近年、地震や台風などの自然災害が多発している。こうした自然災害によってシステムが停止し、事業が継続できないといったトラブルに発展してしまうケースは少なくない。さらに我々が対策を講じるべきトラブルは自然災害だけではない。システム障害やサイバー攻撃などによってシステムダウンしてしまうことも念頭に置いておくべきだ。そこで今回はIT-BCP対策をテーマに、トラブル発生時でも事業を継続していくための製品を紹介していく。
激甚化する自然災害や多様化するリスクを
BCMソリューションの導入で最小化しよう
自然災害の激甚化、頻発化が進んでいる。企業は、こうした緊急事態の発生に備えて、損害を最小限に抑えて事業の継続や復旧を図るため「BCP」(事業継続計画)を策定する必要がある。その中でも、ITシステムの事業継続計画「IT BCP」は重要だ。昨今のビジネスにおいてITの活用は不可欠であり、万が一自然災害が発生した場合でもITシステムへの影響を最小限に抑えなければ、事業継続が困難となるだろう。本ページでは日本の自然災害の直近の動向を俯瞰するとともに、デロイト トーマツ ミック経済研究所の調査からBCP、そしてそれを運用していく「事業継続マネジメント」(BCM)にまつわる市場動向を紹介していく。
地球温暖化に伴う気象災害の増加
気候変動に伴い、日本の平均気温は上昇傾向にある。内閣府が発表している「令和5年版 防災白書」によると、日本の年平均気温は世界の平均気温よりも上昇の幅が大きく、100年当たりで1.30度上昇しているという。また、1980年代後半から平均気温の上昇速度は加速傾向にある。このような平均気温の上昇と相関する形で、大雨や短時間強雨の発生頻度も増加している。例えばアメダスによる観測結果によると、およそ50年間で1時間降水量50mm以上および80mm以上の短時間強雨の年間発生回数は、共に増加しているという。
実際、2024年の7〜8月の気象を振り返ると、激しい雨や雷を伴うゲリラ豪雨が数多く発生したことは記憶に新しいだろう。7月25日には、梅雨前線の停滞や低気圧による大雨の影響で、山形県内で家屋の浸水など大きな被害が発生した。8月29日に鹿児島県に上陸した台風10号は九州地方を中心に暴風雨を巻き起こしたほか、離れた関東地方でも河川氾濫や大規模冠水などの被害が発生した。こうした激甚化・頻発化が進む気象災害は、地球温暖化に伴って今後も増加していくことが見込まれており、家庭や企業を問わずにこうした自然被害への備えを講じていく必要があるだろう。
例えば企業では、災害発生時に従業員や顧客を守ることが必要だ。内閣府では、事業者向けの「事業継続ガイドライン−あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応−」(令和5年3月版)(https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/guideline202303.pdf)を公開している。本記事冒頭でBCP策定の必要性について触れたが、BCPを実行していくためには、その策定・改善につながる「事業継続マネジメント」(BCM)が不可欠だ。本ガイドラインはBCPを含めたBCMの概要や必要性、有効性などを示すことで、企業や組織の自主的な業務継続の取り組みを促すことを目的としているものであり、基本方針の策定から見直し、改善に至るまでの手法が示されている。事業継続を実現していく上で一読しておくと良いだろう。
多様化するリスク対策に市場が拡大
こうしたBCMを実現するためのBCMソリューションの市場も拡大傾向にある。デロイト トーマツ ミック経済研究所は、BCMソリューションについての市場規模やトレンドを分析した「事業継続マネジメント(BCM)ソリューション市場の実態と展望 2023年度版」(https://mic-r.co.jp/mr/02820/)という資料を2023年7月に発刊している。同資料ではBCPの策定やレビュー、BCMとして運用するに当たって必要な危機管理や防災情報などを収集して発信する「危機管理・防災情報ソリューション」と、従業員や家族などの安否確認を管理する「安否確認ソリューション」の2分野を、主なBCMソリューションと定義している。
BCMソリューション市場全体の動向から見ていこう。2022年度のBCMソリューション市場全体の売上高は前年度比114.8%の178.8億円となった。2023年度も引き続き順調に成長し、前年度比115.0%の205.7億円を見込んでいる。
BCMの根幹であるBCPは、もともとは有事に備えて拠点ごとや現場担当者レベルで策定が進められてきた。しかし、東日本大震災をはじめとした激甚災害の経験を契機に、全社的にBCPを策定したり、訓練支援への活用が進められたりするようになった。加えて昨今は、サイバー攻撃や、データセンターが被災した場合にシステムをどう復旧させるか、といった自然災害に由来する要素もリスク情報に含まれる。また、ロシアのウクライナ侵攻といった地政学的なリスクや、新型コロナウイルスのようなパンデミックのリスクなど、企業側が把握しておく必要のあるリスク情報は多岐にわたる。2023年度以降もリスク自体が多様化し、策定したBCPの想定を超えた場合のクライシスマネジメントへの支援ニーズが高まることから、クラウドに加えコンサルティング・アドバイザリー型ソリューションに新たに着手するベンダーも増えていくと見込まれている。
コア業務のDX推進も導入の追い風に
それでは、「危機管理・防災情報ソリューション」および「安保確認ソリューション」の市場はどのように動いたのだろうか。まずは危機管理・防災情報ソリューション市場から見ていく。
2021年、2022年の2年連続で発生した福島県沖地震や、西日本を中心とした豪雨災害などによって、多くの交通機関や道路で通行止めが発生した。サプライチェーンマネジメントにも大きな影響を及ぼしたことで、自然災害へのリスクマネジメントツールとして危機管理・防災情報ソリューション市場は大きな注目を集め、2022年度の同市場は前年度比124.6%の59.8億円と伸長した。
危機管理・防災情報ソリューションでは自然災害への備えだけでなく、地政学リスクやサイバー攻撃などの対策として、IT-BCPを支援する機能の実装、コンサルティング・アドバイザリーサービスの展開も行われている。各ベンダーはAIを活用した災害予測や、SNSなどを活用したビッグデータによる情報収集や解析への取り組みを進めており、今後はよりピンポイントで精度の高い災害情報の提供を通じて、実効性の高いBCP策定やBCMの構築や運用に寄与していく可能性が指摘された。
2022年度の安否確認ソリューション市場は、前年度比110.4%の119.0億円となった。2020年初頭から始まった新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、在宅勤務が急増した。それにより、安否確認のニーズが増加し、従来の多拠点型のサービス業や小売業、大手製造業など以外の中堅・中小規模のユーザーが増加したという。そうした需要に伴って、ベンダー側も中堅・中小企業向けのリーズナブルな料金プランを展開している。また、従業員情報などを記録する人事システム、HR Techサービス、勤怠管理サービスなど、企業のコア業務に関わる領域のクラウドサービスとのAPI連携も増加しており、企業のコア業務におけるDX推進を要因とした需要の高まりが追い風となって、BCMソリューションの導入が加速傾向にある。
デロイト トーマツ ミック経済研究所は上記のような動向を踏まえ、2023〜2027年度までのBCMソリューション市場全体は年平均17.9%増で成長を続け、2027年度には397.0億円市場になると予測した。
2024年は1月1日に能登半島地震が発生し、冒頭で紹介した通り豪雨や台風による浸水被害も発生するなど、BCPやBCMへの関心がこれまで以上に高まっている1年といえる。これを機に、IT-BCPの見直し提案を進めていきたい。