いますぐ読みたい「働き方ブック」レビュー - 第14回
AI・スマートスピーカー・ブロックチェーン……2020年以後の働き方に備えるための本
『大予測 次に来るキーテクノロジー 2018-2019』城田真琴・著
AI、自動運転車、スマートスピーカー、チャットボット、ブロックチェーン……これらの技術はいかなる用途に使われるのか? そして我々の働き方をどのように変えるのか――先端ITを追うアナリストの解説を読めば、「今の自分は未来に向けて何をしておくべきか」がわかるかも!?
文/成田全
野村総研のアナリストによる予測
日々新たな技術が生まれ、既存の技術も凄まじいスピードでアップデートされる最先端のITテクノロジー。これらの技術は働き方改革で大きなウェイトを占める生産性の向上には欠かせないものだ。しかしあまりに多くのニュースがあり、情報の取捨選択に困っているという方もいらっしゃることと思う。
将来有望な技術に関する精度の高い情報が欲しい、という方に勧めたいのが、野村総合研究所で先端ITの動向調査と社会に与えるインパクトなどを調査・研究するアナリスト、城田真琴氏による予測をまとめた『大予測 次に来るキーテクノロジー 2018-2019』だ。最新の情報を集約し、今後発展しそうなAI(人工知能)、自動運転、音声操作、チャットボット、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)・MR(複合現実)、バイオメトリクス認証、センシング(IoT)、ブロックチェーンという8分野についての解説と予測を行っている。
日本の労働人口の約49%がAIやロボットによって代替可能
近年目覚ましい発達を遂げているのが、本書の第1章「人工知能はホワイトカラー業務をこなせるか」で取り上げられている「AI」だ。18世紀半ばから19世紀にかけてイギリスで起こった産業革命では、失業を恐れた労働者が機械を破壊する「ラッダイト運動」などを起こしたが、現代でも「AIが発達すると人間の仕事を奪ってしまうのではないか」「大量失業が起きるのではないか」という話題は尽きない。では、いったいどのくらいの仕事が代替可能だと予測されているのだろう? 本書によると、野村総合研究所が国内601種類の職業を対象に研究を行った結果、AIやロボットなどによって日本の労働人口の約49%が代替できるようになる可能性が高いと推計されたそうだ。
すべての業務をAIや機械によって自動化することは大変だが、部分的にはAIやロボットによる代替は可能と言える。本書ではこれまでに蓄積した膨大な診断データからがんや遺伝子疾患の判定を行ったり、新米弁護士やパラリーガル(弁護士の指示・監督のもとで法律業務を補佐する人)が行っている業務をAIが代替することはすでに始まっているなど、事例を含め丁寧に説明されている。つまり「人間の仕事がAIに奪われる」という観点ではなく、そのテクノロジーをどこに使い、無駄な部分をどう省いて生産性を向上させるのか、その上で人間にしかできない創造的な分野で新しいことを始める、という方向にシフトすることが肝要となるのだ。
第2章の「自動運転で激変する自動車業界の未来」では、自動運転に関するトピックスがまとめられているが、自動運転車の開発は自動車メーカーだけの問題ではなく、多くの自動車業界以外の企業が参入しており、それによって新たなテクノロジーが生まれていることが解説されている。もはや「競合」は同業他社だけの問題ではなく、「業界」という概念は前世紀の遺物と化していることがはっきりとわかるだろう。
ここ最近相次いでリリースされ、各社がデファクトスタンダードを目指してしのぎを削る戦いが繰り広げられているスマートスピーカーには、声による「音声操作」や、応答を行う「チャットボット」、センサーによるモニタリングを行う「センシング」、インターネットに接続する「IoT」など、様々な技術が盛り込まれている。こうした技術が今後どう活かされていくのか、また今あるテクノロジーの中でどれが優勢なのかなどについての予測はとても興味深く、非常に読み応えがある。
ビットコインを支える基盤技術とは?
また最近何かと話題になることが多いのが「ビットコイン」だ。しかし不正アクセスによる流出や、乱高下する価値、沸騰する投機的なニュースなどによって「ビットコインは危ないのではないか」「そもそも実態のないものをどう信じたらいいのか」と疑心暗鬼になっている人も多いかもしれない。しかしそもそもビットコインとは何なのか、どんなテクノロジーから生み出されたものか、ご存知だろうか?
ビットコインを支えている基盤技術は「ブロックチェーン」というテクノロジーだ。この仕組みを理解せず、短絡的に「ビットコイン=怖いもの」という色眼鏡をかけてしまうと、この先の社会をドラスティックに変化させる可能性のあるブロックチェーンに対して誤った判断をしてしまうことになるだろう。本書ではこの仕組みがどうなっているのか、また安全性についてはどうなのかなどをわかりやすく説明している。
このブロックチェーンが広く社会へ行き渡ると、仕事の多くの部分を自動化・ペーパーレス化することができ、単一の場所でデータを保存することがなくなるので障害に強くなる。また取引記録が透明化し、改ざんは不可能になる。さらには管理者が不要になるので、これまでのような中央集権的な組織がいらなくなる、という劇的な環境の変化をもたらす可能性があるのだ。もしこの変化に乗り遅れると、企業にとって取り返しのつかない致命的ミスになりかねない。どんなテクノロジーがあり、何が働き方を変えるソリューションとなり得るのか、そのことを念頭に置きながら本書を読むと、この先の未来の予測は、より確定的な現実となるだろう。
今月読みたい「働き方ブック」はこれ!
スマートワーク・ブームを反映して毎月洪水のように押し寄せる「働き方ブック」のなかからオススメ本をスマートワーク総研がピックアップ!
『パパの育児休業 ~働き方改革! 父が笑えば社会が変わる~』(徳倉康之/インプレス)
労働人口の減少が叫ばれ、国を挙げてダイバーシティ構想に取り組む中、「働き方改革」から目を背けている企業は生き残りが厳しい時代になろうとしています。この変化が大きい時代にあって、組織を守り成長し続ける企業でいるためには、制約のある社員も希望を持って働ける職場づくりができているかがポイントとなります。大丈夫。意識と、そして少しの行動さえ変えられれば、すぐに職場の空気を変えることはできるのです。(Amazon内容紹介より)
『デジタルレイバーが部下になる日』(池邉竜一/日経BP社)
現在、デジタルレイバー、RPAまたはAIという言葉は、ややもすれば、人間から職と生活の糧を奪う敵のような存在と見なされるケースも少なくありません。しかし、幾度となく起きた産業革命の歴史に倣うならば、まずは新たな労働力の登場を受け入れ、これまで人間にとって最適と思われた「効率化」をすべて見直すことが肝要です。そのうえでデジタルレイバーと人が協働する業務設計、すなわちワークスデザインを新たに創造することで、疲れを知らず、身を粉にして働いてくれる部下(デジタルレイバー)によって、人は「働く」ことの真の価値と喜びを手に入れることになるでしょう。(公式サイトより)
『システムの問題地図~「で、どこから変える?」使えないITに振り回される悲しき景色』(沢渡あまね/技術評論社)
累計15万部『職場の問題地図』『仕事の問題地図』『働き方の問題地図』『職場の問題かるた』に続く働き方改革のバイブル、シリーズ最新作! 「システムを新しくしたらかえって仕事が増えた、なんとかしてくれ」「こんなシステム使うなんてめんどくさい、元に戻せ」現場の生産性を向上させるためのシステムが、なぜ使えない・使われないものになってしまうのか? システムを「使う人」「作る人」「守る人」いずれの立場も経験した著者が、問題の原因を図解で示しつつ、解決策を教えます。【巻頭付録】システムの問題 全体マップ(公式サイトより)
筆者プロフィール:成田全(ナリタタモツ)
1971年生まれ。大学卒業後、イベント制作、雑誌編集、漫画編集を経てフリー。インタビューや書評を中心に執筆。文学、漫画、映画、ドラマ、テレビ、芸能、お笑い、事件、自然科学、音楽、美術、地理、歴史、食、酒、社会、雑学など幅広いジャンルを横断した情報と知識を活かし、これまでに作家や芸能人、会社トップから一般人まで延べ1500人以上を取材。