ワーキング革命 - 第18回
働き方改革の一助として注目が集まるRPA(Robotic Process Automation)
かつて「OAパソコン」という言葉が流行した頃、PCはオフィスのオートメーション(自動化)に貢献できる優れた電子機器として、熱い注目を集めていた。そのOAパソコンの夢を実現したアプリケーションが、WordやExcelなどのOffice系ソフトであり、情報処理の切り札としてOracleなどのリレーショナル型データベースが普及した。しかし、そんなPCの普及が、新たな働き方への課題を生み出した。それを解決しようとする最新ソリューションが、RPA(Robotic Process Automation)となる。
文/田中亘
この記事は、ICTサプライヤーのためのビジネスチャンス発見マガジン「月刊PC-Webzine」(毎月25日発売)からの転載です。
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煩雑さを増すオフィスのPC利用
文書作成や表計算、各種伝票の集計など、オフィスにおけるPCの利用は、今では当たり前となっている。加えて、メールやWebブラウザーでの調べもの、さらにはクラウドの利用など、「デスクワーク」と呼ばれる日常業務のほとんどは、PCに向かってマウスを動かしキーボードを叩く。その姿はまさに「OAパソコン」の理想を形にしたものだ。ところが、情報処理を効率化して業務の負担を軽減するはずのOAパソコンは、多機能になりネットワーク接続が当たり前となったことで、新たな「働き方」への負担を増している。
例えば、メールが普及したことによって、多くのオフィスワーカーは電話で通話する時間よりも、受信したメールを読んだり、文面を考えながらキーボードを叩く時間が多くなった。その結果、電話ならば3分で済むような用事が、メールを送信するまでに10分以上も費やしているケースも増えている。また、IT機器によって自動化が進んだはずの業務の現場でも、Excelで入力された売上や買掛のデータを担当者が社内の基幹システムに手作業でコピーしている例も多い。会社によっては、月末に各自の交通費などの清算内容がExcelのワークシートで送信されてきて、経理部門が一つひとつファイルを開きながら、確認していることもある。
このような働き方が増えている背景には、PCと社内システムとクラウドがばらばらに進化してきた「分裂」がある。異なる時期に異なる技術で誕生し発展してきた個々のシステムやサービスは、技術的には自動的に連携させるツールなどを開発できても、開発費の負担や利用頻度などのバランスを考えて、現場の裁量や手作業に任されてきた経緯がある。しかし「塵も積もれば山となる」ように、そうした「手作業のIT連携」が常態化してしまい、無意識のうちに業務の負担になっている。そんな現場の課題をさらなるITの力で解決しようとするソリューションが、「RPA(Robotic Process Automation)」なのだ。
「人手」を「自動化」
RPAを簡単に説明すると、キーボードとマウスを使って行う作業をロボットにより「自動化」するソリューションとなる。昔のOAパソコンのAもAutomationだが、今回はO(オフィス)がP(プロセス)となる「PAパソコン」と呼べるのかも知れない。Processとは、先に触れた伝票入力や売上集計、Webブラウザーでの情報収集、各種のデータ登録など、仕事の数だけ存在する。それらの作業(Process)は、「人手」に依存する属人的な業務が多い。そのため、コード開発というアプローチによるシステム化は困難だった。
それに対してRPAでは、「作業そのもの」を自動化するテクノロジーを用いる。そのため、一口にRPAといっても、各社でアプローチが異なる。あるベンダーの技術は、マウスやキーボードの「動き」そのものを記録して再生することで、「PAパソコン」を実現する。別のベンダーでは、アプリケーションやWebブラウザー内の「フィールド」項目を認識して、その関係性や連携を記録し自動化している。そのため、実際にワーキング革命のためにRPAを提案する際には、はじめに顧客企業の働き方の現状と課題を聞き取って、その「人手」の使い方を「自動化」できるテクノロジーを選ばなければならない。
実際のところ、RPAは「自動化」技術を売るためのメッセージでしかない。そのため、国際的な標準や技術的に正確な定義はない。またRPAにはレベルがある。現在のRPAは「クラス1」と呼ばれる初期の段階で「指示した通りに動く」レベルなのだ。その上の「クラス2」になると、「自らも考えて働く」ことが可能になり、一つの指示に対して、関連性を調べて勝手に複数の作業をこなせるようになる。このレベルでは、機械学習やディープラーニングなどAI系の技術の組み合わせが前提になる。
そして「クラス3」では、指示されている内容から判断して、新たなプロセスを自己生成するまでに進化する。そこまでくると、SF映画のような近未来オフィスになるが、実現にはまだ少し時間がかかる。現時点では、クラス1による働き方改革が始まったばかりだ。
当面の効果は事務処理にかかる時間の削減
国内ですでにRPAを導入している事例の多くは、金融機関や生命保険などだ。
例えば、生命保険会社では数分かかる手作業でのデータ入力を20秒程度に短縮した。複数のRPAを導入して、8000時間分の事務処理を削減した金融機関もある。熟練スタッフ数名の確認作業をRPAに置き換えて、新人スタッフ1名で対応できるようにした例もある。こうした成果の多くは、「煩雑な事務処理」の自動化によるものだ。そのため、大規模な事務処理ほど効果が出やすい。
反対に、小規模なオフィスでは成果を見せるのが難しい。そこで注目されているのが、Webブラウザーと連携するRPAになる。経費清算のために乗り換え案内のサイトで料金を調べたり、定期的にウォッチしている企業のニュースリリースを自動的に検索する、といったルーチンワークにRPAを使うと、現場の担当者の時間節約につながる。そうして空いた時間は、柔軟な働き方のために割り振ってもいいし、充実したライフスタイルに消費してもいいだろう。
RPAという商材を通して、ワーキング革命に貢献するためには、まずは顧客企業の事務処理に潜んでいる属人的な課題の洗い出しが重要だ。効率よく負担が少なく、働く人たちの充実感が得られるワーキング革命を目指して、RPAによるプロセス改革に取り組んでいくべきかも知れない。
(PC-Webzine2017年9月号掲載記事)
筆者プロフィール:田中亘
東京生まれ。CM制作、PC販売、ソフト開発&サポートを経て独立。クラウドからスマートデバイス、ゲームからエンタープライズ系まで、広範囲に執筆。代表著書:『できる Windows 95』『できる Word』全シリーズ、『できる Word&Excel 2010』など。
この記事は、ICTサプライヤーのためのビジネスチャンス発見マガジン「月刊PC-Webzine」(毎月25日発売)からの転載です。
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