JTBが営業業務で扱う紙文書の処理を電子化
年間約570万枚以上のペーパーレス化を目指す
Part.4 電子帳簿保存法対応を契機としたペーパーレス化事例
JTBは改正電子帳簿保存法への対応も視野に入れ、今年4月より証憑書類の電子保存化と関連業務のデジタル化、法人顧客との電子契約を開始した。これらの取り組みにより、年間約570万枚以上のペーパーレス化と年間約7億円以上の営業経費削減を目標に掲げるとともに、「新たなJTBワークスタイル」(業務効率化などによる働き方改革)推進による生産性向上も期待されている。同社の業務のデジタル化と文書の電子化によるペーパーレス化をリポートする。
現金払いで生じる紙の領収書
スマホから一連の処理を電子化
JTBは電子帳簿保存法における国税関係書類の電子保存要件を満たす証憑取込Webアプリケーション「STAP」(証憑(S)取込(T)アプリ(AP)の略称)と文書管理システムを独自に開発・構築し、既存のワークフローシステムと連携させることにより、今年4月1日より証憑書類の電子保存化を実施しており、同社で添乗業務に携わる社員約5,000名が利用している。
今回のシステムは富士フイルムビジネスイノベーション(当時は富士ゼロックス)と、AIやAI-OCRソリューション、各種ソフトウェア開発を事業展開するインフォディオの協力を得て独自のシステムを開発・構築した。このシステムの仕組みは次の通りだ。
JTBが法人顧客に企画・提供する団体旅行で旅館やホテル、入場・体験等の観光事業者などの取引先顧客に対して、現地で現金払いが生じることがあり、その場合、添乗する社員は領収書を受け取る。
この領収書などの売上原価に関する証憑書類を現地でスマートフォンのカメラで撮影して取り込む。そして独自アプリのSTAPによって自動的に文書管理システムにデータ転送する。
転送されたデータは富士フイルムビジネスイノベーションが提供するJIIMA(日本文書情報マネジメント協会)認証を受けたクラウド上に構築した文書管理システムに保管される。
クラウドに保管されたデータは既存のワークフローシステムと連携することで、煩雑であった領収証の処理業務を効率化するとともに、領収書の紙の原本の会社への提出を不要とした。
従来は添乗中に受領する紙の領収書は現地で担当者が台紙に貼り付けて保管し、明細書を作成して社内の担当部署に提出する。提出されたこれらの書類は北海道の専用拠点に配送され、そこでファイリングして倉庫に保管されていた。確認や監査が必要な場合は倉庫で該当の書類を捜索して必要とする担当部署に配送し、用件が済むと再び北海道の倉庫に配送するという仕組みだった。
業務工数や関わる人員数で
デジタル化する対象を選定
今回のシステムを計画した経緯について、当時プロジェクトに携わったJTB ツーリズム事業本部 地域ソリューション事業部 企画・開発推進チームマネージャー 三村堅太氏は「営業のフロント業務から会計監査まで一貫してペーパーレス化することを目標として取り組みました」と説明する。
同社では顧客管理や案件管理、ワークフロー、さらに財務管理を連携させた基幹プラットフォームを構築・運用しているほか、以前より部署ごとにそれぞれの業務領域でペーパーレス化を進めてきた。
今回のプロジェクトではこれまでの部分最適された仕組みを連携させて、部署を横断して業務をデジタル化し、ペーパーレス化を促進して業務を効率化することを目指した。こうした検討の中で法人向け団体旅行の営業部門が取り扱う紙の量の多さに着目した。
法人の団体旅行は1件ごとにオーダーメードで企画されるため、勘定管理も案件単位となる。各案件では見積から交通事業者、宿泊事業者や観光事業者など取引先顧客とのやりとり、契約書、清算に関わる帳票など、たくさんの紙が発生する。
三村氏は「契約などはいずれ電子化されてペーパーレス化されると見られますが、添乗中の現金払いで発生する紙の領収書は、現金払いがなくならない限り電子化することはできません。領収書などの証憑書類は申請処理やファイリング、保管に関わる業務工数や人員数、コストが大きく、電子化する効果が期待できると考えました。またデジタルカメラでのスキャナー保存が認められるなど、改正電子帳簿保存法への対応も見据えて取り組みを進めました」と説明する。
紙や業務の単純な電子化では
期待するほどの効果は得られない
このシステムは添乗中に受領する領収書を電子化するだけではなく、売上原価に関して同社が受領する年間約280万枚の証憑書類(請求書、領収証、契約書)と、販売管理費に関して同社が受領する年間約20万枚の証憑書類、さらに同社が発行する年間約270万枚の証憑書類(請求書、領収証の控え)の合計年間約570万枚以上の証憑書類がスキャナー保存によって電子化される計画だ。
その結果、ファイリング業務や保管作業などの関連業務のデジタル化や、間接業務の削減などによる業務効率化の促進、保管スペースなどの経費削減等により、年間約7億円以上の営業経費削減効果が見込まれている。
また文書管理システムとワークフローや財務管理システムが連携したことで、原価管理システムへの登録や現金清算に伴う業務も簡素化された。確認や監査についても手元のPCからデータを検索して目的の明細や領収書が閲覧でき、原本を取り寄せることなく遠隔で監査も実施できるようになった。
このほかのメリットについて三村氏とともに本プロジェクトに携わった同社のグループ本社 総合企画チーム グループリーダー(総合企画担当) 窪田一平氏は「間接業務が減ったことで人員を直接業務に転換でき、創造的な業務にリソースを注力できるようになりました」と説明する。
三村氏は「この取り組みで効果が得られた要因は、紙の証憑書類の処理や保管に携わる人員が非常に多かったことが挙げられます。単純に紙や業務を電子化するだけでは、効果は得られなかったと思います」とアドバイスする。
JTBは今後、同社のグループ会社であるJTBビジネストラベルソリューションズが提供する経費精算システム「J’s NAVI NEO」を活用して一般経費や交通費、出張旅費に関する証憑書類の電子保存化も実現する計画だ。