2020年7月1日、ダイワボウ情報システム(DIS)はアマゾン ウェブ サービス(AWS)とパートナー契約を締結したと発表した。国内のディストリビューターでAWSを取り扱うのはDISが初めてとなる。DISはAWSのサービス提供を通じて全国の企業、地方自治体、教育機関のクラウドシフトを促進し、デジタル時代に対応できる社会基盤の整備や企業の国際競争力強化に貢献することを目指す。そのためにAWSビジネスの営業支援や教育支援、サービス&サポート体制の構築、同社のサブスクリプション管理ポータル「iKAZUCHI(雷)」によるAWSサービスのオーダーや従量課金型の請求、決済のサービス提供などを通じてAWSビジネスを伸ばし、今後のビジネスの大きな変化に対応していく。成長が期待される国内クラウドビジネスへの取り組みについて、アマゾン ウェブ サービス ジャパン 代表取締役社長 長崎忠雄氏とダイワボウ情報システム 代表取締役社長 松本裕之氏のそれぞれに、今回の両社の提携への想いを語ってもらった。
ビジネスチャンスの変化に対応できる
柔軟なIT環境の実現が中小企業の課題
長崎氏(以下、敬称略)■昨今のコロナ禍によって移動や対面が自粛されるようになり、Web会議サービスなどのクラウドサービスを利用したテレワークが急速に普及しました。その結果、会社に行かなくてもほとんどの仕事が自宅でできることを多くの人が体感し、仕事をする場所の制約がなくなりました。
これはビジネスも同様で、東京にいなくても面白いアイデアがあり、それを実現できる環境さえあれば、たとえ北海道でも沖縄でも、どこにいてもビジネスが展開でき、世界に発信することができます。
これまでアイデアをビジネスとして実行するには、目的に応じたソフトウェアやインフラを調達しなければならず、システムとして開発も必要でした。資本が豊かな企業であれば資金を投じて必要とするITを実現できるでしょう。
しかし初期投資にかかる予算が確保できない、ITに通じた人材もいないといった中小企業やスタートアップ企業は、優れたアイデアがあってもビジネス化できないというジレンマに陥っています。
AWSはちょっとした好奇心があり、やりたいことがはっきりしていれば最新のITを初期費用をかけずに低コストで簡単に利用でき、すぐに形にすることができます。
代表的な事例として琉球銀行さまでは一度定年退職して再雇用された方が独力で同行のコールセンターシステムをオンプレミスからAWSのクラウド型コンタクトセンターサービス「Amazon Connect」へ移行した実績があります。
この方はITに詳しいのですがエンジニアではありませんし、IT部門ではなくユーザー部門に所属しています。Amazon Connectに関する知識をインターネットで収集して理解を深め、わずか2~3週間で構築を完了し、今でも運用を日々改善しながらカスタマーサービスの向上に努めています。
このようにAWSならばシステムの知識や経験がなくても、好奇心さえあればわずかな時間で実現できるのです。そしてAWSでシステム構築を体験すれば、あらゆるシステムを独力で構築できるようになり自身のキャリアアップに生かせ、それを販売するなどビジネス化もできます。
松本氏(以下、敬称略)■DISは日本全国約90拠点の営業網による地域密着型の営業体制と約1万9,000社の販売パートナーさまを通じて、全国のさまざまな企業、地方自治体、教育機関などにIT製品およびサービスを提供しています。
そうした中で地方の中小企業のお客さまは製品の調達や開発に高額な初期費用がかかるオンプレミスのシステムを更新したり、新たに導入したりするのは非常に難しいのが実情で、ビジネスの変化に対応できていないことと時間を要することという課題があります。
しかし東京でも地方でもビジネスツールとしてのITに求められる要件は同様で、ITの差が競争力の差になると言っても過言ではありません。中小企業のお客さまも大手の競合に負けない、成長に資するITを実現するには、クラウドサービスへの完全移行という選択肢とともに、従来のオンプレミスに加えてビジネスの変化やテクノロジーの進化に柔軟かつ迅速に対応できるクラウドサービスとのハイブリッド環境が必要です。
世界中でさまざまなクラウドサービスが提供されていますが、AWSは中小企業も利用しやすい料金や、高度な知識がなくても利用できる操作環境、クラウドサービスとしてグローバルでトップレベルの実績と信頼性を誇ることなどから、企業やビジネスの規模を問わずこれからのビジネスを支えるIT基盤サービスとして最も優れていると我々は評価しています。
長崎■ありがとうございます。そもそもAWSはクラウドを構築することも、クラウドサービスを提供することも当初の目的ではありませんでした。Amazonの急速な成長を支えるIT基盤として求められる要件を実現
した結果、出来上がった産物なのです。Amazonの取り扱い商品は常に変化し、その数も膨大です。以前の仕組みでそれに対応すると、サーバーの調達、データベースの構築、保守、運用に過大な時間とコスト、手間がかかりました。
しかしシステム部門に求められる役割はAmazonの急速な成長を支えられる仕組みと、新しいビジネスをすぐに始められる仕組みを提供することです。Amazon.comのCEOであるジェフ・ベゾス氏は「従来の複雑なインフラではなく各システムをAPIで連携させて、ワンクリックで必要なシステムが調達できる拡張性の高い仕組みを作るように」と言ったそうです。
そしてAmazonは自社の成長とビジネスを支えられるインフラを構築しました。この拡張性、柔軟性の高いインフラを世界中の企業に利用してもらうことでお客さまの成長や事業創出に貢献するとともに、ユーザーが増えれば幅広くさまざまなノウハウが蓄積でき、サービスを進化させられると考えてAWSを商用化しました。
確実に訪れるクラウドシフトの波
DISが自ら変わることで変化を促す
長崎■AWSのサービスは日々世界中のお客さまの要望を聞きながら進化を続けています。その進化は世界中のお客さまが同時に共有できます。AWSは世界中で数百万、日本でも数十万のお客さまに利用していただいており、企業だけではなく政府機関や教育機関などあらゆる業種、分野にわたります。そのためAWSにはビジネスに必要とされる仕組みや機能が全てそろっています。しかもワンクリック、ツークリックといった簡単な操作で必要なシステムがすぐに利用できます。
短時間で小規模から利用できるため、仮に失敗してもコストを最小化できます。トライ・アンド・ランでアイデアをビジネス化できるので成功の確率もぐっと高くなります。こうした仕組みは中小企業やスタートアップ企業に最適です。
しかし日本におけるAWSビジネスには課題もあります。実はAWSに入社した当時、日本でのクラウドシフトは5年で活性化できると見ていました。しかし現在、全国のお客さまのクラウドシフトを活性化できているかと言えば、イエスとは言えません。
AWSだけで日本全国のお客さまを網羅するのは難しく、特に中小企業のお客さまは本業を重視される傾向もあり、人を含めたITへの投資が後回しになっているケースが多いといった事情があります。
日本で多くのお客さまにクラウドのメリットを享受いただくためにはパートナーさまの役割が非常に重要です。DISは全国に展開した拠点に人材を配置した営業網による地域密着型の営業体制を構築しており、さらに約1万9,000社の販売パートナーさまと連携して中小企業や地方自治体、教育機関など全国のあらゆるお客さまへさまざまなIT製品やサービスを提供しています。DISと連携することで国内のクラウドシフトの活性化が実現できると確信しています。
松本■AWSは「クラウド」という言葉がなかったときから「ウェブ サービス」という言葉でサブスクリプションビジネスを展開してきました。サーバーやストレージを売らずに、それらのリソースをサービス提供するというAWSのビジネスモデルに当初は驚きましたが、これからビジネス、そして世の中が大きく変化するだろうと感じました。
そこで月額課金や従量課金でITをサービス提供するビジネスモデルに対応できるよう、約6年前から準備を進めました。それが現在のサブスクリプション管理ポータル「iKAZUCHI(雷)」です。
働き方改革や昨今のテレワークの普及でクラウドサービスの認知は進みましたが、ビジネスとしてはまだまだ伸びしろが残っています。その伸びしろを実利に移すには、まずはパートナーさまやお客さまに時代が確実に変化していることを理解してもらう必要があります。それにはDIS自身が行動しなければ説得力がありません。
長年にわたりオンプレミスの製品でビジネスを展開して成長してきたDISが、自らAWSビジネスを強力に推進して方向性を示すことで、パートナーさまとお客さまの意識を変えることができると考えています。
AWSを日本全国に浸透させるために
パートナーを営業と技術の両面で支援
松本■その第一歩としてDISの社員が変化に対応できるよう、AWSの資格取得を奨励しています。すでに500名を超える社員がAWSの資格を取得済みです。そして次はパートナーさまへの教育支援です。AWSを熟知したDISの社員がパートナーさまのAWSビジネスを、営業と技術の両面で支援できるように当社としても投資を続けていきます。
AWSは初期費用やランニングコスト、導入や構築の容易さという点でクラウドシフトの敷居を下げるサービスですから、これまでビジネスが伸びていなかったお客さまとの取引を活性化できるチャンスとなるでしょう。
さらにパートナーさまがAWSを利用して、その上に独自のサービスを開発したり運用したりすることで、当社のiKAZUCHI(雷)を通じてお客さまに提供するといった新たなビジネスも支援します。まさにアイデアをAWSで具現化してiKAZUCHI(雷)で全国に発信して販売するという、新しい時代のビジネスモデルが実践できます。
このようにAWSビジネスを全国に展開するには、パートナーさまを支援する当社の社員への教育が欠かせません。教育に関して引き続きAWSの支援を期待しています。
また当社のパートナーさまにはクラウドビジネスへ舵を切りたい、あるいは切ろうとしているという声が非常に多く、その教育支援もAWSとの連携で厚く支援していきたいと考えています。AWSビジネスを全国に浸透させるには、こうした取り組みが重要です。
長崎■AWSは高度なシステムあるいは最先端のシステムを中小企業のお客さまにも簡単に初期投資なく利用できるサービスとして提供するとともに、これまで大手SIerが手掛けていたような大型案件を、地方の小規模なSIerが参入できる機会も提供します。
ただしAWSには175を超えるサービスがあり、サービス内容や用途などを理解していなければシステムとして組み立てることができません。そのために教育支援は非常に重要だと認識しています。そこでAWSはクラウドを学ぶプログラムを日本語で提供しています。今後も必要なプログラムを検討して、教育支援を充実させていきます。
そしてDISの全国の社員の皆さまが地域のパートナーさまのAWSビジネスを営業と技術の両面で支援していただくことで、パートナーさまとお客さまのビジネスの成長に貢献し、DIS、パートナーさま、クラウドビジネスの成長につなげたいと考えています。
顧客が変わるレバーを引いて
使ってもらうためのサポートで成功に導く
松本■これまで国内のクラウドシフトは遅れ気味でしたが、昨今の世の中の変化によってクラウドシフトを活性化させる好機が訪れていると実感しています。
ただし地域や中小企業のビジネス領域において、短期的に大きな成果につなげることは簡単ではないと考えております。まずはAWSを理解したクラウドビジネスの強力な戦力となる人材を多数育成するとともに、その人材を生かして支援体制を整え、パートナーさまのAWSを活用したクラウドビジネスを支援することで、当社とパートナーさまとともに着実に成長につなげていきたいと考えています。
これから長期にわたるビジネスパートナーとして、AWSと一緒に国内のクラウドシフトを促進していきたいと強く望んでいます。
長崎■AWSにおける日本でのクラウドビジネスの10年を振り返ると、決して簡単ではありませんでした。当初はセキュリティに不安があると言われ、クラウドは受け入れられませんでした。
これまでのやり方、環境を変えることはとても勇気のいることです。「変わるレバー」を引いてあげることがDISとパートナーさま、当社の役割です。売りっぱなしではなく、お客さまを手厚くサポートして使ってもらい、成功へ導くのです。クラウドは課金ビジネスですから、使い続けていただくことがとても重要です。つまりお客さまの成功なくして、我々の成功はないのです。
これまでの厳しい経験を生かして、これからの日本のクラウドビジネスをAWSが支援していきます。時代は確実に変わっています。これまでクラウドを採用しなかった政府や銀行、自動車メーカーなどが重要なデータをAWS上に置くようになりました。また国内の地方の中小企業の導入事例も増えてきました。
今後はDISを通じてパートナーさまやお客さまを支援し、国内のクラウドシフトの活性化とAWSビジネスの成長を目指します。