声データの自動テキスト化による議事録作成や自動翻訳などは、すでに少しずつUCに取り入れられています。また、テキスト化されたデータや打ち合わせの音声・映像データなどのログ(記録)を活用して、顧客へのセールストークがうまくいったかどうかを判定することや、CRM(Customer Relationship Management)、SFA(Sales Force Automation)といった顧客管理・営業支援ツールとの連携なども始まっています。

働く人のコミュニケーションのコスト削減や円滑化、効率化から進んできたUCの普及は、ログデータが活用できるという特性から、さらに一段高い次元の生産性向上やデジタルトランスフォーメーション(DX)にもつながっていく可能性を秘めているのです。

筆者プロフィール:ムコハタワカコ

書店員からIT系出版社営業、Webディレクターを経て、編集・ライティング業へ。ITスタートアップのプロダクト紹介や経営者インタビューを中心に執筆活動を行う。派手さはなくても鈍く光る、画期的なBtoBクラウドサービスが大好き。うつ病サバイバーとして、同じような経験を持つ起業家の話に注目している。