Adobe MAX Japan 2025

クリエイターの祭典で
最先端アドビツールの今を知る

4月号からスタートする「アドビで始める オフィスワーカーのためのCreative IN-sourcing」。本企画ではビジネスパーソンのアイデアや発想を具現化する、アドビのクリエイティブツールを紹介すると同時に、その活用方法を解説していく。第1回目となる今回は、2025年2月13日に東京ビッグサイトで開催されたクリエイターの祭典「Adobe MAX Japan 2025」の様子から、アドビツールの最新機能と、それらがどのようにビジネスシーンで活用できるのか、最新情報をお届けする。

会場の「アドビ工房 powered by Adobe Express」では、デザイン経験のないユーザーでも簡単にコンテンツが作成できるデザインツール「Adobe Express」を活用して、来場者がその場でオリジナルトートバッグとポスターを作る体験イベントを実施。デザインが完成したらその場でデザインを入稿し、しばらくすると自分がデザインした作品(オリジナルグッズ)を受け取れる。
アドビ製品体験ブースの「Adobe Acrobat」コーナーでは、新たに搭載された「Acrobat AI アシスタント」を活用した宝探しゲームを実施。ページ数の多い会社資料の中から、5分以内にロッカーを開けるための「カギの番号」カードを探してロッカーを開けるゲームだ。紙の資料から目でそれらの情報を探すと時間を要するが、Acrobat AI アシスタントを活用すればその時間を短縮できる。Acrobat AI アシスタントを活用した業務効率化をゲームを通じて体験できるのだ。
画像に加え、新たに動画や音声生成にも対応した「Adobe Firefly」の体験コーナーにもさまざまな人が訪れ、スタッフからの説明を聞きながら実際にFireflyによる生成を体験していた。

アドビクリエイティブツールの
最新動向をキーノートで解説

キーノートに最初に登壇したのはAdobeの日本法人であるアドビの代表取締役社長 中井陽子氏。Adobe MAX Japan 2025の盛況を語るとともに、テーマである「Create magic.ひらめきをおどろきに」を紹介した。

 デザイン、ビデオ、写真などジャンルを超えたあらゆるクリエイターのための祭典として実施されたAdobe MAX Japan 2025。そのキーノートでは、同社の最新テクノロジーやクリエイティブの未来を、デモを交えて紹介した。本記事ではその最新テクノロジーのトピックスの中から、同社のクリエイティブに対する姿勢や、今後本企画で紹介予定のサービスなどにフォーカスして紹介していく。

 キーノートに登壇したAdobeの日本法人 アドビ 代表取締役社長 中井陽子氏は、来場者に感謝の言葉を述べるとともに「今年のAdobe MAX Japan 2025は、チケットが1カ月前にソールドアウトになりました。これはAdobe MAX Japanにおいて初めてのことであり、クリエイティブの可能性と未来に対する皆さまの高揚感と期待が、これまでにないほど盛り上がっていることの表れでしょう。今年のAdobe MAX Japanのテーマは『Create magic.ひらめきをおどろきに』です。マジックを作るのはアドビではありません。ここにいらっしゃるクリエイターの皆さまです」と、来場者に対して語りかけた。

 キーノートには米国本社のAdobeから会長兼CEO シャンタヌ・ナラヤン氏も駆けつけた。ナラヤン氏は「日本はアドビにとっても大変重要な市場です」と語るとともに、これまでの日本のパートナー企業とのコラボレーションを紹介した。

 ナラヤン氏は2024年を「クリエイティブの概念が変わった年」と表現した。これは生成AIの登場と進歩を示している。「アドビは創業以来、技術を通してアートを自由に解放することを目指してきました。その中心にはクリエイターがおり、クリエイティブなアイデアを実現できるように、デスクトップ、Webブラウザー、モバイルデバイスといったあらゆるデバイスでクリエイティブな表現ができる環境を整えています。そして、その中でAIの活用を加速させています」とナラヤン氏は語る。

 そのAI活用の一つとして、Adobe MAX Japan 2025開催当日に発表された「Adobe Firefly」(以下、Firefly)の機能強化を紹介した。これまで実装されていた画像やベクター生成に加えて、動画や音声の生成にも対応したという(パブリックベータ版)。また、「Adobe Creative Cloud」アプリと連携することで、Fireflyでのアイデア出しからコンテンツの制作までを一気通貫で行えるようになった。

「生成AIのビデオモデルにおいて、デザインを尊重し、商業的に安全なものはFireflyだけです。ブランドやクリエイティブのプロフェッショナルがコンテンツに自信を持って作成して使っていただくことができるビデオモデルと言えるでしょう」と、ナラヤン氏はFireflyの強みを語った。

生成AIをツールに搭載し
より多くの人が簡単に使える

米国本社から駆けつけたAdobe 会長兼CEO シャンタヌ・ナラヤン氏。日本市場の重要性を語った後、現在のクリエイティブの世界に起こっている変化を語った。

 続けてナラヤン氏は企業が制作するコンテンツ量が増加していることを指摘。アドビはそうしたデジタルマーケティングに活用するコンテンツのライフサイクルや作成、制作ワークフロー、企画、アセット管理、提供、アクティベーションなどを網羅するコンテンツサプライチェーン「Adobe GenStudio for Performance Marketing」(以下、Adobe GenStudio)を提供しており、これらで企業のマーケターの業務をサポートしていくという。

 ナラヤン氏は「現在、アドビは世界最大規模のマーケティングテクノロジー企業の一つです。私たちはAIを使って、関係者をもっとパワフルにクリエイティブなプロセスに関与してもらおうとしています。デザイナー、マーケター、そしてクリエイティブの広告代理店、企業のマーケティング部門全て含めてです。Adobe GenStudioがあることで、クリエイティブな表現をスピーディーに企業活動に組み込むことが可能になります」と語り、「私たちは全ての製品リリースにおいてクリエイティブをより多くの人が使えるようにしてきました。それが私たちの言う『Creativity for All』です」と続けた。

 アドビはさまざまなスキルレベルのユーザーに、多様なクリエイティブソフトを提供している。画像編集ソフト「Adobe Photoshop」、動画編集ソフト「Adobe Premiere Pro」といったプロフェッショナル向けの製品はもちろん、デザイン経験のないユーザーでも簡単にSNS用の画像や動画、チラシなどのメディア作成が可能な「Adobe Express」(以下、Express)も提供している。

 またAdobe MAX Japan 2025の開催前日となる2月12日には、PDFのファイル作成や編集を行えるソフトウェア「Adobe Acrobat」に搭載される生成AI機能「Acrobat AIアシスタント」の日本語版の一般提供をスタートした。ナラヤン氏はこのAcrobat AIアシスタントの日本語版についても触れ「世界中に存在しているPDFの文書にさらに大きな価値をもたらします。皆さまが文書を読むだけの世界から、文書と対話し、情報抽出してレポートやプレゼンテーションを作成するなどして、学びを共有する世界へと移行できます。ぜひ皆さまにAcrobat AIアシスタントを使っていただけることを祈っています」と語った。

 Acrobat AIアシスタントをはじめ、同社が提供するクリエイティブツールの多くに生成AIが搭載されている。こうしたクリエイティブ領域におけるAIの活用に関して、ナラヤン氏は「AIは人の創意工夫を補助するものです。生産性を向上させる力を持つものであり、置き換えるものではないという信念を持っています」と言う。それ故に、アドビの生成AIは「インターネットやユーザーコンテンツから学習しない」「許諾を得た素材のみを学習に使用」「学習素材のクリエイターに還元」するといった形で、クリエイターの権利を保護している。

コンテンツのサイクルを管理し
マーケターをサポートする

クリエイティブ領域についての最新情報を紹介したAdobe マーケティング戦略およびコミュニケーション担当バイスプレジデント ステイシー・マルティネット氏。

 Adobe MAX Japan 2025では、同社のさまざまなクリエイティブツールに対する新機能やイノベーションの情報も発信された。Adobe マーケティング戦略およびコミュニケーション担当バイスプレジデント ステイシー・マルティネット氏が登壇し「クリエイティブプロフェッショナルの皆さまにとっては大きな変革の時期に来ています。しかし、いくつかのコアの原則は変わりません。クリエイターの皆さまは能力や精度を担保しながら心の中にあるビジョンを実現したいと考えているでしょう」と語りかけ、クリエイティブツールに最新のテクノロジーが組み込まれることによるメリットを紹介した。

 その一つとして、ナラヤン氏も紹介したFireflyのアップデートがある。画像だけでなく動画や音声の生成に対応したことで、さまざまなメディアタイプでのアイデア出しが可能になった。キーノートでは実際にFireflyによる動画生成のデモも行われた。静止画の熱帯魚がFireflyによって泳ぐ動画として生成されると、会場からは大きな拍手が送られた。もちろん、Fireflyの動画生成はテキストプロンプトのみでも可能だ。デモでは生成した動画をPhotoshopに読み込み、デジタルアート展のキービジュアル動画の制作を行う様子も紹介された。

 アドビのクリエイティブツールが担う領域はクリエイティブコンテンツの制作だけではない。企業のマーケティングもその一つだ。「初の海外出張が日本でうれしい」と笑顔で語りながら登壇したAdobe CMO兼グローバルマーケティング担当エグゼクティブバイスプレジデントのララ・バラス氏はAdobe GenStudioについて「コンテンツを用いたマーケティングを行うためのサイクルは何週間もかかります。これを効率化するため、プロダクト、エンジニアリング、デザインなどの主要な社内チームと、エンドツーエンドのソリューションを作り出すための連携を行えるようにすることで、マーケターに対してのエンパワーメントを施します。それを実現するのがAdobe GenStudioです。この存在によって企業もエージェンシーも大きく状況を変えられます」と語る。実際に行われたデモでは、Adobe GenStudioを活用してブランドガイドラインに基づきキャンペーン広告を生成する例が紹介された。Adobe GenStudio内では作成した広告のクリック数といったインサイトも可視化でき、より効果の高いコンテンツに生かすことが可能になる。Adobe GenStudioはクリエイティブのマーケティングの連携に、AIが力を加えることで企業のマーケティング活動をより効果的かつ効率的にできるのだ。

クリエイティブ&マーケティングについて紹介したAdobe CMO兼グローバルマーケティング担当エグゼクティブバイスプレジデントのララ・バラス氏。

初心者からプロまで
幅広く使えるAdobe Express

「すべての人に『つくる力』を」を意味する「Creativity for All」。「クリエイティブとプロダクティビティは日々関係が濃くなってきています。クリエイティブだけでなくプロダクティビティも全ての人に解放される必要があります。それらを実現するツールもご用意しています」と語るのは、登壇したAdobe デジタルメディア事業部門およびGTM兼セールス部門担当シニア・バイス・プレジデント マニンダー・ソーニー氏。ソーニー氏はこれらの領域をカバーするツールとしてExpressとAcrobat、そして「Adobe Photoshop Lightroom」のモバイル版アプリを紹介した。

Expressを活用したコンテンツ作りのデモの様子(アドビ マーケティング部 有川 慧氏)。Photoshopとの連携や、豊富なテンプレート、生成AI機能を活用することで、簡単にインパクトのある作品に仕上げることが可能になる。
クリエイティビティ&プロダクティビティについて語った、Adobe デジタルメディア事業部門およびGTM兼セールス部門担当シニア・バイス・プレジデントのマニンダー・ソーニー氏。

 その中でもExpressは、シンプルな操作性で誰もが簡単に画像や動画、アニメーション、広告などのコンテンツを制作できるアプリケーションだ。過去にクリエイティブの経験がないビジネスプロフェッショナルや中小企業のオーナー、学校現場の教員、児童生徒などでも簡単に利用できる。一方でクリエイティブのトレーニングを受けたデザイナーなども仕事にも役立つと指摘し「例えば皆さまが経験豊富なイラストレーターだと仮定して、あるプロジェクトでアニメーションを使おうと考えたとします。その場合、以前であればアニメーションを制作できる人を雇う必要がありました。しかしExpressがあればトレーニングを受けていない人でもアニメーションを作ることが可能になります」と語る。会場では実際にデモも実施し、PhotoshopのファイルをExpress上で開いた後、動画コンテンツと組み合わせて編集をするような表現方法を紹介した。

 続いて紹介されたのがAcrobatの活用だ。ソーニー氏は「Acrobatに搭載されたAcrobat AIアシスタントを使えば、重要な情報を簡単に引き出せます。私はこのAcrobat AIアシスタントをほぼ毎日使っていますが、これを活用することで相当の作業時間を削減することが可能になるでしょう」と活用のメリットを訴える。

 これらの二つの製品とLightroomには一つの共通点がある。それは制作を進める際の操作が非常にシンプルで、迅速に目的を実現できる点だ。また複数のプラットフォーム上で利用できるため、シームレスに制作業務を継続できる。

 最後に再び登壇した中井氏は「本日はクリエイティブ、クリエイティブとマーケティング、そしてクリエイティブとプロダクティビティという三つの分野でさまざまな発表を行いました。このほかにも沢山のアップデートがあります。皆さまのクリエイティブな仕事が大きく進化することを実感いただけたのではないでしょうか」と語り、キーノートの幕を下ろした。

動画や音声生成にも対応したAdobe Firefly
その強化ポイントと活用シーンを解説

記者発表会でFireflyについて紹介したアドビ マーケティングマネージャーの轟 啓介氏。発表会ではProject NeoとFireflyを組み合わせることによって、街並みを簡単に生成するデモも行われ、報道関係者から驚きの声が上がった。

 Adobe MAX Japan 2025当日、生成AI動画モデルである「Adobe Firefly Video Model」を搭載した最新のAdobe Firefly Web版に関する記者発表会も開催された。

 Adobe Firefly Video Modelは、知的財産に配慮し、安心して商用利用が行える生成AI動画モデルだ。この生成AI動画モデルはFirefly Web版の「動画生成(ベータ版)」のほかPremiere Proの 「生成拡張(ベータ版)」で利用できる。

 Fireflyの動画生成では多様な方法で動画を生成できる。代表的なのがテキストプロンプトや画像による動画生成だ。開始点と終了点の画像をアップロードして動画生成をガイドすることも可能だ。「現在はワイドスクリーン(16:9)と縦型動画(9:16)の2種類に対応しています。解像度は1,080pですが、今後ほかの解像度にも対応していことも検討しており、低解像度のアイデア出し用モデルとプロレベル制作作業向け4Kモデルは近日中に提供予定です」とアドビ マーケティングマネージャー 轟 啓介氏は語る。

 動画生成の活用シーンの代表例として、参考データからBロールを生成するものが挙げられる。メインのビデオクリップを補足するものであり、撮り忘れていたり後から必要になったりした場合に活用できるだろう。

 Adobe Firefly Video&Audio Modelによって、音声の翻訳も生成できる。複数の言語への同時翻訳も行えるため、コンテンツの多言語展開が容易になる。シーンから画像生成(ベータ版)を活用すれば、3Dカメラコントロールによって簡単に3Dシーンを作成したり、3Dツールの「Project Neo」とFireflyを連携させて簡易な3Dモデルから町並みを生成したりするようなことも実現できる。発表会で行われたデモでは、実際に簡易な3Dモデルから「郊外の街並み」が生成された。「作り込むともっと完成度の高い街並みを生成できると思いますが、例えばスライド資料の右下に参考画像として配置するような用途であれば、これくらいの簡易さで生成できるでしょう」と轟氏は語った。