〈前編〉ワークフロー総研×スマートワーク総研 所長対談

ワークフローが企業を革命してしまう理由



ワークフローの改善が企業のイノベーションを進めるだろう――。コロナ禍にあって奮闘する企業・人を追うスマートワーク総研に心強い同志が現れた。2020年4月1日に設立されたワークフロー総研だ。その名の通り、働き方改革に欠かせない業務プロセスの効率化手段として要注目のワークフローをメインに研究しており、その内容にはスマートワーク総研の面々も興味津々。そこで今回、2つの総研所長による記念コラボ対談を実施、そしてそれぞれが制作した記事を同時公開した。

文/編集部


岡本康広
ワークフロー総研所長。ワークフローシステムを開発・提供する株式会社エイトレッドの代表取締役社長も務める。ワークフローを出発点とした働き方の見直しが意思決定の迅速化、組織の生産性向上へ貢献するという思いからワークフローの普及を目指し2020年4月、ワークフロー総研を設立して現職。エイトレッド代表としての知見も交えながら、コラムの執筆や社外とのコラボレーションに積極的に取り組んでいる。

まつもとあつし
スマートワーク総研所長。ジャーナリスト・コンテンツプロデューサー・研究者(敬和学園大学人文学部国際文化学科准教授・法政大学/専修大学講師)。ITベンチャー・出版社・広告代理店・映像会社などを経て、現職。ASCII.JP・ITmedia・ダ・ヴィンチなどに寄稿。著書に「コンテンツビジネス・デジタルシフト」(NTT出版)「ソーシャルゲームのすごい仕組み」(アスキー新書)など。

ワークフローという言葉を、顧客はまだ知らない

まつもと まず、ワークフロー総研を立ち上げた経緯から教えていただけますか?

岡本 ワークフロー総研を設立したエイトレッドという会社は、2007年に株式会社ソフトクリエイトの一部署を分社化するかたちで興されたんです。一方、私は25年ぐらい前にソフトクリエイトに入って……じつは2度辞めてるんですよ。

まつもと それはめずらしいキャリアですね。

岡本 1999年に、ソフトクリエイトから富士ソフトに転職したんですが、それから3年後に、現在のソフトクリエイトホールディングスの会長に呼び戻されまして。「上場しようと思っているから、お前がやることがあるぞ」と。そこから11年ぐらい、色々な事業をやったのですが、40歳を超えて、また新しいことをやりたくなり、DMM.comに転職しました。

 そこでは3Dプリンターに携わったり、ロボット事業の企画を立ち上げたりしたのですが、あるときソフトクリエイトOBの集まりに行ったら、またまた会長に口説かれて。最初は断ったんですけど、翌日にLINEで連絡があって、それで会社に行ったら契約書が用意されており……という感じなんですけど(笑)

まつもと 2回も呼び戻されるということは、会長さんからの信頼も厚いということですね。その中で、岡本さんが新しく任されたのがエイトレッドと。

岡本 ソフトクリエイトホールディングスに戻ってきたのが3年前で、まずウェブ制作の部門を任されて、その1年後にM&Aした会社の副社長になりました。それからまた1年後に、エイトレッドの前社長が退任されて、去年の株主総会で、私が社長に就任しました。

 そういった経緯ですから、私の専門はソフトウェアがベースですけれど、ほとんどの業務を経験しているんです。営業をメインにSE、マーケティング、広報、管理、採用、そして新規事業の立ち上げも。専門分野を極めたわけではないのですが、新しいことには柔軟に対応できます。

まつもと エイトレッドはもともと、どういった会社なんですか?

岡本 ワークフローシステムのメーカーとして、「X-point」「X-point Cloud」「AgileWorks」といった製品の開発、販売を手掛けています。X-pointはエイトレッドが分社化したときの最初の製品になりますね。

まつもと そんな会社の社長を任されて、あえて「オウンドメディアを作ろう」という発想に至った理由は?

岡本 エイトレッドに着任してすごく感じたのは、ワークフローという言葉をお客さんが知らないということ。まだ「ワークフローってなんだ?」という段階なんです。ちょうどグループウェアが「掲示板なのか会議室予約システムなのかわからない」と言われていた頃の段階かなと。今はまだマーケットが小さいと感じています。

まつもと マーケットが小さい、ですか。

岡本 ワークフローは「意思決定をするツール」と考えると、どの会社も使っているはずなんです。つまり、グループウェアやメールのような基幹システムのはずなのに、調査するとマーケットは100億円規模しかない。

 となると、潜在顧客はシステムがわからない人たちなんだろうなと。この人たちにどうすれば届くのかという逆算をすると、ワークフローそのものの布教活動が必要だと。ただ、自分たちはシステム屋なのでそれが柔軟にはできないし、あくまで会社としては製品を売ることが目的じゃないですか。そこで総合研究所、総研ならどうだと。オウンドメディア的な発想ですよね。

まつもと 中立的な観点として、「総研」を設立したということですね。

岡本 マーケットとして大きくなると、売上も大きくなる。私は商品そのものにはまだ詳しくないけれど、その「わからない強み」を活動に活かせれば会社に貢献できるなと。調査をしたり、ワークフローに関わる業務の情報を提供できたら、ユーザーさんを育てるきっかけになる。そうすればX-pointやAgileWorksの売上にもつながると考えたんです。

まつもと その「総研」の考え方は、スマートワーク総研も一緒なんです。そこが我々の“X-point”というか(笑)

 政策の柱として働き方改革が主唱されましたと。じゃあ、まず何から進めていくかといえば「時間の管理」。だから当初は、働き過ぎをどうしようかといった「守り」に焦点が当たりがちでした。でも、さまざまな先行事例を伺っていると、守りじゃなくて「攻め」なんだと。攻めないと、企業に未来はないということがわかりました。

 そういった先人たちの声を広く届けていくには、オウンドメディアによる取材やライティングでもって、研究員のようにアプローチしていくのが有効なんです。

 そもそも、「働き方改革とはいったい何なのか?」の答えは人によってまちまちです。岡本さんがおっしゃった「ワークフローってなんだ?」と一緒で、定義の共通認識ができていません。そこで、まずはそこの理解を社会人の皆さんに深めていただいた上で、「じゃあ、ウチの会社は何からやっていけばいいんだ?」ということを、総研の活動を通じて、最終的にはビジネス展開にしようと。

最も有益かつ入手困難な情報は「失敗事例」である

まつもと ワークフロー総研に話を戻すと、ワークフローはマーケットが小さいけれど潜在顧客は多い、というお話でした。ワークフロー総研はそこをどういうふうに開拓されるのか……メディアとしての展開を伺ってもよろしいですか?

岡本 コンテンツとしては、調査ですよね。調査のイメージは事例紹介と一緒です。一般の人がどう思っているかをお伝えしたい。導入事例と違って、根底にある失敗、変化、ビフォアアフター的な話だとか、特殊な使い方を紹介したいです。

 というのは、バックオフィスの人は情報に飢えているので、「こういうことでも使える」とわかるとうれしい。たとえば総務の人と話した時に、「社用車使用申請書でも使えるよ」と言われると、『ああ、ここでもワークフローのシステムが使えるんだ!』と。そういった共感を得るような情報を出していければと思っています。

 「ワークフローなんて知らない」というお客様だけではなくて、もともと業務をやっている人にもヒントを与えて、『ココもシステムで改善できるんだ!』とわかってもらえるところまでがワークフロー総研の役割かなと。

まつもと 成功するためのタッチポイント、勝ちパターンはさまざまなので、アンケート調査や事例といったかたちでヒントを提供するということですね。そして事例と言えば、総研として一番知りたいのって失敗事例だったりしますよね。でも、それをお話いただける機会ってなかなかないことも事実です。ワークフロー総研さんではその点をどのようにクリアしていこうとお考えですか?

岡本 仲のよいお客様から聞くしかないですね。総研は中立なので、ベンダーさんと相談してワークフロー総研の取り組みをご理解いただきながら、他の製品が入っているところにも取材したいと思っています。そうすることで記事の信ぴょう性や共感性も向上してくるかと。ワークフローの概念が広まってマーケットが拡大することは、最終的にプラスになっていくと思っているので。

まつもと なるほど。ワークフローにおいては、日本型の意思決定にそぐわないものが採用されてしまったりすることもあると思います。そういった失敗のパターンはある程度は見えていたりするんでしょうか?

岡本 失敗と言ってはいけないのかもしれませんが、多いのは、グループウェアにオプションで付いているおまけのワークフローをほかでも使ってしまうことです。「経費精算に付いているワークフローは便利だね、他でも使ってみよう」となって、稟議に使ってしまうとか。稟議書には稟議書の動きがあるわけですけれど、経費精算の申請書は、二階層、三階層しかなかったり、そもそも差し戻しもなかったりします。そういったものを横展開しようとするとうまくいかないんです。

働き方改革時代におけるワークフローとは?

まつもと 働き方改革におけるワークフローの重要性をお伺いしたいなと。いま、新型コロナウイルスの影響で世界中が大変で、第二波も心配されています。この状況下の働き方をスマートワーク総研で調査すると、部署によって状況が異なるんです。対面が中心で個人情報を扱うためにリモートワークが難しいなど、部署によっていろいろな事情があるために、全社的な働き方改革の導入に足踏みしてしまう。

 あと、ウェブカメラなどで社員をチェックしないと管理職は不安だという声もあるんです。つまり、各部署が連結されていないと、スマートワークというのは効果を上げないんじゃないかと……。こういった働き方改革時代におけるワークフローについて、お話を聞かせていただければ。

岡本 ワークフローの定義にも関わってくる問題ですよね。ワークフローというと、稟議書、決裁といった単語が飛び出しますが、本来はワーク+フロー、つまり業務の流れなんです。意見を確認してイエス・ノーをもらうこと。言うなれば、人が人に依頼をして認められる、企業活動そのものだと思うんですよね。

岡本 私なりに、ワークフローを定義した図を作ってみました。ワークフロー総研の考えでは、左が潜在で、右が顕在の顧客。ワークフローは業務の流れ、業務プロセスですね。それにはインプットとアウトプットがある。ユーザーからするとワークフローシステム(申請書、稟議書)の「業務改善」のイメージが強いと思うんですが、これが具現化すると、ワークフローになっていく。かつ、インプットとアウトプットをいろいろな業務の中に適応できていくんじゃないかと。

まつもと ワークフローと業務プロセスは別物なんですか?

岡本 業務プロセスは業務を図式化したものです。そして、その業務プロセスをうまく流れるようにする手段がワークフロー、というイメージでとらえていただければと。

 たとえば、出発点は申請書のようなものになります。休暇を取りたい、物品を購入したいといった「ワーク」が決められたルートを通ります。ものによっては上司のOKが必要だったり、営業と管理に許可をもらったり、金額によっては別の許可が要る……そういったルートの先にゴールがある。これが「フロー」です。

まつもと この図を普通の会社の人が見たら、「ウチは業務プロセスがもうあるよ」と思うんです。決裁とか、稟議とかはある。ただ、そこからワークフローに昇華させていかないといけないわけですよね。そこはまさに働き方改革と共通するものがあります。そのためには業務プロセスそのものを、インプット、アウトプットに分解していかなければならない。私の感覚でいうと、インプットとは情報収集のイメージがありますが、ここでいうインプットは何を指すのでしょうか?

岡本 ある業務を行うために、トリガーになる行動ですね。たとえば申請なら、申請自体が組織に対するインプットなんです。そしてフローに沿って作業処理が行われ、組織的に確認・承認し、アウトプットがそこから生まれて、最終的な意思決定をしていく。業務プロセスにおけるインプット/アウトプットがあるものをワークフロー的に言うと、申請、確認・承認/意思決定、決裁という対比になります。

※後編は明日公開予定。

ワークフロー総研スタート!

 ワークフロー総研とは、ワークフローを課題解決手段のシステム(パッケージソフトやクラウドサービス)ではなく、Work(仕事)+Flow(流れ)=「業務プロセス」と定義して、日常業務の課題や顧客の潜在ニーズの視点からワークフローの必要性、重要性を伝えていくために、取材やアンケート調査を元にオンライン上で情報を発信していきます。また、幅広い情報発信を目指すために、専門家や企業とのコラボレーションを進め、広く深くわかりやすい情報を提供してまいります。

対談に登場したワークフロー改善ソリューション「X-point」
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