生産年齢人口の急激な減少。働き手はどこにいるのか?

飲食業界の人手不足やIT業界の技術者不足など、働き手が集まらず苦労している業界は少なくない。その背景には、少子高齢化と人口減少があることは常識となっている。人口総数の減少は今のところまだ緩やかだが、15歳から65歳までの生産年齢人口はすでに1990年代から減少が始まっており、厚生労働省の発表では2065年には高齢化率が38.4%に達し、生産年齢人口の割合は2019年の59.5%から51.4%まで落ち込むと予想されている。

割合として1割足らずの減少かと楽観視する人もいるだろうが、同じ年の総人口を比較すると、12,617万人から8,808万人に減少しているため、3千万人近くの働き手が失われてしまうことになる。これでは最先端のテクノロジーを導入していかにIT化を推進しても、加速度的に人手が不足していくことは避けようがない。

日本の人口の推移(厚生労働省「高年齢者雇用の現状等について」より)

少子化の改善はもちろん必要だが、人口減少傾向の中で実現するのは非常に困難で、日本はそれより先に新しい働き手を見つける必要がある。移民など海外から働き手を募る方法も考えられるが、法律面からも社会的感情面からもそう簡単に進むものではない。実現可能性が高いのは、生産年齢人口の範疇で働いていない人の就労を促すことと、生産年齢人口以外の年代の労働者を国内で見つけることだ。前者で大きな割合を占めるのが女性であり、後者で期待できるのが65歳より年上になる高齢者の存在だ。

女性活躍に向けた法整備と民間の取り組み

これまで、女性、高齢者の就業は過去の制度や慣習によって阻害されてきた。女性の場合、かつての専業主婦が大きな割合を占めていた時代の名残で、子育てや介護の負担が大きく、労働年齢の半ばでキャリアを一時中断しなくてはならないケースが多かった。このため男性とキャリア形成に差が生じ、女性管理職の比率は大変低く、収入面でも男性とは大きな差があった。

法律面のサポートは徐々に進んできている。男女雇用機会均等法は度重なる改正でセクシャルハラスメント対策の強化や妊娠・出産のための企業環境整を整備するなどして女性の働きやすさを改善してきたし、女性活躍推進法
も2022年4月に改正され、女性管理職比率や女性就業年数の把握が101人以上の中小企業でも義務化された(従来は301人以上)など、就業における男女格差を埋める方向にある。こうした法整備のかいあって、男性の就業労働人口は減少しているのに女性では少しずつ増加している。しかし、男性の減少分を埋めるほどではない。

男女別就業労働人口の変化(総務省労働局「労働力調査(基本集計)」より)

しかし、行政サイドの法整備だけでは、慣習や制度の欠陥を取り除くサポートはできても、より積極的な就労を促すための環境条件としては十分とはいえない。雇用サイドに縛りを入れたり、インセンティブを与える取り組みはもちろん必要だが、女性や高齢者の抱える問題は、雇用の確保だけでは解決されない。

こうした立場に寄り添った新たなアプローチで、民間やNPOなどが、主体的に問題に取り組み、解決策を組み立てていく必要がある。こうした動きにはスマートワーク総研も以前より関心を持っていて、ソフトインテリジェンス塾を主催する中川美紀氏が提唱するケア(配慮・気配り)とフェア(公正な扱い)を重視する「女性職」の考え方や、女性のキャリアが中断された場合にも、新たなキャリアを築ける再就労マッチングサービスを提供する「Warisワークアゲイン」の試みなどを紹介してきた。

高齢者雇用の課題と解決へのアプローチ

高齢者雇用については、定年制の問題があった。かつての55歳定年制が法的に延長され、2013年の高年齢者雇用安定法で定年は65歳まで延長されたが、人生100年時代を迎え、2021年4月、定年70歳を努力義務とする改正法が施行された。2006年と2013年の同法改定では60代前半の就業率が急カーブで上昇したという統計もあり、今回の改定の効果にも期待が寄せられる。

高齢者の就業率の推移(2009年~2019年)(総務省:「統計からみた我が国の高齢者」より)

しかし、高齢者は若者と同じ働き方を希望しているわけではなく、定年を延長するだけでは対策として不十分だ。内閣府の意識調査(2013年)では、男性でもフルタイムとパートタイムの就労形態希望は近い数字だったが、女性では7割以上がパートタイムを希望している。2017年の総務省の統計では非正規の高齢雇用者がその雇用形態を選んだ理由として「自分の都合の良い時間に働きたいから」がトップ(男性28.7%、女性37.2%)で、多くが自分のライフスタイルにあった働き方を希望している。

体力の問題も当然あるだろうが、以前はできなかった趣味やボランティアなど、新しい形の自己実現にチャレンジする機会を、労働と並行して選択したい高齢者の比率は高いのだろう。これまで、一律、固定的な雇用形態を選択してきた企業は、こうした高齢者の多様性のある就労形態の労働欲求とマッチングが難しく、そうした労働力を活用するための枠組みは外部からの提案が必要になるだろう。

スマートワーク総研でも、高齢者の労働スタイルへの欲求を情報空間に取り込み、労働時間をモザイク状に使用して支援するシステムについての東京大学先端科学研究センターの檜山敦氏の研究などを紹介してきた。

このように女性と高齢者の就労を進めるために、行政が法的環境整備で枠組みを作り、個別のニーズに対応できるようなきめ細かなマッチングや就労サポートを民間などから提供していくというトライは徐々に進んできている。こうした動きがさらに広まってくれば、人口減少で重荷を背負わされている若者世代にも、より自由で満足できる働き方の可能性が高まっていくのではないだろうか。

もっと知りたい! Pickup スマートワーク用語
第1回 男女雇用機会均等法
https://swri.jp/article/784

スマートワーク用語集 女性活躍推進法(改正)
https://swri.jp/glossary/%E5%A5%B3%E6%80%A7%E6%B4%BB%E8%BA%8D%E6%8E%A8%E9%80%B2%E6%B3%95%EF%BC%88%E6%94%B9%E6%AD%A3%EF%BC%89


AI時代の生存戦略としてのソフトインテリジェンス――中川美紀氏が提唱する「女性職」という働き方
https://swri.jp/article/404

女性労働力活用のために、企業が超えなくてはならないハードルとは?
https://swri.jp/article/426

シニアの労働が若者のライフワークバランスを支える社会へ
https://swri.jp/article/370