新スマート物流シンポジウムに見る物流のこれから
物流2024年問題に挑む〜持続可能な地域物流の実現に向けて
パネルディスカッションでは、モデレーターに全国新スマート物流推進協議会 理事にしてセイノーホールディングス 執行役員 河合秀治氏、パネリストに国土交通省 自動車局長(物流・自動車担当) 鶴田浩久氏、佐川急便 東京本社 事業開発部 事業開発担当部長 佐藤諒平氏、サンワNTES 専務取締役 運輸事業本部統括 関連本部統括の山崎康二氏が登壇した。
物流2024年問題に関する課題を共有すると同時に、2023年6月2日に発表された「物流革新に向けた政策パッケージ」の実践事例や注目ポイント・課題に加え、共同配送や貨客混載を進めるための取り組みなどが討議テーマに設定され、物流の未来が話し合われた。
政策パッケージについてサンワNETSの山崎氏は、今年6月まで全国トラック協会青年部の副部会長を務めていた視点から「本音を言うともっと早くやってほしかった」と前置きをした上で、「青年部会のメンバーからも自民党の方々に2024年問題の課題を話す機会があり、そうしたことも実って今回のパッケージが策定されたのではないかと思います。我々トラックドライバーが勤務時間を短くするためには高速道路に乗るくらいしか方法がないため、倉庫などの荷主と物流事業者間での連携が必要です。政策パッケージでも商慣行の見直しが挙げられており、従来の習わしを見直すことで物流の効率化を進めることが大切と考えています」と続けた。
佐川急便の佐藤氏は、同社の取り組みとして労働時間の短縮を挙げ「ドライバーが本来の運転業務に集中できる環境を整備するため、これまでドライバーが行っていた荷役作業を当社の従業員が担当することで、運転時間の確保に取り組んでいます。これによって、ドライバーが営業所に荷物を積みに来る時間を後ろ倒しにでき、全体の拘束時間を短くして結果的に労働時間の短縮を実現しています」と具体例を紹介した。
今回の政策パッケージ策定にも携わった国土交通省の鶴田氏は、山崎氏と佐藤氏の意見を受けて「作業分担の見直しや時間の計測、また自動化や省力化の取り組みなど、今後に向けてのヒントをいただいたと思います。待遇の話も非常に重要で、待遇を良くして担い手の数を増やしていくという両輪で、物流2024年問題に向けた取り組みを進めていく必要がありますね」と語り、「もう少し早く、というのは私も同じ気持ちですので、今ダッシュでなんとか追いつこうとしているところです」と会場の笑いを誘った。
パネルディスカッションの締めくくりとしてセイノーホールディングスの河合氏は「今回出てきたお話の中でも、対抗軸ではなくみんなで協力して取り組んでいくことが重要になりますね。トラック事業者同士もそうですし、国土交通省、自治体の皆さまと一緒に、トラックだけでなくバスや電車などさまざまな事業者が連携していくことで、2024年問題に向けた取り組みを進めていけると良いと思っております」と今後の展望を語った。
全国新スマート物流推進協議会の取り組み・成果および事例紹介
成果・事例紹介として新スマート物流の導入成果や、先行自治体の共同配送、貨客混載の事例を紹介したのは、NEXT DELIVERY 代表取締役で全国新スマート物流推進協議会 理事の田路圭輔氏。田路氏は新スマート物流を「地域社会が抱えるさまざまな課題に対して、物流を起点に取り組む試み」と称し、その代表例としてトラックとドローンを組み合わせた最新事例を紹介した。
事例として、山梨県小菅村や北海道上士幌町、福井県敦賀市、千葉県勝浦市などの複数の自治体の取り組みを紹介。特に代表的とされているのがドローン配送サービス「SkyHub」の誕生の地である山梨県小菅村の事例で、買い物代行や共同配送、オンデマンドデリバリーに加えて、現在フードデリバリーも提供していることを紹介し「当初予定した通りのサービスを展開できています。また、もともとはダークストアとして運営していた配送拠点の『ドローンデポ』は、来店需要増加に伴って店舗運営を実施し、住民のコミュニティ拠点にもなっています」と田路氏は語る。
当初想定した以上の活動をしている事例として北海道上士幌町の事例も紹介された。上士幌町では牧場(上士幌町)から畜産検査センター(帯広市)に配送する生乳検体を、ドローンで集荷しトラックでリレー配送し、上士幌町から帯広まで路線バスで貨客混載する実証実験を実施している。ドローン配送、貨客混載、企業間連携によって物流効率化に不可欠な要素をフル活用し、脱炭素や省人化を目指す取り組みだ。また上士幌町は一部地域で新聞配達が翌日となる課題があり、トラックとドローン配送を組み合わせたドローン新聞配達の検証も進めている。今後は買い物代行との混載も視野に入れたサービス化を検討している。
「このようなドローン配送は、地域雇用を生み出すことにもつながります。我々は未来のドライバーというコンセプトで人材育成や地域雇用も促進しています。未来の地域物流を支えるドローンオペレーターを『パイロット兼ドライバー』として再定義し、移住者や若い世代を中心に地域雇用を促進できるよう、採用活動やトレーニング、教育システムの整備を進めています」と田路氏は語り、人生100年時代の新しい社会インフラとしての新スマート物流の可能性を提言した。
デジタルの力で実現する地方発の豊かな社会づくり
シンポジウムの最後に、デジタル大臣の河野太郎氏が登壇して特別講演が行われた。河野氏は冒頭でマイナンバーの話題に触れつつ、人口減少と高齢化が進む昨今、デジタルの技術を使い対応を進めていくことは非常に重要であることを指摘し「私の地元でも高齢化が進んでおり、買い物難民も出てきています。首都圏関東圏でもそうした悩みを抱えている地域があり、これは日本全体の普遍的な問題と言えるでしょう。そうした社会の中で、人が人に寄り添うぬくもりのある社会をつくるためには、人間がやらなくてもいい作業はAIやロボット、コンピューター、そして今回のシンポジウムでも紹介されたドローンや自動運転などに任せることが一つのゴールと言えます」と続けた。
また特別講演の中ではドローン配送を実現する上での課題の一つである規制について触れ「最初からリスクゼロと言っていたら物事が前に進みません。以前茨城県境町のドローン配送を視察した際に、『安全上道路の上を飛ばし、かつ赤信号で止める』ように国土交通省から要望があったという話を聞きました。確認したところ『赤信号で止まれと言っているのではなく、人の上を飛ばすのは危ないから一時停止してくれと要望した』と回答がありましたが、それは結果的に同じ事を要望していますよね。過疎化が進んでいる地域でドローン配送を導入する際に、どれだけのリスクがあるのかという話で、どこまでのエラー、どこまでのリスクを許容しながら得られるベネフィットを最大化していくことで、日本の世の中をより便利で、より快適で、豊かにしていく努力を止めてはならないと思っております。デジタル庁でもドローンや自動運転をはじめとしたこれからのモビリティを検討するワーキングチームを立ち上げており、国土交通省や霞ヶ関、民間事業者の方々と連携しながら、しっかり前に進めて参ります」と語った。