【CASE 3】Information Technology
NEC ビジネスインテリジェンス

生成AIは業務改革の救世主
10年積み残した課題を解決

NECビジネスインテリジェンスは、NECグループの人事、総務、経理、資材調達、営業バックオフィスなどの共通業務の集約や業務改革を担うことを目的に、2014年に設立された企業だ。同社では、業務横断の改革といった、設立から10年にわたって積み残した課題があった。そんな課題を解決に導く救世主となったのが、生成AIだ。NECビジネスインテリジェンスはどのようにして10年来の課題を解決させたのか、同社の生成AIに関する取り組みを取材した。

仮説検証を繰り返し
生成AIの活用方法を模索

NECビジネスインテリジェンス
若林健一

 2014年の設立からNECグループの業務改革に取り組んできたNECビジネスインテリジェンス。NECグループでは共通業務が各社、各組織に分散し、多くの分割損が発生していた。NECビジネスインテリジェンスは、この問題を解決するべく、共通業務の集約や業務の改革と高度化を進めてきた。「人事、経理、資材調達、営業バックオフィスといった業務機能ごとの効率化に関しては一定の成果を上げましたが、全体の最適化には至っていませんでした。また、担当者ごとに作業の仕方が違っていたり、発注元によって要望が異なっていたりするなど業務の標準化が徹底されていないことも問題となっていました。ほかにも、プロセスマップが組織ごとにバラバラで、情報が不明確となっているなどさまざまな課題があり、設立から10年間にわたって解決策を模索していました」とNECビジネスインテリジェンス 経営企画部門 コーポレートトランスフォーメーション統括部 ディレクター 若林健一氏は振り返る。

 こうした問題を解決する救世主となったのが、生成AIだ。しかし、生成AIを活用するに当たり当初は苦労もあったという。「元々当社では、2020年ごろからAIやデータ活用を推進していましたが、プログラミングや専門的な知識を持つごくわずかな人しか使いこなせておらず、多くの社員はAIの活用に関与できていませんでした。こうした状況が2年ほど続く中、OpenAIの『GPT-3』などの登場によってAIがより身近になり、業務に生かせるのではないかと考えたことが生成AI導入のきっかけです。2023年4月ごろから本格的に活用を始めましたが、最初は全てが手探りの状態で、何が自社にとって重要なのかを見定めることに苦労しました。導入効果の大小、使いやすさ、業務の向き不向きなどの仮説検証を繰り返しながら、時間をかけて自社にとって最適なAIの活用方法を模索していきました。そして1年間の試行錯誤を経て、業務効率化の主体をヒトから生成AIに転換し、生成AIを中心とするビジネスプロセスを三つのレイヤーで確立させました」と若林氏は話す。

三つのレイヤーによって
バランス良く全体を最適化

 同社が確立した三つのレイヤーは、「User Experience(利用者体験)」「Operation(業務改善)」「Platform(データ・人材)」に分かれている。

 User Experience(利用者体験)は、AIを活用してNECグループの社員や経営層に対する体験価値を向上させるものだ。例えば、幹部をサポートする秘書の業務などの最適化である。通常、出張手配などにおいて、幹部の希望に合わせて新幹線やホテルを予約するケースが多い。一人ひとりの好みに合わせて、確認を取りながら手配しなければならず、秘書の手間と負担になっていた。これを生成AIの活用によって、解決する。AIが秘書の暗黙知を形式知化し、過去のデータを基に「前回窓側で快適だったようですが、今回も窓側の席をお取りしましょうか?」といったように最適な移動手段や宿泊先の提案を行う。会話を終えると、AIがデータを標準化してオペレーターに伝え、オペレーターは標準化されたデータを基に対応する。このように「パーソナライズ」と「データ標準化」の二つを同時に実現することで、年間2万3,000時間の効率化を見込めるという。

 Operation(業務改善)は、AIを活用して社員の業務効率を向上させるためのものだ。AIがビジネスにおけるさまざまなデータを収集、分析して意思決定を促す「データドリブン」な業務改革をサポートし、社員のデータ活用を推進する。NECビジネスインテリジェンスでは、ダッシュボードを活用し、それをAIに読み込ませることで、データの見方やネクストアクションについてのアドバイスまでが得られるといった環境を全社員に提供している。「作業指示、画像認識、分析、アクション提案まで生成AIが全てサポートします。今まで自分では気付かなかった業務の改善方法などを発見でき、今後のさらなる業務効率の向上に役立てられます。企業の競争力を高める組織的な能力や強みを表すケイパビリティが24倍向上するといった効果を見込めます」(若林氏)

全社レベルでデータを標準化
組織全体のAI活用能力が向上

 これらを支える基盤となるPlatform(データ・人材)においては、業務改革と品質向上のコアとなるデータ基盤の構築を行っている。組織ごとにバラバラに存在していたプロセスマップ、作業マニュアルといった多種多様な形式のデータをAIが構造化データに高速変換して、全社レベルでデータを標準化できる。標準化されたデータを活用して、業務改革に関する施策のドラフトを生成AIに作成させるといったことも可能だ。「Platform(データ・人材)は当社が最も力を入れて取り組んでいる領域です。データの標準化によって、Operation(業務改善)や、User Experience(利用者体験)を含めた三つのレイヤーにおけるデータ活用を促進し、業務効率の向上につなげられます」(若林氏)

 また、同社では、生成AI人材育成プログラム「虎の穴イノベーションスクール」を用意している。業務環境に応じて選択できる階層別のプログラムを、全社員が受けられる。社員がAIを使いこなせるようになることで、組織全体のAI活用能力を向上させられるのだ。

 NECグループでは、社内業務、研究開発、ビジネスにおいて、生成AIの利用を積極的に進めている。NECでは、高い日本語処理精度を持つ独自のLLM「cotomi」の開発も行っている。cotomiの特長は、大量のデータを効率的に処理し、高精度な解析結果を提供できることだ。さらに、多言語解析や翻訳機能なども備えているため、幅広いニーズに応えられる。

 生成AIを活用するメリットについて理解しているものの、導入に対して二の足を踏んでいる企業も多いだろう。そうした企業に向けて若林氏は「生成AIを導入する前に自社のコアとなる業務改革のポイントを見つけることが大切です。技術の進化は非常に速いため、常に変化に対応できる柔軟性を備えることもポイントと言えるでしょう。また、情報を収集するだけでなく、実際に行動に移せるかどうかが鍵を握ります。最初から完璧なシステムを求めず、60%の完成度で良いという意識を持って、まずはスモールスタートで進めてみることが重要です」と一歩踏み出すためのアドバイスを送った。

【CASE 4】Daily Necessities
ライオン

トップダウンとボトムアップの両側面から"生成AIの民主化"の実現を目指す

ハミガキやハブラシ、石けん、洗剤といった生活用品の製造販売を行っているライオン。同社は、デジタル技術やデータサイエンスを使って“習慣を科学する”ことを目標に掲げた独自のデジタルトランスフォーメーション(DX)「LION DIGITAL TRANSFORMATION(LDX)」に取り組んでいる。その一つに生成AIの活用がある。“生成AIの民主化”を進めるライオンの取り組みを見ていこう。

独自の対話型生成AIで
研究部門の知識を伝承する

ライオン
中林紀彦

 ライオンが生成AI活用への取り組みをスタートしたのは2023年のはじめのこと。「ちょうどChat GPT-3.5がリリースされた頃のことで、生成AIに大きな注目が集まっていました。当社の経営層からも『生成AIを積極的に導入していこう』と生成AIを活用する指示がありました。そこで当社では『個人利用の普及』と『領域別の活用具体化』の二つの軸で生成AIの活用を推進してきました」と語るのは、ライオン デジタル戦略部 データサイエンスグループ マネジャー 山岡晋太郎氏。

 その個人利用の普及の中で進めているのが、自社開発した「LION AI Chat」の社内利用だ。LION AI Chatは2023年6月から国内の従業員約5,000人に公開し、活用が進められている。

 LION AI Chatは社内環境からのみアクセスが可能な対話型生成AIだ。AWS上で構築し、言語モデルとしてはもともとAzure OpenAI Serviceを用いてGPT-3.5-Turboのみが利用できる状態でアップデートを重ねてきた。現在は選択できる言語モデルも増えており、従業員はAPIを経由して「GPT-4o」「Gemini 1.5 Pro」「Claude 3.5 Sonnet」の三つをそれぞれ選択して利用できる。

 LION AI Chatは前述したように、従業員個人が利用する生成AIだ。ライオンの従業員はLION AI Chatを活用することで、資料作成やアイデア出しといった業務をより効率的に行えるようになる。

ライオン
山岡晋太郎

 領域別の活用具体化では、研究開発部門の知識やノウハウの伝承を実現するため対話型生成AI「LINK Chat」を開発し、活用を進めている。LINKは「Lion Innovation Network for knowledge」の頭文字を取った略称だ。これはライオンの研究開発に関するナレッジや資料を検索し、その情報を要約したり解説したりしてくれる生成AIツールだ。山岡氏は「これはRAGの技術を活用し、研究開発部門が有する研究報告書や技術資料を対話形式で調べられます。必要な情報を容易に取り出せるようになり、情報検索の時間を大きく削減できるようになりました。例えば洗剤を作る際に使用する物質としてビルダーというものがあります。LINK Chatに『ビルダーに関する研究内容と、携わっていた研究員について教えてください』と聞くと、研究内容に関する要約と、研究員が回答されると同時に、どの文献を参考にしているかという情報も表示されます。これによって、情報検索の時間を5分の1程度に削減できました。また、研究報告書などのデータがない事柄に関しては、情報が存在しないことをLINK Chatが回答してくれます。存在していない情報を探し回るような作業をしなくて済むようになった点も大きなメリットです」と話す。

 ダイバーシティ&インクルージョンを推進しているライオンは、外国籍従業員の登用も積極的に行っている。そうした外国籍の研究員などが技術資料を読む際も、LINK Chatであれば外国語で回答したり要約したりしてくれるため、業務が行いやすいという。

ノーコード・ローコードで
業務部門が生成AIアプリを開発

 このような生成AIの活用はライオン社内で広く浸透しており、1週間で1万回程度の利用があるという。一方で、企業文化として生成AIの活用が浸透したことで「この部門のこの業務に生成AIを活用したい」といった活用アイデアが次々と生まれ、アプリケーションの開発ニーズが大幅に増加した。

 ライオンの執行役員 全社デジタル戦略担当 デジタル戦略部担当 中林紀彦氏は「これら全ての要望にデジタル戦略部が対応するには依頼が多すぎて開発に時間を要します。しかし、各業務部門でプログラミングしてもらうのは習得に時間を要します。外注するとなるとお金がかかりますし、技術の進歩が早い生成AIの分野でベンダーロックインは避けたいという思いもありました。そうした背景から当社が選択したのが、ノーコード・ローコードで生成AIアプリケーションを開発できる環境の構築です」と語る。

 具体的には「Dify」というオープンソースの大規模言語モデル(LLM)アプリ開発プラットフォームを活用し、業務部門の非エンジニアが、自分たちの業務に必要な生成AIアプリケーションを開発できる環境を整えた。2024年6月から導入検討を開始し、同年9~10月ごろに活用をスタートさせた。DifyではOpenAIのGPTシリーズやAnthropicのClaudeシリーズなどの言語モデルをサポートしており、開発者が使用する言語モデルを指定できる。

「例えばカスタマーサポート部門では、お客さまからの電話などによるお問い合わせ内容が、身体案件※に該当するか否かを判別するアプリケーションを開発し実際に使用しています。これは、身体案件の判断基準や過去の事例をRAGに読み込ませることで実現しており、担当部門が1日当たり約60分かかっていた作業時間を、1日当たり約10分へと削減できています」と山岡氏は具体例を紹介する。

 このほか、知的財産部やカスタマーサポート部門などを含め10部門で専用の生成AIアプリケーションを開発して活用が進められており、誰もが生成AIを開発し活用できる“生成AIの民主化”を実現する環境の構築を目指している。

※身体案件:顧客からの問い合わせの中でアレルギーなど身体に影響が出てしまった可能性がある案件のことを指す。

ライオンの国内の従業員約5,000人が活用している対話型生成AIのLION AI Chatは、用途に応じて三つの言語モデルから選択ができる。文書やメール作成、コード作成補助などに地上業務のサポートをしてくれる生成AIだ。
ノーコード・ローコードで開発できるDifyを活用し、業務部門が独自に生成AIアプリを活用して業務に活用している。開発画面は身体案件チェックで活用されているアプリのもの。

懸念となるハルシネーションは
部下を相手とするような確認を

 生成AIの活用からアプリケーションの実装まで、広く社内に浸透しているライオンの取り組みだが、従業員からの反発はなかったのだろうか。中林氏は「トップダウンでスタートした生成AIの取り組みですが、大きな反発はありませんでしたね。一部、ハルシネーションに対する危惧を訴えた従業員はいましたが、トップからは『部下や同僚でも間違えることはあり、間違いがないかといったダブルチェックは必要です。生成AIで起こるハルシネーションも同様でしょう』と回答がありました。実際その通りですよね」と語る。もちろん、従業員が生成AIを活用しやすいよう、ガイドラインの策定や勉強会なども開催しているという。アプリケーション開発を行う業務部門の担当者に向けては、マニュアルの作成やTeams上でのユーザーコミュニティの構築も行う。

 一方で課題もある。「生成AIを活用している人と活用していない人の差はあります。本来使った方が効率の良さそうな業務を行っている人に、使えていない印象があります。勉強会などの実施によって、こうした格差の解消を進めていきたいです。今後、マイクロソフトの生成AI『Copilot』をはじめ、PCやソフトウェアに生成AIツールが組み込まれていきますので、それらが広がることで活用が広がっていく可能性も期待しています。デジタル戦略部としては、生成AIの進化が早く、世の中の情報をキャッチアップできていないという課題も抱えています。新しい情報を迅速に広げていくことができれば、あまり生成AIに関心を持っていなかった人たちの業務を変えていける可能性もあります。環境を準備するデジタル戦略部と業務部門、両方のリテラシーを向上していくことが大切だと感じていますね」と山岡氏。

 ライオンは2025年1月から三カ年の中期経営計画「Vision2030 2nd STAGE」がスタートしており、生成AIはそのデジタル戦略の柱の一つとして重要な立ち位置を占める。デジタル戦略部のみならず業務部門を巻き込み、トップダウンとボトムアップの両側面から生成AIの民主化を進めていくライオンの取り組みは、これからさらに加速化していきそうだ。

人材不足・採用難が恒常化する日本において
企業や組織の存続に生成AIの活用が不可欠

生成AI大賞2024の審査員から学ぶ
テクノロジーを有効活用するための心得

2024年12月18日に一般社団法人Generative AI Japan(GenAI:ジェナイ)と「日経ビジネス」(日経BP発行)が共同で開催した、生成AIの優れた活用事例を表彰する「生成AI大賞2024」の表彰式が行われた。初開催となる同アワードには139件の応募があり、生成AI分野の有識者15名で構成された審査委員会が審査し、8件が表彰された。同アワードの審査委員およびGenAIのエキスパートディレクター(有識者理事)を務める東京大学公共政策大学院 教授・慶應義塾大学 政策メディア研究科 特任教授 鈴木 寛氏に、8件の受賞事例に共通する生成AIの有効活用に必要な要件について話を伺った。

139件の応募の中から8件が受賞
審査で重視した三つの取り組み

東京大学公共政策大学院 教授
慶應義塾大学 政策メディア研究科 特任教授
Generative AI Japan エキスパートディレクター(有識者理事)
鈴木 寛

 生成AI大賞2024ではグランプリに名古屋鉄道、特別賞にUbieと弁護士ドットコムの2件、そして優秀賞にNECビジネスインテリジェンス、セブン&アイ・ホールディングス、タイルライフ、ライオン、千代田区立九段中等教育学校の5件、合計8件が表彰された。

 同アワードの審査と表彰に携わった鈴木氏は「8件の受賞者には企業だけではなく医療や学校、また中小企業もあり、多様な生成AIの活用事例を紹介できました。これら生成AIの実践的な活用事例が世の中に知れ渡ることで、生成AIをどのように活用すべきかが理解でき、生成AIを経営に生かすきっかけになると期待しています。ただし活用事例をそのまま真似するのではなく、自身の業界や業態、会社に置き換えて、競合に対して優位性を得られる領域で活用して今回の成果を進展させてほしいと考えています」と説明する。

 また生成AIの有効活用のみならずDXの実現においても三つの要件がそろっていることが求められると指摘する。それは「人材戦略の見直し」「組織体制の見直し」「業務フローの見直し」だ。

 鈴木氏は「生成AIの活用においてこれら三つの取り組みが行われているかが成果を左右します。生成AI大賞2024の審査においてもこれら三つの取り組みを重視しました」と話をする。

採用難の恒常化で生成AIの活用が必須
活用を前提とした組織体制と人材が必要

 そもそも日本において生成AIの活用は必須だ。なぜなら少子高齢化は深刻化する一方で、これからの未来において人材不足が解消されることはない。不足する人材とそのスキルを補うために、生成AIの活用が不可欠となるからだ。

 鈴木氏は「これまで人材に関しては売り手市場と買い手市場が交互に来ていました。これからは売り手市場がずっと続き、採用難が恒久化、深刻化し続けます。そうなると商品やサービスが提供できなくなり、ビジネスをやめなければならなくなります。今後は生成AIを活用しなければビジネスを続けることはできません。経営陣にこの認識がある企業とない企業が、生成AIの活用で大きな差が生じます」と説明する。

 経営陣が採用難の恒久化によって生成AIの活用が不可欠であることを認識し、それを全社で推進することに責任を持つこと、すなわちコミットメントすることが生成AIの有効活用の前提となるという。

 鈴木氏は「日本の企業の上層部には終身雇用の意識が根強くあります。そのため何かを変えようとしても、今いる人たちで、今の組織をエンパワーあるいはオーグメンティッドしようとします。つまり今いる人で今できることをしようとするわけです。企業が活動できているということは今のエコシステムが成立しているのであり、その中で新しいことをし始めると現場にあつれきが必ず生じて抵抗されます。ですから経営トップのコミットメントが不可欠なのです」と説明する。

 そして新しいテクノロジー、ここでは生成AIを活用する前提で人材や組織体制、業務フローを見直すことが求められる。まず人材については今いる人材に新しいテクノロジーを活用できるスキルがあるのかを考える必要がある。鈴木氏は「米国では経営トップが頻繁に変わり、社員の多くも頻繁に入れ替わります。人材が流動する際にリスキリングをしてスキルを備えます。さもなければ新しい仕事が得られないからです。日本はどうでしょうか」と問いかけ、新しいテクノロジーを使いこなすためのリスキリングの必要性を訴える。

「生成AI大賞2024」の審査員。

経営トップのコミットと全社展開
引き分けではなく勝ちに行くべき

 今回受賞した8件の活用事例では経営トップがコミットして、全社展開を視野に入れて導入、活用が進められていることが共通点だった。組織体制や業務フローの見直しが必要なことについて「人と人は必ずコミュニケーションするので相手がいます。相手も自分と一緒に変わらなければ効果は出ません。部分的な展開では複数の仕組みが存在して非効率になります。『鶏と卵』ではなく同時にやらなければ効果は出ません。今までのステップバイステップでは成立しないのです」と説明する。

 PDCAサイクルの考え方から脱却して、組織全体をアジャイル経営に変革させることも同時に求められる。その実現に向けて「これからは生成AIに限らず新しいテクノロジーを活用する前提で変わらなければ企業が存続することはできないでしょう。今いる人材が変わらないのであれば、事業を統括する人材を入れ替えるしかありません。それほどドラスティックに変わらなければならないのです」と強く語る。

 日本サッカー協会の参与も務める鈴木氏はサッカーを例に挙げて次のように咤激励する。

「サッカーでは勝ちは勝ち点3、引き分けは勝ち点1、負けは勝ち点0ですので、勝ちは強く評価されますが、終身雇用の考え方が根強く残っている企業では負けないで引き分けにもちこめば地位は安泰なので、ほっておくと、攻めずに守ってばかりになります。攻めなければ、じり貧です。管理職以上、特に役員は、引き分けならば、つまり勝ち点3がとれなければ、その地位を去るべきです。作戦を立てたり人選をしたりする現場の指揮官である管理職は、勝てなければ退く覚悟で変化に取り組んでほしいと思います」(鈴木氏)