第2回 モダナイゼーションの課題と
CNCFが目指す未来の姿
業務システムのモダナイゼーションは重要と理解しながらも、なかなか踏み出せない状況の打開策は、ハイブリッドクラウドだ。しかし、それでモダナイゼーションが加速するほどの力はない。この課題に対して、IT業界はCNCFを立ち上げ、組織に先進的アプリケーションを構築する能力を授けることを目指して活動している。
クラウドへの期待と影
企業の情報システムの「モダナイゼーション」では、オンプレミスからパブリッククラウドへ移行して、その後、削減したコストを使ってクラウドに適したアプリケーション構造へ書き換える「リフト&シフト」が推奨だ。レガシーなソフトウェアのクラウドへの移行はコストの削減だけでなく、社員をより生産的な業務へ集中させ、クラウド事業者の高性能なデータセンターは可用性と災害対策を向上させる。そして、Webから購入できる仮想サーバーやミドルウェアのサービスは、ビジネス環境変化に即応できる機敏性の向上に寄与する。
しかし、パブリッククラウドの利用が難しい分野の情報システムも存在する。企業の根幹となる業務を担う情報システムは長期間にわたって使用される。そのため、クラウドの長期割引が適用されたとしてもコスト削減効果は薄い。メインフレームなどは高い信頼性や可用性を備え、大量のトランザクション処理をこなす機能のため、銀行業務、交通機関、工場や物流などに適用される。このような用途には、一般的なハードウェアを大量に使用するパブリッククラウドで置き換えることは適さないと考えられてきた。
ハイブリッドクラウドという解決策
コスト削減の圧力に対応すること、迅速なデジタル化への対応を推進することは、基幹業務システムといえども例外で
はない。そのようなオンプレミスから動けないシステムの救済策がハイブリッドクラウドだ。これは、次の図に表すように、オンプレミスITリソースを含む二つ以上の異なるクラウド基盤の組み合わせ、課題を克服するアプローチである。
モダナイゼーションの対象となる業務システムは、メインフレームなどに構築され、歴史が長くソフトウェアの品質は不十分である半面、業務の根幹を担い不可欠な存在だ。この第一の移行先として挙げられるのが、「プライベートクラウド」だ。例えば、先進のIBMメインフレームでは、ユーザー拠点設置の筐体で、レガシーなソフトウェアとコンテナ化されたソフトウェアの実行環境であるOpenShiftの併用が可能であり、プライベートクラウドの構築を容易にする。
「パブリッククラウド」は冒頭前述のとおり、時間単位で利用可能で、ビジネス要求に迅速に対応できる。しかし、1社のクラウドサービスで、全てのビジネス要求に答えることは難しい。そこで、複数のパブリッククラウドを併用する「マルチクラウド」利用が、パブリッククラウド活用の大半となっている。
センサーや画像処理などAI技術を組み合わせて、現場からのデータをビジネスに活用する機運のなかで、注目されているのが、「エッジコンピューティング」である。ネットワーク末端(エッジ)にあるデータ発生源近くにサーバーを配置して、低遅延で処理を行い、クラウドへデータを集積する。アクセス遅延によりクラウドを適用できないケースに対する補完として注目されている。
残る課題はサービス提供力
デジタル社会のビジネスにはソフトウェアによるサービスの開発力と提供スピードは欠かせない。しかし、ソフトウェア開発は、クラウドのように自動化された実行基盤を使ったとしても、人による知的生産活動であり、さまざまなステークホルダーが絡むことから、そう簡単にスピードアップできない。
この課題にアジャイルの開発プロセスが有効であることは、広く一般に理解されているが、ユーザー企業とソフトウェア開発会社の契約範囲、開発業務の進め方、そして、開発者への大きな負担といったさまざまな課題があるために、実際に実現できている企業は少ない。この課題に対して、コンテナ技術を応用して解決に取り組むIT業界横断の活動について次に紹介する。
CNCFが目指す未来
クラウドに適したアプリケーション開発と運用の普及を目指してCNCF(Cloud Native Computing Foundation)は、2015年にGoogle, Red Hat, VMware, IBMなどが参加して設立された。その後、AWSなども加わり、約6年後の現在は600社を超えている。この組織のクラウド・ネイティブの定義v1.0に目指す方向が掲げられているので、是非、参照して欲しい。
CNCF Cloud Native Definition v1.0(抜粋)
クラウド・ネイティブ技術は、パブリッククラウド、プライベートクラウド、ハイブリッドクラウドなどの近代的でダイナミックな環境において、スケーラブルなアプリケーションを構築および実行するための能力を組織にもたらします。このアプローチの代表例に、コンテナ、サービスメッシュ、マイクロサービス、イミューダブル・インフラストラクチャ、および宣言型APIがあります。
これらの手法により、回復性、管理力、および可観測性のある疎結合システムが実現します。これらを堅牢な自動化と組み合わせることで、エンジニアはインパクトのある変更を最小限の労力で頻繁かつ予測どおりに行うことができます。(以下省略)
https://github.com/cncf/toc/blob/main/DEFINITION.md
これまでと大きく変わる点はアプローチ方法だ。ハイブリッドなクラウド環境においても、コンテナ技術などを用いて、組織に実行する能力を与えることが掲げられている。ここで開発されたOSSは、すでに各社クラウドや製品に組み込まれて、ユーザー企業で活用できるようになっている。
企業の業務システムのモダナイゼーションとは、クラウド・ネイティブ技術を取り入れ、アプリケーション開発とサービス提供の高速化を実現することに、ほかならないと筆者は確信する。次回は、アプローチの代表的な例となっているコンテナとKubernetesの利用価値について進めていきたい。