個人と協働を往還する“アジャイル教育”で
子供たちの主体的に学ぶ姿勢を育成する

葛飾区立東金町小学校(以下、東金町小学校)は、2020年度から2022年度まで葛飾区のプログラミング教育推進校に指定され、ICTを活用した教育に取り組んできた。同校ではそれ以来、STEAM教育、そして「アジャイル教育」と、子供たちの主体的な学びの姿勢を育成する学びを実践している。令和の学びのスタンダードの構築を目指す同校の取り組みを見ていこう。

道徳の授業では授業支援ソフト「オクリンク」を活用して自身の意見を提出するほか、ほかの児童の意見を閲覧して良いと思ったポイントを評価する「いいねカード」で他者の意見を参照するアジャイル教育活動も行う。

児童主体となる授業実践

 東金町小学校は、2023年度から2024年度にかけてパナソニック教育財団の特別研究指定校に採択されている。もともと葛飾区のプログラミング教育指定校であり、2022年度にはパナソニック教育財団の一般研究指定校にも採択された同校は、日常的なICTの活用と、教科横断的なSTEAM教育を通して、児童が主体的に学ぶ教育環境の構築を実現していた。その一方で課題となっていたのが、基礎の習得や主体的に学ぶ姿勢に個人差があるという点だ。同校の特別研究指定校の取り組みでは、この課題を解決するため、従来の日本型教育とSTEAM教育をベストミックスした令和の学びのスタンダード化を目指している。

 東金町小学校の学びにおける特長的な取り組みとして「アジャイル教育」がある。これは2023年度の特別研究指定校の取り組みの中で開発された学習過程だ。

 東金町小学校の校長を務める河村麻里氏は「アジャイル教育は、児童主体となる授業に転換するためのツールです。授業では、大枠としての教科の目的があり、それを達成するための本時の課題があります。その課題に対して子供たちは自己検討を行う『もくもくタイム』と、他者の意見を参照する『もしもしタイム』で、個人の探究的な学びと協働的な学びを行います。アジャイル教育ではこの『もしもしタイム』の後に、他者意見を踏まえた修正反映を行う『もくもくタイム』があります。『もくもく』と『もしもし』を螺旋状に回転し成長させていく学びが、アジャイル教育です」と語る。

 このアジャイル教育を取り入れたことで、子供たちが主体的に学ぶ姿勢が日常化されたという。もともとは「もくもくタイム」と「もしもしタイム」を教員側が意図的に設定していたが、子供たちは手元にあるタブレットを使い、自由に友達に聞きに行ったり、自身で考えを深めたりするといった学びを行うようになったという。

 こうしたアジャイル教育の中では、教員はファシリテーターの立ち位置となり、子供たちの主体的な学びを支援している。その一方で、各教科で身に付けるべき基礎や基本をきちんと習得する必要もある。東金町小学校では、こうした基礎・基本を学ぶシーンではこれまでの日本型教育で実践してきた一斉型指導を行い、STEAM教育やアジャイル教育の中ではファシリテーターとして子供たちの主体的な学びをサポートしている。

アジャイル教育で学力が急成長

 2024年度のパナソニック教育財団の特別指定校の取り組みではこうした日本型教育実践とSTEAM教育、アジャイル教育を通して子供たちに必要な力を育成するための手法を研究しており、学習を「習得」「活用」「プロジェクト」「探究」という四つに分類し、教科に準拠しつつ、それらを横断的につなぐことを実践している。これらの学びのベースにはICTがあり、例えば習得の学びにおいてもAIドリルで反復練習を行うなど、日常の学びの中にタブレット活用が浸透している。

 子供たちが主体的に学ぶアジャイル教育によって、東金町小学校はどのように変わったのだろうか。河村氏は「成績が非常に伸びました。もともと本校は葛飾区内の学力調査であまり高い順位ではなかったのですが、去年と一昨年はトップになりました。中学受験する子も大幅に増加しています」と語る。

 その一方で顕在化しているのが、校内の学力差だ。東金町小学校に限らないが、学校教育においては学力が高い子供と低い子供が取り残されるケースが少なくない。学力が高い子供は学校の授業内容では易し過ぎ、学力が低い子供は難し過ぎるのだ。こうした学力差に対して同校で可能性を見いだしているのが、生成AIの活用だ。

 例えば国語で防災に関する提案書を作る授業を実施した際に、同校が導入している学習支援サービス「tomoLinks」に搭載されている生成AIを活用したという。

 実際に授業を行った東金町小学校 副校長の折田真一氏は「提案書のような作文課題が得意な児童は生成AIを活用して、自身で作成した文章をブラッシュアップさせ、さらに文章を良くしていました。作文が得意でない児童は生成AIに文章を生成させ、そこから必要な文章をパーツとして取捨選択し作文を作っていくような活用をしていました。従来であれば、こうした作文が苦手な子供たちに対して支援を行う場合、教員が1対1でサポートしつつ書きたいことを聞き取って文章にしていくといったことを行っていました。生成AIを活用することで、児童一人ひとりに学びのアシスタントが付くように、学びを支援できるようになるかもしれません」と振り返った。

 東金町小学校ではこうした令和の学びのスタンダードの構築を目指すべく、教員のICT活用指導力の向上にも取り組んでいるほか、働き方改革も進めている。児童と教員が一体となって成長していく、同校の学びの在り方に注目が集まる。

東金町小学校ではコロナ禍以降もオンライン授業を継続的に実践している。中央のiPadでオンライン授業参加の子供たちに授業の配信を行っている。