野島剛さん

株式会社トドケール 代表取締役CEO。早稲田大学法学部を卒業後、大手コンサルティングファームでコンサルタントとして10年勤務した後、米国のビジネススクールでMBAを取得。カリフォルニアの投資ファンドおよび宅配ロッカースタートアップでインターンとして勤務し、帰国後の2018年に株式会社トドケールを起業。公認会計士・税理士・日本証券アナリスト・応用情報技術者・運行管理士(貨物)。
https://www.todoker.com/

配達物のデータ化でリモートワークの効率がアップ?

──株式会社トドケールが提供する2つのサービスについて、概要を教えていただけますか。

野島 現在提供しているのは、オフィスに届く郵便物や宅配便などの配達物をクラウド上で管理する「トドケール」というアプリケーションと、それを利用して弊社が顧客宛の配達物をアウトソーシングで管理する「クラウドメール室」という2つのサービスです。

株式会社トドケールのホームページ。
株式会社トドケールのホームページ。

野島 「トドケール」は、総務部やメール室の人たちに使っていただくクラウドベースのアプリケーションです。配達物が届いたら、従来は記録も残さず、そのまま本人に手渡しされているケースがほとんどでした。一部、書留などの重要なものは紙に記録してリストを作ったり、あるいはExcelに打ち込んだりして台帳みたいなものを作っていたと思います。このような状態だと、どのくらいの配達物があるのか全体象も把握できず、効率化も図れません。

「トドケール」は、スマートフォンで届いた配達物の写真を撮ると、宛先や差出人がOCRで文字化され、データ化されます。そのデータはクラウド上のシステムに登録され、電子メールやSlackなど通信手段によってご本人に通知されるというサービスです。通知を受け取った本人は、それをどこに届けるか、廃棄するのか、あるいは開封して内容物をPDF化して送るのかといった処理方法を選ぶことができます。

一方の「クラウドメール室」は、我々がBPaaS(Business Process as a Service)と呼んでいるサービスで、「トドケール」の運用をアウトソーシングしていただき、我々が代行するというサービスです。お客様のところに届く配達物を回収したり、「私書箱」のように我々の会社に送っていただくようにして、我々が配達物を受け取り、それをシステムに登録してお客様に通知するというサービスになります。

「トドケール」を導入するのは、社員300〜1000人以上の大企業が多いのですが、「クラウドメール室」は社員300人以下の中小規模の企業や、弁護士、会計事務所などの個人経営の企業が中心になります。

「トドケール」は配達物をデータ化するので、多様な働き方に対応できる(画像提供:トドケール)。
「トドケール」で配送物の写真を撮影すると、データが登録され、上のような画面で処理方法を選択できる(画像提供:トドケール)。

野島 こうしたサービスが必要になった背景には、2つの理由があり、1つは働き方改革やコロナ禍などの影響でワークスタイルが大きく変わったこと。もう1つは、総務部などで人手不足が問題になっていることです。

ワークスタイルの変容については、コロナ禍でリモートワークが大幅に進むなど働き方の多様化が進みましたが、在宅で働いている社員は、配達物がオフィスに届いたことを通知してもらわなければ、それを確認するためだけに定期的にオフィスに行かなくてはいけません。これではリモートワークが非常に効率の悪い働き方になってしまいます。逆に、総務部がそれをすべて担当したら業務が膨大になってしまいます。また、オフィスで席を固定しないフリーアドレス制が普及しましたが、こちらについても配達物を持っていく固定デスクがないため、配達物の受け渡しが困難だったり、時間がかかったりという問題が発生しました。

さらに、受け取りまでの日数が増加したことで、放置される荷物の紛失リスクが高まり、紛失防止や問い合せへの対応のために総務部の手間が増えるという現象も起きています。

総務部での人手不足についてはかなり深刻で、専門的な知識が必要な業種でありながら、全社的な人手不足の中で、コストセンターである総務部は人を増やしづらいため、慢性的に総務部が人手不足という企業が多いようです。このため、総務部がこれまで行ってきた伝票入力や福利厚生をアウトソーシングする企業も増えてきました。

配達物の処理はアルバイトやパートの方に数時間だけお願いしているようなところも多いのですが、人はなかなか集まらないようです。また、宛先が会社名だけになっていて、誰に渡したらいいのかわからない配達物もあるので、どのように処理したらいいかを理解してもらうのにも教育や慣れが必要な仕事です。「トドケール」は、こうした処理にも対応していることが特長の1つです。

株式会社トドケール代表取締役CEO 野島剛氏。
「郵便物や宅配便などの配達物は人によってアナログに処理され、データもほとんど残っていなかった」と語る野島さん。

配達物は人の手でアナログで処理されていた

──「トドケール」を開発しようと思ったきっかけを教えていただけますか。

野島 大学卒業後にコンサルティングファームでコンサルタントとして10年勤務した後、米国のビジネススクールに留学し、在学中に投資ファンドと物流関係のスタートアップにインターンとして勤務しました。卒業時には、米国で働こうと思っていたのですが、そのスタートアップの社長から「そのまま社員として残ってくれてもいいが、やりたいことがあるなら起業するのは今しかない」と背中を押していただいて、帰国することにしました。

その物流関係のスタートアップは、宅配ロッカーの会社で、米国では今、物流のデジタル化を進める動きが加速しているんです。それで物流のデジタル化はおもしろいなと思っていました。2018年に帰国後、個人でコンサルティング業務を受けながら、「物流プロセス全体の効率化を実現することをゴール」として株式会社トドケールを起業しました。その時は、トドケールで何をやるかは具体的にはまだ決まっていませんでした。

その後、保険会社でコンサルティングを行う機会があり、大量の郵便物や配達物が届く現場を目にしました。その処理を効率化するために、まずデータを集めようということになったのですが、その会社にはデータが一切存在せず、すべて人の手によってアナログな処理が行われていました。おそらく、日本中の企業が同じような状況だと思います。

そこで、配達物の写真を撮って、本人に通知するというアイデアをビジネスプランとしてサイトに掲載したところ、すぐに3社から問い合わせがありました。「まだ、プランだけで実体がない」ことを伝えると、そのうちの1社は、完成したら必ず採用するからとその場で契約してくださいました。

それから、あらゆる知人を頼ってエンジニアを探し、アプリケーションの開発を始めました。

「トドケール」の開発でラッキーだったのは、この契約してくれた会社が協力してくださったおかげでニーズの把握が容易で、そこから意見をいただきながら開発を進めることができたことです。

そして、2020年9月、コロナ禍の真っ最中に「トドケール」のサービスを開始しました。それから4年で、約70社と契約し、その内約50社が従業員1000人以上の大手企業になります。システム内の取り扱い荷物数はリリースから累計45万個(通)を超え、年間約30万個(通)が処理される規模まで拡大しています。

「ビジネスプランの段階からサポートしてくださる企業があったので、顧客のニーズが把握できました」。

問題の顕在化とともに新しい価値の創造も

──実際に「トドケール」を運用してみてわかったことなどはありますか。

野島 「トドケール」のユーザーとなってくださった企業からはさまざまな情報が寄せられました。その多くは我々の知らなかったことで、1つは、発送物の管理や社内便の管理です。

今はペーパーレス化が進んで、多くのモノがネットワーク上で送られるようになりましたが、紙には紙の利便性があるために、どうしても郵便物や発送物などが発生します。「トドケール」は、受け取りをデータ化してクラウド上で管理できるようにしていますが、郵便物や配達物の発送のところもデジタル化してほしいという要望があります。

これに対応したのが本年9月にリリースした「社内便管理機能」で、これまでは社内便を送っても相手に届いたかどうかわからず、電話やメールで確認するという作業が必要でした。また、多くの企業では紙の封筒を繰り返し使い回し、手書きで宛先を記載する形式が一般的です。しかし、この形式には、封筒の文字が判読できない、宛先社員の姓のみの記載で宛先となる社員が判別できない、送付先のビルに宛先に該当する部署がないなど、運用において多くの問題が発生していました。これらの問題は最悪の場合、社内便の紛失にもつながります。こうした問題がこれまで知られていなかったのは、総務の人たちの地道な努力があったからです。

「トドケール」の社内便管理機能では、社内での書類や荷物の流れやそのステータスを可視化でき、発送した社内便の現在のステータスや、受取確認などをシステム上で行うことができるので、発送物の紛失リスクや、社員からの問い合せ対応、社員間での到着確認などの工数を削減できます。

社内便も「トドケール」でデータ化することによってスムーズに処理でき、仕事の効率もあがる(画像提供:トドケール)。

野島 もう1つ、「トドケール」をリリースしてわかったことは、総務・メール室における障がい者雇用の存在です。あまり知られていないことですが、メール室の業務は障がい者雇用の受け皿の1つとなっています。

「トドケール」は、こうしたメール室の業務を「運ぶ」という単純作業から、「写真を撮る」「書類をスキャンする」という作業に変え、さらに、「リモートワークを効率化する価値の高い業務」へと変換することになりました。これは障がい者雇用の促進にもつながることなのではないかと考えています。


──最後にこれからの予定や抱負を教えてください。

野島 人口減少が進む日本では、これから労働人口も減少していきますが、子育ての負担を緩和しながら、女性の社会進出も促すためには、女性だけでなく男性もともに在宅勤務などのリモートワークを可能とする多様な働き方が必須となります。ところが、こうした働き方に対して、配達物を確認するために出社しなければいけないというような「物理的なモノへの対応」が在宅勤務を難しいものにしてしまう可能性があります。

トドケールは、オフィスの物流をデジタル化することで効率を追求しながら、利用者に提供できる価値を向上させ、社会のインフラとなるようなオフィスの物流機能の構築を目指したいと思っています。

「物流のデジタル化で『人とモノをつなぐ』、新しい社会インフラを作りたい」と語る野島さん。