●プロフィール
佐々木俊尚(ささき としなお)氏
ジャーナリスト。1961 年生まれ、兵庫県西脇市出身。毎日新聞社、アスキー勤務を経てフリーランスに転身。総務省情報通信白書編集委員や TOKYO FM 放送番組審議委員、情報ネットワーク法学会員などを務める。アベマプライム、飯田浩司のOK ! Cozy up ! (ニッポン放送)レギュラー出演。
リモートワーク時代を見据え、着実に進化したWindows 11 Pro
--- まずは、Windows 11 の特徴についてお聞かせいただけますか?
佐々木俊尚氏(以下 佐々木) マイクロソフト社は、2015 年にリリースされた Windows 10 以降、もう大きなバージョンアップはしないと明言していました。そのため、2021年に Windows 11 が登場した時は驚いた人も多いのではないでしょうか。タスクバーやスタートボタンの位置などに変更が加えられるなど、基本 UI が変わったことを除けば使い勝手を含め、ユーザーから見える Windows マシンとしての体裁はほとんど変わっていないといえるでしょう。しかし、その中身は大きく進化を遂げています。
そのなかでも、セキュリティ面は大きく進化していると言ってもいいでしょう。Windows 11 のシステム要件には、 TPM 2.0 対応マシンであることが新たに加えられました。この TPM 2.0 必須化に伴って Windows 11 Pro には、ストレージそのものを暗号化し、物理的にロックしてくれる「 BitLocker 」が搭載されています。この機能の搭載によって、万が一 PC を紛失してしまったり盗難被害にあったりしてもストレージがロックされているため、他のデバイスに接続して読み込まれる心配がありません。
--- 会社の PC を持ち出して利用するユーザーにとってセキュリティは最大の課題ですからね。
佐々木 そうですね。 Windows 11 が登場したのは、ちょうどコロナ禍の真っただ中。リモートワークが一気に普及した時期ですね。それまでは、会社の PC を持ち出した場合、どうやってセキュリティを保つかと言えば、ログインセキュリティを高めるという発想が先行していました。しかし、ストレージそのものをロックするという高度化されたセキュリティ機能の搭載によって、機密性の高いデータの流出リスクは回避できるでしょう。
--- コロナ禍によって働き方は大きく変わりましたが、セキュリティ面以外で Windows 11 Pro を使う優位性はどうお考えですか?
佐々木 2023年現在、コロナ禍が何となく終わりを見せたという感じになってきました。それに伴ってリモートワークからフル出社に戻す企業も出てきたものの、リモートワークそのものを制度化している会社も増えているため、今後もリモートワークが完全にゼロにはならないだろうと言われています。また、リモートワークと出社を組み合わせたハイブリッドワークを取り入れる企業も増えており、より自由な働き方へとシフトしていくでしょう。そういった働き方をサポートするのが、Windows 11 に融合され、自然と使いこなせるリモート会議ツール「 Microsoft Teams 」や「 リモートデスクトップ 」だと思います。
リモート会議がスムーズに行えるのはもちろんですが、リモートワークの課題と挙げられていた “ 同僚にちょっとした相談がしにくい ” という点も技術的な面であれば、わざわざリモート会議を開いて相談することなくリモートデスクトップで接続して解決することも可能です。リテラシーの共有といった側面においても Windows 11 を導入する意味合いは大きいのではないでしょうか。
--- Windows 11 Pro の導入にあたって、企業はマイクロソフト社が掲げる“ Do more with less ” のメッセージ通り、より少ないリソースでより生産性を高めることを期待して投資を行っていくと思います。これらに繋がる機能などはいかがでしょう?
佐々木 まだ正式なロールアウトはされていませんが、マイクロソフト社は対話型の AI を Windows 11 とOfficeに融合してしまおうという試みを行っています。既に「 Windows Copilot 」と「 Microsoft 365 Copilot 」という対話型 AI を発表し大旋風を巻き起こしていますね。対話型 AI と言えば、ChatGPTが有名ですが、マイクロソフト社の対話型 AI は OS やオフィスツールそのものと融合しているのが大きな利点になります。 これまで人の手によって行われてきた作業を AI がカバーする。それによって、より少ない人的リソースや短い時間で、より多くの作業が行えるため、生産性向上につながるのではないでしょうか。
また、この AI 分野は世間から大きな注目を集めている分野です。様々な企業が研究開発を進めていますが、技術力を鑑みると当分は Windows の独走が続くのではないかと思っています。
対話型 AI が劇的な効率化を後押し
--- 大旋風を巻き起こしていると仰っていたマイクロソフト社の対話型 AI ですが、具体的にどんなものなのでしょうか?
佐々木 マイクロソフト社は、 2022 年から AI 事業に対して巨額の出資を行っており、人工知能分野で世界有数の研究機関となる「 OpenAI 」を事実上の関連会社としています。そして正式リリースは行われていませんが、既に「 Windows Copilot 」と「 Microsoft 365 Copilot 」という 2 つの対話型 AI を発表しています。
前者の「 Windows Copilot 」は、デスクトップにサイドバーとして表示される仕組みを持っており、テキストで直接指示を与える “ プロンプト ” によってWindows 11 の各種設定を変更が行えるほか、PDFなどの既存文書を読み込ませることで要点を抽出したりWebサービスと連携してロゴの生成や音楽の再生を行なったりするなど、ユーザーの操作を強力にサポートしてくれるものとなります。
また、後者の「 Microsoft 365 Copilot 」は、Word や Excel などの Microsoft 365 に含まれるオフィスツールに組み込まれた形で提供される AI となります。メールの受信ボックスにあるメッセージの中から重要なものの抽出や要約表示を行ってくれるほか、自動的にプレゼン資料を生成したり表計算のデータを解析して経営や営業の改善点を提案してくれたりするなどの機能を有しています。プレゼン資料に画像を添付する場合、フォトストックサービスを活用すると多額な費用が掛かります。しかし、社内に限定して使うものなら画像生成 AI を活用することでコストを大幅にカットできるというのも大きなポイントですね。
どちらも、手作業では膨大な時間がかかる作業を AI が全自動で行ってくれるため、作業効率も向上し、生産性が著しく上がるのではないかと感じています。
--- AI のチカラによって生産性が向上し、働き方を変えていくという時代が現実的なものとなっていますが、それなりにシステムの要件も厳しくなるのでしょうか?
佐々木 まだ、システムの要件については公式的なアナウンスはありませんが、クラウドで処理される場合は、ある程度古い端末でも動くと思います。しかし、画像生成 AI などをローカルで処理しようとするとCPU に大きな負荷がかかります。そのため、これからの AI 活用にはそれなりに性能の高い CPU を搭載した PC が必要になるでしょう。
そういった意味では、Windows 10 時代から使われている PC を Windows 11 Proに移行するならモダン PC のように高性能なものに置き換える。そういった流れを後押しするのではないかと思っています。
PC 1台ですべて完結する“統合環境”こそ、Windows 最大の強み
--- Windows 11 への対話型 AI 正式な実装が迫ったいま、企業活動における生産性向上に大きな変化が表れると思います。企業にとって、生産性向上や働き方改革におけるWindows 11 Pro を導入するメリットをいかがお考えでしょうか?
佐々木 従来の Windows 10 と比べ、 Windows 11 は統合環境として完成されているのが大きなポイントだと思っています。例えば、従来はリモート会議アプリやオフィスツール、 ChatGPT などの対話型 AI 、仮想化環境など、それぞれのツールが分散されていました。何かひとつのことをしようと思ったら、 Web ブラウザを立ち上げたり外部ツールを導入したりしてはじめて作業を始められる環境が整いました。しかし、Windows 11 はリモートワークをはじめ、出社業務において必要とされるあらゆる環境を統合されているのが大きいですね。
--- つまり、Windows 11 Pro さえあれば、業務に必要なものが揃うということですね。実際に PC を使う労働者の負担軽減はもちろんですが、企業にとってもメリットは大きいのではないでしょうか?
佐々木 そうですね。企業にとって避けては通れないコスト面においても優位性があると思っています。しかし、それ以上にアップデートや環境の変更も非常に楽に行えるというのも大きなメリットだと思います。例えば、以前は OS を新しい環境にアップデートすると旧環境で使っていたツールやアプリが使えなくなるというトラブルも起こり得ます。しかし、様々なツールやアプリケーションが統合されている Windows 11 なら、当然付随されるツール類も Windows と一緒にアップデートされるため、トラブルのリスクも大幅に低減されます。一言でいえば、保守管理がしやすいということですね。Windows 11 Pro は、一般業務における仕事の効率化だけでなく、メンテナンス面においても “ Do more with less ” を体現化していると言えるでしょう。
企業DX 推進のカギは “経営者の意識改革”
--- 統合環境として完成度が高まり、生産性向上に寄与してくれる Windows 11 ですが、企業のなかには、依然として旧バージョンとなる Windows 10 を使い続けているケースも少なくありません。その理由についてどうお考えでしょうか?
佐々木 まず、コスト面ではないでしょうか。 IT はコストセンターであって利益を生み出さないものだから、なるべく保守管理で済ませたいと考える企業も少なからず存在しています。しかし、企業のDXが推進されているいま、その考え方は古いと言わざるを得ません。システムを単純に保守管理して使い続けるのではなく、 IT をもっと戦略的に活用していくことこそが DX の本質であり、そしてビジネスの根幹にしていくべきだと考えます。とはいえ、その感覚に付いていけていない企業も多いのも現実ですね。
--- ITに関するコストについての理解度がまだ追いついていないということですね。
佐々木 そうですね。私は DX の本質、最終形態って AI を軸にして様々なものを最適化していくことだと考えています。しかし、そういった DX に対する理解もまだ十分に進んでいないケースも散見されます。
1990年代から2000年代にかけて IT 化という言葉がありましたね。FAX で送信していたものを電子メールに、紙に書いていたものをオフィスツールでデジタルに変えるといった具合にアナログだったものをデジタル化することがいわゆる IT 化でした。しかし、いま経営者に「 なにを DX 化したいんですか?」 と訪ねてみると、実はDX ではなく単純に IT 化であるケースも少なくありません。例えば、中小企業の規模で扱う社内マニュアルを電子化したいといった例が挙げられますね。それって、たとえ文書化したところで何百ページ程度の資料にしかなりません。それをわざわざ AI に答えさせなくても普通に検索で済みますよね。そういった感覚では DX の推進どころかWindows も古いもので十分というところに収まってしまいますね。
今後、企業が戦略的に DX を推進していくのであれば、あらゆるツールとの統合環境を持ちAIとの親和性にも優れる Windows 11のような最新の OS への移行が必要だと認識することが重要だと思います。
--- 企業がDX を推進するにあたり、ステークホルダーに対して Windows 11のような統合環境の重要性を説くにはどういったアプローチが有効なのでしょう?
佐々木 DX というのは、いわゆる “ 側 ” の話ではなく、 “ 中身 ” の話であるという認識を持っていただくことが重要だと思っています。 DX という言葉が流行り、その言葉に飛びついて「うちも DX を進めよう」。といった具合に話を進められる経営者も少なくないようですが、側である DX というものは 「 やれ 」 と言ってできるものではありません。 DX の中身を考えなければならないのが経営者です。
そうはいっても、 AI や DX のテクノロジーについて難しい勉強をしてもらおうというわけではありません。FAXや紙が電子メールやメッセンジャーツールを移行したようにコミュニケーションツールがアナログからデジタルへと変貌を遂げた IT 化に対し、DX はコミュニケーションツールが AI へと移行するのが本質です。こういった具合に、簡単な例えを用いることで直感的な理解ができるようなアプローチを行うことが有効だと思います。それが、AI との統合環境が整った Windows 11 の訴求に繋がるのではないでしょうか。
また、従来のバージョンとなる Windows 10 は 2025 年にサポートが終了することが決定しています。その時に慌ててリプレースすると大きなコストが掛かるため、コストの負担を分散するためにも、いまから Windows 11 Proへの本格的な移行を始めておくと良いのではないでしょうか。
初出時において、「 Microsoft 365 Copilot 」を「 Microsoft 360 Copilot 」と誤記がありました。お詫びして訂正いたします