AI機能を内蔵したマシンが続々登場

生成AIが注目されて2年になろうとしているが、各メーカーがこぞって生成AIに関する技術を開発し、さまざまなサービスの提供を行おうと躍起になっている。サービスだけでなくハードウェアも進化しており、CPUもAI処理を可能にするプロセッサーも登場してきている。AIを処理するためには並列的に物事を処理する必要があり、これまでのCPUでは処理することが難しく高負荷になるため、画像処理用のGPUで代用することが多かった。そのためAI用に特化したNPU(Neural Processing Unit)を開発。CPUに内蔵することで、AI処理をより効率的に行えるようになってきている。

こうした動きを見て、マイクロソフトは生成AI技術として推進してきた「Copilot」を、Windows 11をはじめあらゆるところから呼び出せるようにしてきた。さらに一歩踏み込んで、快適にAI処理できるマシンに対して「Copilot+ PC」として認定し、AIを活用したアプリなどを積極的に投入していく戦略を打ってきている。ちなみに、Copilot+ PCは「コパイロットプラス・ピーシー」と読み、「コパイロット・プラス・ピーシー」ではないので注意したい。

マイクロソフトの資料によると、Copilot+ PCに認定されるためには、40 TOPS(Tera Operation Per Second)以上のNPUを搭載し、以下のプロセッサーを搭載したものとされている。

  • Qualcomm Snapdragon X Elite
  • インテル Core Ultra シリーズ2(開発コード名: Lunar Lake)
  • AMD Ryzen AI 300(開発コード名:Strix Point)

つまり、NPUを搭載した、例えばインテル Core Ultra シリーズ1(開発コード名: Meteor Lake)は、40 TOPSに満たないため、Copilot+ PCの対象外となる。ただ、シリーズ1も内蔵NPUによってAIを処理することに長けているので、AI機能を活用したアプリをより快適に扱える。

こうした中で、必要条件をいち早くクリアしたのが、ARMベースのQualcommのプロセッサーだ。ご存じのとおりQualcomm はスマホでは実績があるものの、パソコン用としてはそれほどでもない。その上AI機能を用いたアプリの搭載は秋以降のバージョンアップとされていたため、Copilot+ PCがあまり広く認知されてこなかった。

ところが、この秋からインテル Core Ultra シリーズ2搭載モデルが登場したことで、ここから広まりを見せていくことは確実だ。そのため、マシンを調達する情シスの人たちなどは、Copilot+ PCとはどんなものかということをしっかり把握しておくべきである。

レノボのCopilot+ PC「ThinkPad T14s Gen 6 Snapdragon」でAI機能を確認

レノボのCopilot+ PC「ThinkPad T14s Gen 6 Snapdragon」

ここからは、Qualcomm Snapdragon X Eliteを搭載した、レノボのCopilot+ PC「ThinkPad T14s Gen 6 Snapdragon」で、実際の動作を確認しながら、どんなことができるのかを紹介していこう。

まず、簡単にThinkPad T14s Gen 6 Snapdragonを紹介しよう。画面は14インチ2.8K(2880×1800ドット)のOLEDパネルを使用し、CPUにSnapdragon X Eliteを搭載。メモリーは最大64GB、内蔵ストレージが最大1TBとなっている。画面は、WUXGA(1920×1200ドット)のIPSパネルやマルチタッチのIPSパネルも選択でき、バッテリー駆動時間は公称約19.3時間となっている。

インターフェースはThunderbolt 4×2、USB Type-A×2、HDMI×1などを備え、Wi-Fi 7に対応。こうしたビジネスモバイルのモデルにもいち早くCopilot+ PCを投入してきていることから、ビジネスの現場では、NPUを内蔵したマシンが主流になってくることがうかがえる。

「ThinkPad」ならではのこだわったデザインで、天板の開閉も片手でスムーズにできる
ThinkPadの特徴の1つ、トラックポイントも備わっていて、キーボードもキートップの一部が狭まることなく打ちやすい配置になっている
Copilot+を起動するボタンも備わっている

ARMベースのQualcommのプロセッサーのため、気になるベンチマークテストも行ってみたが、CPU性能を計測する「Cinebench R23」では、マルチコアで6522pts、シングルコアで1128ptsという結果だった。これは第11世代のインテル Core i7クラスよりも速い結果で、十分快適に使えるレベルと言える。また、しっかり「Microsoft 365」のアプリも動作し、何不自由なく快適に使えた。ビジネスシーンで利用するのであれば、問題ないはずだ。

ARMベースのマシンだが、「Microsoft 365」の「Excel」を起動して作業しても全く遜色ない

画像を自動生成するコクリエイター

「ペイント」に追加された「コクリエイター」。最初に説明ウィザードが立ち上がる

続いて、Copilot+ PCならではの機能を紹介していこう。まずは、Windows 11に標準搭載されている「ペイント」アプリに機能追加される「コクリエイター」だ。画像を生成してくれるもので、作成したい画像をテキストで入力すると、AI機能で自動生成してくれる。特徴なのが、左側のキャンバス部分でラフスケッチを描くと、それに合わせた画像を生成してくれるところ。どんな描き方かの指定とどの程度AIに創造させるのかが調整でき、思った通りのものをチョイスできる。納得のいく画像を得られるまで細かく調整できる。

作成する画像の説明として「すいか 海辺」と入力し、キャンバスにラフに描くと、リアルタイムに反映して画像を生成してくれる
創造性のレベルを調整すると、指定したスタイルに合わせてよりリアルに描いてくれる
スタイルもいくつか用意されていて、それに合わせて描き直してくれる

AI機能が内蔵されていると、この画像生成が大きなラグもなく描いてくれる。これまで、画像の生成は、クラウド上で描いたものを落として来るため、1枚描くのに時間がかかった。これなら、何度描き直させても、数秒しかかからないので作業効率は一気に加速する。資料に使う画像は、こうした生成AI技術を活用する機会が今後ますます増えていくはずだ。

0から画像生成するイメージクリエーターと画像スタイルを変更するリスタイル

「フォト」アプリに実装されている「イメージクリエーター」

生成したい画像をテキストで入力(プロンプト)すると複数の候補が生成され示してくれるのがイメージクリエーターだ。Windows 11に標準で搭載されている「フォト」アプリに追加された機能で、これまでもCopilotの機能の一部としてあったが、Copilotがクラウド上で処理して示すのに対し、イメージクリエーターはローカルマシン上で処理して示してくれる違いがある。そのため、プロンプトを入力すると、すぐに生成してくれるため、試行錯誤しても時間の節約につながる。

プロンプトは英語の方が結果は良さそうだが、日本語でもこの程度の仕上がりにはなる
タスクマネージャーのNPUの使用率を見てみると、生成中に活動していることがわかる

一方、リスタイルはすでにある画像に対して、背景などのスタイルを変更するというものだ。商品の背景をキレイにするといった時に活用できそうだ。

Web会議で有効なWindows Studio エフェクト

「Windows Studio エフェクト」は、「スタジオ効果」で設定できる

カメラで撮影した映像に対して、各種エフェクトをかけてくれるのが「Windows Studio エフェクト」だ。代表的なのが背景のぼかし。こうした処理はリアルタイム性が要求され、映像から人物を抽出しそれ以外をぼかすという過程を踏まなければならない。これは、NPUを搭載していないマシンでも、こうした機能が利用できたが実は結構CPUに負荷がかかっていて、バッテリー消耗の原因でもある。これをNPUに処理させることで、CPUの負荷が軽減し、消費電力も抑えた上で実行できる。

Copilot+ PC に搭載されるWindows Studio エフェクトには、背景ぼかしのほか、ポートレートライトや縦向きのぼかし、クリエイティブフィルターとして図やアニメーション、水彩画などがある。さらに目線を相手に向けたり、自動的にフレーミングしてくれるなど、複数組み合わせて利用できるようになっている。

エフェクトは複数組み合わせて適用できる
目の動きを抑制して相手を見ているようにするというエフェクトも
NPUも45%程度の使用率で、CPUは7%程度に留まっている。NPUの方が低消費電力なので、バッテリー駆動時間にも影響する

字幕を自動生成するライブキャプション

出力される音声に対して機能するので、アプリを問わずに翻訳して表示してくれる。現状は英語への翻訳のみ

最近はWeb会議アプリの機能だったり、YouTubeなどの動画配信サービスの1つとして自動的にキャプションを付ける機能があるが、ライブキャプションはアプリに限らず出力される音声に対して、リアルタイムで翻訳しつつ、それをキャプションとして表示するというもの。これがあれば、海外の人とのやりとりもキャプションによって理解しやすくなるだろう。今回試した時点では英語への翻訳しか対応していないため、今後日本語への翻訳に対応することに期待大だ。

新たな検索機能のリコール

試用した時点では実装されていなかったが、リコールを有効にすると定期的にスクリーンショットを撮ることで、画像や文字をNPUで認識してリスト化し、うろ覚えの情報から目的のものを見つけ出してくれるという機能だ。例えば、「赤い車の写真の入った資料」や「Copilot+ PCに関する情報」などと検索すると、アプリで開いた資料やWebで見た情報などが候補に挙がる。どこで見た情報かも覚えていないときに効果的だ。

ゲームに効く自動超解像度(Auto SR)

これはビジネスから離れるが、低解像度で表示される映像の解像度を上げつつ、フレーレートも向上させるというもの。これにより、ハイスペックなGPUでなくても、高品質なゲーム体験をもたらすという試みだ。こうした取り組みは、ゲームに限らず動画にも活かせるはずなので、今後AI機能を活かした超解像化は登場するかもしれない。

Copilot+ PCが、これからのビジネスシーンを席巻する

Windows 11に搭載されている「Copilot」。ネット上の情報を元に回答を生成してくれる。参考先のリンクもあるので、事実確認もできる。Copilot+ PCでは、さらに機能強化される

以上が、現在のところ実装されるAIを活かした機能だ。AI機能を使ってローカルで処理するメリットは、よりリアルタイムで処理が可能であり、データをクラウドへアップロードすることなく処理できる点。

また、AI機能の搭載により消費電力の低減やAIベースの電源管理によって、バッテリー駆動時間が伸びるというメリットもある。モバイルパソコンにおいて、バッテリー駆動時間は長いに越したことはない。

Copilot+ PCは、まだ発展途上の段階だが、AI機能を活かしたアプリが今後続々と登場すれば、Copilot+ PCを導入することでメリットをいち早く享受できる。マシンサイクルが4~5年であることを考えれば、マシンの切り替え時にCopilot+ PCを選択肢の1つとして考えるべきだ。