いますぐ読みたい「働き方ブック」レビュー - 第13回
RPAは社会人の敵「単純作業」をやっつけてくれる新型ロボ!
『RPAの威力 ロボットと共に生きる働き方改革 先進8社の実践的取り組みに学ぶ』アビームコンサルティング 安部慶喜、金弘潤一郎・著
労働時間短縮を阻む難敵「単純作業」。その解消につながる有力な解決策として今注目を集めているのが「RPA(Robotic Process Automation)」。仮想のロボットに単純なIT業務を肩代わりさせるもので、導入企業のじつに97%が5割以上の省力化を達成したという。今回はいち早く取り入れた著名企業に取材し、その実例からRPAの特徴をまとめた一冊を紹介。
文/成田全
時短を阻む原因は「単純労働」
「ジタハラ(時短ハラスメント)」が問題になっている。働き方改革で問題視されている「長時間労働」を是正するため、「残業するな」「定時で帰れ」と労働時間短縮を強制されるが、現場の仕事量は変わらないため時間内で終わらず仕事を持ち帰ることになり、結果会社にいる時間が減っただけ、という悪循環を生み出すことになっているというのだ。
人を増やさずに労働時間を短くすることは、効率化という名の下にコストカットを繰り返してきた現状ではほぼ不可能だろう。ではどうしたらいいのか? その答えは今回ご紹介する『RPAの威力 ロボットと共に生きる働き方改革 先進8社の実践的取り組みに学ぶ』にある。
「RPA」とは「Robotic Process Automation」の略であり、「ロボットによる業務の自動化」を意味する。RPAは人工知能である「AI」や、会話をする「bot」とは違って自律するわけではなく、人間によってプログラムされた内容を粛々とこなしていく。「自動化できる部分を機械に任せる」ことで労働時間を短縮するソフトウェアロボットだ。
日本企業で長時間労働がいつまでたっても減らない原因はいったいどこにあるのか? それは「単純作業」の多さにある。
導入企業の97%が5割以上省力化
会議の資料作成、前年度の売上のチェック、バラバラな書式で送られてくる書類の入力、競合他社の情報収集……こうした時間のかかる「小粒業務」をロボットに任せ、人間はロボットにできない創造的な仕事をせよ、というのが本書の肝だ。
20世紀的な働き方をアップデートしている会社に未来はない、ということはこの連載の第3回で説明した通りだ。大量の人員を使って大量にものを作り、長いスパンで売っていくという「人口ボーナス期」のやり方は、人口が減っている「人口オーナス期」に通用しないばかりか、会社が存続できなくなる可能性が高い。しかしオフィスでは前世紀の成功体験から抜け出せない面倒な上司がはびこっていて、しかも新しいテクノロジーを導入しようとすると邪魔までしてくる。「下積みさせないと若手が育たない!」「システムを構築するのに金も時間もいくらかかると思ってるんだ?」「勝手にデータを取って来て情報漏洩するんじゃないだろうな」……化石のような上司の杞憂、これらはすべて心配ご無用だ。
2014年頃から導入が始まったRPAは単なる機械ではなく、社員の一員として24時間働く「デジタルレイバー(仮想知的労働者)」だ。RPAはプログラムされた以外のことは行わず、アルゴリズムにミスがなければ100%間違いなく仕事をこなす。さらには3~4週間という短期間で導入・稼働が可能であり、数百万円単位の小さな額の投資で始められ、短期間の運用で大きな効果を生む。効果が出ると「他のこともRPAでできるのではないか?」と働く人たちの意識の変化を促し、自発的・自律的に仕事が進むようになるという。
その効果は目覚ましい。本書によるとRPAを導入した企業の97%が5割以上の省力化を達成、9割以上の業務削減効果があった企業はなんと31%もあるのだ。単純作業から解放されて生まれた時間をイノベーションや顧客への価値を創造する仕事に充てれば、今の働き方に合ったスキルを持つ人材(もちろん若手も)の成長につながることになる。
RPAの威力と絶大な効果を実例で
本書にはRPAを導入した大和ハウス工業、農林中央金庫、ブリヂストン中国、帝人フロンティア、アサツーディ・ケイ、テレビ朝日、NECマネジメントパートナー、インテージホールディングスという8社の取り組み事例が紹介されている。最初は半信半疑だった企業も、導入後にその「威力」に驚き、絶大な効果を活かして実績を伸ばしていることがよくわかるだろう。
「ロボット」という言葉を生み出したのは、チェコの作家カレル・チャペックだ。1920年に発表した戯曲『R・U・R』に登場するロボット(チェコ語で「賦役労働」を意味する“Robota”が元になったと言われる)は、文句を言う人間の労働者に代わり、安価に作れて黙々と働き続ける存在であった。しかしすべての労働を任せたロボットの数が増えて反乱が起き……というディストピアな物語だった。
そう遠くない未来、AIが今以上に発達して人間の仕事を奪うのではないかという予測がある。しかしそれは機械ができることを機械に任せず、現状維持をした結果、奪われる仕事をやっていた人たちが失職してしまうことに他ならないのだと思う。チャペックが描いたような世界を現実にしないためにも、今こそRPAを導入し、人間は創造的な仕事へとシフトせねばならない。またRPAを導入できない、しない選択をするようであれば、そこは20世紀的な働き方をアップデートする会社だという判断材料となるかもしれない。
自動化、省力化、迅速化、業務負荷の軽減、時間の削減……年々スピードアップし、短サイクル化するビジネス環境において、短期で結果が判明し、上手く行けば継続、ダメならやめて新しい方法やプログラムを考えればいいRPAは、働く人にとって福音と言えるだろう。また現在のRPAは「つなぎ」のテクノロジーであり、AIなどと組み合わせてさらに発展していくと言われているので、本書を参考に早期に導入し、人間とロボットが共に働く、来るべき未来に備えたい。
今月読みたい「働き方ブック」はこれ!
スマートワーク・ブームを反映して毎月洪水のように押し寄せる「働き方ブック」のなかからオススメ本をスマートワーク総研がピックアップ!
『トヨタだけが知っている早く帰れる働き方』(桑原晃弥/文響社)
トヨタで大切にされていることは意外と基本的なことが多く、まずそこに驚きました。しかしその基本を徹底することが大切で、だからこそ「世界のトヨタ」のような大きな結果が生まれるのだと、編集しながら痛感しました。私自身、だらだら残業をしてしまうことが多かったので、まずは自分の残業が「異常」か「正常」か、考えることから始めようと思いました。働くうえでまず知っておきたいことがたくさん学べるので、新入社員の方や、自分の働き方を見直してもう一度新たな気持ちで働きたいという方に、おすすめの1冊です。(公式サイトより)
『働き方の問題地図「で、どこから変える?」旧態依然の職場の常識』(沢渡あまね、奥山睦/技術評論社)
累計12万部『職場の問題地図』『仕事の問題地図』『職場の問題かるた』に続く働き方改革のバイブル、シリーズ最新作! 「上司や部下が外国人」「親が突然,要介護状態に……」「子どもが発熱、さあどうしよう?」「育休後に仕事復帰したはイイけど、毎日が綱渡り……」「70歳になってまで通勤ラッシュとか、無理なんですけど」「台風に地震に大雪に……出社するだけでもうヘトヘト」 そろそろ、実態に即した働き方を考えないとまずいんじゃないですか? 「残業を減らせばいいんでしょ」という考えだけでは対処できない問題とその対策を、業務プロセス/オフィスコミュニケーション改善士の沢渡あまね、1996年からテレワークを活用して子育てや闘病生活を経験しながら時代の働き方を先取りしてきた女性起業家の奥山睦のタッグが教えます。(公式サイトより)
『新訂・介護離職から社員を守る~ワーク・ライフ・バランスの新課題』(佐藤博樹、矢島洋子/労働調査会)
団塊の世代が75歳以上に到達する2025年。働き盛りの団塊ジュニア層が親の介護に直面することが予想されます。決して他人ごとではない介護離職!優秀な人材の流出は企業にとって一大事です。それは、介護との両立により、中核的人材の離職につながる恐れがあるということ――しかも、介護は育児と違ってある日突然降りかかってくるもの。「仕事と介護の両立」のための取組を、本人、企業、社会のあらゆるレベルでスタートさせることが必要です。仕事と介護の両立を企業がどうやって支援していくべきかを、事前の情報提供や制度の見直し、柔軟な働き方という視点から解説した充実の1冊!(公式サイトより)
『プログラマーとお仕事をするということ』(Patrick Gleeson・著、青木靖・訳/翔泳社)
プログラマーではないけれど、あなたの部下や同僚、あなたが関わっているプロジェクトにプログラマーが一人でもいれば、あなたは本書の読者です。この本では、日頃あなたが不思議に思っていること、すなわち、プロジェクトの計画と遂行の方法とソフトウェア開発プロセスが噛み合わない/それによって生まれる衝突の回避(ソフトウェア開発プロジェクト管理の発展、開発手法のその利点と欠点の評価)/プログラマーは何をどのようにやっているのか/ソフトウェア開発プロセスや関連する用語、コードを書く以外にプログラマーが行っていること、そして、プログラマーの管理(プログラマーをどう採用するか、一般的なプログラマーの心理学、開発者の心を占めているプレッシャーや優先度)/プロジェクトの失敗にどう対処するか、といったことに対して、著者自身が見聞し体験してきた、ソフトウェア開発にまつわる手酷い失敗や過ちをもとにした解決方法と指針を(ユーモアとともに)与えてくれます。(公式サイトより)
『大予測 次に来るキーテクノロジー2018-2019』(城田真琴/日本経済新聞出版社)
未来予測に定評のある野村総研のアナリストが先端テクノロジーが与えるインパクトを先読み! 【本書で取り上げられる主なテーマ】AI(人工知能)はホワイトカラー業務をこなせるか?/ロボットは人口減社会の救世主となるか/自動運転で激変するバリューチェーンと自動車関連ビジネスの未来/音声認識はマンマシン・インターフェースのデファクトになるか/チャットボットがポータル、検索エンジンの次のウェブの玄関になる/VR/ARはキャズムを越えられるか/モノから人へのセンシングが変える「働き方」/ブロックチェーンが示す中央集権型社会の終焉、ほか。(Amazon内容紹介より)
筆者プロフィール:成田全(ナリタタモツ)
1971年生まれ。大学卒業後、イベント制作、雑誌編集、漫画編集を経てフリー。インタビューや書評を中心に執筆。文学、漫画、映画、ドラマ、テレビ、芸能、お笑い、事件、自然科学、音楽、美術、地理、歴史、食、酒、社会、雑学など幅広いジャンルを横断した情報と知識を活かし、これまでに作家や芸能人、会社トップから一般人まで延べ1500人以上を取材。