Top Interview
三つの章でビジネスを展開し選択の自由を提供
意思やストーリーを大切にして
中堅中小企業のDXを加速させる
昨年の1月18日、ヴイエムウェア株式会社の代表取締役社長に山中 直氏が就任した。就任の発表の場で山中氏は「3年後には日本のマーケットにおいて『THE Digital Foundation』と言われる企業になる」と語った。就任から1年半、目標の達成に向けた取り組みの進捗について話を伺った。
ピープル、プロセス、テクノロジーで
顧客の目標の実現に向けて伴走する
編集部■15年間にわたりヴイエムウェアで活躍されてきました。入社当時は仮想化というテクノロジーやVMwareというブランドへの認知は今のように高くはなかったと思います。当時、VMwareにどのような魅力や可能性を感じていましたか。
山中氏(以下、敬称略)■ヴイエムウェアに転職したのは2007年ですが、当時、ビジネスにおけるITの重要性がますます高まり、一方でITを活用したビジネスも急成長していました。それに伴って企業が運用・管理するサーバーの数が増加しており、コストと労力の負担をいかに軽減するかが大きな課題となっていました。
こうした中でヴイエムウェアは仮想化というテクノロジーを生み出し、その効果を実証していました。VMwareのテクノロジーは、ITはもちろんのこと、お客さまの経営やビジネスを変革すると直感し、日本に広めたいと考えて転職しました。そして現在、多くのお客さまにVMwareのテクノロジーをご利用いただいております。
しかし、当初は仮想化の世界を実世界として理解してもらうのに苦労しました。ヴイエムウェアに入社して金融業界の営業を担当したのですが、物理サーバーの数を大幅に減らすことができると説明してもほとんどは懐疑的な反応でした。そこでPoCを実施して、お客さまに仮想化の効果を実際に確認していただきました。
物理サーバーの数を減らせてコストを削減できるなど、効果が分かりやすいためPoCを実施したお客さまには仮想化に関心を持っていただくことができました。しかし実際の導入に至るには、まだ超えるべき山がありました。
仮想化ではポリシーによってワークロードを分散して稼働させ、ホストとなる仮想マシンが自動的に移動します。この仕組みに対して、意図せずホストが移動するのは認められない、障害が発生した際に状況が把握できない、といったご意見をいただきました。
そこで仮想マシンの状態はコンソールからリアルタイムで確認できること、定義したポリシーが正しければ、人が操作するよりも正確かつ安全にシステムを運用できることなどをご説明し、ご納得いただいてようやく導入に至りました。
このように抽象化の世界を実世界として理解していただくまでが大きな山となりますが、現在は広く認知していただいております。ただしテクノロジーとしては理解されていても、初めて採用するお客さまにとってはリスクを感じる部分も残ります。そのため機能だけではなく運用プロセスやITプラットフォームの管理を含めて考え方を変革する必要があります。
ピープル、プロセス、テクノロジーの三つの観点から、パートナーさまやお客さまと一緒にあるべき姿を共に描き、それを共有し、その実現に向けて伴走することが当社の役割だと自負しています。
テクノロジーカンパニーとしてテクノロジーを提供するだけではなく、人材や思い、意思、変革への勇気を含むピープル、新たな仕組みやカルチャーをどう作っていくかというプロセスの三つの要素が必要だと思っています。そしてパートナーさまやお客さまと共に変革を進めていくことに、これからも力を注いでいきます。
編集部■パートナーや顧客に伴走するために、どのような体制を築いていますか。
山中■ヴイエムウェアのサポート要員はほかのグローバルITベンダーと比較して人数が多く、しかもソースコードを読めるスキルを備えるなど、えりすぐりのエンジニアがパートナーさまのビジネスやお客さまでの活用を支援しています。
こうしたサポートの体制やサービスの充実は日本市場でパートナーさまやお客さまからの信頼を得る上でとても重要だと考えており、継続して力を入れてきました。
三つの章でビジネスを展開
抽象化のテクノロジーをアプリに拡大
編集部■日本市場でのビジネスの現状や、今後の展望についてお聞かせください。
山中■仮想化によるVMwareの抽象化のテクノロジーはずっと進化を続けており、おかげさまで日本の数多くのお客さまにご評価をいただき、実際にさまざまな分野のお客さまにご利用いただいています。しかし抽象化のテクノロジーの真価をフルに発揮されていないケースも見られます。
VMwareはこれまで、抽象化のテクノロジーの進化に伴って三つの章でサービスを提供し、ビジネスを展開してきました。まず第1章は「サーバー/デスクトップ仮想化」です。異なるベンダーのサーバーを抽象化してソフトウェアで一元管理することで、ベンダーにロックされたくない、サーバーのリソースを無駄なく利用したいなどの要望に応えました。つまりサーバーのベンダーや機種が異なることで生じる「溝」を抽象化のテクノロジーによって埋めて、サーバーの選択の自由を提供したのです。
さらにこのテクノロジーをネットワークやストレージなどデータセンター全体に展開し、データセンター内のコンポーネントの溝を埋めたのが第2章の「Software-Defined Data Center/Digital Workspace」で、ハードウェアの選択の自由を提供しました。
そして現在は、第3章となる「Hybrid Cloud/Multi-Cloud」および「App Modernization」にいます。オンプレミス、パブリッククラウド、エッジで構成されるハイブリッドクラウド、さらに異なる複数のクラウドを連携させて利用するマルチクラウドの世界を抽象化して、オンプレミスとクラウドの溝、クラウドとクラウドの溝を埋め、ITプラットフォームの選択の自由を提供しています。デジタルサイロが生じる抽象化によって溝を埋め、一つのコンソールから一元管理する仕組みを提供してきました。この仕組みをサーバー、データセンター、クラウドへと、抽象化のレイヤーを上げていき、それぞれにおいて選択の自由を提供してきました。
App Modernizationでは、抽象化をアプリケーションの実行環境となるKubernetesのレイヤーに上げて、コンテナを実行するためのプラットフォームの選択の自由を提供します。第3章では、第1章、第2章から引き継いできたことを継承していく必要があると考えています。
編集部■App Modernizationに関するビジネスをどのように展開していくのですか。
山中■DXを実現するために必要な要素として、日本でもアプリケーションを見直す動きが大きくなってきています。それに伴い、コンテナやマイクロサービスを活用してアジャイルな開発をしようとする機運が高まっています。
ただしアプリケーションの見直しにはモダンアプリケーションの利用と、アプリケーションのモダナイゼーションという二つの取り組みがあります。モダンアプリケーションについてはVMware Tanzuを通じて、KubernetesをvSphereの中に組み込みながら新たなワークロードと既存のアプリケーションを同時にホストして、クラウドでもオンプレミスでも、一貫性のあるプラットフォームで実装することができます。
アプリケーションのモダナイゼーションはこれから成長する領域です。今後のビジネスの成長に向けて当社がやるべきことはテクノロジーの展開です。すでに無償のKubernetesディストリビューションとして「Tanzu Community Edition」を提供しています。
攻めのDXと守りのDXから成る
「二刀流DX」でデジタル化を推進
編集部■企業ではDXの推進、実現が経営の最優先課題となっていますが、ヴイエムウェアでは顧客のDXをどのように支援していますか。
山中■まずDXという言葉の定義があいまいな部分があるため、ヴイエムウェアとしては攻めのDXと守りのDXから成る「二刀流DX」を打ち出すことで物事を整理したいと考えています。
いろいろなお客さまとお話をさせていただく中で、レガシーシステムを何とかしなければならないということをよく聞きます。現在はデジタルチャネルが激増しており、レガシーシステムとAPIで連携させるのには限界があるからです。
レガシーシステムをモダナイゼーションする方法としてはプライベートクラウドに進化させる、リフト&シフトでネイティブなクラウドと連携する、一部をモダナイゼーションするなど複数の選択肢があるほか、ソフトウェアでつないでいくという新たなアイデアもあります。
ただし全てのシステムをモダナイゼーションするべきだとは考えていません。「塩漬け」にしておく必要のあるシステムもあるはずですから、それは仮想化によって運用すればいいのです。VMwareのテクノロジーによって企業システムのデジタル化のフェーズを一部は攻めのDX、一部は守りのDX、というように分けて進めていくことが可能となります。
編集部■社長就任会見でTHE Digital Foundationと呼ばれる企業になりたいと発言されていました。THE Digital Foundationとはどのような意味ですか。
山中■THE Digital Foundationとは2012年から示しているVMwareのビジョンです。当社はAny Device、Any Application、Any Cloud、Intrinsic Securityに取り組み続けており、App Modernization、Multi Cloud、Intrinsic Security、Digital Workspace、Virtual Cloud Networkの各領域で製品やサービスを届けることをミッションとしています。
そしてこれらのグローバルのテクノロジーを日本市場に丁寧にインプリメンテーションすることが私の役割です。それには意思やストーリーが大切だと考えています。あるCIOが社内のクラウドに名前を付けたいと話していました。名前を付けることで、そこに思いと意思が生まれます。お客さまの成功に向けて思いや意思を込めて、ストーリー性を持った形でダイワボウ情報システム(DIS)さまと共に支援していきたいと考えています。
DISさまは中堅中小のお客さまに最適化されたVMwareのSoftware-Defined Data CenterをベースとしたIaaSサービスである「DX仮想クラウド基盤」を提供されています。DX仮想クラウド基盤は、VMware Cloud on AWSをVMware Cloud Director serviceでマルチテナント化することで、vSphereベースのクラウドサービスを中堅中小のお客さまに最適なコストで導入できます。そのため、既存でvSphereをご利用されているお客さまのクラウド化を通じて、DXの推進を加速させられるなど、中堅中小のお客さまのビジネスを活性化できると期待しています。当社とDISさまおよびパートナーさまが連携して、共に成長を目指していきたいと強く思っています。
編集部■ありがとうございました。