野口五丈(のぐち・いつたけ)リライル会計事務所所長
企業の改正電子帳簿保存法への対応
── 2022年1月に施行された改正電子帳簿保存法の2年間の猶予期間が終了し、2024年1月に電子保存の義務化が開始されました。リライル会計事務所は多くのクライアントをお持ちですが、今回の改正についてのクライアントからの問い合わせやご相談はいつごろからありましたか?
野口 2〜3年前からあるにはありましたが、あまり問い合わせ数は多くありませんでした。弊事務所は渋谷という立地で、土地柄クライアントにはIT企業が多く、そのほとんどがクラウドの会計ソフトを利用しているため、すでに帳簿類の電子化はできていました。そのため、新しい法制度への対応も、会計ソフト側が先行してアップデートし、ユーザー側はそれに合わせて入力していくことで、必要な処理ができてしまうわけです。
── クラウド会計ソフトを利用していない場合、請求書や領収書などのファイルをどう整理するか、ファイルのネーミングルールを決めて、書類の種別ごと、月ごとなどで別のフォルダに保存するなどの運用ルールが必要になりますが、会計ソフトを利用していればそうした手間は必要ないのですか?
野口 画面で必要な入力項目を入れていけば、ソフト側で紐づけて保存してくれて検索できるようになるため、そうした運用、社員の方々への教育は必要ありません。
── IT企業以外のクライアントはいかがですか?
野口 IT以外にも飲食や建設関係のクライアントがいらっしゃいますが、まだどう対応しようか考えている企業もあります。これまで電子帳簿管理ができていなかったクライアントには、電子保存のやり方をお伝えしていますが、まだうまく取り組めていないケースも見られます。
── 今回の改正では、罰則規定に青色申告の承認取り消しも追加されましたが。
野口 電子帳簿保存法については、これまで猶予期間など何度も変更になっていましたし、令和5年度税制改正の大綱で電子保存ができない場合にも相当の理由がある場合の新たな猶予措置や、検索機能の緩和措置なども発表されています。罰則もいきなりは施行されないでしょうから、そんなに焦ってはいないようです。実務的な温度感としては、同時期に企業の収益減少に関わりかねないインボイス制度の開始が重なったため、そちらを優先して考えるケースが多かったようですね。
改正電子帳簿保存法とクラウド会計ソフト
── クラウド会計ソフトを使用しているクライアントは、すでに帳簿は電子化しているわけですし、請求書や領収書などの電子化も進んでいたわけですか?
野口 はい。法改正についても、クラウド会計ソフトは随時対応しています。発表があったその月にということはありませんが、3カ月から半年のスパンでは対応しているイメージなので、施行には十分間に合っています。必要な形でのデータ保存は先回りして実現できています。
── クラウド会計ソフトを利用しなくても電子帳簿保存法対応を果たすことは可能だと思いますが、企業がクラウド会計ソフトを利用するメリットはどこにありますか?
野口 一番大きいのは自動仕訳です。ネットバンキングやクレジットカードのデータを、会計ソフトと同期を取るとで、入出金データを自動で取り込み、入力を仕訳し帳簿として保存してくれます。人が手作業で入力すれば時間もかかるしミスも出る作業です。電子帳簿保存法についてはこれが重要です。それから、クラウド会計ソフトのFreeeにしてもMoney Forwardにしても中小企業向けのERPパッケージという側面を持っています。会計処理だけでなく、請求書発行や給与計算などバックオフィス全般の処理も行えます。以前はERPと言えば大変高価で中小企業には手が出なかったのですが、クラウド会計ソフトの登場で導入ハードルが低くなりました。
── 会計事務所サイドには、どんなメリットがありますか?
野口 作業効率を向上させることができます。仕訳入力作業はクライアント側で行う自計化のケースと会計事務所側にアウトソーシングして行うケースがあり、うちの場合、ほぼ半々くらいの割合なのですが、この部分の労務費を下げられるのがやはり大きいです。また、電子データでのやりとりがほとんどなので、昔のように通帳のコピーやクレジットカードの明細などの資料のやりとりもなくなりました。以前は、会計事務所というと、天井まで届くグレーの棚が窓も覆い尽くして立ち並ぶというイメージでしたが、現在はすっきりしたオフィスです。事務所面積が節約できるので家賃も助かります。
── クラウド会計ソフトの便利さは徐々に浸透しつつあると思うのですが、リライル会計事務所の新規クライアントは、どんな要望で問い合わせてくるのですか?
野口 これからクラウド会計ソフトを使いたいというクライアントが7割以上です。導入したので、クラウド会計ソフトを使いたいと他の会計事務所に行ったら断られたというケースもあります。あとは渋谷という土地柄、IT系のスタートアップ企業が会社を作って会計を頼みたい、ペーパーは少なくしたいのでクラウド会計ソフトにしたいというケースが3割くらいです。
── 電子帳簿保存法については何度も改正されてきているわけですが、今後も会計周りの法制度は変わっていく可能性があるかと思います。将来的な対応など考えていらっしゃいますか?
野口 今後も法制度は改正されていくでしょうが、そのつど勉強して対応していくというより、クラウド会計ソフトのバージョンアップに対応していけばいいと思えるのは安心ですね。