デジタル改革関連法の狙いとは?

デジタル改革関連法は、デジタル化により行政システムの統一を推進し、利便性を向上させるための法案です。デジタル改革関連法が必要とされた背景には、データの多様化や大容量化が急速に進み、その活用が不可欠になったことと、データの悪用や乱用による被害防止の重要性が増大したことが挙げられます。

また、日本のデジタル化が世界に比べて大きく後れを取っていることも要因の一つ。現行の法体系ではデジタルトランスフォーメーション(DX)の妨げになりかねないとされたからです。さらに、新型コロナウイルス感染症への対応に際し、行政のデジタル化の遅れが浮き彫りになったことが本関連法の成立を後押ししたと言われています。

デジタル改革関連法は次の6法から構成されています。

1. デジタル社会形成基本法
デジタル社会を形成する意義や日本経済の持続的かつ健全な発展、国民の幸福な生活の実現などを目的とする法律。以前の高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)に替わるもので、デジタル改革に取り組む基本理念を制定。

2. デジタル庁設置法
内閣直属のデジタル庁を設置、各省庁や自治体のデジタル化を推進する。内閣総理大臣がトップに立ち、国や自治体の情報システム導入・管理の権限を持つ。職員は500人規模で、100人以上を民間から起用。デジタル庁には、以下の3つの役割がある。

・デジタル社会の実現に向けた基本方針の「企画立案」
・行政システムの「統括・監理」
・行政システムの「整備」

3. デジタル社会形成整備法
正式名称は「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」。行政手続きでの押印義務を廃止(脱ハンコ)するほか、個人情報の扱いを国の基準に合わせて、個人情報保護委員会に一元化。マイナンバーカードを活用することで、手続きの簡略化などを行うことも想定されている。

4. 公金受取口座登録法
正式名称は「公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律」。緊急時の給付金や児童手当などの公金給付をスムーズに行うため、登録した銀行口座の利用を可能とする。

5. 預貯金口座管理法
正式名称は「預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律」。預貯金者の意思で預貯金口座の管理を申請した場合、金融機関が口座の管理ができる。マイナンバーと預貯金口座を連携させ、災害時などの現金給付を迅速化することが目的。

6. 自治体システム標準化法
正式名称は「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」。住民基本台帳や児童手当、生活保護など、自治体ごとにばらつきがあった情報システムのルールを整備。2025年度を期限に自治体ごとに異なる行政システムの統一を目指す。

メリットと懸念点

デジタル改革関連法は、行政にとどまらず、さまざまな業界に関わる法律です。社会・経済だけでなく、国民へも多大な影響を与える可能性があります。例えば、マイナンバーカードの利用範囲が広がることで、行政サービスの利便性が向上することです。マイナンバーと連携した運転免許証の更新手続きのオンライン化や国家資格証のデジタル化など、これまで手間のかかった手続きがスピードアップします。

民間企業のDX推進が加速することも期待されています。例えば、企業は「押印・書面の廃止」に向け、電子契約サービス導入への対応も進める必要があります。電子契約とは、インターネットや専用回線を利用し、電子データで締結する契約方法のこと。書面への押印に代えて、電子データに電子署名または電子サインを付与します。契約業務の効率化、コスト削減、管理業務の簡略化などのメリットがあります。

一方で、「個人情報保護」についての懸念もあります。デジタル改革関連法には、個人情報保護制度の見直しが盛り込まれています。個人情報保護法を改正し、国や地方自治体、民間でそれぞれ異なっていた個人情報保護のルールを一元化しました。デジタル化推進によって、国家による「国民監視」の脅威が増すという声もあり、個人の思想信条、プライバシー、表現などの情報収集に用いられる可能性が問題視されています。

国会でもこの問題が議論され、以下の3つの留意点が挙げられました。

・個人データを本人の意思に基づいて移動・削除などできる
・本人の同意なしに個人データを分析・予測されないようにする
・預貯金口座の登録が国民の資産把握につながらないようにする

また、国よりも厳しい制度を定めてきた自治体は、ルールの一元化で実質的な規制緩和となり、個人情報保護が大きく後退するおそれがあるとの指摘もあります。いくつかの自治体から、慎重な検討を求める意見書が出されています。

現状では、マイナンバーカードをめぐるトラブルが相次いでいます。コンビニの証明書取得サービスではシステムに起因する誤交付が起こり、健康保険証と一体化した「マイナ保険証」に別人の情報がひも付けされるミスが発覚しました。マイナンバー制度を定着させるには、トラブル回避の対策をしっかり検討する必要があります。

個人情報をしっかり守りつつ、膨大なデータを有効かつ適切に活用できるかどうかが、今後の大きな課題となるでしょう。

「2025年の崖」の回避策

2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」で、日本企業がDXを実現できなければ、2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じると予測されています。これが「2025年の崖」です。国際競争力の低下、人手不足、既存のシステムの管理維持費など、企業が抱える多くの課題が日本経済を停滞させています。これを打破するためには、デジタル化・DX推進は不可欠と言えるでしょう。

デジタル改革関連法は、デジタルが前提の社会に適応するための変革であり、「2025年の崖」を回避するための施策とも言えます。日本はデジタル化に向けて、大きく舵を切ることになりました。政府、自治体、民間事業者が連携して取り組むことが重要でしょう。