ローコードで進む企業システムの内製化で
新たに生まれるコンサルや人材育成の需要
コロナ禍で企業のDXは大きく進んだ。それを後押ししたのが、ノーコードやローコードによるシステム開発だ。そうした中で、ローコードのシステム開発ビジネスを行うBlueMemeが、2021年6月29日に東証マザーズ上場を果たした。株式市場からも注目されるローコードによる開発と、そこから広がるビジネスについて、BlueMemeの代表取締役社長 松岡真功氏に話を聞いた。
企業のDXをローコードが支援する
経済産業省が2018年に発表した「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート」では、多くの経営者が将来の成長や競争力強化のため、新たなデジタル技術を活用してビジネスモデルの創出や柔軟な改変を行うDXの必要性を理解しているものの、既存システムが事業部門ごとに構築され、全社横断的なデータ活用ができなかったり、システムのブラックボックス化によりデータ活用が難しい状態にあるといった課題が示された。こうした既存システムの問題の解決が行われず、DXを実現できない場合は、2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があるとされているのが、いわゆる「2025年の崖」だ。
この状況を解決し、企業のDXを実現するためにはレガシーシステムの仕分け、刷新が求められており、その際のシステム開発を行う上で注目されているのが、ノーコードやローコードだ。ソースコードを一切書かずにアプリケーションを開発する手法がノーコード、少ないソースコードでアプリケーションを開発する手法はローコードと定義されている。冒頭に述べたようにコロナ禍でこのノーコード・ローコードによるシステム開発は大きく注目されており、実際に迅速なシステム開発を実現できた企業や自治体の事例も少なくない。
ローコードによるシステム開発を行うBlueMemeは、2009年からローコード開発やアジャイル事業によって、企業の業務システム開発に取り組んできた。2013年にはローコード開発基盤「OutSystems」を提供するOutSystemsと、日本国内における総販売代理店契約を締結し、OutSystemsの販売と併せて、自社でもOutSystemsを活用したローコードによるシステム開発を行い企業のDXを支援している。
内製化が生む新たなビジネス
BlueMemeの松岡氏は「当社ではローコード技術にアジャイル手法のシステム開発を組み合わせることで、システムインテグレーターに頼らないシステムの“内製化”を支援しています。3パターンのプロフェッショナルサービスを用意しており、お客さまの要望やフェーズに合わせた受託開発サービスを提供しています」と語る。
具体的には、以下に分かれる。
1.顧客企業がBlueMemeに全ての開発を委託するパターン
2.顧客企業の社内人材とBlueMemeの人材が共に開発を行うパターン
3.顧客企業で全ての開発を行い、BlueMemeは高付加価値のコンサルティングサービスを提供するパターン
このプロフェッショナルサービスと、受託開発に必要なソフトウェアライセンスの販売を行うのが、BlueMemeのビジネスモデルだ。ソフトウェアライセンスの多くはローコード開発基盤のOutSystemsで、エンドユーザー以外にも販売パートナー企業への提供を行っている。
「最近では2番目の顧客企業の社内人材と当社人材が共に開発を行うプロフェッショナルサービスの需要が大きいですね。開発が終わるころにはシステムのメンテナンスが顧客企業内でできるようになり、よくあるようなシステムのブラックボックス化がなくなります。また開発のノウハウが蓄積することで、徐々に3番目の、全て顧客企業が開発を行える環境にシフトしていきます。よく指摘されるのは、企業内でのシステムの内製化が進むと、プロフェッショナルサービスのビジネスが成り立たなくなるのではないかというものですが、内製化が進むことで高付加価値のコンサルティングサービスの需要は、むしろ高まっていくのです」と松岡氏は指摘する。
企業がローコード技術を活用してシステム開発を行い、内製化が進むことによって、前述したコンサルティングの需要に加え、人材教育サービスの需要も拡大していく。ローコード技術を用いる中で、ITスキルの向上は不可欠となるからだ。
将来的にはAIが開発する!?
実際に製造業や建設業において、ローコードを活用したシステムの内製化が進んでいるという。特に製造業では、生産する物や部品構成が頻繁に変わり、多品種少生産が求められている。そうした環境に現行の生産管理システムが追いついておらず、リプレースを行うためにローコードを活用したシステム開発のニーズがあるのだという。
またBlueMemeでは、日本国内で普及しないアジャイル開発の課題を帰結するため、独自のプロジェクト管理手法「Agile DX」を提唱している。従来型のウォーターフォール型やアジャイル手法によるシステム開発の課題を解決し、安定的な受託開発を実現するものだ。企業活動の全てを分析して「主語・述語・目的語」の形式で表現することで、企業のデータ構造を見える化し、企業設計書(ビジネスアーキテクチャ)を作成することで、基幹業務システムの開発のような大規模なアジャイル開発もスムーズに進む手法だ。
このビジネスモデルの設計を行うスキルは、AIがシステム開発を行う「デジタルレイバー時代」にも求められるようになる。「現在はローコードによって実装を自動化していますが、将来的には、データ分析やシステム設計もデジタルレイバー(AI労働者)によって自動化されていくでしょう。当社ではこのデジタルレイバー時代に向けて、データアナリストやビジネスアーキテクトといった新しいスキルの技術者の育成に取り組んでいます」と松岡氏は話した。
ローコード技術によって、内製化や開発期間の短縮が進むシステム開発。そうしたビジネスの中で伸びていくのは、BlueMemeのようなコンサルティングや人材育成という、顧客企業の内部に入り込み、ともにビジネスを成長させていく取り組みだ。SI企業は、ローコードをただの技術と見なすのではなく、自動化によって新たなビジネスを生み出すツールと捉え、将来的なデジタルレイバー時代を見据えたビジネスモデルの変革を進めていく必要がありそうだ。