一歩未来のオフィスへ
会話が弾むコミュニティスペースをVRで創出
--- NECネッツエスアイ
ここまで画面上でオフィスフロアを再現するバーチャルオフィスツールを見てきた。ここからは実際に“目の前にオフィスがあるように見える”VRを活用した実証実験を紹介する。仮想空間で働く未来は、意外と近いかもしれない。
コロナ禍でVRに注目集まる
ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着し、仮想空間上で限りなく現実に近い体験ができるバーチャルリアリティ(VR)。VR元年と言われ各社からHMDが発売された2016年から5年がたった今、このVR技術が再度注目されている。背景には、コロナ禍によって現実では難しくなった体験を、VRによって代替する動きがある。それはオフィス空間も同様だ。
NECネッツエスアイは、リアルとバーチャルを融合し、共創の推進とコミュニケーションの革新を実現する新たな働き方の確立を目指し、VRをはじめとしたXR技術を提供するSynamonと共に、バーチャルワークプレイスの共同実証を2020年12月15日よりスタートさせている。
本共同実証では、NECネッツエスアイの拠点の一つである日本橋イノベーションベースを、Synamonのビジネス向けVR製品コラボレーションサービス「NEUTRANS BIZ」によってバーチャル化する。これにより、仮想空間上に、日本橋イノベーションオフィスが再現され、HMDを装着することで自宅にいながらバーチャル化されたオフィスに“出社”できる。
VR 空間で会議
NECネッツエスアイの田中涼子氏は「当社ではもともと、共創ワークオフィス『EmpoweredOffice』や、オフィスを分散しマルチロケーション化した環境で働く『分散型ワーク』などの取り組みを自社実践し、顧客に提案してきました。そのため、場所を選ばず働けるテレワークの環境はコロナ禍以前から構築できていました。しかし、テレワークによる働き方ではカバーできない課題があると考えており、テレワークの先を見据えた働き方の将来像として、リアルとバーチャルを組み合わせたVRを活用した働き方を模索していました」と語る。
田中氏が指摘した“カバーできない課題”とは、コミュニケーションやマネジメントの質の低下、企業への帰属意識の低下などだ。特にコロナ禍以後、多くの企業でテレワークが実施されたことにより、対面と比較して会議がうまく進まないといった、具体的な課題が浮き彫りになってきた。対面の会議と比較してWeb会議がうまく進まない背景には、会議のために集まった場で起こる雑談や、身振り手振りなどノンバーバル・コミュニケーションによって伝わる言語外の意図などがくみ取りにくいことがある。そうした“会話が弾むコミュニティスペース”の創出に、VR空間は役立つのだ。
リアルオフィスを忠実に再現
VR空間を日常的に働く場所へ
それでは実際、NECネッツエスアイではVR空間上の日本橋イノベーションベースをどのように活用しているのだろうか。NECネッツエスアイの多田裕司氏は「VR空間上では、日本橋イノベーションベースをほぼ完全に再現しており、オフィスにある3面ディスプレイや会議スペースなどでイベント、会議が行えます。実際にこの3面ディスプレイの空間を利用して、アバターでトークセッションを行いZoomで配信したり、ワークショップを行ったりしました。Web会議ツールでは付箋を使ったワークショップが行いにくいですがVR空間であればそれらも再現可能です。またWeb会議の場合、二人が同時に話し出してしまって譲り合いになるケースがありますが、VR空間の場合声の距離感なども再現されるため音声がかぶっても違和感なく会話が可能です。大人数でわいわいがやがやとしたコミュニケーションを仮想空間上で行うのに非常に適していますね」と語る。
もちろんVR空間を見るために、HMDは必要だ。NECネッツエスアイでは従業員が「Oculus Quest」を所持し、VR空間での会議等が行えるようにしている。また資料の投映などの設定はPC上で行う必要があるが、このPCの性能もゲーミングPC並みのグラフィックス性能が求められるそうだ。
現在はトークセッションやワークショップなどイベントで利用されているVR空間の日本橋イノベーションベースだが、次のステップとして日常的に働く場所としてVR空間を活用していきたい考えだ。本実証実験には日本橋室町三井タワーなどオフィスを手掛ける三井不動産も参加しており、バーチャルワークプレイスとリアルワークプレイスそれぞれの機能検証や検討をすることで、最適化された共創を目指す。