インテル小澤剛氏が語るワークスタイル変革のポイント
インテルが目指すワークスタイル変革・前編
IT/IoT技術の進化によって、企業のワークスタイルにも変革が求められるようになってきた。オフィスで働くという概念から解放され、在宅勤務や出先でも仕事をこなすことで、ビジネスを加速させることができる。そこで、さまざまな企業のワークスタイル変革を実現してきたインテルの小澤剛氏に、ワークスタイル変革のポイントについてお訊きした。
文/石井英男
インテル株式会社
セールスチャネル事業本部
市場戦略企画室 室長
小澤剛氏
ワークスタイル変革の本来の意義は優れたタレントの雇用維持
ここ数年、ワークスタイルの変革という言葉をよく見聞きするようになった。ワークスタイルの変革をテーマにしたセミナーや講演なども開催されているが、その一方でなんのためにワークスタイルの変革が必要なのかというところが、あまり明確になっていないのではないかと、インテル株式会社の小澤氏は指摘する。
Uberのように、IT/IoT技術の進化によって、従来なら膨大な設備投資が必要であり、新規参入が難しかったような業種業態においても、一つの素晴らしいアイデアさえあればスモールスタートで参入し、物事を大きくひっくり返せる、そういう時代になってきた。テクノロジーは揃ってきたが、いちばん重要なのはそれをどう活用するかというアイデアであり、そのアイデアを創り出すのは、結局のところ人間なのだ。
一つ一つのアイデアは、シンプルで簡単なものだが、そうしたアイデアが予想もしない形でぶつかり合ったり、結びついたりすることで、大きなアイデアに変わってくる。つまり、働く環境をアイデアを創り出すための環境に変えていくことが重要であり、それがワークスタイル変革の真の目的なのだ。会議室の中だけでなく、場所にとらわれないコラボレーションをどうやって促進していくか、そこがアイデアを生み出すだめのポイントとなっている。
「優れたアイデアを持っているタレントに、いかにモチベーションを持って働いてもらって、そういった人達がずっとここで働きたいと思ってもらえるか。そこで新しいアイデアをどんどん出してもらえるか。そのために変わっていく必要があるということなんです。それがワークスタイル変革の本来の意義だと思います。
新しい革新的なアイデアがないと、企業が生き残っていけないような状況になってきています。そういった中で、コラボレーションを促進するという側面と、いいアイデアを持っている従業員の雇用を維持するという側面がとても重要になってきています」(小澤氏談)。
ワークスタイル変革に必要な3要素
では、働く人たちが気持ちよく働けるようにするためのワークスタイル変革を実現するには、何が必要なのだろうか。小澤氏は、「場所に捉われない働き方」「より強固なセキュリティ」「コラボレーションの促進」の3つの要素が必要になるという。
場所に捉われない働き方の代表が、モバイルワークや在宅勤務、テレワークだが、オフィスにおいてもフリーアドレス制を採用することで、場所に捉われない働き方が実現できる。そのためには、モバイルによりフォーカスしたデバイスが必要である。
現在、日本の就労人口は60%にあたる3600万人が、いわゆるフィールドワーカーに相当するが、そのセグメントでのPC稼働台数は600万台程度と言われている。およそ6人に1台の利用状況だ。もちろん、すべてのフィールドワーカーにPCが必要なわけではないが、PCやタブレットなどのデバイスを活用することで業務を大幅に効率化できる業種は多い。
モバイルを活用する上で、重要になってくるのがセキュリティである。セキュリティがネックとなって、モバイル化が進まない事例も多い。大企業では、セキュリティを重視して、シンクライアントやデスクトップ仮想化といったソリューションを採用するところも増えているが、中小企業でシンクライアントを導入するにはまだハードルが高い部分もある。
一口にセキュリティといっても、さまざまな脅威があるが、最近の技術の進化によって最も増えているのが、アイデンティティ(ID)を狙う攻撃である。ID攻撃は世界中で1日に11万7000件あり、情報漏洩1件あたりの被害コストは2000万ドル以上になると言われている。
ID攻撃の中でも多いのが、フィッシング(なりすまし)であり、銀行やAmazonなどを装ったメールによって、IDとパスワードが盗まれてしまう事例があとを絶たない。このID攻撃を防ぐ手段について、小澤氏は次のように語った。
「ID攻撃を根本的に防ぐには、逆説的になりますが、IDを使わなければいいんですよね。自分のユーザーネームとパスワードを知っているから盗まれてしまう。自分がユーザーネームとパスワードを知らなければ盗まれようがないですよね。
そのために今、インテルが開発しているのが、Intel Authenticateというテクノロジーです。これは、複数の要素認証によってログインする仕組みなので、例えば、PINもありますし、デバイスの近接性も利用できます。それから、論理的な位置情報ですね。ちゃんと東京のIPアドレスからアクセスしているかどうか。さらに指紋などの生体情報ですね。こうした複数の要素認証をすべてハードウェアで行うのが、Intel Authenticateです」。
3つめの要素がコラボレーションの促進である。このコラボレーションの促進に関して、インテルが強くプッシュしている技術がIntel UNITEである。Intel UNITEは、セキュアで簡単に使えるワイヤレス会議のソリューションであり、ディスプレイ端子の違いやディスプレイケーブルのトラブルなどによって、会議の開始が遅れてしまうという問題を解決できる。インテルは、自社が開発したIntel UNITEを、東京オフィスでも実際に利用しているという。
「プロジェクターに接続するケーブルの問題で全世界で平均8分、会議のスタートが遅れています。Intel UNITEを導入することで、この遅れを2分に短縮できました。東京オフィスでは、10箇所くらいの会議室にIntel UNITEを導入しています。8分が2分になることで、6分間浮いた計算になりますが、我々は会議の多い会社なので、1日平均5~6回の会議があります。
1回に付き6分短縮というのは、あまり大したことがないと思われるかもしれませんが、全世界で10万人くらいいる会社で、会議の参加者みんなが時間を短縮できれば、それは非常に大きなインパクトとなります」(小澤氏談)。
Intel UNITEは、OSを問わず利用できることが特徴であり、WindowsとOS Xに対応しているほか、今後は、iPadへの対応も強化する予定のことだ(現時点ではiPadはビューモードのみ対応)。Intel UNITEは、すでに渋谷のHikarieカンファレンスやコクヨ株式会社などが試験的に一部導入を進めており、またSIのサービスや回線と組み合わせて導入支援を行うパートナーも増えつつある。
インテルのテクノロジーで働きやすい環境を実現する
インテルは、このように企業のワークスタイル変革を推進するためのさまざまなテクノロジーやソリューションを開発し、企業への提案を行っている。そうしたインテルのビジョンについて、小澤氏は次のように語った。
「我々は個々にテクノロジーを提案させていますが、こうした1つ1つのテクノロジーはあくまでもきっかけにすぎないと思っています。何かのきっかけによって、前に一歩進むことができ、ゆくゆくは何か大きなものが変わってくる。そのお手伝いをするテクノロジーの提案を我々はしていきたいと思っています。
いわゆるIoTみたいなところも、最終的なソリューションはどちらかというと実践的で、結構小さいところを改善していく話になると思いますが、それが結果的に従業員の人々が働きやすい環境につながっていき、素晴らしいアイデアを生みだす元となる。そういう環境を整えるために、インテルの技術をうまく使っていただければと思っています」。
今後、企業が生き残るためには、インテルのこうした技術を積極的に取り入れ、ワークスタイルの変革を実現することが求められるといえる。なお、小澤氏が言及した「Intel Authenticate」や「Intel UNITE」の機能や使い方などについては、後編で詳しく紹介する。
筆者プロフィール:石井英男
テクニカルライターとして、ASCII.jpやITmedia、PC Watchなどハードウェアからモバイルまで幅広い分野で執筆。最近は、VRやドローン、3Dプリンタ、STEM教育などに関心を持っている。