ファントークンは企業における株式のような機能を持つことが可能
ファントークンは、ブロックチェーン上で配布されるもので、アーティストやその作品、スポーツチームなどを応援する目的で利用されます。新型コロナウイルスの感染拡大によって大きな打撃を受けたエンターテインメント業界やスポーツ業界が資金調達およびファンとのエンゲージメントを強化する方法として着目したことがきっかけとなり、ここ数年で盛り上がりを見せています。特に、欧州のプロサッカークラブを中心に広まってきました。
ファントークンを使って先進的な取り組みを展開するのが、「socios.com」というサービスです。同サービスは、FCバルセロナ、ユヴェントスFC、パリ・サンジェルマンFC、ACミランのような欧州ビッグプロサッカークラブのみならず、NBAやNFL、NHLといった米国の4大スポーツにも拡大しています。
socios.comの仕組みとしては、socios.comが発行する暗号資産「Chiliz(チリーズ)」を購入し、そのChilizで別の暗号資産であるファントークンを購入します。ファントークンの価格は変動するため、値動きをチェックしながら好きなタイミングで売買することが可能です。また、イベントの参加権やVIPチケットをはじめとする試合観戦チケット、ユニフォームデザインなどの投票権、公式グッズやトレーディングカードの購入権といったさまざまな特典が提供されているのも特徴です。ファントークンの発行者は、デジタル資産(ファントークン)を発行することでマネタイズを強化できるだけでなく、特別体験や特典を通じてファンとのエンゲージメントを高めていくことが可能となります。
こうした欧州プロサッカークラブのファントークンの機能は、企業の株式とよく似ています。オリジナルグッズ購入権や特別席の利用権などの特典は、株主優待にあたるものといえるでしょう。また、ファントークンの販売による資金調達とそのトークンの転売、各種投票などの意思決定への参画という株式が持つ機能を実装することが可能です。ただし、現時点では株主配当のようなものがあるファントークンはありません。そして、これらの機能をすべて持っているトークンもあれば、資金調達や転売機能を主体としたトークン、ファンクラブの会員権のようにファンとの距離をより近づけたり熱量を高めたりすることを目的にしたトークンなどもあります。
国内ファントークンは大きく分けて3種類
海外におけるファントークンの事例はsocios.comのような形が一般的ですが、日本では少し事情が異なります。日本のファントークンは、その仕組みや目的から大きく3種類に分けられます。
1. クラウドファンディング型
ファントークンを用いてクラウドファンディングを実施し、資金調達を行うことができるサービスです。FiNANCiE(フィナンシェ)がその代表例です。FiNANCiEは、ユーザーが同サービス上で独自に発行されたポイントを購入し、それらのポイントをスポーツチームなどが発行したファントークンと交換することで、スポーツチームなどの資金調達を支援するサービスです。そしてこのファントークンは暗号資産では無いものの、価格変動があるトークンとなっています。また、投票権や特典がついたファントークンもありますが、基本的には資金調達手段としての性質が強く、ユーザーはトークン価格が上がることによりメリットを享受できる仕組みとなっています。
J1プロサッカークラブ・湘南ベルマーレは、FiNANCiEを介して3800名を超えるメンバーに対して410万以上のトークンを発行しています。トークンの価格は変動しており、現時点では1トークンあたり約4.5円となっています(2023年5月現在)。
2. 暗号資産型
ファントークンを暗号資産として発行し、暗号資産取引所を介して上場させ、資金を集める方法です。これはIEO(Initial Exchange Offering)と呼ばれる資金調達手法で、前述のsocios.comが欧州の多くのプロサッカークラブへ提供している手法と同じものとなります。国内では、プロサッカークラブ・FC琉球がFC琉球コインというファントークンを発行しています。FC琉球は、国内の暗号資産取引所であるGMOコインにFCRコインを上場し、資金調達を行いました。FCRコインでは、その保有数量によって、パートナーとしてWebサイトにロゴが掲載されたり、試合に招待されたりといった特典が付与されます。そして、暗号資産であるため売買も可能となっており、また将来的にはFCRコインを決済に利用することも可能とのことです。
3. コミュニティ型
私たちジャスミーが取り扱っているJ1プロサッカークラブ・サガン鳥栖のファントークンは、資金調達よりもコミュニティ構築のためのデジタル会員証という意味合いを強く意識しています。サガン鳥栖は地域に密着したクラブで、地元には熱量の高いファンが多くいらっしゃいます。それにもかかわらず、コロナ禍の影響を受けてスタジアムの観戦が制限され、地域とのリアルの場でのコミュニケーションが少なくなったことから、ネットとリアルの双方の場で、地域のお店や企業と一緒にサガン鳥栖を応援できないか、という狙いで、ファントークンの構想はスタートしました。
コミュニティ参加費としてサガン鳥栖のファントークンを購入すると、デジタル会員証が発行され、抽選でのVIP席での観戦チケットやユニフォームのプレゼントといった特典が付与されます。なお、サガン鳥栖ファントークンには、ダイナミックNFT技術を採用しており、トークン保有者の行動データの蓄積によってステータスが上がることでNFTの表示や各種特典などの権利が変化するため、トークン保有者の方はよりユニークな体験を得ることができます。
種類ごとの特徴
上記3種類について、それぞれの特徴を見ていきましょう。
資金調達としては、クラウドファンディング型、暗号資産型がそこに力点を置いており、スポーツチームにとっては比較的大きな資金調達が期待できます。コミュニティ型では、1回の資金調達ではなく入会金や年会費などの長年に亘る継続的な収益を見込んでいるものとなっています。
また、なるべく簡単に導入したい、トークン保有者とのエンゲージメントを強化したいというニーズに対しては、コミュニティ型に強みがあります。したがって、一度の資金調達が目的ではない会員組織や地域コミュニティでの利用に向いているといえます。コミュニティ型では、一般的な会員組織と同様、発行手続き自体は楽に行えるうえ、ファントークンを通じてユニークな体験を提供することができます。クラウドファンディング型では、ファントークンの発行自体は比較的簡単にできるものの、その売り方に工夫が求められます。暗号資産型は、暗号資産取引所の審査や一部関係省庁との調整が必要となるため、導入のハードルは高いといえます。
ファントークンの転売を考えている場合は、広く一般に転売可能な暗号資産型が優位となっています。クラウドファンディング型でも、ファントークンの値動きがあり転売も可能ですが、現時点ではサービス内のみでのやり取りが前提となっています。コミュニティ型でもシステム上は転売可能ですが、現時点では売買を目的としたサービスではないため転売自体は行っておりません。
地域活性化のツールとしても有望
ファントークンという言葉で一括りにされていますが、実際には国内外でさまざまなタイプのものが登場してきています。特に日本で発行されるファントークンは、資金調達を目的とするものなのか、トークン保有者とのエンゲージメントを構築するためのものなのか、目的に応じて別々に考えることが重要です。
そして、純粋に誰かを応援するためのファントークンは、今後ますます広がっていくと見ています。特に、地域活性化のツールとしてコミュニティ型のファントークンを効果的に活用できる可能性があります。たとえば、地域の特産物を広めたり食したりするファンコミュニティや、絶滅危惧種の動植物保護活動を支援したりといった取り組みにはファントークンの相性が良いと思います。また健康増進活動を支援する健康ポイント特典付のファントークンなども考えられます。なお、NFT化されたデジタルアートを購入することで新潟県旧山古志村の「デジタル村民」になれるプロジェクトも、コミュニティ型のファントークンの一種といえるでしょう。
(文・構成 周藤瞳美)