店舗経営の課題解決、肝はレジにあり

飲食、生活雑貨、アパレル、美容・エステ、各種サービス…

文/牧野武文


モバイルの波、小規模店舗へ

 iPadやiPhoneなどのモバイルデバイスが業務を格段に効率化させ、ビジネスの仕組みまでをも変え始めているが、それは大規模な投資ができ、大きなビジネスを展開している企業・大規模チェーン店の話だと思い込んではいないだろうか。大企業であってもモバイルを使うのは個人。店主一人、アルバイト数人といった小規模店舗(以下、個店)でも、モバイルは業務効率を大きく改善してくれるのだ。モバイルイノベーションの波は今、飲食、美容、エステ、アパレル、生活雑貨、各種サービスといったさまざまなスモールビジネスの隅々まで届き始めようとしている。

 個店の業務効率を改善する武器として注目されているのが、iPadのPOSレジアプリだ。従来、このような個店では電子レジスタ(電子レジ)が使われるのが一般的だった。しかし、電子レジには2つの大きな課題が存在する。1つはレジ締めに時間がかかること。閉店後に集計を打ち出して、レジ内の現金と合っているかどうか、商品の在庫点数と合っているかどうかを毎日確かめなければならない。レジ締め作業は小さな店舗であっても30分から1時間はかかる作業。もう1つはABC分析(どの商品が重点的に売れているか)などの売上分析ができないこと。売上データをパソコンに入力しなければならず、やはり膨大な時間が必要になる。

 このようなレジ締め、売上分析を短時間で行うには、POSレジシステムの導入が解決の糸口だ。しかしPOSレジは高価で占有スペースも必要。また専用のネットワークの確保のほか、メンテンナンス、更新などの保守費用も必要で、個店にとっては経営的負担がばかにならない。そんなわけで多くの個店はPOSレジ導入をあきらめてしまい、レジ締めで現金と売上集計が多少違っていても気にしない、売上分析は店主の記憶と感覚に頼るという、どんぶり勘定、どんぶり経営になりがちだった。

どんぶり経営から脱却

 しかし、どんぶり経営はもはや通用しなくなっている。流通が整っていない昔であれば、たとえば小売店なら定価販売ができ、商品の利益幅も大きかったので「細かいところはどんぶりでも大丈夫」とゆったりとかまえていられた。ところが競争が激化している今、どの小売店も利益幅が極端に減り、コスト圧縮が至上命題になっている。そのような中で現金ロス、在庫ロスなどを日常的に起こしているようではまったく太刀打ちできない。

 個店経営の環境が厳しくなるにつれ、多くの個店店主がレジアプリを導入し始めている。iPad本体は数万円するが、レジアプリを入れたからといってレジ専用iPadになってしまうわけではない。さまざまなアプリ、機能ももちろん使うことができ、個店の業務に必要な連絡、宣伝、サイネージなどにも活用できるため、設備投資としてはきわめて安上がりになる。あとはごく一般的なインターネット回線(Wi-Fiまたはセルラー)だけだ。これでPOSレジシステムとほぼ同じ機能が使え、どんぶり経営から抜け出し、データに基づいた経営ができるようになるのだ。

 個店の課題だったレジ締めは短時間で済むようになり、売上分析もレジアプリの一機能として入っているため、専門知識がなくてもできるようになる。売上分析といっても、個店は高度な分析を必要としているわけではない。ごく基本的な分析で十分に大きな効果があるだろう。

 たとえばオーナーレストランでは、その店の顔でもある看板メニューの売れ行きについては注意深く把握をし、売れ行きが悪くなればさまざまな施策を打つことだろう。だが2、3番手の定番メニューの売れ行きについてはどうか? 関心が薄くなっていないか。経営を考えた場合、重要なのはこの定番メニュー群の売れ行きだ。セットや定食といった定番メニューは数が出るので、この定番メニュー群の売れ行きが安定すると仕入れる食材の量が安定するようになる。仕入れが安定すると価格交渉やより良質の食材に切り替えることができるようになる。仕入れコストが下がれば利益幅が広がるため、余裕が生まれ、さらに新しいメニュー開発をする余力ができるといういい循環が始まる。

 POSレジアプリ・Airレジを提供しているリクルートライフスタイルの大宮英紀氏は、「売上データをちょくちょく見る習慣をつけるだけで、大きな効果があります」と話す。レジアプリの多くはクラウド型で、どこにいてもiPhone、iPadからリアルタイムで売上データを見ることができる。ちょっとしたスキマ時間に売上データを見ることで、「必ずいろいろな気づきが生まれ、どういう工夫をすればいいかということを自然に考えるようになります」という。この“考える”ことこそが経営そのものだろう。

カード対応、複数税率対応で個店を進化

 電子レジからレジアプリに乗り換える効果はこれだけではない。個店がクレジットカードや電子マネー支払いに対応するには、電子レジと連動する高価な決済端末を追加購入する必要があった。購入費用の累積は大きなものとなり、レジ周りもさまざまな機器で乱雑になり、レジ操作も複雑なものとなっていく。一方、POSレジアプリはモバイル決済にも対応して、しかもその多くが機器含めて手頃な価格で入手できる。また、バーコードリーダ、レシートプリンタなどもワイヤレス接続が多く、レジ周りはすっきりする。

 将来導入が見込まれる軽減税率・複数税率の導入では、電子レジなら複数税率に対応した製品に買い換えるしかない。しかしレジアプリであれば、複数税率対応バージョンにアップデートをするだけでいいのだ。さらに店舗面積の広くない個店の場合、レジカウンターが不要になる、店の雰囲気を崩さずに済むメリットもある。

 レジアプリの多くはアップストアから無料でダウンロードし、無料で基本機能が使えるようになっている。まずは入手をして、電子レジと併用してテスト運用してみるといいだろう。以降、iPadのPOSレジアプリでもっとも利用者数の多いAirレジの導入事例を中心に、店舗経営での課題解決の手法を見ていくとしよう。

各種レジスターの比較

レジスタネットレジスタPOSレジAirレジ
初期導入/設定費用 無料 3000円 5000〜20万円(システム構築費等) 無料
平均機器購入費用 3万円 5万〜50万円 20万〜300万円 iPad 実費 周辺機器セット5万円
月額基本費用 無料 5000〜1.5万円/月 5000〜4万円/月 無料
売上履歴 レシートジャーナルをプリント オンライン上管理 オンライン上管理 クラウド上管理
更新頻度 店閉め後日報をマニュアル入力 数時間ごと 数時間ごと リアルタイム
統計・売上分析 × × 可能 可能
店舗別売上管理 × × 可能(一括) 可能(別アカウント)
部門(カテゴリ)管理 × 可能 可能 可能
商品管理 × × 可能 可能
顧客管理 × × 可能 可能
利用開始までの日数 購入後すぐに利用可能 購入後すぐに利用可能 1〜2カ月 即時

一般的な電子レジスタとネットレジスタ、POSレジ、POSレジアプリのAirレジを比較。機種によってはこの通りではない場合もあるので、あくまで参考として見ていただきたい。

主なiPad POSレジアプリの比較

Airレジユビレジスマレジ
対応機種 iPad、iPhone iPad iPad、iPhone
有料プラン なし 5000円/月から 4000円/月から
メールサポート 無料 無料 無料
電話サポート 無料 (有料プラン必要) (有料プラン必要)
チャットサポート 無料 なし なし
クレジットカード決済
売上管理 3日間分(それ以上は有料プラン必要)
顧客管理 (有料プラン必要)
商品管理 400点(SKU含は1万2000点) 無制限 1000点(有料プランでは10万点)
在庫管理 (有料プラン必要)
席管理
提供企業 リクルートライフスタイル ユビレジ プラグラム
URL https://airregi.jp https://ubiregi.com http://smaregi.jp

Airレジの仕組み

Airレジを含むPOSレジアプリはブルートゥース接続でレシートプリンタ・ドロア、バーコードリーダがつながり、クラウドサーバでレジデータが管理できる仕組みになっている。

大宮英紀(おおみやひでのり)
株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部執行役員 今回取材に応じてくれた大宮氏は、「今のスモールビジネスオーナーはみな疲れきっている。Airレジを入り口に個店の業務支援をして、日本のあちこちで、小さな成功体験を積み上げていきたい」と語る。

Airレジを通じて個店を360度支援する

0円でカンタンに使えるPOSレジアプリ“Airレジ”のビジネス

 iPad対応POSレジアプリの中でもっとも利用店舗数が多いのは、24万アカウントを誇る「Airレジ」(提供:リクルートライフスタイル、以下RLS)だ。すべての機能が無料で利用できるほか、受付管理アプリ「Airウェイト」、予約管理アプリ「Airリザーブ」など関連アプリも充実している。また食材仕入れサービス、ネット印刷サービス、クラウド会計サービスなど個店の業務を支援するさまざまなサービスと連携している(詳細は欄外コラムほか参照)。

 RLSは米アップルとモビリティパートナー契約を締結している。アップルと共同でAirレジをさらに使いやすいものに進化させているのだ。しかも200人体制という大規模な開発体制は「私たちは個店の業務すべてを支援したいと考えている」からこそ。レジだけでなく、会計、分析、さらには集客、仕入れ、雇用、従業員教育という個店のあらゆる業務を360度支援するのが、Airレジの究極の目標だ。「個店でもっとも頻度が高い業務がレジ業務。個店業務を支援するにはもっとも頻度の高い業務が改善する価値が高いという判断でAirレジを最初に開発しましたが、これはあくまでも入り口にすぎません」。

 さらに、これまでAirレジというとレストラン、美容院などが主要な対象になっていたが、一般小売業でも利用できるよう機能の大幅な見直しも図られた。たとえば小売業の場合、商品点数が多いので、登録商品点数を大幅に増やし、レジ画面でのボタン配置も見やすくするなどだ。RLSが個店業務支援にこれほど力を入れるのには理由がある。「従来の弊社広告媒体では個店の方々と長期的な接点を持つことに難しさがありました。しかし、Airレジを中心とする業務支援では長期に渡ったお付き合いができるのです」。日本のお店を元気にしたい、個店の経営スキルを上げるお手伝いがしたい。従来の広告紹介業を超える業務支援という新たなビジネス分野に進出できる大きなチャンスだと捉えているのだ。