ワーキング革命 - 第22回

テレワークに意識が高い地域と企業の傾向

2017年7月に実施された「テレワーク・デイ」について、総務省はドコモ・インサイトマーケティング、KDDI、ソフトバンクの協力を得て、モバイルビッグデータを活用した効果検証を行った。その結果、東京23区内でテレワークに積極的なエリアが浮き彫りになった。ワーキング革命の提案につながるヒントを考察する。

文/田中亘


この記事は、ICTサプライヤーのためのビジネスチャンス発見マガジン「月刊PC-Webzine」(毎月25日発売)からの転載です。

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1位は豊洲、2位は浜松町、3位は品川

 まず、テレワーク・デイ当日の10時台に、通常の7月平均と比較して人口が減少した東京23区内の500mメッシュを比較すると、1位は豊洲、2位は浜松町、3位は品川となった。豊洲が1位となった理由は、40歳代の男性を中心に、テレワーク・デイ当日の10時台に、最大で約4900人(10%減)の人口減が、豊洲周辺の1.5kmメッシュで確認されたからだ。豊洲エリアでは8~19時に人口が約1~2割減。豊洲駅では7~9時、18~20時に最大で約2割減となった。一方で、12時前後はやや増加、時差出勤の影響の可能性があるとみられる。ちなみに、虎ノ門・霞ヶ関でも同様の傾向だったが、減少幅は豊洲よりもやや少なかった。

 このほかにも、テレワーク・デイ当日の出勤率が5%以上減少していた東京23区内の500mメッシュは、江東区・品川区・渋谷区・新宿区・中央区・千代田区・港区など幅広く分布し、一定のワークシフトが広域的に発生していたことが推察された。

 さらに、鉄道各社の調べによれば、ピーク時間帯(朝8時台)の利用者減少量は東京メトロの豊洲駅で10%減、都営芝公園駅で5.1%減、都営三田駅で4.3%減(いずれも2016年7月25日同時間帯との比較)などとなっている。

 ちなみに、100人以上のテレワークを実施した特別協力団体(83団体)による実施人数と本社所在地などを分析すると、1位は豊洲、2位は永田町・赤坂、3位は虎ノ門・霞ヶ関となった。この結果と、実際の減少率に差がある点が興味深い。協力団体のほかにも、率先してテレワークを実践したのが、浜松町と品川になるのだ。

モバイルビッグデータを活用した「テレワーク・デイ」の効果検証結果の概要
(参考URL http://www.dcm-im.com/info/telework_day.html)。

豊洲を代表するIT企業

 豊洲といえば、かつての重厚長大産業の施設跡地に建設された高層ビルに、通信や情報系企業が数多く本社を構えている地域となっている。中でも、NTTデータなどに代表される国内の大手IT企業と関連各社、外資系ITベンダーや国内半導体メーカーといった会社が多い。こうした企業では、ITスキルの高い社員が数多く在籍しているだけではなく、日頃から業務の中心がPCの操作であり、容易にテレワーク環境に移行しやすいという利点もある。

 それでも、10%という減少率は注目に値する。40歳代の男性社員が中心で、これだけ減少したということは、各社の制度やシステムが整備されていけば、さらに若い世代や女性などへも拡大していくはずだ。

 一方で、特別協力団体の順位とは異なる成果を出した2位の浜松町と3位の品川には、興味深い傾向がある。そもそも、2位の浜松町はドコモの統計結果によるもの。KDDIとソフトバンクは、資料の中で順位などは発表していない。KDDIは東京23区内の500mメッシュで出勤率の減少が大きいエリアを公表しており、ソフトバンクは、特別協力団体の上位地域の動向をグラフにしているだけだ。つまり、ドコモの携帯電話を利用しているユーザーの多さが、浜松町に通勤している人と重なったとも推測できる。KDDIの調査からは、浜松町が2位に入るとは思えない。その反対に、KDDIの本社がある飯田橋が入っている。こうしたキャリアごとの傾向を取り除いて考えると、1位の豊洲は間違いないとして、実質的な2位は品川になりそうだ。品川といえば、日本マイクロソフトやソニー、キヤノンなど大小さまざまなIT系企業がある。

 渋谷区の渋谷ヒカリエ周辺や、港区の六本木ヒルズ周辺なども、ピンポイントでIT系企業のテレワーク率の高さを示している。その反対に、金融や不動産などの大手企業が集まる大手町の減少率は低く、秋葉原のように販売やサービスが中心の地域でもテレワークの利用は進んでいない。

 これらの傾向を総括すると、やはり首都圏におけるテレワークといえば、まだまだIT系企業が中心の先進的な働き方改革だと考えられる。

オフィス業務をロケーションフリーに

 総務省が発表した結果からは、テレワークの効果を発揮させるためには、オフィスでの業務をロケーションフリーにしなければならないことがわかる。店舗による接客を中心とした仕事では、テレワーク・デイを設定しても意味はない。豊洲と品川で顕著に見られた傾向は、IT企業の多さとテレワークで対応できる業務の多い大手製造業が集中している地域の再確認だった。

 テレワークを商材としてワーキング革命を提案していくためには、直近ではIT系企業やそれに準じた労働環境にある企業が、受け入れてもらいやすいと考えられる。しかし、それだけではIT企業の少ない地域では販売の拡大が難しい。また、地域によっては、首都圏のような通勤ラッシュや遠距離通勤などの苦労はないので、テレワークの導入メリットとして訴える力も弱い。

 ただし、都市部から地方に発信できるテレワーク・デイのメリットといえば、いわゆる「意識の高い労働者」の就労傾向にある。今回の上位を占めた23区内の地域といえば、メディアに取り上げられる「意識の高い」系の人たちが好む場所だ。こうした「意識の高い労働者」は、ビジネスにおいてもクリエイティビティを発揮すると期待されている。

 ワーキング革命は、働き方の自由さを追求する取り組みでもあり、そうした意識の高い人たちを積極的に活用できる企業になることも、新たな働き方改革だといえるのだ。

(PC-Webzine2018年1月号掲載記事)

筆者プロフィール:田中亘

東京生まれ。CM制作、PC販売、ソフト開発&サポートを経て独立。クラウドからスマートデバイス、ゲームからエンタープライズ系ITまで、広範囲に執筆。代表著書:『できるWindows 95』、『できるWord』全シリーズ、『できるWord&Excel 2010』など。

この記事は、ICTサプライヤーのためのビジネスチャンス発見マガジン「月刊PC-Webzine」(毎月25日発売)からの転載です。

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